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「次世代の農業」を実現するには? 現状の課題と、スマート農業がもたらす未来

「次世代の農業」を実現するには? 現状の課題と、スマート農業がもたらす未来
出典 : YUMIK / PIXTA(ピクスタ)

今後日本で「次世代の農業」を実現するには、スマート農業の導入をどう進めていけるかが重要となります。そこで今回は日本の農業が抱える現状の課題や、スマート農業によってその課題をどう解決できるのか、具体的な例を交えながら紹介します。農作業の省力化や収益向上にもつながりますので、ぜひ参考にしてください。

農業を担う三世代家族

IYO / PIXTA(ピクスタ)

現代の日本では、深刻な農業の担い手不足が起こっているため、この担い手不足を解消できるスマート農業の導入を進め「次世代の農業」を実現しなければいけません。

今回はスマート農業とはどういった技術なのか、またそれを省力化や収益の向上にどう繋げるかについて紹介します。

現代の日本農業が抱える、「担い手不足」という大きな課題

現代の日本農業が抱える大きな課題としては「担い手不足」が挙げられ、今後の事業承継や農業の発展に大きな影響を与えると考えられています。

農業就業人口・基幹的農業従事者数の推移

出典:農林水産省「農林業センサス」「農業構造動態調査」よりminorasu編集部作成
※2005年・2010年・2015年・2020年は「農林業センサス」の全数調査による数値、それ以外の年次は「農業構造動態調査」の標本調査による推計値であるため、両者の年次ごとの数値比較はできないことに留意してください。

高齢化が進む、日本の農業従事者

農林業センサスを見ると、基幹的農業従事者数(ふだん仕事として主に自営農業に従事している者)が2015年には175.7万人であったのに対し、2020年は136.3万人でした。わずか5年で約40万人もの農家の人口が減っていることがわかります。

そのうち65歳以上の割合は、2015年が64.9%であったのに対して2020年は69.6%に上昇し、平均年齢も67.1歳から67.8歳に上がっています。

基幹的農業従事者数、65歳以上の割合、平均年齢の推移

出典:農林水産省「農林業センサス」よりminorasu編集部作成

これまで農業を担ってきた高齢農家がリタイアし、団塊の世代が75歳以上になることによって、今後も農業を担う人口の減少と高齢化が進むことが予想されています。

農業を担う人材を確保できないことが深刻な問題となっているのです。

「儲からない」を理由に離農する新規参入者も

農業への新規参入者は毎年3,000人超

基幹的農業従事者数が減少し続ける一方、毎年5万人以上が新規就農者として農業に参入しています(2020年は約53,740人)。

その中には新規参入者と呼ばれる土地や資金を独自に調達して新しく農業経営に参入する人が、毎年3,000人以上います。

新規就農者数の推移


新規自営農業就農者:
個人経営体の世帯員で、調査期日前1年間の生活の主な状態が、「学生」から「自営農業への従事が主」になった者及び「他に雇われて勤務が主」から「自営農業への従事が主」になった者
新規参入者:
土地や資金を独自に調達し(相続・贈与等により親の農地を譲り受けた場合を除く)、調査期日前1年間に新たに農業経営を開始した経営の責任者及び共同経営者
新規雇用就農者:
調査期日前1年間に新たに法人等に常雇い(年間7か月以上)として雇用されることにより、農業に従事することとなった者

出典:農林水産省「新規就農者調査」よりminorasu編集部作成

新規参入者のうち農業で生計が成り立っているのは4分の1程度

しかし、全国新規就農相談センター(一般社団法人全国農業会議所)が実施した新規就農者の就農実態を調査したアンケート結果によれば、就農から10年以内の参入者で、「おおむね農業所得で生計が成り立っている」と回答しているのはわずか24.5%にしかすぎません。

その前の調査結果である23.4%よりはわずかながら上昇していますが、それでも新規参入者の4分の1程度しか生計を立てられるほどの収入を得られていないことがわかります。

新規参入者で農業で生計が成り立っている者の割合

出典:一般社団法人全国農業会議所「農業をはじめる.JP 」サイト内の統計・調査のページ所収「新規就農者の就農実態調査」の各年調査結果よりminorasu編集部作成

新規参入者の離農理由の30%は「低収入・収入不安定」

新規参入者が離農した理由の第1位は病気や介護などによる本人の事情となってはいるものの、第2位は「低収入や収入不安定など経済的な事情」であり、その割合も30%と決して低い数字ではありません。

新規参入者の離農理由

2017年12月調査。行政評価の対象の35市町村の平成24年度から平成28年度までの間の新規参入者のうち調査時点で離農していた者の離農理由

出典:総務省行政評価局「農業労働力の確保に関する行政評価・監視-新規就農の促進対策を中心として-結果報告書(平成 31年 3月)よりminorasu編集部作成

稼げる農家とそうでない農家の二極化

儲からないといわれることが多い農業ですが、所得の50%以上が農業所得である「主業農家」と呼ばれる人の農業所得は、この10年で約6割増加しています。

儲からないことを理由に離農する人がいる一方、規模拡大や生産効率の向上を実現している農家もあり、農家の二極化が進んでいることがうかがわれます。

主業農家の農業所得の推移

出典:農林水産省「経営形態別経営統計(個別経営)」各年データよりminorasu編集部作成

技術で課題を解決! スマート農業がもたらす「次世代の農業」とは?

農業用ドローン・収穫ロボット・環境制御ソリューション・GPS搭載トラクター

kazuki / PIXTA(ピクスタ)・sompongtom / PIXTA(ピクスタ)・Princess Anmitsu / PIXTA(ピクスタ)・Suwin / PIXTA(ピクスタ)

現代の日本農業で大きな課題となっている「担い手不足」ですが、この問題はスマート農業を導入することにより解決が可能です。そこで次に、そもそもスマート農業とは何なのか、またスマート農業を導入することでどのような効果を期待できるのかについて紹介します。

省力化の実現による、「3K」イメージの払拭

スマート農業とは、ロボット・AI技術やIoTなどの先端技術を活用した農業のことを指します。

これまでの農業では人手による作業や、熟練者でなければ行えない作業などが多くありました。しかしこれらの技術を導入することにより、作業の自動化や情報共有の簡易化が図られ、データ活用などによる農家の負担軽減が期待できます。

また、スマート農業を導入することで農作業の省力化や効率化が実現できれば、少ない労働力でも大規模な経営が可能です。担い手不足の解消に繋がるのはもちろん、収益の向上も期待できるでしょう。

※ロボット農機の進化と実用化については、こちらのインタビュー記事も是非ご覧ください

さらに省力化は、従来の農業のイメージである「3K(きつい、汚い、危険)」を改善できる点が魅力です。人に頼っていた危険な重労働を機械作業に置き換えることにより「楽しく、かっこよく、稼げる」職業として就農者の増加も見込めます。

※スマート農業の導入で収量アップと効率化をめざすケースについて、こちらのインタビュー記事も是非ご覧ください。

農業経営をビジネスとして成立させる、生産力や競争力の向上

スマート農業技術の発展とさまざまな取り組みによってデータが集約されれば、それは「ビッグデータ」となってAIによる解析が行えます。

この解析結果を利用すれば、適切な栽培管理や作付計画の策定が可能となるでしょう。これは農業経営の根幹となる「高品質な作物の安定した生産」にも繋がるものです。

また、スマート農業は将来的に販売や流通の過程にも応用できます。現在の農家は、生産という川上だけをみて、流通という川下まで考えられていないのが現状です。

しかし、生育状況と収量、品質といった農業関連データと市場データを一元管理できれば、消費者と生産者がうまくマッチングできるようになり、農家は市場ニーズにそった営農計画が立てられるようになります。そして次第に「必要とされる食材を必要なだけつくる」というマーケットインの考え方が農業にもとりいれられていくでしょう。

マーケットインをベースにした営農では、出荷前に廃棄する作物の低減や、付加価値の高い作物の生産にもつながるため、収益の向上、すなわち「稼げる農業」も実現できるのです。

※スマート農業とマーケットインの考え方を組み合わせた事例については、こちらのインタビュー記事を是非ご覧ください。

理想的な次世代農業を実現?! 実用化されたスマート農業技術の例

担い手不足の解消や生産性の向上に期待が持てるスマート農業には、現在すでに技術が導入されて成果を挙げている事例も多数存在します。

そこで最後に、スマート農業技術の導入事例を3例を紹介します。

作業時間を大幅に短縮! 作物の成長に合わせた灌水・施肥の自動実行

「ゼロアグリ」の構成図

「ゼロアグリ」の構成図
出典:株式会社PR TIMES(株式会社ルートレック・ネットワークス ニュースリリース 2021年7月1日)

株式会社ルートレック・ネットワークスが提供する「ゼロアグリ」は、作物の生長に合わせた灌水や施肥を自動化できる養液土耕システムです。

センサーによって日射量や土壌の水分量、地温などを測定してシステムに集約し、その情報をもとに割り出した灌水や施肥の量を自動で供給することによって土壌環境を制御できます。

このシステムは、既存のパイプハウスでも導入でき、灌水と施肥にかかる作業時間を大幅に削減できます。作物の生長に合わせた適切な灌水と施肥が行えるため、収量や品質も向上します。

株式会社ルートレック・ネットワークス

「ゼロアグリ」を導入したトマトの養液栽培

「ゼロアグリ」を導入したトマトの養液栽培
出典:株式会社PR TIMES(株式会社ルートレック・ネットワークス ニュースリリース 2021年7月1日)

水田センサーの導入で水稲の品質を向上、地域の農業技術の底上げにも寄与

水田センサー

maricat / PIXTA(ピクスタ)

水田センサーは新潟県や高知県で既に導入されているシステムで、水稲の積算温度や水温、水位などのさまざまなデータを収集することが可能です。このデータを利用することにより、経験や勘に頼らない「データ農業」ができます。

例えば、前方のセンサーで水稲の育成量を測定し、そのデータにもとづいた施肥量をリアルタイムで計算します。その結果に合わせて後方にある施肥機の散布量を自動で制御することによって従来よりも高精度な施肥ができ、収量の向上や品質の安定が期待できるというわけです。

また水田センサーを導入した高知県本山町では、データをもとに一人ひとりと面談しながら米作りの計画を立て、施肥量や栽培方法を調整しています。この方法により、通常30%ほどである一等米の比率が70%を超える結果を生み出しました。

※水田センサーの導入メリットや事例については、こちらの記事もご覧ください。

安心・安全の担保を付加価値として高単価を実現する「スマート農産物」

スマート農業によって細かく管理され、ミスやトラブルなどが発生しにくい環境で栽培された作物をブランド化して販売している企業も存在します。

スマート農業によって生み出された作物は、詳細な情報がすべてシステムに記録できます。例えば農薬がいつどのタイミングでどの程度の量散布されたか、またどの作業者が何時間どんな作業をしたか、その際に作物がどのように変化したか、などの情報です。

クラウドに蓄積されたこの細かな情報は、農家にとって作物の品質向上や環境改善に役立つ情報であるとともに、消費者から見れば安全・安心の担保にもなりえるのです。そのため、これらの情報を瞬時に得られるスマート農業で栽培された作物は、付加価値を高く付けても売れる商品として販売できます。

株式会社オプティムは、自社のスマート農業ソリューションを導入して栽培された米を「スマート米」としてラインアップし販売している

株式会社オプティムは、自社のスマート農業ソリューションを導入して栽培された米を「スマート米」としてラインアップし販売している
出典:ソーシャルワイヤー株式会社(株式会社オプティム ニュースリリース 2021年.11月2日)

今回は、次世代の農業に欠かせない「スマート農業」について詳しく紹介しました。農業の担い手不足や高齢化が深刻化する中で、「次世代の農業」を実現するためには、今後ロボットやIoTなどの技術導入が必要不可欠になります。

スマート農業の導入は、「3K」のイメージを払拭して「楽しく、かっこよく、稼げる」職業への変化にも期待できるでしょう。もちろん実際の農家の負担軽減、収益の向上にも繋がる技術であるため、ぜひ今回の記事を参考にスマート農業の導入を考えてみてはいかがでしょうか。

百田胡桃

百田胡桃

県立農業高校を卒業し、国立大学農学部で畜産系の学科に進学。研究していた内容は食品加工だが、在学中に農業全般に関する知識を学び、実際に作物を育て収穫した経験もある。その後食品系の会社に就職したが夫の転勤に伴いライターに転身。現在は農業に限らず、幅広いジャンルで執筆活動を行っている。

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