失敗しない「堆肥散布機」の選び方! 価格や種類別の製品例もご紹介

堆肥散布はほ場を肥沃な土壌にし、収量アップにもつながります。毎年行うことが推奨されますが、非常に労力がかかります。堆肥散布機は、こうした作業を大幅に省力化・効率化できる便利な農機です。本記事では堆肥散布機の選び方など、購入する際に役立つ情報を解説しています。
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目次
堆肥散布機は、散布する堆肥の状態やほ場の広さ、条件などに合わせさまざまな種類が登場しています。堆肥散布機の構造や特徴、使用に適しているほ場、おすすめの最新機種について紹介しますので参考にしてください。
堆肥散布機(マニアスプレッダー)とは?

田舎の写真屋 / PIXTA(ピクスタ)
堆肥散布機とは、堆肥を堆肥舎や堆肥化装置〜ほ場まで運搬し、散布するための農機です。メーカーによって「マニアスプレッダー」や「マニアスプレッダ」などと呼ばれます。
堆肥は、一般的に化成肥料に比べ散布量が多いのが特徴で、形状は以下のようにさまざまです。
- タブレット型のもの
- 塊状でほぐす必要があるもの
- 水分を多く含むもの
- 部分的に泥状の部分があるもの
- わらなどを含んでいるもの
そのため、ライムソワーなどの化学肥料や土壌改良資材用の散布機では、対応できない場合があり、専用の散布機が開発されています。堆肥散布機は、堆肥の運搬と散布を同時に行うため、散布作業をする部分と走行部から構成されています。
散布作業をする部分には、堆肥を入れる「堆肥箱」、堆肥を細かくほぐしながら散布するビーターやローターなどの「散布装置」、散布装置に堆肥を送り込む「搬送装置」があります。また、一般的に堆肥箱・散布装置は、搬送装置に取り付けられています。
走行部は3種類あります。
「トラクター牽引式」
堆肥箱の下にタイヤを取り付けてトラクターに牽引させます。
「自走式」
堆肥箱を小型クローラ型運搬車に取り付けて自走します。
「搭載式」
トラックの荷台に取り付けて乗用します。
堆肥散布機の種類と、失敗しない選び方
堆肥散布機を選ぶポイントは「堆肥舎からほ場までの距離」と「ほ場の広さ」です。ほ場までどのように堆肥を運ぶのか、どのくらいの量を積載できるのか、ほ場の広さ・形状はどうなっているのかを考慮するとよいでしょう。
ここでは前項で挙げた3種類の堆肥散布機走行部の種類別に、特徴と適切なほ場について解説します。
トラクターに装着する「牽引式」

masy/PIXTA(ピクスタ)
トラクターは、運搬距離が短く、広いほ場で作業するのに向いています。ほ場では動きやすく効率的に散布できるメリットがある一方、長距離の運搬には向きません。
従って、ほ場が広く施用量が多い場合は、何往復もする必要が出てきます。堆肥舎からほ場までの運搬距離が長いと、作業効率が落ちてしまうでしょう。
例えば1日に10往復すると仮定した場合、トラクター牽引式では、ほ場までの距離を遠くても5km程度までと考えるとよいでしょう。堆肥の積載量は、小型だと1,000kgくらい、大型では5,000kg以上のものがあり、かなりの容量に対応できます。
運搬車をベースにした「自走式」

田舎の写真屋 / PIXTA(ピクスタ)
自走式の堆肥散布機は、堆肥箱と走行部が一体化しており、ほ場での作業は効率的に行えるものの、道路の走行には向きません。堆肥舎が遠い場合は、トラックなどで堆肥をほ場近くに運んでから使用したほうがよいでしょう。
堆肥の積載量は、5,000kgに対応できる大型のものから、500kgの小型タイプがありますが、主流は約1,000kg程とされています。小型は施設内や狭いほ場など、トラクターの牽引が難しい場所での作業に適しています。
さらに、クローラ式であれば、タイヤで走行するのが難しい軟弱地や耕うん直後の柔らかい土の上でも効率的に作業できます。
トラックの荷台へ取り付ける「搭載式」

田舎の写真屋 / PIXTA(ピクスタ)
搭載式はトラックを走行部とするため、長距離の運搬が必要な場合に最も適しています。堆肥の運搬距離が片道5km以上となる場合は、搭載式の利用を検討しましょう。
堆肥の積載量は大型で約3,000kg、小型で約500kgです。堆肥箱を取り付けるトラックは、そのままほ場で作業するため、四輪駆動車が適しているでしょう。ただし、軟弱地や段差がある場合など、タイヤでの走行が難しいほ場には向いていません。
堆肥散布機はいくらするの? 新品・中古の価格目安

田舎の写真屋/PIXTA(ピクスタ)
堆肥散布機は、積載量によって価格が大きく左右されます。また、新品や中古、レンタルにより予算も変わります。それぞれについて見ていきましょう。
・新品
メーカーの希望小売価格で比較すると、牽引式で1,000kgほどの小型であれば50万~100万円、3,000kg以上の大型になると300万~500万円以上するものもあります。自走式は一般的に、小型でも100万〜200万円、積載量2,000kg程で500万円を超えます。
・中古
中古の場合、状態にもよりますが10万~20万円前後で取引されているケースも多く見られます。希望する農機で状態のよいものを手に入れられれば、初期投資を大幅に抑えられます。
・レンタル
年間における使用頻度があまり高くない場合、レンタルという選択肢もあります。例えば、JA御殿場では堆肥散布機を10a当たり3,000円(搬送費別途)、または1日当たり15,000円で貸し出すというサービスを展開しています。
民間のレンタル会社の例では、1,000kgの牽引式のものを1日当たり8,800円+運賃、トラクター付きで17,600円+運賃で借りられるプランがあります。
タイプ別! プロ農家におすすめの堆肥散布機3選

田舎の写真屋/PIXTA(ピクスタ)
最後にプロ農家向けの堆肥散布機を3つピックアップし、それぞれ紹介していきます。
【牽引式】 コスパのよさが魅力!「ササキ エコノミーマニュアスプレッダー」
「ササキ エコノミーマニュアスプレッダー」は、農業機械や環境機器の開発・製造・販売を、幅広く手掛ける株式会社ササキコーポレーションの牽引式小型堆肥散布機です。
ハウスや果樹園で手軽に使えるコンパクトさは、特殊2Pヒッチによって急旋回した際にも連続作業ができるなど、小回りが利きます。価格も手頃でコスパがよいのが魅力です。
製品ページ:株式会社ササキコーポレーション「マニュアスプレッダー」
【自走式】 ハウスにもおすすめの「アテックス マキタロウ MSX650MB」
歩行用の自走式マニアローダ「マキタロウMSX650MB」は1977年に販売開始されて以来、愛され続けているベストセラー機です。製造元の株式会社アテックスは1934年に創立した老舗企業で、さまざまな農業関連機械を手掛けています。
希望小売価格は問い合わせが必要です。参考としては、事業者向けに工業用品を通信販売するモノタロウでは129万円+税で販売されています。
積載量は650kgと小型のクローラ式で、ハウスや果樹園での作業に向いています。1台で積み込みから運搬、散布までこなします。操作は簡単で、積み込み作業はわずか1分程度で済みます。活用することで大幅な作業効率アップが期待できるでしょう。
製品ページ:株式会社アテックス「マキタロウMSX650MB」
【搭載式】 ほ場に合わせてサイズが選べる「デリカ 搭載マニアスプレッダ」
「搭載マニアスプレッダ」は名前のとおり、搭載式の堆肥散布機です。製造元の株式会社デリカは創業以来、時代とともに変化し続けている老舗農機具メーカーです。農業のニーズに合わせ、多種多様な農業用作業機を製造しています。
最大積載量は「コンベアバー送りタイプ」で、積載量は600〜3,000kgまでの4種類(※一部は受注生産品)があり、「ベルトコンベア送りタイプ」は、積載量で500kgと2,000kg(※受注生産品)の2種類がラインナップされています。
いずれも手持ちのトラックなどに簡単に搭載でき、効率的な堆肥の運搬・散布が可能です。500kgや600kgの小型タイプはおよそ70万円で購入でき、ほ場の規模によって適したサイズを選べます。最大3,000kgの積載量を備えた製品もあり、大規模なほ場にも対応しています。
製品ページ:株式会社デリカ「搭載マニアスプレッダ」
株式会社デリカ YouTube公式チャンネル デリカ製品紹介「搭載マニア シリーズ」
施用効果を高める!堆肥散布機と併せて活用したい2つのツール
土壌診断:化学性に応じた堆肥を選定
過剰またはムダな堆肥の施用は、かえってほ場の環境を悪化させます。効果を最大限に高めるには、ほ場との相性や堆肥の成分などを考慮することが重要です。
そこで有効なのが、JAや民間企業が実施する土壌診断です。土壌のpHや、リン・カリウムの含有量などといった化学性を定量的に測定できます。成分の過不足やバランスがわかり、化学性に応じた適切な堆肥の選定が可能になります。
▼土壌診断について詳細は以下の記事をご覧ください
栽培管理支援システム:堆肥を撒くべき場所・量を判断
堆肥の効果を高めるには、必要な場所に適量の施用をすることが重要です。そのためには、ほ場全体の地力や地力ムラを把握する必要があります。
そこで有効なのが、栽培管理支援システムです。地力の高低をマップ上で確認でき、堆肥を撒くべき場所がわかります。
例えば、ドイツの大手化学メーカーBASFが提供する「xarvio®(ザルビオ)フィールドマネージャー」では、下の画像のように各ほ場の地力ムラを確認できます。過去の衛星データを用いて地力を推定するため、ほ場で土を採取する必要はありません。

ザルビオの地力マップではマップ上で地力のムラを確認できる
画像提供:BASFジャパン株式会社
また、生育ムラがわかるザルビオの「生育マップ」も活用すれば、さらに緻密な地力アップの施策が講じられます。過去のマップと比較すれば、地力や生育の変化がわかり、堆肥がほ場に合っているかを確認することも可能です。効果を定量的に測定し続ければ、ほ場の理解を深めることにもつながります。
地力に応じた堆肥・肥料の施用で収量アップ!地力マップの活用事例

眞木さん
出典:minorasu編集部撮影
眞木さんは、佐賀県吉野ヶ里町で米・麦・大豆を栽培し、集落営農では班長兼オペレーターを務め、地域農業の牽引役として活動しています。特別栽培米も手がける眞木さんは、土づくりを徹底することで、化学農薬や化学肥料の使用量を低減しています。
「私は、土づくりを大切にしています。人間関係と一緒で、作物を栽培するにも、団粒化(風通しのよい土)なども含め、シッカリとした土壌づくりが大切だと思っています。」
土づくりにこだわる眞木さんは、堆肥をはじめとする土壌改良資材とザルビオの地力マップを活用しています。
ザルビオの地力マップ機能では、ほ場内の地力ムラが細かくわかるため、卵の殻などは地力の低い場所に撒き、ほ場全体の地力アップにつなげているとのこと。また、地力マップは堆肥の施用だけでなく、可変施肥にも活用しているそうです。
「地力マップを活用して可変施肥に近い施肥を行っています。全ほ場の地力マップを頭に入れておき、まずは均等に肥料を撒きます。その後、地力が低い場所に追肥を施す方式です。」
地力マップを活用して堆肥を効果的に撒き、可変施肥を行うことで、収量アップを実感できているようです。
農業の担い手不足が深刻化する中、堆肥散布の作業は多大な労力を要するため敬遠されがちです。しかし、効率的に堆肥を運搬・散布する堆肥散布機を使えば、作業時間の短縮と省力化が期待できます。
また、本記事で紹介したザルビオの「地力マップ」を利用すれば、ほ場全体の地力が把握できるため、堆肥を施用すべき場所が明確になります。地力を踏まえたうえで堆肥を撒けば、より高い効果が期待できます。
ザルビオは会員登録無料です。まずは一度、最先端のシステムをお試しください。
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大曾根三緒
ビジネス、ペット、美術関連など多分野の雑誌で編集者として携わる。 全国の農業協同組合の月刊誌で企画から取材執筆、校正まで携わり、農業経営にかかわるあらゆる記事を扱かった経験から、農業分野に詳しい。2019年からWebライターとして活動。経済、農業、教育分野からDIY、子育て情報など、さまざまなジャンルの記事を毎月10本以上執筆中。編集者として対象読者の異なるジャンルの記事を扱った経験を活かし、硬軟取り混ぜさまざまなタイプの記事を書き分けるのが得意。