生姜栽培農家は儲かるのか? 栽培のポイントや課題とは
生姜は年間を通じて一定の需要があり、市場価格も安定している品目です。そのため、生姜栽培は農家にとって、安定した収入を得られる作物としておすすめできます。この記事では生姜栽培を取り巻く現状を紹介したあとで、成功するためのポイントについて解説していきます。
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生姜栽培は年間を通じて市場価格の変動が少ないことから、毎年安定した収入を期待できます。ただし、高温多湿の環境を好む点や、ネコブセンチュウ類や根茎腐敗病といった病害虫に弱い点には注意が必要です。
この記事では、生姜栽培の現状や栽培のポイントを紹介していくので、これから生姜栽培を始めようと考えている方や栽培方法で課題を抱えている方は参考にしてください。
生姜栽培の現状と特徴
まずは、生姜栽培の現状と特徴について整理しておきましょう。
安定した需要がある
mits / PIXTA(ピクスタ)
生姜は主に飲食を中心として、家庭用から業務用まで、日本各地で一定の需要がある作物です。生産量も横ばい傾向が続いています。
農林水産省の野菜生産出荷統計によると、日本全国の出荷量は、2018年産が3万6,400t、2019年産が3万6,400t、2020年産が3万5,100tとなっており、ほとんど変わりません。
出典:農林水産省「作物統計 作況調査 野菜生産出荷統計」よりminorasu編集部作成
また、生姜の需要は、季節の移り変わりによる影響をあまり受けないのも特徴です。夏には冷奴やそうめんの薬味として、冬には体を温める食材としてなど、年間を通じて常に需要があり、卸売価格も安定しています。
国内産の卸売価格は、4~6月ごろにかけて上昇する傾向にあります。しかし、それ以外の時期はほぼ一定で、1kg当たり500~700円の範囲に収まるケースがほとんどです。
出典:東京都中央卸売り市場「市場統計 月報」よりminorasu編集部作成
このように、生姜は需要と価格が安定していることから、農家も定量出荷しやすいという特徴があります。そのため、農家は買い手側と協議し、定量での長期出荷契約を結ぶのが一般的な経営スタイルです。
露地栽培の収穫期は秋ですが、掘り取り後の生姜は土付きのまま冷蔵倉庫で一定の温湿度を保って保管されます。収穫後1ヵ月くらいから、順次、洗浄・調整・パッキングを行って出荷していきます。
作物の特性上、生産地は偏在している
hamahiro / PIXTA(ピクスタ)
生姜の原産地は、インドからマレー半島にかけた熱帯アジア地域だといわれているように、高温多湿の環境を好みます。塊茎の発芽は18℃以上ですが、生育適温は25~30℃となり、それなりに高い温度が必要です。
また、12℃以下の環境では枯死または株が衰弱するなど、栽培するのが難しい作物となっています。そのため、東北より北の冷涼な気候の地域で生産されるケースは少なく、関東以南でも限られた地域で栽培されている傾向が強い作物です。
生姜栽培が盛んな地域は以下の通りとなっています。
生姜の都道府県別出荷量ランキング上位7位(2020年産)
出荷量 | (構成比) | 作付面積 | (構成比) | |
---|---|---|---|---|
高知県 | 1万4,200t | 40.5% | 434ha | 24.8% |
熊本県 | 3,940t | 11.2% | 170ha | 9.7% |
千葉県 | 2,700t | 7.7% | 297ha | 17.0% |
茨城県 | 2,310t | 6.6% | 123ha | 7.0% |
宮崎県 | 2,310t | 6.6% | 82ha | 4.7% |
鹿児島県 | 1,850t | 5.3% | 90ha | 5.1% |
静岡県 | 1,430t | 4.1% | 90ha | 5.1% |
そのほか | 6,360t | 18.1% | 464ha | 26.5% |
全国計 | 3万5,100t | 100.0% | 1,750ha | 100.0% |
出典:農林水産省「令和2年産野菜生産出荷統計」よりminorasu編集部作成
上記のように、生姜の生産が盛んな上位7県で出荷量約82%、作付面積約74%を占めています。こうした傾向は近年大きく変わっておらず、固定化している状況です。
夏季になると和歌山県から新生姜が出荷されますが、ほかの多くの地域では新生姜としては出荷していません。。
夏季になると和歌山県から新生姜が出荷される
出典:東京都中央卸売市場「市場統計 月報」よりminorasu編集部作成
生姜は特定野菜
生姜栽培が安定した経営につながる理由としては、特定野菜に指定されている点も挙げられます。特定野菜とは、キャベツや玉ねぎなど、国民が大量に消費する「国民生活上指定野菜に準ずる重要性を持つ」と国が定めている品目です。
特定野菜に指定されている品目は、国民の食生活に欠かせない野菜類であるとされています。その観点から、生産・出荷の安定と市場への安定供給を図るため、価格低落時に生産者補給金の交付を受けられます。
また、契約取引を行う際は、契約特定野菜等安定供給促進事業というセーフティネット措置が用意されている点も魅力です。国によるバックアップ体制が充実している点も、農家が安心感を持って生姜栽培に取り組める要因の1つといえるでしょう。
▼指定野菜・特定野菜についてはこちらの記事をご覧ください。
主要な品種
生姜の品種で主要なのは、1つ当たりの塊茎が大きい大生姜です。大生姜は1株で1kg以上になることも多く、収量を確保しやすいことから全国各地で栽培されています。
ただし、大生姜にもいくつかの種類があります。生姜の主要産地である高知県で、主に栽培されているのは「土佐一号」という品種です。また、近年では土佐一号から派生した新品種の開発もするなど、常に改良が加えられています。
土佐一号から誕生した有名な新品種には、「八郎生姜」や「新高知」があります。八郎生姜は土佐一号よりも塊茎が大きくなりやすい点、新高知は貯蔵性に優れている点が、農家に人気です。そのため作付面積も増加傾向にある品種です。
生姜栽培を成功させるポイント
葉生姜・新生姜・根生姜
shige hattori / PIXTA(ピクスタ)
生姜は国内で安定した需要を誇り、特定野菜であることから、国の支援も充実しているのが特徴です。ただし、特定の病害虫に弱いため、栽培にあたっては注意しなければいけないポイントがあります。ここからは、生姜栽培を成功させるためのポイントについて解説していきます。
露地栽培では病害虫・雑草の防除が必須
生姜の根茎腐敗病 発病株 地際部が褐色に変色している
写真提供:HP埼玉の農作物病害虫写真集
生姜の根茎腐敗病 発病根茎
写真提供:HP埼玉の農作物病害虫写真集
生姜は雑草害や根茎腐敗病およびネコブセンチュウ類といった、土壌伝染性の病害虫に弱い作物です。そのため、安定した収量を確保するために、従来から臭化メチル剤を使用した土壌消毒が行われてきました。
ところが、臭化メチル剤はオゾン層の破壊促進という環境への悪影響があることがわかり、2005年から土壌消毒への使用が原則禁止となっています。
幅広い土壌伝染性の病害虫に対する高い防除効果を示し、扱いも手軽であった臭化メチル剤の使用禁止は、生姜栽培に大きな影響を与え、未だに各産地で代替手段が模索されているのが現状です。
例えば、生姜の一大産地である高知県の農業技術センターは、以下のような耕種的防除と化学的防除を組み合わせた防除方法を用いるように、各農家に周知しています。
●残さの除去
●ほ場の排水対策(高畝)
●健全な種根茎の入手
●前年度の根茎腐敗病、ネコブセンチュウ類、雑草の発生状況に合わせた土壌消毒剤の選定
●生育期の予防的農薬散布
出典:高知県農業技術センター「高知県の露地ショウガ産地のための脱臭化メチル栽培マニュアル」(農研機構「臭化メチル剤から完全に脱却した産地適合型栽培マニュアルの開発」成果集)
輪作が有効
生姜の露地栽培で土壌病害が広がると、どれだけ防除に努めても満足のいく収量が確保できなくなります。それだけではなく、連作が難しくなることがあります。
休耕するのも1つの方法ですが、ブロッコリーやキャベツなどのアブラナ科野菜類との輪作体系を組む方法もあります。
高知県農業振興部が、JA高知市の協力で実施した試験では、休耕よりもアブラナ科による輪作を行ったほうが、病害発生リスクを抑えられる可能性があると報告されています。ただし、生姜栽培を再開したほ場で再び根茎腐敗病が発生したケースもあり、防除マニュアルに沿った対策を前提としています。
出典:高知県農業振興部「露地ショウガの生産安定(平成29年度)」
ハウス栽培という選択肢も
生姜栽培で、より安定した収量を確保したい場合は、費用はかかるもののハウス栽培という選択肢もあります。
広く行われている大生姜の露地栽培は、生育が遅く気象災害や病害虫の被害を受けやすいのが欠点です。そうした欠点を補う方法として、ハウスもしくはトンネル栽培の導入があります。単価の高い時期を狙った新生姜の出荷が可能になり、増収も期待できます。
出典:社団法人熊本県野菜振興協会「耕種基準 ショウガ」、なんと農業協同組合の営農資料などからminorasu編集部作成
生姜は日本国内で安定した需要があり、相場も季節による影響をあまり受けない品目です。そのため、安定した収量を確保できれば、農家経営の安定化に貢献するでしょう。ただし、病害虫に弱い側面を持っているため、栽培にあたってはしっかりとした防除体系を取り入れることが大切です。
耕種的防除や化学的防除だけでなく、必要に応じて輪作またはハウス栽培を行うなど、対策を講じて栽培するよう心掛けてください。
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中原尚樹
4年生大学を卒業後、農業関係の団体職員として11年勤務。主に施設栽培を担当し、果菜類や葉菜類、花き類など、農作物全般に携わった経験を持つ。2016年からは実家の不動産経営を引き継ぐ傍ら、webライターとして活動中。実務経験を活かして不動産に関する記事を中心に執筆。また、ファイナンシャルプランナー(AFP)の資格も所持しており、税金やライフスタイルといったジャンルの記事も得意にしている。