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スイカ農家は大変? 年収&年間スケジュールと「儲かる経営」の実現方法

スイカ農家は大変? 年収&年間スケジュールと「儲かる経営」の実現方法
出典 : kikisorasido / PIXTA(ピクスタ)

スイカ栽培はやり方次第で高収入を狙える作物です。春から夏の期間が主な作業期間となっており、ほかの作物と並行して栽培することもできます。ブランドスイカであれば高単価での販売も可能です。この記事では、スイカ農家の収入目安や作業期間、儲かる経営の事例について紹介します。

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スーパーマーケットのスイカ売場

神谷一郎 / PIXTA(ピクスタ)

この記事では、スイカ栽培の平均年収(農業所得)や労働時間の目安を解説します。スイカ栽培は、かかる労働時間が短く、集約的に収益を上げることが可能です。

また、高収益化の事例についても紹介していますので、スイカでの「儲かる経営」を目指すために、ぜひ参考にしてください。

年収や労働時間は? 気になる「スイカ農家」のリアル

まず、スイカ栽培の年収目安や労働時間について農林水産省の品目別経営統計をもとに解説します。

スイカ栽培で得られる収入の目安

農林水産省の品目別経営統計※によると、スイカ栽培で得られる収入目安は次のようになっています。
※2007年(平成19年)に調査が終了しているため、あくまでも参考値としてご覧ください。

スイカの経営収支 1戸当たり

出典:農林水産省「平成19年度品目別経営統計 農業経営収支(1戸あたり)」よりminorasu編集部作成

スイカの経営収支 10a当たり

出典:農林水産省「平成19年度品目別経営統計 農業経営収支(1戸あたり)」よりminorasu編集部作成

露地栽培の平均粗収益は、10a当たり58.8万円、農家1戸当たり367.9万円となっています。平均経営費は10a当たり33万円、農家1戸当たり207.6万円となっており、年収に当たる農業所得は10a当たり25.8万円、農家1戸当たり160.3万円です。

施設栽培の平均粗収益は、10a当たり74.7万円、農家1戸当たり526.8万円となっています。平均経営費は10a当たり37.3万円、農家1戸当たり262.6万円となっており、年収に当たる農業所得は10a当たり37.4万円、農家1戸当たり264.2万円です。

スイカの経営費・所得構成比(対・粗収益) 露地・施設別

出典:農林水産省「平成19年度品目別経営統計 農業経営収支(1戸あたり)」よりminorasu編集部作成

経営費と所得の構成比をみると、施設栽培は設備費用や光熱動力費がかかるものの、ほかの多くの費用は露地栽培より低く、所得率が高いことがわかります。

露地は早熟トンネル栽培が主流のため、ホットキャップやトンネル資材などの諸材料費などが高くかかります。温床育苗のため、光熱動力費は、施設栽培の場合よりさほど低くありません。

スイカ栽培の年間スケジュールと労働時間

スイカの早熟トンネル栽培

kikisorasido / PIXTA(ピクスタ)

スイカの無加温ハウス栽培

HIRO / PIXTA(ピクスタ)

スイカの露地普通栽培は、3月下旬~4月上旬にかけて播種、5月中旬に定植、8月に収穫するのが一般的ですが、露地では早熟トンネル栽培、施設では無加温ハウスでの半促成栽培が主流となっています。

スイカの作型

出典:一般社団法人日本種苗協会「ダウンロード資料 学校関係者様用」所収「栽培のヒント~スイカ」よりminorasu編集部作成

農林水産省の品目別経営統計によると、1戸当たりの年間労働時間は、露地栽培が1,384.1時間、施設栽培が2,064.3 時間です。

スイカ栽培 1戸当たりの作業別労働時間

出典:農林水産省「平成19年度品目別経営統計 農業経営収支(1戸あたり)」よりminorasu編集部作成

年間労働時間のうち、栽培管理(灌排水・保温換気も含む)が最も多くを占め、露地栽培が合計の47%、施設栽培では55%を占めています。

栽培管理と追肥・除草・防除をあわせると、それぞれ55%、58%でとなり、スイカ栽培にかかる労力は、生育期の栽培管理が中心になることがわかります。下記の記事で、定植後から収穫前までの栽培管理のポイントを解説しているのでご覧ください。

労働時間が短く、時間当たりの農業所得(時給)は高め

農業所得を年間労働時間で割った、いわゆる時給に着目してみましょう。

施設栽培

スイカの施設栽培の年間労働時間は、10a当たり293時間、で、10a当たりの農業所得から時間当たりの所得を算出すると、1,278円です。

施設野菜の10a当たり労働時間 1時間当たり農業所得 比較

出典:農林水産省「平成19年度品目別経営統計 農業経営収支(1戸あたり)」よりminorasu編集部作成

施設栽培のスイカは、ほかの施設野菜類と比較すると、労働時間は最も短く、時間当たりの所得は、冬春トマトと同レベルで高い方に属します。圧倒的に労働時間が短く、その割に時間当たりの所得が高いことが強みといえるでしょう。

露地栽培

スイカの露地栽培の年間労働時間は、10a当たり221時間で、10a当たりの農業所得から時間当たりの所得を算出すると、1,166円です。

露地野菜の10a当たり労働時間 1時間当たり農業所得 比較

出典:農林水産省「平成19年度品目別経営統計 農業経営収支(1戸あたり)」よりminorasu編集部作成

露地栽培の野菜類の労働時間は、果菜類で長い傾向がありますが、スイカは果菜類のなかでは労働時間がかなり短いことがわかります。時間当たりの所得は、メロンや夏秋のトマト、ナス、きゅうりと比べると低いものの、収穫・調整に時間がかかる夏秋のピーマンやししとう、ミニトマトより高くなっています。

スイカの露地栽培は、時間当たりの所得は中くらいですが、ほかの果菜類と比べて労働時間が短く、労力がかからない点が強みといえるでしょう。

キーワードは“規模拡大”と“ブランド化”! スイカで高収益をめざすポイント

スイカ栽培で高収益をめざすには、規模拡大とブランド化がポイントです。

1. 労働時間の短さを活かす規模拡大で総売り上げをアップ

水稲とスイカの複合経営

kelly marken / PIXTA(ピクスタ)

スイカ農家として売り上げアップを考えると、労働時間の短さを活かし、規模拡大することがまず選択肢に挙がります。ただし、規模の拡大に伴い、品質と規模拡大を両立させるための省力化技術の導入や農繁期の労力確保を考えなければなりません。

また、稲作農家の場合は、水稲のほか、白菜、ブロッコリーといった作期や農繁期が異なる作物とスイカとの複合経営に取り組めば、農地全体としての売り上げアップを図ることができます。

2. 高品質スイカのブランド化で販売単価をアップ

店頭の高級スイカ

monjiro / PIXTA(ピクスタ)

次に考えられるのは、スイカの品質を高い水準に引き上げ、ブランディングすることで、販売単価アップを図るという戦略です。

しかし近年、各産地で地域を挙げてのブランド化がなされており、その中で農家独自のブランド化を図るには、かなりの工夫が必要となります。

スイカの卸売数量と1kg当たり価格の推移

出典:農林水産省「青果物卸売市場調査」「長期累年」および「青果物卸売市場調査結果(令和3年年間計及び月別)第1報」よりminorasu編集部作成

実際に、スイカの卸売数量と1kg当たりの価格の長期推移をみると、卸売数量が減少を続けるのに対し、1990年代は1kg当たり価格も下降していました。しかし、2000年代後半からは、1kg当たり価格が年々上昇しており、各産地での高品質化・ブランド化の取組みがうかがえます。

そのため、いきなり独自のブランド化を図るのではなく、スイカのブランド化と就農支援に注力している地域で就農し、腕を磨いていくステップを踏むという方法も選択肢となります。

スイカの大産地では、熊本県の「植木すいか」、千葉県の「富里すいか」、山形県の「尾花沢すいか」、鳥取県の「大栄すいか」、新潟県「八色すいか」など、地域ブランドが確立されています。

スイカの収穫量ランキング(2020年産)と代表的な地域ブランド

収穫量地域ブランド例
熊本県5.0万t植木すいか
千葉県3.8万t富里すいか
山形県2.9万t尾花沢すいか
鳥取県1.8万t大栄すいか
新潟県1.8万t八色すいか
その他15.9万t
全国計31.1万t

出典:農林水産省「作物統計調査 作況調査(野菜) 確報 令和2年産野菜生産出荷統計」および以下資料よりminorasu編集部作成
独立行政法人農畜産業振興機構「夢大地かもと」―熊本県山鹿市、植木町(すいか)―」
千葉県「すいか|旬鮮図鑑」
山形県「寒暖差で甘く、夏の風物詩「すいか」」
鳥取県「食のみやこ鳥取県|鳥取のうまいもん紹介|食材・料理紹|果物|スイカ」
新潟県「雪国ストーリー|南魚沼を代表する夏の味覚、つくり手の誇り“八色のスイカに外れなし”」

熊本県「植木すいか」 鳥取県「大栄すいか」

熊本県「植木すいか」
鳥取県「大栄すいか」
よしだやすお / PIXTA(ピクスタ)・HIRO / PIXTA(ピクスタ)

成功のコツは? スイカで「儲かる経営」を実現するために

ここでは、スイカで「儲かる経営」を実現するために参考となる事例として、「かりゆしすいか農園」のマーケティングと、尾花沢市のスイカ農家への就農支援の充実ぶりを紹介します。

冬でもスイカが作れる沖縄で、高単価のネット販売を実践「かりゆしすいか農園」

今帰仁村

ttn3 / PIXTA(ピクスタ)

沖縄県今帰仁村の「かりゆしすいか農園」は、SNSを活用したブランド化に成功した事例です。

沖縄の中でも今帰仁村はスイカの名産地として知られています。施設栽培の三期作を採用している農家が多く、秋播きスイカは12月から出荷され、日本一早いスイカとしての知名度があります。

「かりゆしすいか農園」は、これをブランディングに活用しています。テレビ番組に取り上げられたことで認知度を上げ、さらにInstagramを活用したブランディングを実践しています。

販路は、Instagramの直販だけに絞り、SNS上で話題になること、希少性をアピールすることでブランディングを強化しました。

Instagramの投稿では、失敗も含めたスイカ栽培の様子や想いといった「過程」を発信しています。そうすることでリアルなスイカ栽培の様子が伝わり、ファンの獲得に成功しています。経営者が農家以外の出身ならではの消費者目線の投稿が、ユーザーにとって新鮮に映っているのもポイントです。

その結果、通常の3〜4倍の1玉5,000円以上での価格設定での販売につながっています。

Instagram「kariyushi.suika」

出典:
株式会社琉球新報社
「1玉5400円「かりゆしすいか」人気沸騰! SNSでファン獲得 12月収穫分もすでに100玉完売」(琉球新報 2020年9月10日)
「今年こそ「こたつでスイカ」全国に! かりゆしすいか農園経営・上間泉穂<仕事の余白>」(琉球新報 2021年9月13日)
「スイカの多様性、品種によって味も違い かりゆしすいか農園経営・上間泉穂<仕事の余白>」(琉球新報 2021年7月19日 )
株式会社TBSホールディングス
「マツコの知らない世界~スイカの世界(2020年8月18日)」

短期集中栽培なのに高収入! 充実した支援も魅力の「尾花沢すいか」

雪とすいかの町 尾花沢

雪とすいかの町 尾花沢
kelly marken / PIXTA(ピクスタ)

山形県尾花沢市の「尾花沢すいか」は、地域ぐるみで農業をサポートすることで、ブランドスイカ栽培のハードルを下げ、就農者を増やすとともに安定して収益を挙げられるように支援しています。

尾花沢地域のスイカ栽培は、夏に収穫の最盛期を迎える短期集中型の経営です。春の定植から夏までは、灌水や防除、授粉や摘果、玉直しなど、毎日欠かさずほ場に足を運ばなくてはなりません。一転、冬場はほかの仕事や趣味に時間を使うことができます。

短期集中栽培にもかかわらず、就農5年目の経営モデルにおける農業所得は400万円(スイカ専作90a)と、安定した年収を期待できます。

出典:一般社団法人全国農業会議所 運営「全国新規就農相談センター|農業をはじめる.jp」内「地域の新規就農サポート宣言~尾花沢市」所収「地域サポート計画」

しかし農家ではない出身の人にとって、新規就農は簡単ではありません。初期投資が必要なことや収入が安定するまでに時間がかかることなど、経済的な理由で就農を断念する人もいるようです。

尾花沢市ではこれらの課題を解決すべく、新規就農のハードルを下げるための独自の制度を設けています。尾花沢市の「就農移住者支援事業」を利用すれば、最長24ヵ月で以下のような支援を受けられます。

生活費:10万円/月(夫婦で研修を受ける場合は1.5倍)
住居費:上限3万円/月 貸家、貸部屋の家賃補助
車両代:4万円/月 リース、レンタカーの賃借料補助
燃料費:1万円/月 車両の燃料を補助

出典:
尾花沢市「就農移住者支援事業」
尾花沢市 定住応援課「オバネンネガ ―山形県尾花沢市移住・定住サポートサイト―|就農」
一般社団法人全国農業会議所 運営「全国新規就農相談センター|農業をはじめる.jp」内「地域の新規就農サポート宣言~尾花沢市」

尾花沢すいかは、新規就農へのハードルを下げる制度を作ることで、ブランドスイカを栽培する農家の拡大に成功した事例といえるでしょう。ブランドスイカの栽培が盛んな地域に新規就農する方法も、スイカ農家で高収入を得る方法の1つです。

店舗に並ぶ尾花沢スイカ

Tetsuya Nagasawa / PIXTA(ピクスタ)

本記事では、スイカ栽培で得られる平均年収や労働時間からみた収益性を紹介しました。労働時間が短く集約的に栽培できるスイカで高収益化を実現するポイントは、規模拡大とブランド化による販売単価アップといえます。

ブランドスイカの栽培が盛んで新規就農のサポートが充実している地域に新規就農して腕を磨く方法も、「儲かる経営」を早く実現する方法の1つといえるでしょう。

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田仲ダイ

田仲ダイ

大学では都市景観を中心に学び、景観や地球環境に関心を持っていた。卒業後はIT企業で勤務。部門長や内部監査員も経験し、マネジメント経験を積んだ。2021年からフリーランスのライターとして活動開始。現在はビジネス系を中心に幅広いジャンルで執筆を手掛けている。サッカーの指導者としても活動中。

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