山梨県農業の特徴・課題は? 農家向けの支援と新規就農事例

果樹王国とも呼ばれる山梨県の農業の特徴や、生産量上位の農産物、山梨県農業における課題や解決に向けた取り組みなどを解説します。併せて、山梨県で新規就農を検討している方に向けて、活用できる支援制度、実際の新規就農での事例を紹介します。
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目次
狭い農地をうまく活用! 山梨県の農業の特徴

よっちゃん必撮仕事人 / PIXTA(ピクスタ)
山梨県の気候は内陸性で、夏と冬、昼と夜の気温差が大きく、年間降水量が少なく、日照時間が長いという特徴があります。
気温差が大きいことは、農作物の糖度を高める効果があります。日中の光合成でデンプンが豊富に作られ、夜間の低温によってデンプンの消費が抑えられることで、糖分として蓄積されやすいのです。
また、降水量が少ないことで病害の発生リスクも低く抑えられます。
山梨県の県土面積は約4,465平方kmで、そのうち約78%を森林です。耕地面積は23,100haと限られていますが、この制約を逆手に取り、施設栽培の導入や果樹の集約的栽培により、高い生産性を実現しています。
2022年の農業産出額は1,164億円で、そのうち約70%に当たる816億円を果樹が占めています。東京に近い立地条件の優位性を活かし、新鮮な果樹を新鮮なまま消費地へ届けられることは山梨県の強みの1つとなっています。
出典:農林水産省「令和4年(2022年)農業産出額及び生産農業所得(都道府県別)」所収「都道府県別農業産出額及び生産農業所得」
果樹王国・山梨県で生産量上位の農作物

山梨県のブドウは生産量(収穫量)が日本一
Princess Anmitsu / PIXTA(ピクスタ)
山梨県の果実部門のうち、ブドウ、桃、すももはいずれも生産量(収穫量)が日本一です。これらは輸出にも力を入れており、2022年の県産果実の輸出額は20億7,200万円と過去最高を記録しました。
【令和5年(2023年)産】山梨県が生産量(収穫量)全国第1位の果樹
果樹名 | 収穫量・シェア | 特徴 |
---|---|---|
ブドウ | 41,700t・シェア25% | 約1,300年前から続く栽培の歴史を持ち、令和4年(2022年)には「峡東地域の扇状地に適応した果樹農業システム」が世界農業遺産に認定されました。 |
桃 | 33,400t・シェア31% | 恵まれた日照条件により高い糖度と美しい色合いが特徴です。 |
すもも | 5,690t・シェア33% | 特に大玉品種「貴陽」は市場で高い評価を得ています。 |
【出典】
農林水産省「作況調査(果樹)」所収「令和5年(2023年)産日本なし、ぶどうの結果樹面積、収穫量及び出荷量」
農林水産省「作況調査(果樹)」所収「令和5年(2023年)産もも、すももの結果樹面積、収穫量及び出荷量」
地域別の特色ある農業
山梨県は、中北地域、峡東地域、峡南地域・富士・東部地域の大きく4つの地域に分けられ、それぞれ特色ある農業を展開しています。
中北地域では、南アルプスの豊かな水と日照を活かし、「梨北米(りほくまい)」などの良食味米の生産が盛んです。また、スイートコーンやトマトなどの施設園芸も発達しています。
峡東地域は、ブドウ・桃・すもも栽培4の中心地です。世界農業遺産に認定された果樹農業システムを継承しながら、新品種「サンシャインレッド」など、新たな品種の導入も進めています。
峡南地域では、「大塚にんじん」や「あけぼの大豆」など地域特産物の生産が盛んです。抑制スイートコーンなど、他産地との差別化を図る作物の普及も推進しています。
富士・東部地域では、豊富な湧水を利用したクレソンや水ネギなどの栽培が特徴です。高原野菜や花きの産地としても知られ、夏季の冷涼な気候を活かした生産が行われています。
出典:山梨県「やまなし農業基本計画(令和6年(2024年)1月)」所収「第5章 地域別重点推進事項」
山梨県農業の現状と未来への取り組み例

山梨県のシャインマスカット畑
Princess Anmitsu / PIXTA(ピクスタ)
山梨県の農業は着実に成長を続けていますが、2020年の基幹的農業従事者数は20,500人まで減少し、そのうち74%が65歳以上と、高齢化が課題となっています。
一方で、新規就農者は増加傾向にあり、2023年度は344人と過去最高を更新しました。このうち雇用就農者が約半数を占めますが、近年は新規参入者やUターン就農者の増加も目立ちます。
出典:山梨県「やまなし農業基本計画(令和6年(2024年)1月)」所収「第2章 本県農業・農村の現状及び取り巻く環境の変化」
ブランド化で、県の農産物を国内外にPR
山梨県では、農業振興の基本指針となる「やまなし農業基本計画」において、農家の所得向上を実現し、豊かさを実感できる持続可能な農業・農村をビジョンとして掲げています。
めざすべき姿の実現に向けて、以下2つの目標を設定しています。
- 農畜水産物のブランド価値の向上
- 生産基盤の更なる強化
このうち、「農畜水産物のブランド価値の向上」では、デジタルとリアルを組み合わせた効果的なプロモーションを国内外で展開するとともに、消費者や実需者に対して「やまなし」ブランドの情報発信に取り組んでいます。
国内での取り組みとしては、「おいしい未来へ やまなし」をキャッチフレーズに、高品質な農畜水産物のブランド化を推進しています。
具体的には、県独自の認証制度「4パーミル・イニシアチブ」の取り組みや「匠の技」、「生産者のこだわり」などをストーリーとして情報発信し、ブランド価値の向上を図っています。
県独自の営農支援・先進技術導入支援を実施
もう1の目標である「生産基盤の更なる強化」では、新規就農者に対する手厚い支援や農村地域の保全と基盤整備を進めるとともに、さまざまな営農支援・技術支援を行っています。
中でも、スマート農業技術の支援では、シャインマスカットやきゅうりの施設栽培でデータを活用し、具体的な数値目標を掲げて生産性向上に取り組んでいます。
また、センシング技術を活用することにより「匠の技術」を見える化するなど、データ農業技術の開発・普及を進めています。
加えて、GAP認証の取得支援や環境保全型農業の推進により、持続可能な農業への転換も支援しています。
出典:山梨県所収「やまなし農業基本計画(令和6年(2024年)1月)」
山梨県で農家になろう! 新規就農時に使える主な支援制度
山梨県では、県内で農業を始めようとする希望者に向けて、情報収集から技術習得、農地・住居の確保、就農資金の確保、経営開始後の指導まで、段階に応じた支援体制が整備されています。
農業体験:チャレンジ農業体験
就農への第一歩として実施される「チャレンジ農業体験」は、農業経験が少ない人向けの短期研修制度です。農業法人での就職をめざす「農業法人コース」と、自営就農をめざす「農家体験コース」があり、県認定のアグリマスターのもとで実践的な技術を学べます。
研修では果樹、野菜、作物・花き・畜産の中から希望する品目を選択でき、1日8時間以内、週40時間以内で実地研修を受けることができます。
参加費用は無料ですが、傷害保険料や交通費、宿泊費は自己負担となります。研修後は、就農地の選定や中長期研修先の紹介など、継続的な支援を受けることができます。
出典:山梨県「チャレンジ農業体験|やまなし就農ライフサポート事業」
補助金・助成金:やまなし新規就農アシスト事業
2024年からスタートした「やまなし新規就農アシスト事業」は、農業用機械・施設のリース料を助成する新制度です。
トラクター、コンバイン、動力噴霧器、ハウス、ブドウ棚など、営農に必要な機械・施設が対象となります。リース事業者への補助率は取得価格の3分の1以内で、県が9分の2、市町村が9分の1を負担します。
対象者は就農時55歳未満で、以下のいずれかに該当する人です。
- 三親等以内の親族が経営する県内の農業経営体に就農し、規模拡大をめざす農家子弟
- 土地や資金を独自に調達し、新たに農業経営を開始して5年以内の新規参入者
いずれの場合も、認定農業者または認定新規就農者であることが条件です。
農家子弟の場合は、農地中間管理機構を通じて一定規模以上の農地を借り入れていることが必要です。果樹では10a以上、水稲では1ha以上、その他作物では10a以上の農地を確保していることが条件となります。
さらに5年以内に、果樹は露地30a以上または施設10a以上、水稲は10ha以上、畜産は飼養頭数5%以上の増加、その他は露地50a以上または施設10a以上の規模拡大をめざす計画が求められます。
出典:山梨県「就農支援について」 所収「やまなし新規就農アシスト事業について」
補助金・助成金:親元就農促進支援事業
「親元就農促進支援事業」は、農家の後継者確保を目的とした県独自の支援制度です。三親等以内の親族が経営する県内の農業経営体に就農した農家子弟が対象で、経営発展への取り組みに応じて助成金が交付されます。
具体的な助成額は、5年以内に経営指標(売上高や経営面積など)を5%以上増加させる場合は1人当たり50万円、10%以上増加させる場合は100万円です。
就農時50歳未満で、前年の本人および配偶者の合計所得が600万円以下、親元世帯1人当たりの前年度農業所得が400万円以下という要件があります。
また、年間225日以上かつ1,800時間以上の農業従事が必要です。親などが認定農業者であることや、将来的に本人が経営を継承して認定農業者となる計画があることも条件となっています。この支援金は、農業用機械・施設の導入や運転資金として活用できます。
苦労したポイントは? 山梨県で就農した農家の事例

山梨県で収穫直近のブドウ
Yoshitaka / PIXTA(ピクスタ)
山梨県での新規就農は、充実した支援制度を活用できる一方で、地域特有の課題もあります。ここでは、異なる地域で就農した3名の経験から、就農の準備から定着までのプロセス、直面した課題とその解決方法、支援制度の具体的な活用例を紹介します。
醸造用・生食用ブドウを生産・販売している農家の事例
南アルプス市でブドウ栽培に取り組むある農家では、東京でワインの輸入事業に携わった経験から、将来的なワイナリー設立をめざして就農を決意しました。
就農前は南アルプス市内の農園で研修を受け、就農時には農業次世代人材投資事業(経営開始型)を活用しました。南アルプス市がワイン特区の取得を計画していたことも、就農地選択の理由の1つでした。
現在、約70aの農地で醸造用ブドウとシャインマスカットを栽培し、醸造用は近隣ワイナリーへ、シャインマスカットは研修先の農園へ出荷しています。マイナーな醸造用品種の栽培技術習得に苦労しましたが、これが将来のワイナリー設立に向けた独自性にもなっています。
規模拡大については、山梨県特有の小規模な農地区画により、複数の地権者との交渉に時間を要していますが、1haまでの拡大をめざしています。
出典:関東農政局「山梨県内で新規就農した農業者 折越耕平さん」
山梨へ移住し、桃栽培へ取り組む農家の事例
神奈川県から韮崎市へ移住し、就農した夫妻は、移住前から貸農園で野菜を栽培していました。韮崎市主催の移住体験ツアーで地域の果樹農家との出会いが就農のきっかけとなりました。
就農までの道のりとして、まず山梨県立農業大学校の週末農業塾桃コースで1年間学び、その後、韮崎市内の新規就農者のもとで桃とブドウの栽培を1年間体験しました。
移住後は、県立農業大学校の職業訓練科果樹コースを受講し、基礎から実践的な知識と技術を習得しました。就農時には、農業次世代人材投資資金(経営開始型)と経営継続補助金を活用しています。
現在はJAを主な販路とし、一部を道の駅とネット販売で対応しています。天候や鳥獣被害、作物盗難対策、繁忙期の人手不足が課題となっていますが、就農3年目からJA桃部会の役員を務め、産地のブランド化にも貢献しています。
出典:関東農政局「山梨県内で新規就農した農業者 木村明弘さん・木村百合子さん」
栄養価の高いクレソン栽培に挑戦した農家の事例

クレソンは清流で育つ
takashi355 / PIXTA(ピクスタ)
都留市で就農したある農家は、健康志向の高まりに着目し、栄養価の高いクレソンの栽培を選択し、東京に近く富士湧水が魅力の都留市への移住を決意しました。
道志村のクレソン農家から実地で技術を学び、就農時には農業次世代人材投資資金(経営開始型)と都留市富士湧水野菜生産振興補助金を活用しました。
現在は富士河口湖町内のホテルや東京・大阪の青果店、道の駅などに出荷しています。かけ流しの湧水特有の畔の崩れや浮草の問題に直面しながらも、都留市内の農家と提携栽培など、新たな展開を模索しています。
出典:関東農政局「山梨県内で新規就農した農業者 杉山祐太郎さん」
山梨県では、気候と立地を活かした高収益な果樹栽培を中心に、新規就農者の増加が続いています。充実した支援制度と先輩農家の経験を参考に、山梨県での就農を検討してみませんか。
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