【りんごの栽培暦】りんご農家の一年と高品質果実生産のポイント
りんご栽培では、栽培暦に応じた適切な管理が安定生産につながります。この記事では、りんごの栽培暦とりんご農家の一年を紹介し、さらに、品質に影響する土作りと排水対策、施肥設計、日焼け果の対策について解説します。
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目次
りんごの収量と品質を確保するためには、毎年の丁寧な栽培管理が重要です。この記事では、りんごの生育ステージと基本的な栽培暦を紹介したうえで、安定生産のためのポイントとして土作りや施肥、日焼け果対策について解説します。
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【りんごの栽培暦】りんご農家の一年
永年性作物であるりんごは、苗木の育成と整枝・剪定を行う中で一度実をつけると、その後何年にも渡って植え替えの必要なく栽培と収穫を続けることができます。
ただし、高品質なりんごを毎年安定して生産するには、年間を通して適切な栽培管理が必要です。りんご農家の標準的な一年のサイクルを紹介します。
りんごの生育ステージと栽培暦
りんごの1年の生育を大きく捉えると、休眠期(12〜3月)、開花・結実期(4〜5月)、果実肥大・成熟期(6〜11月)の3つに分けられます。
出典:以下資料よりminorasu編集部作成
農林水産省「りんごの技術情報のページ」 所収「りんごの基本的な栽培技術|りんご栽培のポイント」よりminorasu編集部作成
一般社団法人農山漁村文化協会「図解 リンゴの整枝せん定と栽培 塩崎雄之編」(Part2 1年の生育と栽培管理)
生育ステージの変化に伴い、枝木の剪定や施肥、摘果、受粉、病害虫防除、収穫など、必要な栽培管理も異なります。
りんごの収穫時期は9~11月に集中
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りんごの生産量日本一の青森県では、早ければ8月頃から収穫が始まる品種もありますが、一般にりんごの収穫時期は9〜11月に集中します。
収獲が終わり、寒さが厳しくなる12〜3月には剪定・整枝、苗木の定植を行い、開花が始まる4月に施肥、その後、摘花・受粉・摘果と、確実に着果させ、養分を果実に行き渡せる作業が続きます。
気温が上昇する6〜8月にかけては着色管理に留意し、9月以降に収穫のシーズンを迎えます。
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剪定中のりんご園地
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りんごの摘花作業
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マメコバチの放飼による受粉促進(園地に設置されたマメコバチの巣)
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りんごの摘果作業
病害虫防除・農薬散布の時期は4~9月が中心
りんごは病害虫に弱い果樹であり、適切な時期にしっかりした防除を行うことが欠かせません。
大きな収量減につながるりんごの病害虫には、「黒点病」「斑点落葉病」「モモシンクイガ」などがあります
冬の寒さが緩む4〜5月以降は病害虫防除の重点期間で、開花・結実期から収穫期まで病害虫の防除作業が続きます。
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りんごの防除作業
地域ごとに注意が必要な病害虫や具体的な防除暦、栽培品種ごとに使用すべき農薬の情報などは、各地域のJAなどから毎年公表されています。
栽培品種に応じて地域の最新情報を入手し、適切な防除を行ってください。
りんごに適した栽培条件は? 平均気温の目安
りんごは、果樹農業振興特別措置法(果振法)で定められた政令指定品目の1つで、おおむね5年ごとに農林水産大臣が定める「果樹農業の振興を図るための基本方針」(果樹農業振興基本方針)で「栽培に適する自然条件に関する基準」が示されています。
最新の果樹農業振興基本方針(令和2年4月30日)によると、りんご栽培に適した気温の条件は、年間平均気温が6℃以上・14℃以下、4月から10月の平均気温が13℃以上・21℃以下となっています。
出典:農林水産省「果樹のページ」所収「果樹農業の振興を図るための基本方針(果樹農業振興基本方針)(令和2年4月30日)」( 23ページ)よりminorasu編集部作成
ほかの主な果樹と比べると、りんごや桜桃は気温の上限が低く、夏期に冷涼な地域でないと栽培できないことがわかります。
冬が十分寒いことも条件の1つで、休眠期の低温要求時間は、りんごと桜桃(さくらんぼ)が1,400時間以上で、政令指定品目のなかで最も長くなっています。ただし、冬期の最低気温は-25℃以上です。
そのほかに、積雪による樹木の倒伏や枝折れなどの被害を防ぐため、平年の最大積雪深が概ね2m以下(わい化栽培の場合は1.5m)であることや、花や幼果の凍害を防ぐために蕾から幼果期の時期に降霜が少ないことも条件として挙げられています。
出典:農林水産省「果樹のページ」所収「果樹農業の振興を図るための基本方針(果樹農業振興基本方針)(令和2年4月30日)」( 23ページ)
プロ必見! りんごの主な栽培方法と、高品質果実生産のポイント
この章では、りんご栽培の一連のプロセスの中で、特に重視すべきポイントを紹介します。
土作り・排水対策
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りんご栽培において土作り・排水対策は、りんごの生育特性の観点から非常に重要であり、ここでは3つのポイントについて解説します。
第1に、りんごは永年性作物のため、一度条件の悪い土壌に定植してしまうとその後数年に渡って高品質果実の収穫が困難となり、将来の経営にも悪影響を及ぼすことになります。
第2に、りんごは連作障害や改植障害が起こりやすい果樹です。そのため、改植や園地を広げての補植・新植の際には、抜根した土の耕起、残った根の回収、入念な土壌消毒をはじめとした処理が必要です。
第3に、りんごは深根性の果樹であるため、根が自ら入り込むことのできる有効土層の深さが植栽時点で50cm以上あることが望ましいとされています。
これらの理由から、植栽の前には土を深く耕し、農地に一定の間隔で切り込みを入れて排水性および保水性を高める心土破砕という作業を実施したうえで、堆きゅう肥や石灰質肥料などの土壌改良資材を適量施用します。なお、りんご栽培に適した土壌酸度はPH6.0ほどの微酸性です。
また、排水不良の土壌は生育不良や収量・品質の低下を招くため、必要に応じて暗渠(あんきょ)の施工も行います。暗渠の施工に際しては、水量の多くなる消雪期でも排水溝が水没しないように設計することが重要です。
苗木の定植後に大掛かりな土壌改良を行うことは難しいため、既存のりんご園を受け継いだ場合でも、これから新たに定植を行うエリアは土壌改良をしっかり行ってから植え付けを実施しましょう。
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施肥設計
一般的な品種、栽培管理において、りんごの施肥に適切な時期は4月です。
消雪期に施肥を行うことで融雪水が地表から土壌へと浸透し、溶脱することで肥料の利用効率が高まります。このことから、雪解けが始まった際に可能な限り早く、4月末までに施肥を行うことが推奨されます。
標準施肥量はりんごの樹齢で区分されています。例として青森県の施肥基準を紹介します。
普通台樹 10a当たり施肥量
窒素(N) | リン酸(P) | カリウム(K) | |
---|---|---|---|
~5年生 | 5kg | 2kg | 2kg |
6~10年生 | 10kg | 3kg | 3kg |
11年生~ | 15kg | 5kg | 5kg |
わい性台樹 10a当たり施肥量
窒素(N) | リン酸(P) | カリウム(K) | |
---|---|---|---|
~3年生 | 5kg | 2kg | 2kg |
4~5年生 | 10kg | 3kg | 3kg |
6年生~ | 15kg | 5kg | 5kg |
※全園施用の場合
出典:農林水産省「都道府県施肥基準等」収録「青森県 健康な土づくり技術マニュアル」所収「果樹別土づくり」よりminorasu編集部まとめ
各県ごとに施肥基準がありますが、品種によっても自園の土壌の状態によって適切な施肥量は異なります。
その年ごとの土壌診断の結果や、樹勢、果実の品質などの要素を総合的に捉えて柔軟に施肥量を決定してください。
肥料成分の過剰・欠乏が生じると、果実に生理障害が起きやすくなり、収量に影響します。例えば、窒素の施用量が多すぎると「ビターピット」や「コルクスポット」が、ホウ素が欠乏すると「縮果病」が発生することがあります。
出典:
農林水産省「都道府県施肥基準等」収録「青森県 健康な土づくり技術マニュアル」所収「果樹別土づくり」
青森りんごTS導入協議会「りんご大学」内「一木先生のリンゴ学講座|第15回 リンゴ果実の生育中に発生する主な生理障害」
日焼け果の発生防止
写真提供HP埼玉の農作物病害虫写真集
りんごの日焼け果
近年、地球温暖化の影響により、収穫直前に日焼け果が発生し、収量減につながってしまう事例が発生しています。果実が色づき、肥大化を始める6月以降は病害虫の防除に加え、日焼け果の対策を行うことも収量・品質を確保するためには重要です。
りんごは枝葉の管理や玉回しによって適切な日光を浴びることで色づく一方、日焼け果の発生を防ぐためには、夏以降の強烈な日光を遮ることが必要です。
果実の成長に伴い枝が下垂すると十分な日光が果実に届かなくなってしまうため、支柱などで枝を吊り、受光環境の確保を行いましょう。
枝の固定による受光環境の確保は葉摘みに先立って行い、玉回しはある程度着色が進んだ際に行います。
葉摘みは収穫の40日〜1ヵ月前から2〜3回に分けて行います。急激に強い着色管理を行うとかえって果実に日焼けを起こさせるため、曇天時が続く時期を見計って対策することで日焼け果実の発生を防止できます。
また、強すぎる日光や気温上昇を防ぐための工夫として、日当たりを軽減する寒冷紗の設置も有効です。
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【あわせて読みたい】りんご栽培に関する“プロ向け”関連コンテンツ
ここまで、りんごの生育特性および1年間の栽培管理の流れについて見てきました。
▼本記事では紹介しきれなかった摘果や受粉など各工程の詳細情報については、以下のコンテンツもあわせてご覧ください。
りんごの収量と品質の確保には、毎年、1年を通じて適期に適切な管理を行っていくことが重要です。今回は、標準的な栽培暦に加え、土壌改良や排水対策、施肥設計、日焼け果の防止について紹介しました。一年を考える参考になれば幸いです。
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大森雄貴
三重県伊賀市生まれ。京都を拠点に企業・団体の組織運営支援に携わった後、2020年に家業の米農家を継ぐためにUターン。現在は米農家とライターの二足の草鞋を履きつつ、人と自然が共に豊かになる未来を願いながら、耕作放棄地の再生、農家体験プログラムの実施、暮らしを大切にする経営支援などに取り組んでいる。