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失敗しないイチゴ農家の始め方~営農計画の立て方から資金調達まで徹底解説!

失敗しないイチゴ農家の始め方~営農計画の立て方から資金調達まで徹底解説!
出典 : YsPhoto / PIXTA(ピクスタ)

イチゴは売り上げを見込みやすい作物として、新規就農者からも注目されています。しかし、営農計画が甘く失敗するケースも少なくありません。この記事では、失敗しないイチゴ農家の始め方を解説します。

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イチゴ栽培で新規就農し、大きな失敗を避けるためには、イチゴ農家の経営の実情を知ることと綿密な営農計画が必要です。それぞれの重要なポイントを詳しく見ていきましょう。

イチゴ農家の実情を知る

初めに、イチゴ農家の実情について経営指標から解説します。作物としての収益性、設備投資、1年目の経費などについて詳しく見ていきましょう。

イチゴから得られる農業所得は?

イチゴは儲かる作物なのでしょうか。

農林水産省の「農業経営調査 品目別経営統計」(2007年産調査をもって終了)の施設野菜の統計をみると、施設栽培のイチゴの10a当たりの粗利益は約360万円、農業所得は約190万円で、ミニトマトに次いで高いことがわかります。

農業所得率をみても約53%できゅうりに次いで高く収益性は高いといえそうです。

施設野菜の10a当たり経営指標(全国平均)

出典:農林水産省農水省「農業経営調査 品目別経営統計 確報 (平成19年)」よりminorasu編集部作成

しかし、イチゴはほかの作物に比べて年間の自営農業労働時間が2,092時間と多く、時給換算すると907円でほかの施設野菜と比べると低めです。

作業時間の内訳を見ると、ほかの施設野菜に比べ、育苗・栽培管理・出荷にかかる時間が多いことがわかります。特に出荷調整にかかる時間は、イチゴと同じく果実が小さいミニトマトと比較しても約2倍で、果皮が薄く繊細な果実の出荷調整に多くの時間が割かれています。

施設野菜の10a当たり年間作業時間の内訳

出典:農林水産省農水省「農業経営調査 品目別経営統計 確報 (平成19年)」よりminorasu編集部作成

次いで収支内訳を見てみましょう。

施設栽培イチゴの10a当たり収支

出典:農林水産省農水省「農業経営調査 品目別経営統計 確報 (平成19年)」よりminorasu編集部作成

農機・施設・システムなどの費用・減価償却が農業経営費の約3割を占めていることがわかります。

それでは設備投資など初期にどのくらいの資金が必要なのでしょうか。次項で参考事例を紹介します。

設備投資と初期費用は?

栃木県農業試験場のいちご研究所では、実際に栃木県内で就農した6戸の農家に詳細なヒアリングを行って新規にイチゴ栽培を始める場合の設備投資額と初期費用を試算しています。

それによると、新規参入のイチゴ農家の標準的な経営モデルとして、経営規模20aのハウス栽培を想定した場合、設備投資と1年目の経費を合計して約1,460万円が必要とされています。

減価償却の対象となる設備投資:1,280万円
・育苗用ハウス、栽培用ハウス(灌水装置・ウォーターカーテンなど込み)
・水回り・電気の設備工事(井戸の掘削・配管、電気工事)
・動力噴霧器や畦立機などの農機
・作業舎、予冷庫、軽トラックなど主に出荷調整にかかるもの

そのほかの設備投資:84.5万円(硫黄くん蒸器、収穫コンテナ、ラップ機など)

1年目の経費:96万円(親苗、肥料・農薬、育苗用土、受粉用ミツバチ、マルチなど)

出典:栃木県農業試験場 いちご研究所「いちご新規参入経営支援マニュアル~2.経営収支の試算」

設備投資については、購入以外の選択肢もあります。

研修先農家や地域の農家から使っていない中古品を譲り受ける、安く買い取る、レンタルするなどにより、設備投資額・初期費用を抑えることができます。

イチゴの育苗ハウス

cozy / PIXTA(ピクスタ)

当面の生活費として約600万円は必要

同マニュアルでは、キャッシュフローの試算もしており、研修期間や収穫までの期間をふまえたキャッシュフローを想定した場合、設備投資や1年目の経費のほかに、生活費として約600万円は必要だとしています。

また、「当初は赤字になる可能性が高いため、資金を十分に準備する必要がある」という先輩農家の意見も紹介しています。

詳しくは下記をご覧ください。

栃木県農業試験場 いちご研究所「いちご新規参入経営支援マニュアル」

1.新規参入のチェックポイント
https://www.pref.tochigi.lg.jp/g61/kenkyuujyouhou/documents/01pointo.pdf

2 経営の収支等試算
https://www.pref.tochigi.lg.jp/g61/kenkyuujyouhou/documents/02sisan.pdf

3 先輩からの助言
https://www.pref.tochigi.lg.jp/g61/kenkyuujyouhou/documents/03advice.pdf

この研究成果については、公益財団法人栃木県農業振興公社のパンフレット「とちぎでいちごを始めませんか!」の中に、わかりやすくまとめてありますのでこちらもご参照ください。

イチゴ農家として成功するために【相談期】

新規就農からイチゴ農家として成功するためのプロセスを「相談期」「準備期」「就農後」の3段階に分けて紹介します。まずは相談期のポイントを見ていきましょう。

相談期には事前に経営イメージの具体化に注力します。するとのちの準備がスムーズになります。

就農候補地を決める

就農候補地を決めましょう。具体的な候補地が決まっている場合は、地域の自治体に相談します。決まっていない場合は、一般社団法人全国農業会議所が運営する「全国新規就農相談センター」に相談するとよいでしょう。

農業をはじめる.JP (全国新規就農相談センター) のホームページはこちら

栽培の規模と方法・販路と所得目標を決める

イチゴの高設栽培 収穫作業も腰をかがめず立って行える

Princess Anmitsu / PIXTA(ピクスタ)

将来の経営のイメージを明確にするためには、下記のポイントを押さえましょう。

1.栽培規模

前の項で紹介した公益財団法人栃木県農業振興公社のパンフレット「とちぎでいちごを始めませんか!」では、栽培規模別の経営指標も分析していますので参考にしてください。

2.栽培方法(土耕・高設栽培等)

高設栽培は地面から1mほどの腰から胸の高さに、ベンチとベッドを設置します。管理・収穫する際に腰をかがめなくてもよく、作業が容易です。導入する場合には10a規模で施工費が約300~500万円かかります。

3.販売方法(市場出荷、直接販売等)

直接販売の場合、価格は自分で決められますが、販路の開拓は自分で行わなくてはなりません。観光農園を経営する場合は、集客のための広告費や運営費、人件費などが発生します。

4.損益分岐点を理解する

栽培方法が決まると、単位面積当たりの生産量が予測できます。地域のイチゴ10a当たりの収穫量、1㎏当たりの平均販売価格を入手して試算してみましょう。

単位面積当たりの売り上げが予測できたら、どのくらいの売り上げ規模ならば、利益を出せるか(損益分岐点)を分析します。

毎年、ほぼ固定でかかる費用(固定費)と売上高(収穫量×販売単価)によって変動する費用(変動費)の合計を、売上高が上回るところが損益分岐点です。

損益分岐点

CORA / PIXTA(ピクスタ)

必要資金の把握と準備

前述したとおり、設備投資と1年目の経費で約1,460万円、農業収入を得られるまでの生活費として約600万円が必要です。自己資金で賄えない場合は、就農資金(制度融資)の活用も検討してみましょう。

まずは「認定新規就農者」の認定を受けるところからスタートです。この制度は農業経営を開始してから5年以内、原則45歳未満が対象です。就農5年目までの経営計画を市町村に申請し、都道府県知事から承認を得る必要があります。

認定新規就農者となると「農業次世代人材投資資金(経営開始型)」、新規就農者への無利子「青年等就農資金」などの国の支援策を受けられる資格を得られます。そのほかにも対象となる施策があるので、下記のサイトで確認しましょう。

農林水産省ホームページ「青年等就農計画制度について」

イチゴ農家として成功するために【準備期】

イチゴのハウス栽培 マルハナバチによる受粉

cozy / PIXTA(ピクスタ)

次に、就農の「準備期」に行うことを紹介します。相談期と準備期は同時進行しても構いません。

栽培技術を習得する

まず、都道府県の農政部などが主催している基礎研修プログラムに参加しましょう。

イチゴの作型や品種、育苗・採苗から開花・受粉などの生育ステップ、施肥や防除・施設管理などの栽培技術全般、収穫と出荷調整の方法などの基礎知識を学びます。

次に、栽培技術を習得するため実地研修先の農家を探します。研修先は自分の経営イメージ(栽培方法、販売方法など)が近いところを選ぶとよいでしょう。

自治体によっては、基礎研修・実地研修をセットにした就農プログラムを設けているところもあるので調べてみましょう。

研修先の農家以外にも、JAの青年部や研究部、研修会などに参加するのもおすすめです。

農地を確保する

イチゴ栽培には育苗用ハウス、栽培用ハウスを建てる農地が必要です。農地を持っていない場合は、借りるか購入することになります。研修先農家やJA、市町村の農業委員会などに相談し、理解と信頼関係を得ながら、探していきましょう。

農地確保の窓口

農地を借りる、または購入する際には、必ず市町村の農業委員会で手続きをしましょう。農業委員会の許可を得ずに農地の貸し借りや権利の移転をすると農地法に違反する可能性があります。

※農地の貸し借りについてはこちらの記事もご覧ください。
「農地トラブルを回避!農地を円滑に貸し借りする方法とは?」

土地勘がない場合は、農地バンク(農地中間管理機構)の各都道府県窓口に相談するとよいでしょう。
農林水産省のホームページ「各都道府県の農地中間管理機構一覧」掲載のページはこちら
全国農業会議所が運営する「全国農地ナビ」はこちら

農地を探す際のチェックポイント

■イチゴ栽培に利用できる施設がないか?
イチゴを栽培していた農地で、ハウスなどの施設が残っていれば、施設も賃借することを検討しましょう。初期投資額を低く抑えることができます。

■栽培環境はイチゴ栽培に適しているか?
イチゴを栽培していなかった農地の場合は、栽培環境がイチゴ栽培に適しているかを確認することが必要です。

■井戸や電気の設備は整っているか?
新たな井戸掘削や電源設置工事には、百万円単位の費用がかかります。

住居を見つける

農地の近くに住むと、すぐに駆けつけられるため、栽培状況を把握しやすくなります。自分や配偶者の実家に同居する場合には費用が抑えられます。

農村部の場合、賃貸マンションやアパートなどは少なく、一軒家が多いようです。Iターン、Uターン移住の場合、自治体の移住窓口に相談してみましょう。賃貸または購入可能な空き家を斡旋している場合があります。

一般社団法人 移住・交流推進機構(JOIN)が運営する「空き家情報」を活用するのもよいでしょう。全国の自治体の「空き家バンク」(注)情報を提供しています。

(注)空き家バンク:空き家物件情報を地方公共団体のホームページ上などで提供するしくみ

一般社団法人 移住・交流推進機構(JOIN)空き家情報のページはこちら

イチゴ農家として成功するために【就農後】

イチゴのハウス栽培 収穫と出荷調整

HIME&HINA / PIXTA(ピクスタ)

就農前に立てた収支予測と実際の収支と比較します。予実を比較することで経営状態を客観的に把握でき、今後の方針を決めやすくなります。

経営状態に一番影響を与えやすいのは、実際に出荷したイチゴの販売合計額(売り上げ)です。

栽培技術が安定しないうちは、平均収量に届かない、等級が低いなどの理由で目標としていた平均販売単価に届かないことも多いでしょう。

歩留まり予測に大きなズレがあると経営難につながるため、先輩農家の経験や技術的なアドバイスをしっかり聞くことが重要です。

経験値が少ないことから、初めはある程度失敗することも覚悟しましょう。2年目から黒字化、3年目で生活費の確保ができるくらいの収支計画を立てることをおすすめします。

そのためにも栽培技術を高めることに努め、計画の達成をめざしましょう。

経営が安定してきたら、事業拡大も視野に入れてもよいでしょう。栽培規模の拡大や設備の高機能化、ブランド品種の栽培、法人化するなど、可能性は広がっています。

高級ブランドイチゴ

ふらっとつりー / PIXTA(ピクスタ)

イチゴ農家として就農するなら、栽培技術と経営の両面をリサーチし、綿密に営農計画を立てることが成功の鍵といえるでしょう。新規就農でイチゴ栽培を考えている場合の参考情報として、本記事をぜひお役立てください。

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上澤明子

上澤明子

ブドウ・梨生産を営む農家に生まれ、幼少から農業に親しむ。大学卒業後は求人広告代理店、広告制作会社での制作経験を経て、現在フリーランスのコピーライターとして活動中。広告・販促ツールの企画立案からコピーライティング、取材原稿の執筆などを行う。農業専門誌の制作経験があり、6次産業化や農商工連携を推進する、全国の先進農家・農業法人、食品会社の経営者の取材から原稿執筆、校正まで携わったことから農業分野のライティングを得意とする。そのほか、食育、子育て、介護、健康、美容、ファッションなど執筆ジャンルは多岐にわたる。

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