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イチゴの収量をアップするには? 反収の目安と栽培のコツ【生産者向け】

イチゴの収量をアップするには? 反収の目安と栽培のコツ【生産者向け】
出典 : オフィスK / PIXTA(ピクスタ)

イチゴ栽培で収量を上げるには、多収を見込める品種を選ぶことに加え、反収を上げる栽培の工夫も必要です。本記事では、全国のイチゴ産地の中でも反収が高い県の取り組みを参考に、イチゴの収量を上げる栽培のポイントや、最新の技術について紹介します。

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イチゴは生鮮品や和洋菓子の材料として、年間を通して比較的安定した需要が見込めます。需要に応え収益を上げるためには、人気の高い品種選びや品質向上、ブランディングなどによる単価のアップも大切ですが、収量を上げることが取り組みやすく効果の高い方法です。

イチゴの収量、平均は「10a当たり約3,000kg」

イチゴ農家 ハウス栽培 収穫

Princess Anmitsu / PIXTA(ピクスタ)

農林水産省による2021年産の作況調査から、イチゴの10a当たりの収量、つまり反収を見ると、全国平均で3,340kgです。

生産量(収穫量)で全国1位の栃木県は、反収(10a当たり収量)も4,790kgと全国1位で、「いちご王国」を名乗り、収量向上のための品種改良や技術開発を進めています。

同時に、キャラクターやアンバサダーを起用したり、イチゴを使用したオリジナル商品を開発し、栃木県のふるさと納税の返礼品にしたりするなど、県や市町村、関係機関が協力してPR戦略に積極的に取り組んでいます。

このような生産・販売・PRなどの多角的な取り組みが、生産量や出荷量の全国1位という成果として現れています。

10a当たりのいちごの収量

出典:農林水産省 作物統計|作況調査(野菜)|令和3年産野菜生産出荷統計|よりminorasu編集部作成

栃木県に次いでイチゴの収穫量の多い福岡県・熊本県・愛知県・長崎県の4県は、反収で見るとほぼ4,000kgを超えていますが、うち福岡県のみ3,880kgと4,000kgを下回っています。

一方で、収穫量ではトップ5に入らず8位、作付面積では9位にとどまっている佐賀県は、反収では栃木県に次ぐ全国2位の4,610kgと高い数値を示しています。

佐賀県が高い反収を上げている理由の1つとして、収量性の高い新品種「いちごさん」の導入が考えられます。

佐賀県では近年、主力品種とされてきた「さがほのか」から「いちごさん」への移行が進み、作付面積を増やすとともに、品質向上をめざして採苗時期の検討や基肥の試験に取り組んでいます。

出典:佐賀県「振興センターだより(旧普及だより)」所収「普及センターだより きしまの風 第50号」

イチゴの収量アップをめざすには、佐賀県の例に見られるように、「品種選定」と「栽培管理」の2つのポイントに着目することが重要です。

収量性が高いのは? 反収の多いイチゴ品種の例

収量性が高いのは? 反収の多いイチゴ品種の例

Princess Anmitsu / PIXTA(ピクスタ)

比較的多収を見込めるイチゴの品種には、例えば「章姫」「かおり野」「紅ほっぺ」「とちおとめ」などがあります。連続収穫性のよい「スターナイト」も多収につながります。

また、近年育成された多収の新品種としては、「章姫」と「さちのか」の交配実生から選抜して育成した促成栽培向け品種「まりひめ」や、大粒で連続出蕾性に優れた多収性の促成栽培向け品種「恋みのり」、多収性で商品果率が高い「豊雪姫(とよゆきひめ)」などがあります。

このような収量の多い品種を選ぶことも収益アップには重要ですが、食味のよい人気品種を選んで単価を上げるなど、経営的な戦略も効果的です。

▼イチゴ栽培で収益を上げる方法について詳しく知りたい方は、以下の記事も参考にしてください。

イチゴの収量アップをめざす! 農家がやるべき4つの工夫

イチゴの収量を増やすには、栽培管理の工夫によって株数、花芽の数、花数、果実数をそれぞれ増やす必要があります。そのために取り組むべき栽培上の工夫としては、次の4つのポイントが挙げられます。

1. 適切な土作りと施肥設計
2. 密植栽培
3. 花芽分化による花数の増加
4. 病害虫対策

以下では、それぞれの具体的な方法について解説します。なお、すべて一季成り性品種を前提としています。

土作りと施肥設計で、着果数・果重を増やす

イチゴの土耕栽培 定植直後

Eizo / PIXTA(ピクスタ)

着果数や果重を増やすポイントの1つは、土作りと施肥設計です。

イチゴは一般的にpH5.5~6.0の弱酸性の土壌を好みます。土壌分析を行い、酸性に偏っている場合は、石灰などを撒いて適切なpHに調整しましょう。それと同時に、良質な堆肥や緩効性肥料を施用し、土作りをします。

適切な施肥量は、イチゴの品種や土壌の状態、作型などの条件によって異なります。そのため、選んだ品種や土壌に合わせて、窒素過多にならないよう適切な施肥をすることが重要です。

なお、基肥は少なめにすると、イチゴに発生しやすい肥料焼けを防げます。施肥量は、地域や品種ごとに目安を提示している場合があるので、確認してみるといいでしょう。例えば、栃木県では「とちおとめ」と「とちあいか」の窒素施肥量を10a当たり20kgを適正としています。

出典:栃木県「農業試験場ニュース」所収「栃木県農業試験場 農試News No.422「いちご『とちあいか』の窒素施肥量は、『とちおとめ』と同じ 20kg/10a が適正と分かりました」

▼イチゴの施肥について詳しく知りたい方は、こちらの記事も参考にしてください。

密植栽培で、10a当たりの株数を増やす

イチゴの一般的な栽培における栽植本数は、10a当たり7,000~8,000本です。この栽培方法での反収が、前述のように平均して3,500kg程度です。

これに対し、ハウス内の通路をなくし、栽培ベッドを移動させることで10a当たり16,000本程度の高密植栽培とし、反収を倍増させる「密植移動栽培技術」が、農業・食品産業技術総合研究機構によって開発されています。

実践例として、同機構が10a当たり16,667株を栽植したところ、株当たりの全収量が433g、10a当たり全収量は7,208kgという実績を上げています。この技術を用いれば、既存のハウスをそのまま使って、イチゴの収量を一気に倍増させることが可能です。

出典:
農林水産技術会議「革新的作業体系を提供するイチゴ・トマトの密植移動栽培システムの研究開発」
農研機構「生物系特定産業技術研究支援センター 2010年の成果情報|イチゴの循環移動式栽培装置|イチゴの循環移動式栽培装置」

なお、イチゴの移動栽培装置は、ヤンマーホールディングス株式会社が製品化しています。

製品ページ:ヤンマーホールディングス株式会社「イチゴ移動栽培装置」

ヤンマーホールディングス株式会社Youtube公式チャンネル「移動栽培装置動画HP用」

花芽分化を促進し、花数を増やす

イチゴの収量を増やすポイントとして、できるだけ多くの花芽を付けることも重要です。そのためには、花芽分化の促進が欠かせません。

花芽分化は、「日長が短いこと」「温度が低いこと」「窒素濃度が低いこと」の3つの条件によって促進されます。3つの条件すべてがそろうことが理想的ですが、日長の長さと温度には相互作用があるので、温度が低ければ日が長くても花芽分化します。

イチゴの花芽分化と温度・日長の関係

※実際には、温度と日長のほか、窒素量や葉齢などの条件などが関わります
出典:農研機構「夏秋イチゴ栽培技術に関する研修」所収「四季成り性品種の育種と現状」よりminorasu編集部作成

通常、イチゴは秋になって気温が25℃程度に下がることと、日長が短くなることで、低窒素の条件下で花芽分化が促進されます。また、気温が15℃以下の低温になると、日長にかかわらず花芽分化を始めます。

花芽分化には低窒素という要素も必要なため、花芽分化が終わるまでは窒素が多くならないように注意しましょう。一般的に、定植する本圃は土作りにより十分な窒素が含まれているため、苗の間は低窒素状態にして花芽分化を十分促してから定植します。

花芽を多く確保することで実も多く付き、収量の増加につながります。花芽分化のあとは、反対に日長が長く温かい環境で、窒素を適切に施用することで実の肥大を促進します。育苗期と定植後の環境を、生育ステージに合わせて整えることが大切です。

▼イチゴの花芽分化促進について詳しく知りたい方は、こちらの記事も参考にしてください。

適切な病害虫対策を行い、減収を防ぐ

イチゴ栽培に当たっては、収量減や品質低下の要因となるさまざまな病害虫を防除することも、結果的に収量アップにつながります。

イチゴの主な病害には、葉や葉柄、ランナー、クラウン、根などに黒い病斑を生じ枯死させる「炭疽病」や、果実や葉の表面に白いカビが生える「うどんこ病」、新葉が黄緑色に変色し萎縮したりねじれたりして枯死することもある「萎黄病」、果実に灰色のカビが生えたり腐敗したりする「灰色かび病」など、非常に多くの種類があります。

イチゴ 炭疽病 葉病斑

写真提供:HP埼玉の農作物病害虫写真集

イチゴ うどんこ病 発病した果実と果梗

写真提供:HP埼玉の農作物病害虫写真集

イチゴ 萎黄病 新葉の黄化・奇形

写真提供:HP埼玉の農作物病害虫写真集

イチゴ 灰色かび病 発病果

写真提供:HP埼玉の農作物病害虫写真集

病害虫を防除するためには、総合的防除体系(IPM)の確立が効果的です。IPMとは、日々の栽培管理の中で、耕種的防除によって病害虫や雑草の発生しにくい環境を整え、それと組み合わせて必要に応じて農薬散布を行う、という考え方です。

これにより農薬を効果的に施用でき、散布の労力やコストを必要な分だけに抑えられるため、防除の効果を上げるとともにコストカットにもつながります。

また、輸出に取り組む場合には、海外の基準に沿った防除体系が必要です。海外の場合、日本よりも残留農薬に対して厳しい場合があります。よって、農薬の使用を軽減するために、天敵資材を組み合わせた防除方法も効果的です。

例えば、ハダニ類の防除のため、育苗期に天敵であるミヤコカブリダニやチリカブリダニなどを放飼することで、定植直後のハダニ発生を抑え、本圃での殺ダニ剤使用を軽減できます。

ナミハダニを追いかけるチリカブリダニ成虫

写真提供:HP埼玉の農作物病害虫写真集

ナミハダニを捕食するミヤコカブリダニ成虫

写真提供:HP埼玉の農作物病害虫写真集

ただし、炭疽病や萎黄病などが発生する恐れがある場合は、これらを防除するための農薬が天敵に影響するため、使用できないことに注意が必要です。天敵を守るために本来必要な農薬まで控えてしまうと、収量を上げるどころか壊滅的な被害を受ける危険性もあります。

IPMの実践は、農薬の使用を避けることではなく、適切な量・回数に抑えることが目的です。農薬を必要な分だけ、適切に活用することが実践の成功に欠かせません。

出典:
栃木県「 農業 > 経営・技術 > 農薬、肥料、病害虫関連 > IPM(総合的病害虫・雑草管理)」所収「いちごIPMマニュアル(指導者向け)」「いちごIPM実践マニュアル」
長崎県 農林技術開発センターのページ所収「いちごIPM防除体系マニュアル長崎県版」
農研機構「技術紹介パンフレット|生果実の輸出用防除体系マニュアル」所収「生果実(いちご)の輸出用防除体系マニュアル」

イチゴ生産量No.1! 栃木県の“超多収生産技術”とは?

イチゴ 炭酸ガスの施用

nobmin / PIXTA(ピクスタ) やえざくら / PIXTA(ピクスタ)

生産量日本一の栃木県は、反収でも日本一の収量を上げています。それでも、人手不足や栽培面積の減少など、ほかの産地と同じ課題を抱えています。

それらの問題を解消すべく、栃木県が県を上げて取り組んでいるのが「超多収生産技術」です。イチゴの生産性向上のために複合的な環境制御技術を確立し、10a当たり12,000kg程度と、従来の約2倍の収量を安定的に確保できる「次世代型技術」として開発を進めています。

超多収栽培の具体的な内容は、以下の4つの技術の組み合わせです。

1. 定植後の株に赤色LEDを当てる「日長延長処理」による着果数増加と1果重の充実
2. 炭酸ガスを600~800ppmで日中施用し、午前午後の換気温度を27℃とすることによる収量の増加
3. 10月から翌年7月まで収穫する促成作型において、新品種「とちあいか」を株間18cm栽培することで、従来の「とちおとめ」よりも1割程度多収となること
4. 上記の成果に加えて、クラウン部だけを集中的に温める温度制御

上記4つを組み合わせた超多収栽培は実証試験も行われ、10a当たり単収12.8tを達成し、その効果が認められました。

出典:栃木県「農試ニュース」所収「令和3年11月号vol.413|いちご超多収生産技術で単収12t/10aを達成」

イチゴの高設栽培 環境制御

Princess Anmitsu / PIXTA(ピクスタ)

イチゴの収量は産地によって差がありますが、今は反収の低い地域であっても、環境に合った品種選出と、品種に合った体系的な栽培管理・防除対策を行うことで、収量を大きく増やせる可能性があります。産地に学び、効果的な技術を活用して、収量の大幅アップをめざしましょう。

また、収量のアップと同時に、品質向上や地域を上げたブランディング、生産の少ない夏から秋にかけて収穫できる作型の導入など、総合的な対策を立てることで収益増加が期待できます。

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大曾根三緒

大曾根三緒

ビジネス、ペット、美術関連など多分野の雑誌で編集者として携わる。 全国の農業協同組合の月刊誌で企画から取材執筆、校正まで携わり、農業経営にかかわるあらゆる記事を扱かった経験から、農業分野に詳しい。2019年からWebライターとして活動。経済、農業、教育分野からDIY、子育て情報など、さまざまなジャンルの記事を毎月10本以上執筆中。編集者として対象読者の異なるジャンルの記事を扱った経験を活かし、硬軟取り混ぜさまざまなタイプの記事を書き分けるのが得意。

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