【大豆の雑草対策】発生時期や種類に応じた防除方法を解説
大豆栽培の課題の1つとして、雑草害が挙げられます。特に外国から持ち込まれる帰化植物の防除は容易ではなく、現場ではその都度防除するしかないのが実態といえます。今回は収量減などの被害に悩んでいる農家の方に向けて、大豆における雑草対策を解説します。
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大豆栽培農家にとって雑草害は大きな課題の1つです。特に、近年では外国から持ち込まれる繁殖力の強い帰化植物によって防除が難しくなっている事例も少なくありません。そこで、この記事では雑草害に悩んでいる方に向けて、雑草の種類別に防除方法を紹介します。
大豆作の収量低下をもたらす難防除雑草
sammy_55 / PIXTA(ピクスタ)
雑草が繁茂することで農家が被る被害は、主に「減収や品質低下による収入の減少」と「作業の煩雑化による労力の増大」の2つです。
雑草が繁茂すると、作付けした品種に施していた肥料などの養分が吸収されてしまい、栄養素が不足して想定よりも収量が減ったり、品質が低下したりする場合があります。
特につる性の雑草が繁茂すると作業が非効率になりやすい傾向があります。
例えば、コンバインなどの農業機械につるが絡まって作業がストップしたり、故障の原因となったりする事例が挙げられます。仮に農業機械が正常に動いたとしても、収穫物と一緒に雑草を刈り取ることで汚損粒の原因になってしまう可能性があります。
こうした被害をもたらす雑草害ですが、外国から持ち込まれる帰化雑草の増加によって、そのリスクが一段と高まっています。
帰化雑草が日本に持ち込まれる主なルートは「畜産の飼料」で、家畜がエサを食べたあとに排出するフンが堆肥として利用され、その中に混じっている雑草の種子がほ場で増殖するといったケースがあります。
畜産農家が効率的に経営を行うために外国産の濃厚飼料を使用するケースがあり、帰化雑草の流入を完全に止めるのは難しいでしょう。そのため、大豆農家においては雑草が繁茂した場合に備えて、防除に関する知識を身に付けておくことが求められています。
大豆のほ場で発生する代表的な雑草の種類と対策方法
大豆のほ場で発生する雑草には非常に多くの種類があります。すべてを紹介することはできませんが、ここからは特に大豆栽培において問題視されている6つの雑草の特徴と防除方法を紹介します。雑草の種類によって有効な防除方法は異なるので、防除の際は注意してください。
また、防除に農薬を使用する場合にはラベルをよく読み、用法・用量を守りましょう。地域によっては農薬使用の決まりが設けられている場合もあるため、事前に確認しておいてください。農薬の登録は、以下のサイトで検索できます。
農薬登録情報提供システム
アレチウリ
アレチウリ キュウリに似た葉を持つ
写真提供:JP埼玉の農作物病害虫写真集
「アレチウリ」は北アメリカ原産の一年生雑草です。
特徴
つる性の「アレチウリ」は、生育スピードがとても速く、あっという間にほかの植物を覆い隠してしまいます。そのため、大豆栽培においても栄養不足や日照不足の原因と成り、生育不良を引き起こす恐れがあるので注意しなければいけません。
分布地域も広く、北海道から九州まで日本のほぼ全域で見られますが、大豆栽培では特に東北地方から中部地方にかけての被害が多く見られます。河川敷で繁茂し、用水路などを経由して水田へ流入し、転作畑に被害をもたらす例もあります。
POPO / PIXTA(ピクスタ)
防除方法
アレチウリはうり科の作物に葉が似ていることもあり、初めのうちは「野良かぼちゃ」と見間違い、防除が遅れるケースも少なくありません。
「果実は数個~10個程度の塊で果肉がなく、とげが多い」「花は黄色ではなく、薄緑色」といった点で野良かぼちゃなどとは異なるので、ほ場をよく観察して早期発見に努めましょう。
大豆は2葉期までは使用できる除草剤が少ないため、モグラディスクなどを用いた機械除草が効果的です。
ただし、5葉期まで生育したアレチウリには防除効果が薄れてしまうので、タイミングを見て早めに作業することが重要です。
帰化アサガオ類(マルバルコウ など)
代表的な帰化アサガオ類 マルバルコウ・アメリカアサガオ・ホシアサガオ・マメアサガオ
写真提供:HP埼玉の農作物病害虫写真集
数ある雑草の中でも特に種類が多いのが「帰化アサガオ類」です。
特徴
大豆に被害をもたらす植物としては、「マルバルコウ(マルバコウソウ)」「アメリカアサガオ」「マルバアサガオ」「マメアサガオ」などがあり、同じアサガオ類であることから判別がつきにくく、防除を難しくさせています。
例えば、マルバルコウには「子葉の切れ込みが少ない」「オレンジ色の花」、マメアサガオには「子葉が8の字に大きく広がる」「直径2cm程度の白色(もしくはピンク)の花」などといった特徴があります。
防除方法
ほ場でアサガオ類を見かけた場合は、それぞれの特徴を確認したうえで、どの雑草であるかを判別しましょう。
帰化アサガオ類は大豆の播種時期に当たる6月頃から出芽し始め、収穫の終わる11月下旬まで生育が続きます。また、深さ10cm程度の土壌から出芽することもあるので、土壌処理型の除草剤の効き目はそれほど高くありません。
そのため、防除においては茎葉処理型の除草剤を用いるのが基本で、「パワーガイザー液剤」や「アタックショット乳剤」、「大豆バサグラン液剤」などが挙げられます。
ただし、アタックショット乳剤と大豆バサグラン液剤はイネ科雑草には適用がないので、別途イネ科用の茎葉処理剤を散布したほうがよいでしょう。その際は、農薬の併用による薬害に気を付けて処理をしてください。
ニシキアオイ
遊爺 / PIXTA(ピクスタ)
「ニシキアオイ」はメキシコが原産の一年草です。
特徴
ニシキアオイの茎の長さは50~100cm程度と大豆よりも背丈が伸びることがあります。生育に伴って茎の表面には星状毛が生え、黄化するのが特徴です。
果実については、10~20個程度の分果から成り立っており、1個体当たりで1,000個もの種子を生産するといわれています。繁殖力がとても強い雑草なので、見つけたら早めの防除が大切です。
関東地方での出芽は4月下旬から11月上旬まで、開花および結実は8月下旬から11月下旬までと長く、大豆の生育期間中は常に被害を受ける可能性があります。
防除方法
防除のポイントは、機械的防除と耕種的防除、化学的防除を組み合わせた体系的な防除を行うことです。ニシキアオイは初期に発生した個体が大型化しやすい特性がありますが、その反面、初期生育はあまり早くないので、中耕培土による防除効果が期待できます。
また、低密度発生時における狭畔栽培や帰化アサガオ類への防除と同じく、「アタックショット乳剤」や「大豆バサグラン液剤」の散布も効果的です。
なお、ニシキアオイの特徴として、開花および結実しながらも生長する点が挙げられます。汚損粒の発生を防ぐには、落葉期以降の残草についても徹底した防除が必要になります。
ヒロハフウリンホオズキ
takashi355 / PIXTA(ピクスタ)
「ヒロハフウリンホオズキ」は熱帯アメリカ原産の一年生雑草です。
特徴
もともとは熱帯地域に自生している植物であることから、日本でも九州地方など温暖地以西で大きな被害を及ぼしています。
また、ホソバフウリンホオズキやセンナリホオズキといった近縁種も同様に、大豆作に雑草害をもたらすので気を付けなければいけません。ヒロハフウリンホオズキは比較的土壌の浅い箇所(一般的に深さ3cm程度)から出芽し、最終的に草丈は1mを超えます。
温暖地においては6月上旬頃から出芽を始め、8月中旬頃に開花および結実し、降霜シーズンまで生育を続けるのが特徴です。大豆の成熟期においても果実や組織内に水分を多く含むため、収穫時に汚損粒の原因となることがあります。
防除方法
ヒロハフウリンホオズキの防除においては、複数回の防除がポイントです。これは出芽期間が6月上旬から9月下旬頃までと長く、一度防除をしてもその後に再び生育するケースがあるからです。
播種後から大豆の出芽前にかけて土壌処理型除草剤の「プロールプラス乳剤」や「ラクサー乳剤」、播種後2週間を目安に茎葉処理型除草剤の「アタックショット乳剤」を散布しましょう。
ただし、その後もヒロハフウリンホオズキの出芽は続くため、様子を見ながら中耕培土による防除(可能であれば2回)を行うとさらに効果的です。
イヌホオズキ
イヌホオズキ(開花期)
写真提供:HP埼玉の農作物病害虫写真集
「イヌホオズキ」はナス科の一年生雑草で、日本全国の幅広い地域において発生しています。
特徴
光沢のない黒い果実が特徴ですが、アメリカイヌホオズキやオオイヌホオズキなど、本州以南ではイヌホオズキによく似ている種類もあり、見分けるのが難しいといえます。そのため、それらを総称してイヌホオズキ類とまとめて呼ぶことがあります。
イヌホオズキの出芽時期の目安は、東北から関東にかけての地域で5月下旬から7月下旬頃です(裸地では4月から8月頃まで出芽するケースもある)。
その後、8月中旬から開花が始まり、早い個体で9月中旬頃から結実していきます。大豆の収穫期を迎える10月上旬頃でも株は青々としており、水分を多く含む果実とあわせて汚損粒の発生リスクが高い雑草です。
防除方法
大豆作では、そのほかの雑草害を回避するために中耕を行うことがありますが、イヌホオズキは土を動かすことが出芽の原因となるケースもあるため注意が必要です。
イヌホオズキの防除の基本は農薬散布で、特に「ラクサー乳剤」などの土壌処理型除草剤は防除に効果的です。そのため、イヌホオズキが発生する恐れの高いほ場では、大豆の播種後から出芽前にかけて忘れずに散布しましょう。
また、イヌホオズキの5~6葉期までは「アタックショット乳剤」による防除も期待できます。なお、イヌホオズキは大豆の群落内における生育はそれほどよくありません。そのため、大豆がある程度生長する播種後1か月までに集中して防除することがポイントです。
カロライナツユクサ
DEEP - stock.adobe.com
「カロライナツユクサ」はインドやバングラデシュといった南アジア地域が原産の一年草です。日本では主に関東から九州地方にかけて繁殖していますが、今後もさまざまな地域に広がるのではないかと懸念されています。
特徴
カロライナツユクサは6月上旬から8月下旬にかけて出芽し、9月中旬から10月中旬に開花、11月上旬から結実します。ただし、出芽適温は20℃以上で九州地方では9月頃まで出芽するケースもあり、注意が必要です。
カロライナツユクサの茎は大豆に寄りかかりながら生長し、収穫期には完全に覆いかぶさるほどになるので、多発したほ場では機械での収穫ができなくなる事例も珍しくありません。
防除方法
防除のポイントは適切な農薬を選択することです。出芽ピークは一般的にお盆明けまでなので、播種してからそれまでの期間は3葉期ごとを目安に防除しましょう。
具体的には、播種後から大豆の出芽前にかけて「ラクサー乳剤」、播種後2週間を目安に「大豆バサグラン液剤」を使用し、8月中旬頃に「アタックショット乳剤」を散布します。また、「大豆バサグラン液剤」の散布3日後以降を目途に、中耕培土を行うとさらに効果的です。
▼大豆の中耕についてはこちらの記事をご覧ください。
大豆栽培において雑草が繁茂すると、生育不良や汚損粒の発生、機械での収穫が難しくなるといった被害をもたらします。特に今回紹介したような帰化植物の生育は旺盛であり、早めの防除が大切です。
また、一口に雑草といってもそれぞれに適した防除方法は異なります。ほ場を見回るときは、作物の生育状況を確認することはもちろん、「どのような種類の雑草が生えているか」のチェックも忘れないようにしましょう。
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中原尚樹
4年生大学を卒業後、農業関係の団体職員として11年勤務。主に施設栽培を担当し、果菜類や葉菜類、花き類など、農作物全般に携わった経験を持つ。2016年からは実家の不動産経営を引き継ぐ傍ら、webライターとして活動中。実務経験を活かして不動産に関する記事を中心に執筆。また、ファイナンシャルプランナー(AFP)の資格も所持しており、税金やライフスタイルといったジャンルの記事も得意にしている。