スクミリンゴガイ(ジャンボタニシ)の生態と防除対策
スクミリンゴガイ(ジャンボタニシ)は、水稲に深刻な被害をもたらす外来種です。増殖を防ぐには、その生態を理解し、苗移植前の物理的防除や浅水管理、収穫後の越冬対策が有効です。加えて、天敵を利用した生物的防除や農薬の適切な使用も重要になります。
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目次
スクミリンゴガイは、水稲農家にとって収量減をもたらす厄介な存在です。しかし、実は生命力や繁殖力はそれほど強くなく、生態をよく知って正しく対応することで、被害を防ぐことができます。この記事では、有効な防除方法やおすすめの農薬も紹介します。
そもそもスクミリンゴガイ(ジャンボタニシ)とは?
kamemusi / PIXTA(ピクスタ)
タニシといえば昔から日本の水田や用水路に生息する淡水生の巻貝ですが、近年、特に注意すべきなのが、ジャンボタニシとも呼ばれるスクミリンゴガイです。たかがタニシと油断していると、深刻な被害をもたらすこともある厄介な外来種です。
ここでは、スクミリンゴガイの来歴や生態について詳しく説明します。生態や特徴、発生しやすい環境などを知ることで、被害の発生を未然に防ぎましょう。
スクミリンゴガイはどんな貝? 来歴や生態について
よすん / PIXTA(ピクスタ)
スクミリンゴガイの来歴
スクミリンゴガイは淡水生の大型の巻貝で、成貝の殻高は5~8cmにもなります。その大きさから、日本ではジャンボタニシとも呼ばれ、外来生物とされています。
南米原産で、日本には1980年代の初めに、食用を目的として台湾から導入されました。全国に多くの養殖場ができましたが、野生化したスクミリンゴガイによる水稲の食害が発生するようになったため、1984年には有害動物に指定され、輸入も禁止されます。
その後、食用としての需要も伸びないまま養殖業は廃れていきました。一方で、廃業した養殖場から逃げたり廃棄されたりした個体が野生化して繁殖し、各地に被害が広がっていくようになります。
ただし、スクミリンゴガイは耐寒性が低く、-3℃でもほとんどの個体が生きられないため、日本では茨城県より北の地域では越冬できません。そのため、国内の分布は西日本が中心です。とはいえ、温暖化が進む昨今、生息域の北上も心配されます。
スクミリンゴガイの生態
スクミリンゴガイは普段は水中で生活します。越冬できれば寿命は2~3年ほどです。魚の死骸や仲間の稚貝など動物性の餌もよく食べますが、柔らかい草など植物性の餌をより好みます。水稲やレンコン、い草などに深刻な被害が見られます。
水稲への食害は柔らかい稚苗のほうが甚大で、株が生長してしまうと食害は少なくなります。また、水中で茎を食いちぎって葉鞘を食べつくすので、水深1cm以下では水稲への食害は見られなくなります。
産卵は、夜間に水上で行い、特徴的なピンク色の数cmほどの卵塊を水上の植物やコンクリートの壁面に産み付けます。雌は夏の間、条件がよければ3~4日に一度産卵を繰り返し、一生で数千個の卵塊を産みます。
卵は水に浸かると死んでしまうので、駆除したい場合は卵塊を水に落とすだけでも効果があります。産卵から10日ほどでふ化しますが、ふ化率はあまり高くなく、ふ化に至らない場合も少なくありません。
吉野秀宏 / PIXTA(ピクスタ)
在来タニシとの違いは? 見た目の特徴と見分け方
日本の在来種にも、マルタニシなど大型のタニシは存在します。在来種との見分け方は、スクミリンゴガイのほうが、らせん状の下部の長さに比べて上部の長さが短く、殻径と殻高の長さがほぼ同じため、コロンとした見た目をしています。
また、長い触角があるのも特徴的です。とはいえ、成貝の見た目だけではほとんど見分けがつきません。
最も簡単にスクミリンゴガイの発生状況を知るには、ピンク色の卵塊が稲の株やコンクリートの壁面についていないかを確認するのが確実です。もしもピンクの卵塊を見つけたら、卵は水中に沈めて駆除しましょう。
なお、スクミリンゴガイには広東住血線虫という、人間にも寄生し深刻な症状を引き起こす寄生虫が潜んでいる恐れがあります。確認や防除のために触る場合には必ずゴム手袋をはめ、触ったあとは、いつもよりも念入りに手を洗うことが大切です。
スクミリンゴガイが好む環境と、環境耐性について
生態についての項でも触れましたが、スクミリンゴガイは耐寒性が低く、-3℃を下回る環境では生きることができません。現在、多く生息している西日本でも、越冬率は10%未満といわれています。
原産国が南米なので、暑い環境には強く、25℃の条件下ではよく食べ活発に産卵もします。また、乾燥には強く、夏場、水が少なくなると土に潜り蓋もしっかり閉めて、そのまま半年以上も生存できます。
スクミリンゴガイの食害を受けるとどうなる? 被害の特徴
トシ松 / PIXTA(ピクスタ)
スクミリンゴガイは水中に伸びる植物をよく食べます。
そのため水稲、レンコン、い草、水芋などの水田作物が食害を被ります。中でも、特に水稲の場合は田植え後1ヵ月も経たない柔らかい稚苗を好んで食べるため、欠株が発生してしまいます。ひどい場合は苗がほとんどなくなってしまうこともあります。
欠株が増えると、当然ながら収量が減ってしまうので、柔らかい苗への食害は防ぎたいものです。
生長して硬くなった葉はあまり食害を受けないので、苗が若い間の対策が重要です。
食害から苗を守る! スクミリンゴガイの時期別防除方法
それでは、具体的なスクミリンゴガイの防除方法について、時期別に説明します。
【移植前】移植までは「ほ場へ入れない・増やさない」対策がマスト
スミレ / PIXTA(ピクスタ)
苗を移植するまでの水田には、スクミリンゴガイが侵入しないようにネットや金網を設置することが重要です。水路からの侵入を、物理的に防止しましょう。また、もしも水田の周辺に卵塊を見かけたら、卵は水に弱いため、水中へ削り落とすだけでも殺卵効果があります。
移植前だけでなく、基本的に水田の取水口に常に網を張ることで、スクミリンゴガイの水田への侵入を減らすことができます。
【移植~移植後】移植前後は「できる限り食害させない」工夫を
田舎の写真屋/PIXTA(ピクスタ)
苗を移植する際と、移植したあとに行うべき防除対策は、スクミリンゴガイの生態に基づき、彼らにとって快適な環境にしない点がポイントです。
柔らかい草を好むスクミリンゴガイにとって、水稲の若い苗はごちそうといってもいいものです。少しでも被害を受けないように、移植するのは中苗~成苗となった大きい苗とすると、食害を少なく抑えることができるでしょう。
また、苗を移植したあと、スクミリンゴガイが水田内を移動して苗に集まらないように、移植後2~3週間は4cm以下、できれば1cm程度の浅水管理とするのがよいでしょう。
【収穫後】秋~冬期の越冬対策で「ほ場の貝密度の低下」を狙う
稲刈りが終わったあとは、次の年の作付けのため、ほ場の貝密度をできる限り下げておくことがポイントです。そのためには、殺貝効果のある石灰窒素をほ場へ散布すると効果的です。
石灰窒素の散布に当たっては、効果を十分に発揮するためのひと工夫が大切です。まずは石灰を散布する前に、水温17℃以上の水を3~4cmの深さに張り、1~4日の間、静かに放置します。そうすることで、貝が活動状態になります。
その後、10a当たり20~30kgの石灰を全面に散布し、3~4日間湛水します。これは、石灰窒素を水に浸けることで加水分解を促し、効果を発揮させるためです。これによってほとんどの貝を死滅させられます。
石灰窒素を散布した田面水は、高い魚毒性があるので水路に流さず、漏水対策をしたうえで自然落水させます。なお、この方法は活動していない貝には効かないため、水温15℃以下では行わないようにしましょう。
冬場の耕うんも、スクミリンゴガイの生息数を大きく減らす効果があります。耕うんすることで物理的・直接的にスクミリンゴガイを粉砕するほか、土に潜っていた貝を掘り起こして寒風にさらすことで、耐寒性の低いスクミリンゴガイをさらに減らします。
吉野秀宏 / PIXTA(ピクスタ)
スクミリンゴガイ対策には、天敵による生物的防除も有効!
スクミリンゴガイの天敵を水田へ放すのも、対策の1つとして有効です。日本では、ゲンゴロウやヤゴ、カニ、エビなどが、まだ小さいスクミリンゴガイを捕食します。アイガモ、コイ、カメなどは殻高20mm以上の比較的大きなスクミリンゴガイも捕食可能です。
ただし、特にコイの放流は、周りの水棲生物を食い荒らし、多様性保全の観点から問題となる恐れもあるため、地域に生息するほかの在来種を活用するほうが安全です。
化学的防除はどうやる? 農薬散布のポイントと有効な農薬一覧
スクミリンゴガイの常発地帯では、育苗箱への施薬や、ほ場への農薬散布などで広範囲を一度に防除する方法が効果的です。スクミリンゴガイの防除に有効な登録農薬には「メタアルデヒド粒剤」、「チオシクラム粒剤」、「燐酸第二鉄粒剤」などがあります。
「チオシクラム粒剤」は貝の活性を低下させ食害を防止する効果が期待でき、「メタアルデヒド粒剤」、「燐酸第二鉄粒剤」はそれに加えて食毒による殺貝効果も期待できます。
それぞれの代表的な農薬には、以下のようなものがあります。なお、ここで紹介する農薬は、2021年7月現在登録のあるものです。
【メタアルデヒド粒剤の代表的な農薬】
出典:農林水産省「スクミリンゴガイの被害防止対策について」よりminorasu編集部作成
【チオシクラム粒剤の代表的な農薬】
出典:農林水産省「スクミリンゴガイの被害防止対策について」よりminorasu編集部作成
【燐酸第二鉄粒剤の代表的な農薬】
出典:農林水産省「スクミリンゴガイの被害防止対策について」よりminorasu編集部作成
いずれの農薬も、被害が大きくなる前のタイミングで使用することで効果が期待できます。使用に当たっては、農薬ごとの使用方法や使用時期・使用量などを遵守することが必要です。
ほ場への散布後、確実に効果を出すため、少なくとも3~4日間は水深3~5cmの湛水状態を保ちます。また、魚類や甲殻類などへの影響を防ぐため、7日間は落水・かけ流しをしないようにしましょう。
田舎の写真屋/PIXTA(ピクスタ)
スクミリンゴガイは、水稲をはじめとする水田作物に多大な被害をもたらす恐れのある外来生物ですが、早期に気づき対策を取ることで、防除が十分に可能です。繁殖しやすい環境を作らず、耕種的防除や農薬の使用を併せて効率的に被害を防ぎましょう。
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大曾根三緒
ビジネス、ペット、美術関連など多分野の雑誌で編集者として携わる。 全国の農業協同組合の月刊誌で企画から取材執筆、校正まで携わり、農業経営にかかわるあらゆる記事を扱かった経験から、農業分野に詳しい。2019年からWebライターとして活動。経済、農業、教育分野からDIY、子育て情報など、さまざまなジャンルの記事を毎月10本以上執筆中。編集者として対象読者の異なるジャンルの記事を扱った経験を活かし、硬軟取り混ぜさまざまなタイプの記事を書き分けるのが得意。