「葉かび病」はトマトの天敵! 難防除病害から収量を守る、効果的な対策とは?
トマトの葉かび病は、トマトにのみ発生する病害で、特に施設栽培では注意が必要です。多発すると収量減につながる恐れもあるので、日頃からの予防と早期発見・早期防除が欠かせません。そこで、葉かび病の特徴や症状、効果的な防除対策について解説します。
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目次
施設栽培のトマト農家にとって、葉かび病は一度発生すると防除が難しく、繰り返し発生しやすいやっかいな病害です。
この記事では、トマトの葉かび病と症状について解説しつつ、特徴が酷似するすすかび病にも触れています。併わせて、同時防除の方法や抵抗性品種の活用と注意点について詳しく紹介します。
トマト農家は対策必須! 防除が困難な病害「葉かび病」とは?
トマトの葉かび病とは、名前の通り糸状菌(かび)の一種が病原となります。主に葉に発生しますが、激発すると茎や花、幼果に発生することもあります。
最初は下葉の表面に、わずかに黄化した輪郭の不鮮明な小斑点が発生します。
トマト 葉かび病 発病葉(葉表)
写真提供:HP埼玉の農作物病害虫写真集
下葉の裏面には灰黄色や緑褐色など、薄い色でビロード状のかびが密生します。次第に病斑は拡大し、裏面のかびも広がりながら濃い褐色や灰紫色に変化します。
トマト 葉かび病 発病葉(葉裏、灰色でビロード状のかび)
写真提供:HP埼玉の農作物病害虫写真集
症状が進むと下葉から上位葉に広がり、病斑に覆われた葉はやがて乾燥して枯れます。中位の葉に、小さな病斑が多数現れるほどに蔓延すると防除は困難になります。多くの葉が枯死して、着果や果実の肥大が悪くなり、収量に多大な影響が出てしまいます。
トマト 葉かび病が多発したほ場
写真提供:HP埼玉の農作物病害虫写真集
葉の状況をこまめにチェックし、早期発見に努めるとともに、葉かび病が発生しやすい環境を作らないような予防対策も重要です。
葉かび病の原因と、発生しやすい栽培条件
Princess Anmitsu / PIXTA(ピクスタ)
葉かび病の原因となる糸状菌はトマトだけを侵します。病原菌が風に運ばれたり、種子の表面や苗に付着したりして、施設やほ場内に侵入します。葉の上に付くと、条件が揃えば2週間ほどで発病します。
病原菌の生育発生適温は、20~25℃で多湿を好みます。そのため、露地よりも温かく、多湿になりやすいトンネル栽培や施設栽培で被害が多く見られます。
気候的に条件が合う春先から梅雨にかけてと、秋から初冬にかけて発生しやすくなりますが、施設では通年発生します。また、外が低温のため十分に換気ができない冬場も発生が増えます。
そのほか、密植や過度の灌水は多湿条件となり発生を助長します。肥料切れや干害、日焼けなどで生育が衰えると多発しやすくなります。一方で、過剰な施肥による窒素過多もかびの発生を促すので注意が必要です。
被害症状が酷似。トマトの「すすかび病」にも要注意
葉かび病と症状がよく似た病害に「すすかび病」があります。症状が酷似しており、確実に見分けるには、顕微鏡で胞子を見るしかありません。とはいえ、よく観察すれば見分けられるポイントもあります。
例えば、すすかび病では葉の表面にもかびが多く生じます。葉の裏面では、かびが盛り上がっているのが葉かび病で、平面的であるのがすすかび病です。
トマト 葉かび病 (左)葉裏と葉表 (右)葉裏のビロード状のかび
写真提供:HP埼玉の農作物病害虫写真集
症状だけでなく、発生条件も似ているので、葉かび病とすすかび病が混発することもあります。どちらも多湿条件を好みますが、すすかび病の生育適温は26~28℃で、葉かび病よりも高温期に発生が増えます。
また、葉かび病には抵抗性品種がありますが、すすかび病には効果がありません。抵抗性品種が発症した場合は、その品種が対応していない新たな葉かび病のレース(系統)が発生したか、すすかび病かのいずれかが疑われます。
発生条件が似ているということは、同時に防除対策がしやすいともいえます。多湿条件を作らないように換気をよくし、適切な栽培管理をしましょう。
トマトの収量を守るには? 葉かび病防除のポイントと、具体的な対策方法
葉かび病防除のポイントは「抵抗性品種の選定」と「すすかび病との同時防除」、「適切な肥培管理」そして「農薬による発病前の初期防除の徹底」にあります。以下の項目で具体的な対策を説明します。
病原菌を持ち込まない
iro-iro / PIXTA(ピクスタ)
栽培管理において大切なことは、まずは病原菌を持ち込まないことです。そのためには、消毒済みの種子や病害のない苗を使用しましょう。ハウス内に持ち込む農機具や靴もよく洗って消毒することで、菌の侵入を防ぎます。
また、一度発生してしまうと、菌は作物残さを含む土中だけでなく、農機具やハウスの側面などに付着して生存し続けます。発生を少しでも確認したら、菌が施設内に入り込んでいると判断できるため、罹患した葉や株、周囲の土を除去するだけでなく、使用した農機具やハウスの側面なども可能な限り消毒しましょう。
栽培地域に応じた抵抗性品種を選定する
2015年に農研機構が行った研究によれば、トマト葉かび病菌のレース(系統)は国内で全12種類検出され、すべてのレースに抵抗性を示すトマト品種は市販されていません。
そのため、栽培地域で多く発生しているレースに対して、抵抗性を示す品種を選定する必要があります。
また、想定したレースと異なる病原菌が発生することや、新たなレースが発生することも考えられます。抵抗性品種のみに頼らず、次項以降で解説するような、基本的な防除対策も並行して行うことが重要です。
多湿を避け、葉かび病とすすかび病を同時に防除する
hamayakko / PIXTA(ピクスタ)
葉かび病とすすかび病に共通する発生条件は多湿です。そのため、密植を避けることと、特に施設栽培ではハウス内が多湿にならないよう管理することは、すすかび病との同時防除になります。
具体的な対策としては、過度の灌水や密植を避けること、早朝加温や日中の換気、多肥による下葉の過剰な繁茂を防ぎ、風通しをよくすることなどがあります。また、土壌のマルチも湿度を下げる対策として有効です。
例年のように発生する場合は、思い切ってコストをかけて換気扇の設置や、ハウス内環境のモニタリングや湿度管理が自動でできる環境制御システムの導入も有効な対策です。
▼環境制御装置の導入については、こちらの記事をご覧ください。
適切な肥培管理を行い、草勢を保つ
草勢が低下すると発症しやすくなるため、適切な灌水や施肥はもちろん、ハウス内の温度管理や日焼け予防も重要です。特に着果による負担で生育が衰えるため、肥料切れを起こさないよう注意しましょう。
その一方で、窒素過剰によっても発病が助長されます。そのため、栽培計画を基本としつつ、草勢をよく観察しながら、適切な肥培管理を行うことが防除対策として重要です。
基肥は過剰施肥にならないよう、土壌診断に基づいて定植の10~15日前に施用します。追肥は3段花房の開花期、または第1段目の果実がピンポン玉ぐらいの大きさになった頃から開始します。
もしも、この時点で樹勢が強い状態であれば追肥は見送りましょう。それ以降は樹勢を⾒ながら、1回の施肥量は窒素成分で10a当たり3kgを目安に、畝の肩や植え⽳に施用します。
mamime / PIXTA(ピクスタ)
農薬による早期防除と、葉裏への散布を徹底する
葉かび病は、病原菌が葉の内部に侵入してしまってからは防除が困難です。こまめに葉をチェックし、発病した葉を見つけたら速やかに施設外で処理するとともに、発病初期に農薬を散布して感染拡大を防ぎましょう。
散布はムラのないよう入念に行い、葉裏へも十分に農薬を散布することが重要です。葉裏への散布がしやすいように、静電気の力で薬液を付着させられる「静電防除機」の導入も検討するとよいでしょう。
2022年4月10日現在、トマトと葉かび病に登録のある農薬には、「カッパーシン水和剤」「トップジンM水和剤」「ベンレート水和剤」「ダコニール1000」など多数あります。また、「シグナムWDG」は、トマト・ミニトマトと葉かび病・すすかび病の両方に登録があります。
農薬の使用に当たっては、必ず使用時点で登録があるかどうかを確認し、ラベルをよく読んで用法・用量を守ってください。地域に農薬使用の決まりがある場合はそれにも従いましょう。
また、トマトとミニトマトは登録農薬や適用情報が異なります。トマトに登録があってミニトマトにはないものもあるため、使用前に必ず確認してください。
農薬登録情報提供システム
ミニトマトの葉かび病 発病初期
写真提供:HP埼玉の農作物病害虫写真集
トマトの施設栽培において、葉かび病やすすかび病は防除の難しい、注意すべき病害です。病原菌の侵入を防ぎつつ、抵抗性品種を選択したり、適切な栽培管理を徹底したりして、病害の発生を抑えましょう。
それでも発病してしまった場合は、早期発見と、農薬を使ってしっかりと防除することで蔓延を防げます。
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大曾根三緒
ビジネス、ペット、美術関連など多分野の雑誌で編集者として携わる。 全国の農業協同組合の月刊誌で企画から取材執筆、校正まで携わり、農業経営にかかわるあらゆる記事を扱かった経験から、農業分野に詳しい。2019年からWebライターとして活動。経済、農業、教育分野からDIY、子育て情報など、さまざまなジャンルの記事を毎月10本以上執筆中。編集者として対象読者の異なるジャンルの記事を扱った経験を活かし、硬軟取り混ぜさまざまなタイプの記事を書き分けるのが得意。