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地球温暖化が農作物に与える影響は? 農業被害と今できる対策

地球温暖化が農作物に与える影響は? 農業被害と今できる対策
出典 : K@zuTa / PIXTA(ピクスタ)

地球温暖化が農業に与える影響は大きく、従来通りの農作物生産が難しくなっています。一方で、温暖化による農業へのメリットがあるのも事実です。本記事では地球温暖化の現状を解説するとともに、具体的なリスク対策を作物別に詳しく紹介します。

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農業も原因に!? 「地球温暖化」問題とその現状

地球温暖化とは、近年、地球全体で平均気温が上昇している現象のことです。特に2023年は世界的に高温となり、7月の世界の平均気温は16.95℃と、観測史上最も暑い月となりました。

日本でも、年平均気温がさまざまな変動を繰り返しながら上昇しており、長期的には100年当たり1.35℃の割合で上昇しています。

特に1990年以降は高温となる年が多い中、2023年は平均気温が平年の基準値(1991~2020年の30年平均値)よりも1.29℃高くなりました。これは、1898年の統計開始以降、最も高い数値です。

また、2024年の日本の夏(6~8月)の平均気温は、2023年夏に並ぶ観測史上1位の高温となりました。真夏日・猛暑日の年間日数も増え、夜になっても気温が下がらずに熱帯夜の日数も年々増加しています。

真夏日・猛暑日の年間日数の推移

出典:気象庁「大雨や猛暑日など(極端現象)の長期変化」所収「全国(13地点平均)の真夏日の年間日数」「全国(13地点平均)の猛暑日の年間日数」よりminorasu編集部作成

さらに、猛暑だけではなく降水量の増加も全国各地で見られています。こうした気候変動の影響により農作物の品質低下や河川の氾濫などが生じており、農業にも深刻な被害をもたらしています。

気候変動の原因は、地球温暖化だけとはいえません。しかし、地球の平均気温が上昇し続けていることで、気候変動が発生しやすくなっているのは事実です。この傾向は今後も続くと考えられます。

出典:環境省「気候変動適応推進会議」所収「令和5(2023)年、令和6(2024)年 農林水産省 農林水産分野における気候変動への適応に関する取組 」

農業も無関係ではない“温室効果ガス”

地球温暖化の原因については諸説ありますが「温室効果ガス」の増加が原因とする説が有力です。

地球を取り囲む大気の中でも二酸化炭素(CO2)、メタン(CH4)、一酸化二窒素(N2O)、フロン類(CFC、HCFC)などは「温室効果ガス」と呼ばれています。

これらには本来、太陽光で温められた地表の熱が宇宙に放出されるのを防ぐことで保温し、生き物が住みやすい地球環境を保つ役割があります。

しかし、大気中の温室効果ガスが増えすぎたために過剰に保温されるようになり、それが地球温暖化を引き起こしている、とするのがこの説です。

温室効果ガスの中でも、温暖化への影響が特に大きいとされているのは二酸化炭素やメタンです。そのため、これらの排出量を減らすことが、地球温暖化を食い止めるために有効とされています。

二酸化炭素やメタンの排出量を減らすために、多くの企業で化石燃料の使用を抑えたり、節電に努めたりといった取り組みが進められています。

農業でも、作物の栽培過程で、温室効果ガスが排出されることがあります。例えば、施設栽培での電力消費や化石燃料の使用による二酸化炭素の排出、水田やほ場で枯れた植物が分解される際の二酸化炭素やメタンの排出などです。

そのため、農業においても、温室効果ガスの排出を削減することが求められています。

地球温暖化が農作物に与える影響

水稲の生育状況調査

Yoshi / PIXTA(ピクスタ)

地球温暖化は、日本の農業にも深刻な影響を与えています。水稲栽培では米粒が白濁する白未熟粒が発生し、果実栽培では着色不良が起きるなど、生育初期の高温による高温障害の被害が発生しています。

また、真夏の高温によって作物の葉が焼け、光合成量が減少し、育ちが悪くなることもあります。畜産では、家畜の夏バテや熱中症が原因で生産量の減少が発生しています。

夏の猛暑だけでなく、冬の気温上昇によって被害に遭う作物も少なくありません。

例えば、長い間日本で栽培されてきたニホンナシ は冬の寒さで休眠し、春の温度上昇によって休眠が終わり発芽・開花する作物です。しかし、近年の暖冬で冬と春に十分な気温差が生まれず、生育が滞り不作となる年が増えています。

こうした影響から栽培適地が変化し、これまで各作物の主要産地とされてきた地域で栽培が困難になっているケースも発生しています。

さらに、気候変動に伴い病害虫の発生数が増えたり、発生期間や発生地域が拡大したりといった影響も出ており、収量や品質の低下を引き起こしています。

農業全体では、ハウス倒壊などの被害も

異常気象により、農業全体にもさまざまな被害がもたらされています。中でも目立つのは、大雨や大型台風による、ほ場やハウスの冠水、ハウスの倒壊といった被害です。

例えば、2024年8月下旬に発生した台風10号は、観測史上例がないほど遅い速度で九州を横断しました。これにより大雨や暴風が長時間続き、鹿児島県では畜舎やハウスなど施設の浸水や損壊、果樹の枝折れ、落果など、農業への甚大な被害が報告されました。

出典:日本農業新聞「農業にも甚大な被害 台風10号 」

デメリットだけじゃない? 農業における温暖化のメリット

北海道でのサツマイモ(甘藷)栽培

川村恵司 / PIXTA(ピクスタ)

一方で、地球温暖化による農業へのメリットもあります。二酸化炭素濃度の上昇によって光合成が促進され、収量の増加につながる作物があることや、温暖化による栽培適地の拡大などです。

この変化を好機ととらえ、東北が栽培の北限とされていたサツマイモ(甘藷)を北海道で栽培する農家や、イタリア・シチリア島を主産地とするブラッドオレンジの栽培を導入した愛媛県宇和島市のみかん農家など、新たな作物に積極的に取り組む事例も各地で見られます。

出典:共同通信「地球温暖化、農作物70品目に深刻なダメージ 品質低下や収穫量減少 コメ、野菜、果物、豆類…食卓が脅かされる」

農家にとって地球温暖化がもたらす環境の変化は大きな試練ですが、新たな作物への取り組みのきっかけにもなります。地球温暖化のメリット・デメリットを理解したうえで栽培管理方法を工夫し、今後、温暖化が進んでも生産量や利益を保つことができる柔軟な対応が必要です。

地球温暖化から農作物を守る! 高温に負けない栽培管理のコツ

水田 用水路 

Ichiro / PIXTA(ピクスタ)

地球温暖化による気温の上昇から農作物を守り、今後も安定的な農業経営を行っていくためにできる栽培管理のコツを、作物別に紹介します。

【水稲】 収量・品質の低下には、品種の選定や水管理、刈り取り時期の調整で対策

登熟の時期に高温になりやすい水稲は、地球温暖化の影響を受けやすい作物の1つとされています。顕著な被害は、登熟期の高温によって玄米に「白未熟粒」や「胴割粒」が増える高温登熟障害です。

これにより、見た目の悪化による等級ダウンや、精米ロスの増加、食味の低下などが起こり、農家の収益減につながります。

しかし、昨今は品種改良も進んでおり、「にこまる」「きぬむすめ」「つや姫」「にじのきらめき」など、高温に耐性があり食味も優れた優良品種も増えています。従来の栽培品種にこだわらず、高温に強い品種を選定することで高温障害を回避し、品質の維持が可能です。

品種の選定に加えて、堆肥投入による地力の向上や適切な水管理も重要になります。水管理では、分げつ期に湛水深を増加したり、登熟初期にかけ流し灌漑にしたり、登熟期から収穫間際まではできるだけ通水を続けるなど、水稲を高温にさらさない工夫が必要です。

また、高温によって生長が早まる分、遅植えにして出穂を遅らせる、収穫時期を早めるといった対策も効果的です。

さらに、斑点米の原因となるカメムシなど、害虫の多発も続いており、これらも温暖化の影響があると考えられています。害虫被害では早期発見と早期対策が一層重要になります。

これらの対策の実現には、日々のほ場管理が欠かせません。とはいえ、猛暑の中、広いほ場を頻繁に見回るのは困難です。そこで、離れた場所でもスマートフォンやパソコンでほ場管理ができる栽培管理支援システムなどのスマート農業技術を導入するのも方法の1つです。

【野菜】 高温に強い品種選定と、冷却技術の導入を推進

盛夏の連棟ビニールハウス 天窓の開閉装置

Princess Anmitsu / PIXTA(ピクスタ)

気温が上昇した場合、ほうれん草や小松菜、白菜などの野菜類は茎が伸び、栄養が茎に奪われて品質が悪化します。キャベツなどはうまく結球しなくなり、大根などの根菜は硬くなります。

トマトなどの果菜類では結実不良や着色不良が生じ、豆類では着莢不良や青立ち株の発生、病害虫の多発などが見られます。こうした品質低下は、農家の収益減につながる可能性があります。

野菜類の高温障害を防ぐためには、水稲栽培と同様に高温に強い品目・品種を選定することや、適切な堆肥の投入、施肥による地力の向上、適切な水管理が大切です。

加えて、栽培管理支援システムなどのスマート農業技術を導入して、ほ場全体の作物の生育状況を把握し、生育状況によって可変施肥や病害虫防除推奨アラートなどを活用するもよい方法です。

また、施設栽培では夏期に気温が高くなりやすいので、日々の温度管理が欠かせません。しかし、昨今は光熱費の高騰により、効率的な冷却技術が求められています。

例として、イチゴ栽培では施設全体を冷やすのではなく、子株のクラウン部だけを冷やす周年高品質栽培技術が開発されています。この技術は、宮城県などのイチゴ産地で実用化され、各地でマニュアルも作成されています。

このように、作物の特性に沿って必要な部分を必要な時期にピンポイントで冷却することで、効率的な省エネルギー栽培を実現でき、省力化やコストカットがしやすくなります。

出典:農研機構「クラウン温度制御技術による宮城県被災地でのイチゴ促成栽培における収量増加」

▼ビニールハウスの温度管理についてはこちらの記事もご覧ください。

【大豆・麦】 水田転換畑では、地下水位の調節システムを上手に活用

大豆栽培では、高温そのものよりも干ばつによる収量減が懸念されます。干ばつ対策には適切な水管理が欠かせません。

水田転換畑であれば、従来は排水設備として設置していた暗きょ管を灌漑にも利用し、地下水位を調節するシステム「FOEAS(フォアス)」の導入を検討するとよいでしょう。

出典:農研機構 地下水位制御システム FOEAS の開発および普及

▼FOEAS(フォアス)についてはこちらの記事もご覧ください。

FOEASの導入が難しいほ場の場合は、十分な排水対策を行ったうえで、深耕して作土を厚くしたり播種の際は浅耕にして初期の乾燥害を防いだりといった対策が有効です。

一方、麦類は夏の高温期の前に収穫してしまうため、高温障害を受けることはありません。しかし暖冬により幼穂の形成や茎立ちが早まることで、凍霜害や倒伏のリスクが高まります。

こうした暖冬の影響には、ローラーを付けたトラクターで小麦の芽に圧力をかけて茎が伸びるのを防いだり(麦踏み)、暖冬でも茎立ち期が変化しにくい「イワイノダイチ」「さわゆたか」などの品種を選んだりすることで対応できます。

大豆・麦の栽培でも、スマート農業技術の導入が効果的です。栽培管理支援システムである「xarvio®(ザルビオ)フィールドマネージャー」には、可変施肥や病害虫防除推奨アラートなどの機能があり、作物の収量そのものを増やしたり、病害虫による減収を防いだりできます。

問題の早期発見、早期対策を講じられるので、高温障害などによる生育不良への対策にも役立てられます。

【果樹】 果実の着色不良には、新たな栽培技術の導入も検討を

リンゴの着色管理

東北の山親父 / PIXTA(ピクスタ)

果実は夏場の高温期に熟すものが多く、作目によってさまざまな高温障害が発生します。

例えば、みかんの場合、幼果が夏の暑さで日焼けし、腐って落果する被害が増えるほか、実と皮の間が離れる「浮き皮」が多発し、食味が低下したり腐りやすくなったりします。りんごやブドウでは、着色不良や着色遅延が見られます。

みかんの産地では、浮き皮の発生しにくい品種の育成や、摘果法の改善などの対策を進めながら、前述のブラッドオレンジなどのような高温に適した柑橘類の導入による収益確保に努めています。

着色不良の対策として、例えばブドウでは、幹の皮を環状に傷付ける「環状はく皮処理」が有効です。光合成で作られた糖類などの養分を枝葉にとどめ、皮を傷付けた位置よりも先端の糖度を高くすることで、着色に必要なアントシアニンの合成を促進できます。

りんごの場合、窒素の施肥量を制限して着色を促す新たな施肥方法で、仮に気温が2℃上昇した場合でも着色不良の実を2分の1以下に抑えられるとされています。この窒素施肥法の詳細は、農研機構が公開しているマニュアルを参考にしてください。

出典:農研機構「技術紹介パンフレット|わい化栽培のリンゴ「ふじ」における着色向上のための窒素施肥マニュアル」所収「わい化栽培のリンゴ「ふじ」における着色向上のための窒素施肥マニュアル(農研機構・青森県産業技術センター りんご研究所・秋田県果樹試験場・長野県果樹試験場)」

持続可能な農業の実現へ。農家にできる地球温暖化対策

地球温暖化の進行をできる限り食い止め、気候変動に対応して持続可能な農業を実現するために、農家が今できる対策には次のようなものがあります。

「中干し期間」の延長で、メタンガスの発生を抑制(水稲)

水稲 中干し

Photo753 / PIXTA(ピクスタ)

水稲栽培では、水田の土壌中にいる微生物が有機物を分解する際に、メタンガスが発生します。そのため水田の多い日本では、水田で発生するメタンガスの削減が温暖化対策に有効とされています。

メタンガスを発生させる微生物は、酸素がある環境下では活動が低下します。そこで、栽培過程で一時的に水田の水を抜いて土を乾かす「中干し」の期間を前倒しして、さらに慣行よりも1週間ほど延長する方法が有効です。

こうすることで、通常期間の中干しをした場合に比べメタンガスの発生量を約3割削減できます。

この方法は全国で効果が認められており、メタンガスの発生を減らしながら収量減のリスクが少なく、かつ食味もよくなるという結果が出ています。中干し期間の延長については、農研機構が公開しているマニュアルを参照してください。

出典:農研機構「農業環境研究部門」所収「水田メタン発生抑制のための新たな水管理技術マニュアル」

省エネルギー設備の導入により、CO2の排出量を削減(施設園芸)

省エネルギー設備の導入により、CO2の排出量を削減(施設園芸)

Princess Anmitsu / PIXTA(ピクスタ)

施設園芸で温度管理をする際に発生する二酸化炭素も、温暖化ガス増加の要因です。施設園芸では、冬場の寒さ対策はもちろん、夏場に高温になりすぎないよう、灌水管理をはじめとした温度管理がこれまで以上に重要になっています。

農林水産省では「農林⽔産省地球温暖化対策計画」を策定し、二酸化炭素排出削減の⽬標として「2030年度までに2013年度比で46%削減」という数値を掲げました。

この目標達成のために進められているのが、施設園芸における省エネ機器・省エネ設備の導入や省エネ農機の導入、農地土壌から排出される温室効果ガスの削減対策です。

中でも施設園芸の省エネルギー対策では、マニュアルやチェックシートを作成し、省エネルギー生産管理を推進しています。

そのほか、ヒートポンプや木質バイオマス利用の加温機および多層被覆設備、太陽熱や地熱など自然エネルギーを活用した加温システムなど、燃油によらない加温技術の導入を推進しています。

施設園芸の省エネルギー生産管理が徹底され、再生可能エネルギーや自然エネルギーを活用した施設が広がれば、農業によって排出される二酸化炭素を削減できると期待されています。

出典:農林水産省「環境政策 気候変動 農林水産省地球温暖化対策計画」所収「農林水産省地球温暖化対策計画の概要(2021年10月)」


地球温暖化が日本の農業にもたらす影響には、デメリットとメリットの両方があります。農業は、過去にもさまざまな気候変動に適応してきました。

温暖化ガスの排出を減らしつつ、環境の変化に合わせて栽培方法やほ場環境を柔軟に変えていくことで、温暖化の影響も克服できるでしょう。

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大曾根三緒

大曾根三緒

ビジネス、ペット、美術関連など多分野の雑誌で編集者として携わる。 全国の農業協同組合の月刊誌で企画から取材執筆、校正まで携わり、農業経営にかかわるあらゆる記事を扱かった経験から、農業分野に詳しい。2019年からWebライターとして活動。経済、農業、教育分野からDIY、子育て情報など、さまざまなジャンルの記事を毎月10本以上執筆中。編集者として対象読者の異なるジャンルの記事を扱った経験を活かし、硬軟取り混ぜさまざまなタイプの記事を書き分けるのが得意。

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