ナスへのアブラムシ類の効果的な防除方法とは?複合的な対策が必要
夏野菜の定番として消費者に人気のあるナスは市場から一定のニーズがあり、日本各地で栽培されています。しかし、ナスの栽培中にアブラムシ類の被害に悩まされる農家は少なくありません。そこで本記事では、ナス栽培におけるアブラムシ類による被害の特徴、発生条件、効果的な防除方法について解説していきます。
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ナスを栽培していると株にアブラムシ類が大量に付着し、生育不良や果実の品質低下が起こる場合があります。また、アブラムシ類はナス栽培に大きな被害をもたらすモザイク病 やすす病などのウイルスを媒介させるケースもあるので、注意が必要です。
本記事ではナスを栽培している方に向けて、アブラムシ類の効果的な防除方法を紹介していきます。
ナスへのアブラムシ類の被害
ナスの葉裏 ワタアブラムシが多発
写真提供:HP埼玉の農作物病害虫写真集
アブラムシ類の作物被害
アブラムシ類による作物被害の代表例としては吸汁加害が挙げられます。吸汁加害とは、アブラムシ類が新芽などの柔らかい部位に寄生して、植物の汁液を吸うことで生じる被害です。
アブラムシ類は寄生した植物の汁液を栄養に生活しており、その被害にあった植物は栄養素が株全体に十分にいきわたらなくなることで、生育抑制が起こります。
また、アブラムシ類の種類によっては吸汁された葉が黄化したり、果実が着色不良になって商品価値がなくなったりするなどの被害が起きる場合もあります。
そのほかにも、アブラムシ類は病害をまん延させる恐れがあることも忘れてはいけません。アブラムシ類が植物上に残す排泄物は甘露と呼ばれ、そこに菌が付着してすす病を引き起こす原因になることがあります。
ナス ワタアブラムシの排せつ物によるすす病
写真提供:HP埼玉の農作物病害虫写真集
さらに、アブラムシ類はウイルス病を媒介し、作物に感染を拡大させる恐れもあるので注意が必要です。アブラムシ類には有翅虫・無翅虫の双方が存在し、植物に寄生している多数の無翅虫の中から個体密度や気象条件などにより有翅虫が出現します。
有翅虫は各種野菜類を飛び回りながらウイルス病を伝搬して大きな被害をもたらします。そのため、アブラムシ類を見つけたら早めの防除が大切です。
モモアカアブラムシの有翅虫(体長2.5mm)
写真提供:HP埼玉の農作物病害虫写真集
アブラムシ類には種類がいろいろある
一口にアブラムシ類といっても、実はたくさんの種類がいます。作物に被害をもたらす代表的なアブラムシ類には、モモアカアブラムシやワタアブラムシ、ジャガイモヒゲナガアブラムシ、チューリップヒゲナガアブラムシなどが挙げられます。
それぞれのアブラムシ類の特徴や対策方法は若干異なるので、作物への被害を抑えるためにも、ほ場でアブラムシ類を見かけたら、どの種類が発生しているかを見極めることが重要です。
モモアカアブラムシ ナスの葉表にも葉裏にも寄生している
写真提供:HP埼玉の農作物病害虫写真集
ナスの花弁に寄生したワタアブラムシ
写真提供:HP埼玉の農作物病害虫写真集
特に近年では、モザイク病を媒介・伝搬することで知られるモモアカアブラムシとワタアブラムシについて、有機リン剤やカーバメート剤に対する抵抗性が高まっていることが報告されています。そのため、従来どおりの化学的防除だけでなく、耕種的防除にも積極的に取り組むなど、より徹底した対応が必要になっています。
▼ナスのモザイク病についてはこちらの記事をご覧ください。
被害が多発しやすい条件
アブラムシ類の被害が発生する要因は、主に苗での持ち込みと有翅虫の飛来の2つです。
露地栽培でアブラムシ類の被害が発生しやすい時期は5~10月頃です。一般的に寒冷地では卵のまま越冬するケースが多いですが、暖地では幼虫や無翅虫の姿で越冬することもあります。
ただし、露地栽培で冬期に有翅虫が現れて被害を拡大させることは、よほど暖かい地域以外では基本的にありません。
一方、施設栽培では秋と翌年の春先に有翅虫が飛来して被害が発生するケースがよく見られます。施設内は暖かい環境が整っていることが多く、秋にアブラムシ類に侵入されると冬期でも個体数を大きく増やす場合があるので気をつけましょう。
hamahiro / PIXTA(ピクスタ)
ナスのアブラムシ類の防除方法
アブラムシ類は気候が暖かく穏やかな時期に繁殖力が強まるので、防除に適した時期は6月および9月です。また、苗での持ち込みを防ぐために、定植時にもしっかりとした防除が大切になります。アブラムシ類の繁殖力は強いので、被害を見つけたらすぐに防除に取り掛かりましょう。
1.飛来防止
ももぞう / PIXTA(ピクスタ)
アブラムシ類による作物への被害は、ほ場へ有翅虫が飛来してくることで発生します。有翅虫は風に乗って長距離を移動してくるため、露地栽培では特に風上方向への防風垣や防風ネットの設置が防除に有効です。
また、アブラムシ類はキラキラした光が苦手という特徴を持っていることから、ほ場にシルバーマルチやシルバーテープを設置すると被害の軽減に役立ちます。
一方、施設栽培では天窓やサイドの開口部がアブラムシ類の侵入口になりやすいことから、そこへ網目1mm以下のネットをかけておきましょう。また、露地栽培と同じようにシルバーマルチを用いたマルチ栽培も飛来防止効果を期待できます。そのほかでは、UVカットフィルムを展張するのも選択肢の1つです。
アブラムシ類に属するカメムシ目は、認知できる光が人間よりも紫外領域にずれています。そのため、UVカットフィルムを施設に被覆すると、忌避して寄り付きにくくなります。ただし、UVカットフィルムは果実の着色不良につながる恐れがある点には注意してください。
2.天敵利用
アブラムシ類は外殻が柔らかく、集団を形成していることから、昆虫類を中心としてさまざまな天敵がいます。例えば、ナナホシテントウやナミテントウといったテントウムシ類、クサカゲロウやヒラタアブの幼虫などが挙げられます。
kotechai1 / PIXTA(ピクスタ)
ほ場周辺の環境によっては、そうした昆虫類を頻繁に見かける場合もあるでしょう。そのような場所にあるほ場なら、栽培作物に無害な土着の天敵を利用して、アブラムシ類の増殖を防ぐという方法もあります。
施設栽培の場合は、生物農薬であるコレマンアブラバチ剤の「アフィパール」や「コレトップ」、ギフアブラバチ剤の「ギフパール」などを使用するのも1つの方法です。
ただし、コレマンアブラバチ剤はジャガイモヒゲナガアブラムシ類とチューリップヒゲナガアブラムシ類、ギフアブラバチ剤はワタアブラムシ類に効果はありません。生物農薬といっても万能ではないので、どの種類のアブラムシ類が発生しているかを見極めたうえで使用しましょう。
農業の現場ではアブラムシ類の被害に悩まされている農家は多く、近年では天敵を利用した防除方法の体系化も模索されています。
施設栽培では害虫密度のモニタリング不要で、安定した防除効果を期待できる「バンカー法」、露地栽培では栽培作物をソルゴーで囲い、天敵にアブラムシ類を捕食してもらいやすくする「ソルゴー障壁栽培」が代表的です。
施設栽培では害虫密度のモニタリング不要で、安定した防除効果を期待できる「バンカー法」(注)、露地栽培では栽培作物をソルゴーで囲い、天敵にアブラムシ類を捕食してもらいやすくする「ソルゴー障壁栽培」が代表的です。
(注)バンカー法:天敵のエサとなる昆虫の好む植物(バンカー植物)を維持する拠点(天敵バンク)を設け、アブラムシ類が増える前から、天敵を安定的に放飼する
ナスのほ場周囲をソルゴーで囲った「ソルゴー障壁栽培」
写真提供:HP埼玉の農作物病害虫写真集
3.化学的防除
生物農薬と併用して殺虫剤や粒剤を使用する化学的防除も行うと、アブラムシ類の防除をより徹底しやすいです。
具体的には、「アドマイヤーフロアブル」や定植時の「オルトラン粒剤」が挙げられます。また、「ウララDF」もワタアブラムシやモモアカアブラムシなど複数の害虫に効果がある一方で、アブラムシ類の天敵昆虫への悪影響はほとんどないため、必要に応じて使用を検討するとよいでしょう。
アブラムシ類の防除に効果のある農薬はほかにもたくさんありますが、それぞれに特徴が異なります。薬剤抵抗性のある種類に有効なもの、有用な天敵への影響が少ないものなど、自らが必要とする用途に合った農薬を選ぶことがポイントです。
被害を確認したらアブラムシ類が増殖する前に、できるだけ早い段階で農薬を散布して防除を行ってください。
なお、ここで紹介した農薬は、2022年4月14日現在、ナスのアブラムシ類に登録のあるものです。農薬を使用する前にラベルの記載内容をよく確認し、使用方法を守って正しく散布してください。また、地域によって農薬の使用について決まりが定められている場合があります。確認のうえ使用ましょう。
本記事では、アブラムシ類の防除方法を大まかに3つ紹介しましたが、アブラムシ類の種類は多く、それぞれに適した防除方法は異なります。アブラムシ類を自らのほ場で見かけた場合、まずはよく観察してどんな種類のアブラムシ類であるかを特定したうえで、防除に取り組みましょう。
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中原尚樹
4年生大学を卒業後、農業関係の団体職員として11年勤務。主に施設栽培を担当し、果菜類や葉菜類、花き類など、農作物全般に携わった経験を持つ。2016年からは実家の不動産経営を引き継ぐ傍ら、webライターとして活動中。実務経験を活かして不動産に関する記事を中心に執筆。また、ファイナンシャルプランナー(AFP)の資格も所持しており、税金やライフスタイルといったジャンルの記事も得意にしている。