いちご品種ランキング:主要産地別の人気品種と品種選びのコツ
全国のいちご収穫量ランキング上位県の主力品種を解説。収益性や病害抵抗性、食味の観点から品種選択のポイントを紹介。新品種開発の現状も解説しています。農業経営に役立つヒントをぜひ参考にしてみてください。
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日本のイチゴの品種は300種以上と非常に多く、現在も各地で新品種が生み出されています。新たな品種の導入を検討している農家にとって多すぎる選択肢は悩みの種でもあるでしょう。
そこで、品種選択の参考として、収穫量ランキング上位の県の主力品種を紹介するとともに、品種選択のポイントを収益性や病害への抵抗性、食味の観点から解説します。
また、次世代のイチゴ品種として注目されている、種子繁殖型品種、初夏に収穫可能な品種の開発状況についても紹介します。
全国最新ランキングで確認!イチゴの収穫量が多い都道府県の主力品種は?
まずは、イチゴの収穫量上位の県の主力品種から、人気の品種を確認しておきましょう。
※主力品種は、当該都道府県で収穫量が最も多い品種。農林水産省が平成30年産(2018年産)作物統計をベースに、各自治体へ聞き取り調査を行ってまとめた資料による
出典:農林水産省「作物統計」、農林水産省広報誌「aff(あふ)2019年12月号 特集1 いちご」よりminorasu編集部作成
ここでは、イチゴの収穫量ランキング5位までの都道府県の主力品種を紹介します。
中には、品種育成を行った県の生産者のみに栽培を制限している品種もありますが、果実の姿、かたさ、色、食味など、人気品種の特徴としてご覧ください。
とちおとめ
Ystudio / PIXTA(ピクスタ)
「とちおとめ」は、栃木県農業試験場が、それまでの主力品種「女峰」にかわる品種として育成し、1996年に品種登録されました。(「とちおとめ」は品種登録名です)
「女峰」の姿のよさ、収量の多さ、食味のよさを引き継ぎながら、「女峰」の欠点であった2月以降に収量が減少すること、酸味が強くなることの改善を目的に育成されました。
栃木県で育成されたことと、イチゴの女性らしいイメージから「とちおとめ」と名付けられました。
栃木県のほか、茨城県、千葉県、埼玉県など、東北から関東までの地域で広く栽培されています。
果実は大粒の円錐形で、かたくて日持ちがよく、食味は酸味が少なく強い甘みがあります。人気品種として定着し、市場の取扱数量は日本一といわれています。
あまおう
Ystudio / PIXTA(ピクスタ)
「あまおう」は、JA全農が商標権を持つ登録商標で、品種登録名は「福岡S6号」です。
福岡県農林業総合試験場が、「厳寒期にも果実が赤く色づく」「おいしい」「果実が大きく、収穫・パック詰めが省力化できる」品種をめざして育成し、2005年に品種登録されました。
登録商標になっている「あまおう」という名称には、「あかい」「まるい」「おおきい」「うまい」という特徴を表す頭文字と、「甘いイチゴの王様になるように」という意味が込められています。2002年に福岡県が、「福岡S6号」の販売用の名称を県民に広く公募して決まりました。
「あまおう」はその名のとおり、赤くて艶がよく、大玉で形が整い、濃い甘みと酸味のバランスもよいという特徴をもちます。
なお、「福岡S6号」を栽培できるのは、福岡県内の生産者に限られます。(福岡県は、JA全農ふくれんに対し、苗の供給を福岡県内の生産者に限ることを条件に、苗の生産を許諾している)
ゆうべに
T.Makin / PIXTA(ピクスタ)
「ゆうべに」は、販売用の愛称で、品種登録名は「熊本VS03」です。
熊本県農業研究センターが、高単価で取引される年内の収量が多く、果実品質に優れる品種をめざして育成し、2017年に「熊本VS03」として品種登録されました。
一般公募で決まった愛称「ゆうべに」は「熊」の音読である「ゆう」と赤い果皮を表す「紅」をあわせたものです。
この品種は栽培・出荷面でのメリットが大きいことが特徴です。年内の収量が特に多いこと、草勢が強くジベレリン処理が不要なこと、果皮がかためで輸送性に優れることなどが挙げられます。
果実の形状は大玉で円錐形、食味は酸味が控えめで甘みが強く、芳醇な香りも特徴です。
なお、「熊本VS03」を栽培できるのは、熊本県内の生産者に限られます。(熊本県は、JA熊本経済連に対し、熊本県内生産者への苗の提供を条件に、苗の生産を許諾している)
紅ほっぺ
shu / PIXTA(ピクスタ)
「紅ほっぺ」は、静岡県農林技術研究所(旧・静岡県農業試験場)が、それまでの主力品種の「章姫」と同等の多収性をもち、大粒でかたく食味の良い品種をめざして育成しました。
芯まで赤い果肉と「ほっぺが落ちるほどおいしい」ということから、「紅ほっぺ」と名付けられ、2002年に品種登録されました。
糖度の平均が12~13度と高く、甘みと酸味が調和した味わいと、大きく鮮やかな赤い粒が特徴です。
育成したのは静岡県ですが、北海道から九州まで多くの地域で栽培されています。
なお、「紅ほっぺ」を生産・販売するには、静岡県に許諾を得る必要があります。法人の場合は、静岡県と許諾契約を締結することが可能です。個人・任意団体の場合は、苗の生産・販売について静岡県の許諾を受けている業者から苗を購入することが必要です。
ゆめのか
kk / PIXTA(ピクスタ)
「ゆめのか」は、愛知県農業総合試験場が、「とちおとめ」より多収性で「章姫」より果皮が強く、既存の品種にはない特徴ある香りや味わいのイチゴをめざして育成し、2007年に品種登録されました。
「みんなの夢が叶う、おいしいイチゴ」という意味を込めて「ゆめのか」と名付けられたそうです。
果皮がややかたいため、完熟に近い状態で収穫・輸送ができること、多収であることが農家にとっては大きなメリットです。
果実は、円錐形でややかたく、鮮やかな赤い色が特徴です。甘みと酸味のバランスがよい食味とジューシーな食感が消費者の人気を得ています。
愛知県で育成された品種ですが、中部から西南日本を中心とした温暖な地域で栽培され、長崎県産が有名です。
なお、「ゆめのか」を生産・販売するには、愛知県に許諾を得る必要があります。
愛知県外で生産・販売する場合は、愛知県と直接、許諾契約を締結し、苗の供給を受けます。愛知県内で生産・販売する場合は、愛知県の許諾を得ている種苗業者から苗を購入することができます。
今から栽培すべきなのはどの品種?品種選択のポイント
イチゴの品種選択にあたってのポイントを、収益性や病害への抵抗性、食味の観点から解説します。
収益性を考えるなら取引価格の高い時期に収穫できる品種を
イチゴ栽培で収益性を重視するなら、卸売市場の取引価格を参考にするとよいでしょう。
国内の生鮮イチゴの需要は、秋から高まり始め、クリスマスシーズンにピークを迎えます。また、製菓向けなど業務用用の需要は年間を通して安定しています。そのため、卸売市場での取引価格が高いのは、国内の生鮮イチゴの端境期である7~10月と、需要が高まる11~12月です。
「イチゴの需要が高まる11月~12月に収量を確保できるか」?「国内の生鮮イチゴの端境期が始まる7月まで収穫期間を伸ばせるか」の2点が、品種選定の判断材料となります。
出典:農林水産省「青果物卸売市場調査(令和元年年間計及び月別結果)」よりminorasu編集部作成
病害への抵抗性にも注目
市場で高値で取引される品種を選んだとしても、病害の発生や栽培管理の難しさによっては、収支が成り立つ収量を確保できないこともあります。
多湿、高温期の栽培、土壌病害が発生したことがあるほ場など、病害が発生しやすい環境の場合は、主な病害に抵抗性のある品種を選ぶとよいでしょう。
病害への抵抗性を持つ品種としては、九州・沖縄で育成された「カレンベリー」や三重県で育成された「かおり野」があります。
カレンベリー
happyphoto / PIXTA(ピクスタ)
カレンベリーは、イチゴ栽培で農家を悩ませるうどんこ病、萎黄病および疫病に対する抵抗性を持っています。炭疽病と萎黄病に対しては中~やや強、うどんこ病と疫病に対しては強度の抵抗性を示すという研究報告があります。
やや晩成で、草姿は立性、果房当たりの着果数が少ないので摘果作業が必要ありません。また、果実が大きく形状がよく揃うのでパック詰めしやすく、出荷作業の省力化にも向いています。
出典:独立行政法人 農業・食品産業技術総合研究機構 プレスリリース「4病害複合抵抗性で果実揃いに優れる イチゴ新品種「カレンベリー」を育成」
かおり野
cozy / PIXTA(ピクスタ)
かおり野は、炭疽病に対する強い抵抗性と、萎黄病抵抗性を持っています。しかも、市場での取引価格が高い年内に収穫できる極早生性で、見た目もよく、多収性も兼ね備えています。
出典:独立行政法人 農業・食品産業技術総合研究機構 平成22年度 関東東海北陸農業 研究成果情報「炭疽病抵抗性を持つ極早生性イチゴ新品種「かおり野」」
食味の評価が高い品種を選ぶ
イチゴは、鮮やかな色や果実の大きさといった見た目とともに、食味も重要視されます。食味で評価の高い品種を栽培したいなら、糖度の高さだけでなく、食感や酸味とのバランスや香り、口当たりなどにも着目するとよいでしょう。
甘く食味のよい品種の代表格といえば「章姫」か「かおり野」が挙げられます。
章姫の、大粒で艶やかな鮮紅色の果実は、姫の名にふさわしい風格です。密度の高い果肉は口当たりが柔らかく、濃厚な甘みが特徴です。
かおり野は、前段で炭疽病への抵抗性を持つことを紹介しましたが、食味も非常に良好です。酸味が控えめの優しい甘さに加えて、名前の示す通り、さわやかで上品な香りが自慢の品種です。
次世代のスターは?イチゴの新品種開発の現状
イチゴは、消費者向け、製菓・外食などの業務用向けの両方で年間を通じて需要が高いため、収益面でも期待の高い作物です。
そのため、各産地では少しでも収益性を上げ、品種としての差別化を図ろうと、盛んに新品種の研究開発・品種育成が行われています。
次世代のイチゴ栽培は「種子繁殖型品種」が担う?
ミヨシグループ F1種子イチゴ 販売苗(406トレイサイズ)
出典:ソーシャルワイヤー株式会社
その中でも、特に注目されているのが、イチゴ苗を種子からつくる「種子繁殖型品種」です。
現在、イチゴの育苗は、親株のランナーの先にできる新芽を摘んで(採苗)これを子苗として育苗する「栄養繁殖(クローン繁殖)」で行われています。この方法でつくられた苗は、均一な株に生長するため、栽培管理や出荷作業などがしやすく、農家に支持されてきました。
しかし、栄養繁殖は、種子繁殖と比較すると圧倒的に増殖効率が悪く、また、親株に病害が発生すると子苗にも感染し、壊滅的な被害を受けるリスクがあります。病害に感染していない優良な親株の確保・管理の作業負担も小さくはありません。
これらの課題の解決には、病害に強い品種の種子を播種・育苗すればよいのですが、2010年頃までは、実用レベルで種子繁殖に向く品種がありませんでした。
しかし、千葉県農林総合研究センターが育成した「千葉F-1号」が2011年に、三重県・香川県・千葉県・農研機構が共同で育成(注)した「よつぼし」が2017年に品種登録されました。
(注)三重県農業研究所、香川県農業試験場、千葉県農林総合研究センター、国立研究開発法人農業・食品産業総合研究機構九州沖縄農業研究センターの4 機関が、2009年に共同研究契約を締結し共同育種に取り組んだ
「千葉F-1号」は、研究が継続されており、商業栽培への展開はまだされていません。「よつぼし」は、全国的な普及に向け、栽培体系の確立、実証実験などを行っている段階です。
また、2020年8月に、株式会社ミヨシグループが、民間としては初となるオリジナルのF1種子イチゴの販売を開始することを発表しています。(国内で2021年秋納品試作苗の予約受付開始は2021年1月15日を予定)
端境期に収穫できるイチゴ
前述した通り、国内の生鮮イチゴの端境期に出荷できれば、収益面で有利になります。
そこで、東北・北海道などの寒冷地では、6月以降も出荷可能な半促成栽培や露地栽培で、作型の工夫が行われてきました。
しかし、収穫の終盤には、どうしても果実の小粒化や形の乱れ、収穫後に果皮の色が黒くなるなどの問題が発生し、それらを解決する新品種の開発が望まれてきました。
農研機構東北農業研究センターと、青森県・岩手県・秋田県・山形県の共同研究により、5~7月に品質を落とさずに収穫可能な品種として「そよかの」が育成されました。(2019年7月品種登録出願)
「そよかの」という名称は、「初夏にそよかぜの吹き渡る野で収穫できるイチゴとのイメージ」から名付けられました。
現在は、試験栽培の段階ですが、5~7月でも、小粒化や乱形果の発生が少なく、高い良品率が維持できるため、イチゴ栽培農家の収益アップを担う新品種として期待されています。
cozy / PIXTA(ピクスタ)
イチゴは年間を通じて需要が高く、新品種の開発も盛んで、将来性がある魅力的な作物です。しかし、品種が非常に多いので、品種の導入にあたっては、特徴をよく調べて慎重に検討しましょう。
市場で人気があるかだけではなく、ほ場の環境や気候への適性、作型、生産技術や栽培管理の難易度、収益性、病害への抵抗性まで、総合的に判断することが必要でしょう。
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大曾根三緒
ビジネス、ペット、美術関連など多分野の雑誌で編集者として携わる。 全国の農業協同組合の月刊誌で企画から取材執筆、校正まで携わり、農業経営にかかわるあらゆる記事を扱かった経験から、農業分野に詳しい。2019年からWebライターとして活動。経済、農業、教育分野からDIY、子育て情報など、さまざまなジャンルの記事を毎月10本以上執筆中。編集者として対象読者の異なるジャンルの記事を扱った経験を活かし、硬軟取り混ぜさまざまなタイプの記事を書き分けるのが得意。