農業用ビニール(農ビ)はどれがいい? 主な種類と、ハウスに合わせた選び方
農業用ビニールは、ビニールハウスやトンネルに利用できる優れた被覆資材です。栽培作物や気候の特徴に適したものを選ぶことで、作業効率や収量の向上、病害虫の抑制などに大きな効果が得られます。導入する際には、それぞれの製品特性をよく理解して選ぶことが大切です。
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農業用に開発された農業用ビニールには、作物の生育に役立つ多様な特徴が付加されています。その性能は高く、保温、保湿、防霧、防塵、耐候など多岐にわたります。この記事では、それらの機能を詳しく紹介するとともに、用途ごとに適した使用方法について解説します。
農業用ビニール(農ビ)とは?
ビニールハウス 農業用ビニール
農業用ビニールは短く略して「農ビ」とも呼ばれる農業用の軟質フィルムです。主にビニールハウス栽培やトンネル栽培の被覆資材として使われます。
農ビの素材としては、一般に「塩ビ」と呼ばれる塩化ビニル樹脂またはポリ塩化ビニル(PVC)を主成分とする場合が多く、比較的安価で手に入りやすいのが特徴の1つです。
ただし、塩ビに梨地(ナシジ)加工やアクリル加工、薬剤添加、着色などさまざまな加工をし、特別な効果を付加した製品が続々と開発されており、中にはかなり高価なものもあります。
ビニールハウス栽培やトンネル栽培においては、被覆資材の性能によって作物の生育や品質、収量に多大な影響があります。また、資材の耐用年数や、張り替え・撤去・廃棄の作業、ハウスでの換気作業などの労力やコストにも大きな違いが生じます。
被覆資材を選ぶ際は購入費用だけに着目せず、その製品が持つメリット・デメリットや費用対効果を考えることが重要です。農業用ビニールの種類や期待される効果について、購入前によく確かめておきましょう。
主な農業用ビニールの種類
masa / PIXTA(ピクスタ)
この項では、まず、主な効果を持つ農ビの種類を紹介し、次に、用途別に項目を分け、それぞれの用途にはどのような農ビが適しているかについて解説します。
農ビは一般的に透明と梨地加工したものの二種類があります。
透明のものは光をよく通すので昇熱効果が高い一方、表面がべたついてビニール同士がくっつきやすく、作業しづらい場合があります。そこで、べたつきを抑える工夫をした製品も各メーカーで開発されています。
梨地のものは光を散乱させ光線の透過を調節する効果があり、ハウス内の作物に届く光線のムラが軽減されます。作物の葉焼け防止に適していますが、光線が弱まるので昇熱効果は高くありません。表面がべたつかないので、作業効率が上がるというメリットもあります。
保温性を重視するなら透明のもの、直射日光を和らげたい場合は梨地など、目的に合わせて選びましょう。また、農ビが埃で汚れることでも日光が遮られて保温性が下がるので、埃の多い環境での使用や確実に保温性を高めたい場合は、表面にアクリル加工をして防塵性を高めた農ビもおすすめです。
そのほか、ハウス内に霧やモヤが発生するのを抑制する防霧加工や、結露が溜まって水滴がぼた落ちするのを防ぐ流滴加工、紫外線によって活発化する害虫や病害を抑制する効果のある紫外線カット、破れにくいように物理的な強度を高めた糸入りなど、農ビには多くの種類があります。
ハウス用・外張り農業用ビニール(農ビ)
sammy_55/PIXTA(ピクスタ)
ビニールハウスの屋根や側面などに使用する外張り用の農ビは、ハウスの外側に展張するので直接風雨や日光などの外的刺激を受けることになります。そのため劣化しやすく、平均して2~3年で張り替えが必要になります。
そこで、農ビを選ぶときは、その期間の利用でどのような効果を重視するか、コストをいくらかけられるかなどを十分に検討しましょう。
外張り農ビに求められるのは、物理的な丈夫さ、保温性、耐候性の高さとともに、開閉などの作業のしやすさです。どんなに丈夫でも、そのせいで硬く重くなって作業性が落ちるのは避けたいものです。
寒くない季節や地域では、内張りを使わず外張りだけで作物を守れるため、夏場も含め、年間を通して必要な機能を備えたものを選ぶことで費用を抑えられます。栽培する作物や気候によって、適した特性や必要な機能を明確にしましょう。
例えば、葉菜類や花き栽培で葉焼けを避けたい場合や果樹をまんべんなく色づけたい場合は、梨地の農ビによる散乱光が適します。また、紫外線カットはアブラムシやスリップス、カビ、菌核病などの防除に効果的ですが、ナスやトマトは品種によって着色が悪くなる場合があります。
このように、外張り農ビを選ぶ際には、作物と気候・環境との相性を考えることが重要です。
ハウス用・内張り農業用ビニール(農ビ)
sammy_55/PIXTA(ピクスタ)
ビニールハウスの内部に展張する農ビは「内張りカーテン」「保温カーテン」とも呼ばれ、特に寒い季節や地域での保温対策として用いられます。
この場合、主な目的が保温であっても、日中や夜間、気温の高低によって頻繁に開閉する場合もあるので、作業性の高さも重要になります。軽くて取り扱いがしやすいことも重視して選びましょう。
内張り農ビは、頻繁に開閉する場合、紫外線カットや光線透過率の高さはあまり関係ありません。内張りで大切なのは保温性のほか、高湿度による霧・モヤの発生を抑える機能や、結露や水滴のぼた落ちを防ぐ機能といえるでしょう。
トンネル栽培用農業用ビニール(農ビ)
kpw / PIXTA(ピクスタ)
露地において畝をトンネル状に被覆資材で覆うトンネル栽培では、作物を凍害・霜害から守るために、より高い保温性が必要です。透明性が高く日中は日光を多く取り入れること、保温性が高く取り入れた熱を逃さないことなどの機能に特化した農ビが適しています。
夏場に害虫や直射日光を防ぐなどの目的でトンネル栽培を行う場合は、紫外線カットや遮光率の高いものなど、それぞれ必要な機能の農ビを選択してもよいでしょう。ただし、その場合は防虫ネットや遮光ネットなどと、コストと効果の比較をおすすめします。
また、トンネル栽培用もハウスの内張りと同様に頻繁な開閉作業が必要な場合があり、べたつきを軽減して作業性を高めたものや、軽量で扱いやすいものを選ぶことも大切です。
PO(ポリオレフィン系)フィルム
農ビに代わる新しい素材として登場したのが、ポリオレフィン系樹脂を原料とする農業用POフィルム、略称「農PO」です。農ビと同様に、加工することで耐久性、保温性はもちろん、防曇性や防霧性、光線選択性など、農作物の生育に欠かせない機能を付加できます。
さらに、それらの機能を同時に複数備えることができる点や、ビニールよりも軽量でべたつきが少なく扱いやすい点、ハウスへの固定に留め具が不要で換気作業も簡便な点も有用です。
耐用年数が3~5年と耐久性が高い点、10mほどまでつなぎ目のない1枚のシートが作成できる点、汚れが付きにくい点、焼却時にダイオキシンが発生しない点など、農ビに比べて優れた特徴が多くあります。
単価は農ビより高いものの、破損しにくく取り換え頻度が低いので、今後の素材改良などを考慮すれば、将来的に大きくコストが軽減できるかもしれません。今後、被覆資材の主流となる可能性も十分にあります。
どれを使えばいい? 農業用ビニール(農ビ)を選ぶポイント
農ビの特性と種類がわかっても、種類が多すぎて、実際に何を購入すればいいのか判断できない場合もあるでしょう。そこで次に、特定の条件によって、どの資材を使えばよいか、判断の目安になるポイントを紹介します。
ハウスの種類で、適した素材は異なる
ハウスの外張り資材を農ビにするか農POにするか悩んでいる場合は、今使っているハウスのタイプによって選んでみましょう。
今使っているハウスが、アーチ部分のパイプのつなぎ目をマイカ線などの黒い平らなバンドで固定してあり、天井と側面で2枚の被覆資材に分けて覆っているタイプの場合は、農ビが向いています。
mits / PIXTA(ピクスタ)
天井のパイプ固定にマイカ線などのバンドを使用せず、換気は巻き上げで行い、さらに、今使っているフィルムは5年程度張り替えていないというハウスの場合は、農POが向いています。こういった特徴がはっきりしている場合は、迷わず適したフィルムを選びましょう。
masa / PIXTA(ピクスタ)
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保温性の高い製品は、施設園芸の燃料費削減につながる
近年高騰している燃料費の節約を目的としている場合は、外張り・内張りとも保温性の高い農ビを選びましょう。
燃料費削減のためには保温性が高いほど望ましく、1枚で空気層を持つものなど優れた保温機能を付加した農ビが多数あります。また、日中に日光をできるだけ取り入れると昇熱効果が上がり、夜間の加熱を省力化できるので、光線透過率が高いものが理想です。
しかし、購入コストを下げようとして、あまりぎりぎりの長さや幅で購入すると、裾や出入り口付近などに隙間ができてしまい、どれほど性能のよいものを使っても保温効果の意味がなくなってしまいます。
保温のためには、内張・外張りとも隙間なく密閉されている必要があります。特に内張りの場合は裾もしっかり地面に密着するよう、予算内で十分に余裕のあるサイズのものを購入できるように選びましょう。
外張りの場合は、破損していたり、表面が埃などで汚れて日光が遮られたりすると、その分加温・保温性能が低下します。破れにくく汚れにくい製品を選ぶことが、結果的に省エネにつながります。
コストパフォーマンスのよさを求めるなら、ビニール素材の農ビがおすすめ
耐久性や扱いやすさも含めて総合的に判断すると農POは優れた素材ですが、コストで比較すると農ビに軍配が上がります。しかも、保温や防塵、光線透過など、付与される機能の高さについては、どちらも遜色ありません。
もともと2~3年の使用を予定している場合など、耐久性が問題にならないのであれば、費用が安く機能性も優れた農ビのほうがコスト削減につながります。
トンネル栽培では「透明性」や「保温性」を重視<
先述の通り、トンネル栽培を冬期の寒害防止や生育適温の保持目的で利用する場合は、保温力と光線透過率の高さを兼ね備えた資材を選ぶのがよいでしょう。光線透過率が高ければ、冬の少ない日照量をできるだけ多く作物に届けられ、また昇熱効果も期待できます。
トンネル栽培で頻繁に資材を開閉する必要がある場合には、軽くて扱いの楽な農POも選択肢に入れ、費用対効果で考えるとよいでしょう。
廃棄時は要注意! 古くなった農業用ビニールの処分方法
shi-z/PIXTA(ピクスタ)
最後に、農ビを使用する農家の方にとって悩みの種ともいえる、古くなった農業用ビニールの処分方法について、簡単に説明します。
農ビを廃棄する場合は、すべて産業廃棄物として処理しなければいけません。処理には費用がかかります。
具体的な処理要領は各地域によって異なり、洗浄方法や結束方法まで細かく定められている場合があります。廃棄にあたっては、必ずほ場を管轄する自治体に問い合わせて、決まりに従いましょう。
なお、産業廃棄物の処理方法は法律で定められており、不法投棄や焼却は禁止されています。
※農業廃棄物についてはこちらの記事をご覧ください。
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大曾根三緒
ビジネス、ペット、美術関連など多分野の雑誌で編集者として携わる。 全国の農業協同組合の月刊誌で企画から取材執筆、校正まで携わり、農業経営にかかわるあらゆる記事を扱かった経験から、農業分野に詳しい。2019年からWebライターとして活動。経済、農業、教育分野からDIY、子育て情報など、さまざまなジャンルの記事を毎月10本以上執筆中。編集者として対象読者の異なるジャンルの記事を扱った経験を活かし、硬軟取り混ぜさまざまなタイプの記事を書き分けるのが得意。