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【ほうれん草の害虫】種類と被害症状を一覧解説! 有効な農薬や防除対策は?

【ほうれん草の害虫】種類と被害症状を一覧解説! 有効な農薬や防除対策は?
出典 : HP埼玉の農作物病害虫写真集

ほうれん草は、ほかの葉物野菜に比べて害虫が少ないといわれます。しかし、アブラムシ類やヨトウムシ類など多くの作物に共通する害虫や、重要害虫であるシロオビノメイガなどからの被害が多く見られます。この記事では、ほうれん草で特に注意すべき害虫と防除方法を写真も添えて解説します。

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ほうれん草は、露地と施設栽培を組み合わせた周年栽培が可能です。ただし、収量や品質を上げるためには、季節ごとに発生しやすい害虫の防除対策が必要です。

そこで、ほうれん草栽培で特に注意すべき4種類の害虫を中心に、具体的な被害や対策について解説します。

ほうれん草の露地トンネル栽培

kpw / PIXTA(ピクスタ)

ほうれん草の多収実現のために力を入れたい害虫対策

ヒユ科のほうれん草は、葉菜類の中でもアブラナ科などに比べて害虫の被害を受けにくく、初心者にも栽培しやすいといわれます。

とはいえ、周年栽培をする農家も多く、ヨトウムシ類、シロオビノメイガ、ホウレンソウケナガコダニのほか、アブラムシ類、アザミウマ類、ネキリムシ類、タネバエなど、さまざまな害虫の発生に注意が必要です。

害虫への予防や対策が遅れれば収量や品質が大幅に低下したり、害虫が土壌中に残って次作以降にも被害を及ぼしたりすることもあります。収量や品質の低下を防ぎ安定的な生産を実現するためには、適切な土作りや施肥のほか、これらの害虫対策が不可欠です。

そこで、この記事では特に重要な4種類の害虫について、その生態や被害状況の特徴、防除方法などを詳しく解説します。さらに、併せて注意したい害虫の情報を一覧で解説します。

ほうれん草のハウス栽培

akitaso / PIXTA(ピクスタ)

なお、この記事で紹介する農薬はすべて、2021年11月現在ほうれん草に登録のあるものです。実際の使用にあたってはラベルの記載内容をよく読み、用法・用量を守って使用してください。

また、地域に農薬の使用について決まりがある場合は必ず従ってください

ハスモンヨトウ:葉を食害し、外観品質を著しく低下させるヨトウムシ類

ほうれん草 ハスモンヨトウ幼虫による被害葉

ほうれん草 ハスモンヨトウ幼虫による被害葉
写真提供:HP埼玉の農作物病害虫写真集

ヨトウムシ類は夜行性の蛾の幼虫で、成虫も幼虫も昼間は土の中に隠れ、夜になると出てきて活動するのが特徴です。見つけにくいうえに土中にいるため防除しにくい厄介な害虫です。

ここでは、ヨトウムシ類の中からハスモンヨトウを例に挙げ、被害の特徴と類似害虫との見分け方、具体的な防除対策について解説します。

被害の特徴

ハスモンヨトウは、ほうれん草で注意が必要な重要害虫の1つです。露地では5月頃から成虫が現れはじめ、9月頃~11月上旬にかけて多発します。施設内では周年発生します。

成虫は体長約15~20mm、淡褐色の縞模様が斜めに交差しているのが特徴です。夜間に飛来し、葉裏などに200~400粒からなる卵塊を産み付けます。

ハスモンヨトウ雄成虫(前翅長18mm)

ハスモンヨトウ雄成虫(前翅長18mm)
写真提供:HP埼玉の農作物病害虫写真集

幼齢幼虫の間は集団で活動し、葉の裏から表皮を残して食害します。そのため、葉の表面からは食害された部分が透けて白っぽく見えるのが特徴です。とはいえ、ほかのヨトウムシ類やシロオビノメイガの食害痕も同様なので、それだけでは種類を特定できません。

幼虫の見た目の特徴は、ふ化直後は頭部が黒っぽく体は緑色で艶がありません。また、幼齢の間は集団で活動するため、単独で行動するシロオビノメイガと区別できます。成長とともに食害量が増え、ほかの株に移って単独で行動するようになります。

ヨトウガとの見分けがつきにくいのですが、ハスモンヨトウの卵塊は表面が成虫の薄茶色の鱗粉に覆われています。ヨトウガの卵塊は表面が成虫の鱗粉で覆われていないこと、また、ハスモンヨトウの老齢幼虫は頭に2つの黒い紋があることなどで見分けます。

ハスモンヨトウ卵塊(卵径0.5mm)

ハスモンヨトウ卵塊(卵径0.5mm)
写真提供:HP埼玉の農作物病害虫写真集

ハスモンヨトウとヨトウガは、同じヨトウムシ類でも有効な農薬などが異なるので、的確に見分ける必要があります。

防除対策

施設栽培での防除対策としては、開口部分を防虫ネットなどで覆う方法もありますが、侵入を許すことも多く、露地で大規模なほ場の場合は完全に防ぐことは難しいでしょう。

フェロモントラップなどを利用して成虫の発生をいち早くつかみ、農薬の効きやすい幼齢幼虫のうちに有効な農薬を散布することが重要です。

成長すると薬剤感受性が低下して効果が出にくくなるうえ、分散して行動範囲が広がり、株元にも潜むようになります。このため、株元にかかるように念入りに散布しないと十分な効果が得られません。

また、多発してしまうと、同時に各ステージの幼虫が混在するようになるため、5~10日おきの複数回散布が必要になります。

有効な農薬は、「アファーム乳剤」「カスケード乳剤」「ディアナSC」などです。

シロオビノメイガ:ヨトウムシ類同様、露地栽培における葉の食害が深刻

ハスモンヨトウと同様にほうれん草の重要害虫となっているシロオビノメイガについて、被害の特徴やほかの害虫との見分け方、有効な防除方法を解説します。

被害の特徴

シロオビノメイガ成虫

シロオビノメイガ成虫
写真提供:HP埼玉の農作物病害虫写真集

シロオビノメイガは春から秋にかけて5~7回発生しますが、特に9月以降の秋に被害が大きくなります。

成虫は体長20mmほどで、褐色の翅に、横にまっすぐ白い帯の模様が入っているのが特徴です。食害痕は葉の表面の皮だけが残って白く見え、ハスモンヨトウなどのヨトウムシ類とも似ています。

幼齢幼虫が単独で行動していることや、体が淡緑色で艶があること、糸を吐いて葉をつづりながら食害することなどが、シロオビノメイガの特徴です。

シロオビノメイガ若齢幼虫(体長6mm)

シロオビノメイガ若齢幼虫(体長6mm)
写真提供:HP埼玉の農作物病害虫写真集

防除対策

シロオビノメイガはイヌビユやアカザなど、ヒユ科の雑草を好みます。これらの雑草が発生源となることが多いため、ほ場近隣の除草を徹底しましょう。

施設栽培の場合は開口部分に防除ネットを張って成虫を侵入させないことも有効です。

ほうれん草 シロオビノメイガ幼虫による被害葉

ほうれん草 シロオビノメイガ幼虫による被害葉
写真提供:HP埼玉の農作物病害虫写真集

食害痕が見られた場合はハスモンヨトウなどとの違いをしっかり見極め、シロオビノメイガであることが確認できたら有効な農薬を散布しましょう。

シロオビノメイガに有効な農薬には、「スピノエース顆粒水和剤」「カスケード乳剤」「ディアナSC」などがあり、カスケード乳剤、ディアナSCであればハスモンヨトウとの同時防除ができます。

ホウレンソウケナガコナダニ:奇形葉の原因となるコナダニ類

ケナガコナダニ若虫(体長0.4mm)

ケナガコナダニ若虫(体長0.4mm)
写真提供:HP埼玉の農作物病害虫写真集

体長0.4~0.7mmと微小ながら、葉の奇形や芯止まりなど大きな被害をもたらすホウレンソウケナガコナダニについて、被害の特徴や防除対策を詳しく説明します。

被害の特徴

ホウレンソウケナガコナダニは、土壌中や有機質資材の中に生息し、わらやもみ殻などを主食とするダニです。

そこからほうれん草の新芽や新葉部に移動し加害すると、ほうれん草の生育に伴い展開葉にこぶ状の小突起を生じたり、葉が光沢を帯びて萎縮したりして奇形となります。

こうした被害が多発すると、新葉の展開が止まる「芯止まり」になることもあります。また、土壌中にホウレンソウケナガコナダニの密度が高いと発芽障害を起こす恐れも生じます。

高温に弱いので夏場は密度が下がりますが、春と秋に多発し、施設栽培のほうれん草に深刻な被害をもたらすことがあります。

ほうれん草 ケナガコナダニによる奇形葉

ほうれん草 ケナガコナダニによる奇形葉
写真提供:HP埼玉の農作物病害虫写真集

防除対策

増殖源となるわらやもみ殻、家畜糞堆肥の未完熟な状態での投入は控え、腐熟の進んだ堆肥を利用するようにします。一度発生したら、前作の残さも残さず除去しましょう。

暑さに弱いので、蒸気消毒や太陽熱による土壌消毒が有効です。ただし、土壌消毒から時間が経つと再び増殖するので、発生が予想される直前に行うと効果的です。

農薬散布をする場合は、2葉期と4~6葉期に行うと効果的です。ダニとはいっても、ハダニ類とは性質が異なり、ハダニ類に有効な「殺ダニ剤」では効果が低いので注意しましょう。

ホウレンソウケナガコナダニに効果のある農薬は、播種前に土壌混和する「フォース粒剤」、栽培中に散布する「カスケード乳剤」「アファーム乳剤」などです。効果を上げるためには農薬だけに頼らず、耕種的防除と組み合わせることが大切です。

併せて注意したい害虫と、防除対策・有効農薬一覧

ほうれん草栽培において注意すべき害虫はほかにもあります。それぞれ特徴や防除対策を簡潔に紹介します。

アブラムシ類:食害とウイルス病の媒介に注意

ほうれん草 モモアカアブラムシの寄生株

ほうれん草 モモアカアブラムシの寄生株
写真提供:HP埼玉の農作物病害虫写真集

ほうれん草に寄生するのはアブラムシ類の中でも主にモモアカアブラムシで、春と秋に多く発生します。

吸汁の被害よりもすす病やホウレンソウえそ萎縮病、モザイク病などのウイルス病による被害が深刻なので、早期防除が重要です。

発生を確認したら、「マラソン乳剤」や「ウララDF」などの農薬で防除しましょう。

ホウレンソウえそ萎縮病 えそ斑点が発生

ホウレンソウえそ萎縮病 えそ斑点が発生
写真提供:HP埼玉の農作物病害虫写真集

ネキリムシ類:生育初期の葉を食害し、欠株の原因

「ネキリムシ」は、生育初期の葉を株元から切り取って食害する夜行性の蛾の総称で、主にカブラヤガとタマナヤガの2種類が発生します。

発生時期は春~秋で、昼間は土の中に潜っています。夜間にネキリムシによって切り取られた葉が倒れて萎れていることから発生に気づくケースが多く見られます。

株が大きくなっていれば被害はわずかですが、生育初期の欠株を防ぐためにも、早期に防除しましょう。

農薬では播種前に「フォース粒剤」の全面土壌混和、発生時には「ガードベイトA」の株元散布が有効です。

夏場の場合は、農薬による防除と播種前の太陽熱消毒を併用すると効果的に防除できます。

ネキリムシ類の防除についてはこちらの記事もご覧ください。

ミナミキイロアザミウマ:葉の見た目を害し、商品価値の低下を招く

アザミウマ類の中でも、ほうれん草ではミナミキイロアザミウマがよく発生します。

ミナミキイロアザミウマ成虫(体長1mm)

ミナミキイロアザミウマ成虫(体長1mm)
写真提供:HP埼玉の農作物病害虫写真集

体長は1mmほど、体色は黄色で細長いのが特徴です。成虫・幼虫とも新葉を吸汁し、そのために新葉が傷ついたり萎縮したりして品質を損ないます。周囲の雑草などから飛来し、春から秋にかけて7~8回発生します。

周辺の雑草の除草をこまめに行うことで、飛来を減らせます。発生が目立つ場合は、「アグロスリン乳剤」や「パダン水溶剤」の散布が有効です。

タネバエ:立枯れや発芽不良を引き起こす害虫

タネバエ雌成虫(体長5mm)

タネバエ雌成虫(体長5mm)
写真提供:HP埼玉の農作物病害虫写真集

タネバエは成虫の体長が5~6mmの小さなハエで、春と秋に発生し、有機質肥料や未熟堆肥に誘引され、露地ほ場や施設内に集まります。

幼虫は土壌中で有機物などを食べて成長しますが、播種したばかりの種子や、幼苗の根、地際部を加害して不発芽や立枯れ症状を引き起こしたり、芯葉を加害して黒く変色させたりすることがあります。

地中にいるため発見は困難ですが、不発芽や幼苗の立枯れが見られ、かつ株元にウジもいる場合は、タネバエが発生している可能性が高いといえます。

前作までに被害に遭ったほ場では、播種時に「カルホス粉剤」や「ダイアジノン粒剤5」を用いて防除します。(土壌混和あるいは表面散布の方法は農薬ラベルの記載内容に従ってください)

また、多発が予想される場合は、未熟堆肥や鶏ふんなどの腐敗臭のする堆肥の投入を避けるとともに、タネバエの好む水分を多く含んだ土壌にしないよう排水性に留意します。堆肥を投入する場合は、播種の20日~1ヵ月以上前に土壌にすきこむとよいでしょう。

発芽後のほうれん草

marosuke / PIXTA(ピクスタ)

ほうれん草は比較的害虫が発生しにくいとはいえ、特に生育初期に害虫被害を受けないように注意が必要です。適切な堆肥の施用や周囲の除草など、栽培の基本を守れば防げるものも多いので、日頃から害虫が発生しにくい環境づくりに心がけましょう。発生した場合の早期発見と早期防除も大切です。

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大曾根三緒

大曾根三緒

ビジネス、ペット、美術関連など多分野の雑誌で編集者として携わる。 全国の農業協同組合の月刊誌で企画から取材執筆、校正まで携わり、農業経営にかかわるあらゆる記事を扱かった経験から、農業分野に詳しい。2019年からWebライターとして活動。経済、農業、教育分野からDIY、子育て情報など、さまざまなジャンルの記事を毎月10本以上執筆中。編集者として対象読者の異なるジャンルの記事を扱った経験を活かし、硬軟取り混ぜさまざまなタイプの記事を書き分けるのが得意。

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