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地球温暖化が農作物にもたらす影響とは? 農業の未来と、農家にできる対策

地球温暖化が農作物にもたらす影響とは? 農業の未来と、農家にできる対策
出典 : K@zuTa / PIXTA(ピクスタ)

地球温暖化がこのまま進行すれば農業への影響はさらに大きくなり、これまでの農業では対応が難しくなることが予想されます。それを回避するために農家が今できることは何か、地球温暖化と農業の関わりや、今後の農業の姿にも触れながら、具体的な対策を解説します。

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近年、地球規模で平均気温が上昇する地球温暖化によって、農業現場ではさまざまな変化が生じています。地域や作物によっては収量アップなどのメリットもありますが、多くの場合は従来の作物栽培に収量・品質低下などマイナスの影響をもたらしています。

農業も原因に! 「地球温暖化」問題とその現状

地球温暖化とは、近年、地球規模で平均気温が上昇している現象のことです。日本では1990年代以降、100年当たり1.30℃の割合で気温が上昇しており、それに伴って猛暑日の年間日数や大雨の年間発生回数が増加傾向にあります。

日本の真夏日と猛暑日の年間日数の長期推移

出典:気象庁「大雨や猛暑日など(極端現象)の長期変化」 所収「全国(13地点平均)の真夏日の年間日数」「全国(13地点平均)の猛暑日の年間日数」よりminorasu編集部作成

このまま温暖化が進行すると、2081~2100年には1年平均気温が1986~2005年と比べて1.1~4.4℃上昇することや、日最高気温が35℃以上になる「猛暑日」の年間日数が今よりも、2.8~19.1日も増えることが予想されています。

出典:農林水産省「地球温暖化対策」所収「農業分野における地球温暖化対策について(令和3年12月作成版)」

地球温暖化の原因としては諸説ありますが、「温室効果ガス」の増加とする説が有力です。

地球を取り囲む大気の中でも二酸化炭素(CO2)、メタン(CH4)、一酸化二窒素(N2O)、フロン類(CFC、HCFC)などは「温室効果ガス」と呼ばれ、太陽光で温められた地表の熱が宇宙に放出されるのを防ぐことで保温し、生き物が住みやすい環境を保っています。

この温室効果ガスが増えすぎたために過剰に保温されるようになり、地球温暖化が進んでいるとする説です。

温室効果ガスの中でも特に二酸化炭素やメタンは温暖化への影響が大きく、これらの排出を抑えることが、地球温暖化の軽減につながるとされています。二酸化炭素は石油や石炭など化石燃料の燃焼やセメントの生産などによって大量に大気中に放出されます。

そこで、世界中の企業や家庭で、化石燃料の使用を減らしたり、発電の際に大量の二酸化炭素を排出するのを抑えるために電気の使用を控えたりする努力が求められています。

一方で、農業が地球温暖化に与える影響もあります。施設栽培での電力や化石燃料の使用による二酸化炭素の排出、水田や畑で枯れた植物が分解される際の二酸化炭素やメタンガスの発生です。ほかの産業と同様に、農業でも生産活動に伴う温室効果ガスの排出の低減が求められています。

デメリットだけじゃない? 地球温暖化が農作物に与える影響

田んぼ 豊作

たかきち/ PIXTA(ピクスタ)

地球温暖化が農作物に与える影響には、高温による生産量・品質の低下といったデメリットだけではなく、作物や地域によっては二酸化炭素(CO2)濃度の上昇によって収量がアップするメリットもあります。

また、栽培適地の変化によって、これまでその地域では育たなかった作物が栽培可能となる一方、作物が従来の産地で栽培困難になるといった2つの側面があります。

具体的にはどのような影響があるのか、デメリットとメリットに分けて解説します。

高温や異常気象により、農作物の生産量・品質に被害が発生

水稲の生育状況調査

Yoshi / PIXTA(ピクスタ)

地球温暖化は日本の農業にも深刻な影響を与えています。水稲栽培では気温上昇によって米粒が白濁した白未熟粒が発生し、果実栽培では着色不良が生じるなど、生育初期の高温による高温障害の被害が多発します。

また、真夏の高温によって作物の葉が焼け、光合成量が減少して生育が悪くなることもあります。畜産では、家畜が夏バテや熱中症になることで生産量の減少につながります。

夏の猛暑だけでなく、冬の気温上昇によっても被害を受ける作物があります。例えば、長い間日本で栽培されてきたニホンナシは、冬の寒さで休眠し、春の暖かさによって休眠打破して発芽・開花します。

ところが、近年の暖冬で十分な気温差が生じず、発芽や開花がうまくいかずに不作となる年が増えています。

このほかにも、気温上昇に伴って発生する大雨や大型台風により、畑が冠水したりハウスが壊れたり、果樹の枝が折れたりする被害も見られます。

こうした影響から栽培適地が変化し、これまで各作物の主要産地とされてきた地域で栽培が困難になっているケースも発生しています。

CO2濃度の上昇による収量アップというメリットも

北海道でのサツマイモ(甘藷)栽培

川村恵司 / PIXTA(ピクスタ)

CO2濃度の上昇によって光合成が促進され、収量の増加につながったりするケースもあります。

例えば、東北が栽培の北限とされていたサツマイモ(甘藷)を北海道で栽培する農家や、イタリア・シチリア島を主産地とするブラッドオレンジの生産に取り組む愛媛県宇和島市のみかん農家など、新たな作物に積極的に取り組む事例も見られます。

出典:共同通信「地球温暖化、農作物70品目に深刻なダメージ 品質低下や収穫量減少 コメ、野菜、果物、豆類…食卓が脅かされる」

農家にとって地球温暖化がもたらす環境の変化は大きな試練ではありますが、新たな取り組みのきっかけにすることも可能です。地球温暖化のメリット・デメリットを知ったうえで栽培管理方法を工夫し、今後、温暖化が進んでも生産量や利益を保つ努力が求められています。

地球温暖化から農作物を守る! 高温に負けない栽培管理のコツ

水田 用水路 

Ichiro / PIXTA(ピクスタ)

気温上昇から作物を守るための栽培管理のポイントを、作物の種類別に解説します。

【水稲】 収量・品質の低下には、水管理と刈り取り時期の調整で対策

水稲は、登熟の時期に高温になりやすく、地球温暖化の影響を受けやすい作物といわれています。顕著な被害が、登熟期の高温によって玄米に「白未熟粒」や「胴割粒」が増える高温登熟障害です。

これにより、見た目の悪化による等級ダウンや、精米ロスの増加、食味の低下などが起こり、農家の収益減につながります。

しかし、中には高温に耐性があり、食味も優れた優良品種も存在します。従来の栽培品種にこだわらず、高温に強い品種を選定することで、高温障害を回避して品質を維持することが可能です。

品種の選定に加えて、堆肥を投入して地力を高めることや、適切な水管理も重要です。水管理では、分げつ期に湛水深を増加したり、登熟初期にかけ流し灌漑にしたり、登熟期から収穫間際まではできるだけ通水を続けるなど、稲を高温にさらさない工夫が必要です。

また、高温によって生長が早まる分、遅植えにして出穂を遅らせる、収穫時期を早めることも高温対策として効果的です。

4ha米農家 スマート農業活用事例集落営農でも大活躍!収量アップ&書類作業時間を1/9に削減

眞木様
佐賀県 営農組合所属
米・麦・大豆4ha

導入の目的

▷営農組合で管理している農地全体の農作業の効率化を実現したい
▷適切な作業計画を策定・実行することで作物の品質の平準化+収量アップを図りたい

課題・悩み

▷所属している営農組合が高齢化により、オペレーターが不足していた
▷営農組合で管理している農地の他にも、自身の農地の管理やさまざまな役職を兼務していて多用のため、業務効率化が必要

成果

▷ザルビオの各種マップを作業員と共有することで、作業計画が立てやすくなった
▷生育ステージ予測を活用し、最適なタイミングで除草剤の散布や堆肥の施肥ができるようになった
▷ザルビオの作業記録を出力することで、農協提出用のGAPの書類作成時間が90%削減できた
▷地力の弱い場所に肥料を撒けるようになったため、収量が増加した

詳しくはザルビオサイトへ

▼水稲の高温障害対策については、こちらの記事も参照してください。

【野菜】 高温に強い品種選定と、冷却技術の導入が肝

盛夏の連棟ビニールハウス 天窓の開閉装置

Princess Anmitsu / PIXTA(ピクスタ)

気温が上昇した場合、ホウレンソウや小松菜、白菜などの葉物は茎が伸び、栄養が茎に奪われて品質が悪化します。キャベツなどはうまく結球しなくなり、大根などの根菜は硬くなります。また果菜類では結実不良が生じます。こうした品質低下は、農家の収益減につながります。

野菜類の高温障害を防ぐためには、水稲栽培と同様、高温に強い品目・品種を選定することや、適切な堆肥の投入や施肥によって地力を高めること、適切な水管理が大切です。

特に施設栽培では気温が高くなりやすいので入念な温度管理が欠かせませんが、光熱費も高騰していることから、効果的な冷却技術が求められます。

例として、イチゴ栽培では施設全体を冷やすのではなく、子株のクラウン部だけを冷やす周年高品質栽培技術が開発されています。このように作物の特性に沿って、必要な部分を必要な時期にピンポイントで冷却することも効果的です。


参考:農研機構「イチゴのクラウン温度制御管理で増収と省エネを両立」

▼ビニールハウスの温度管理についてはこちらの記事もご覧ください。

【大豆・麦】 水田転換畑では、地下水位の調節システムを上手に活用

大豆栽培では、高温そのものよりも干ばつによる収量減が懸念されます。干ばつ対策には適切な水管理が欠かせません。

水田転換畑であれば、従来は排水設備として設置していた暗きょ管を灌漑にも利用し、地下水位を調節するシステム「FOEAS(フォアス)」の導入を検討するとよいでしょう。

出典:農研機構 地下水位制御システムFOEAS(フォアス)

▼FOEAS(フォアス)についてはこちらの記事もご覧ください。

麦類は夏の高温期の前に収穫してしまうため、高温障害を受けることはありませんが、暖冬により幼穂の形成や茎立ちが早まることで、凍霜害や倒伏のリスクが高まっています。

これには、ローラーを付けたトラクターで小麦の芽に圧力をかけて茎が伸びるのを防いだり(麦踏み)、暖冬でも茎立ち期が変化しにくい「イワイノダイチ」などの品種を選んだりすることで対応できます。

【果樹】 果実の着色不良には、新たな栽培技術の導入も検討を

リンゴの着色管理

東北の山親父 / PIXTA(ピクスタ)

果実は夏場の高温期に熟すものが多く、作目によってさまざまな高温障害が発生します。

例えば、みかんの場合、幼果が夏の暑さで日焼けし、腐って落果する被害が増えるほか、実と皮の間が離れる「浮き皮」が多発し、食味が低下したり腐りやすくなったりします。リンゴやブドウでは、着色不良や着色遅延が見られます。

みかんの産地では、浮き皮の発生しにくい品種の育成や、摘果法の改善などの対策を進めながら、前述のブラッドオレンジなどのように高温に適した柑橘類の導入による収益の確保に努めています。

着色不良の対策として、例えばブドウでは幹の皮を環状に傷つける環状はく皮処理が有効です。光合成で作られた糖類などの養分を枝葉にとどめ、皮を傷つけた位置よりも先端の糖度を高くすることで、着色に必要なアントシアニンの合成を促進できます。

リンゴの場合、窒素の施肥量を制限して着色を促す新たな施肥方法を実施することで、将来的に気温が2℃上昇した場合でも着色不良の実を2分の1以下に抑えられるといわれています。この窒素施肥法の詳細は農研機構が公開しているマニュアルを参考にしてください。

出典:農研機構「技術紹介パンフレット|わい化栽培のリンゴ「ふじ」における着色向上のための窒素施肥マニュアル」所収「わい化栽培のリンゴ「ふじ」における着色向上のための窒素施肥マニュアル(農研機構・青森県産業技術センター りんご研究所・秋田県果樹試験場・長野県果樹試験場)」

農業の未来はどうなる? 農家にできる地球温暖化対策とは

今後、地球温暖化の進行をできる限り食い止め、農業への影響を最小限へ抑えるために農家ができる対策として、農業による二酸化炭素やメタンガスの発生を軽減することが重要です。この章では、その具体的な方法について解説します。

「中干し期間」の延長で、メタンガスの発生を抑制(水稲)

水稲 中干し

Photo753 / PIXTA(ピクスタ)

水稲栽培では、水田の土壌中にいる微生物が有機物を分解する際にメタンガスが発生します。水田の多い日本では、水田で発生するメタンガスを削減することが地球温暖化対策に有効です。

メタンガスを発生させる微生物は酸素を嫌うため、酸素があると活動が低下します。そこで、栽培過程で一時的に水田の水を抜いて土を乾かす「中干し」の期間を前倒しして、慣行よりもさらに1週間ほど延長することにより、メタンガスの発生量を約3割削減することが可能です。

この方法は全国で効果が認められており、メタンガスの発生を減らしながら収量を維持でき、かつ食味も良くなるという結果が出ています。この技術については、農研機構が公開しているマニュアルが参考になります。

出典:農研機構「農業環境研究部門」所収「水田メタン発生抑制のための 新たな水管理技術マニュアル」

省エネルギー設備の導入により、CO2の排出量を削減(施設園芸)

省エネルギー設備の導入により、CO2の排出量を削減(施設園芸)

Princess Anmitsu / PIXTA(ピクスタ)

施設園芸で発生する二酸化炭素も、温暖化ガス増加の要因です。

そこで、農林水産省ではマニュアルやチェックシートを作成して省エネルギー生産管理を推進しています。

そのほか、ヒートポンプや木質バイオマス利用の加温機および多層被覆設備、太陽熱や地熱など自然エネルギーを活用した加温システムなど、燃油に依らない加温技術の導入を推進しています。

なお、「農林⽔産省地球温暖化対策計画」では、施設園芸の省エネルギーによる二酸化炭素排出削減の⽬標として、2030年度までに2013年度比で155万tという数値を掲げています。

これらの再生可能エネルギーを活用した施設が広がれば、農業によって排出される二酸化炭素を大幅に削減できることが期待されています。

出典:農林水産省「環境政策 気候変動 農林水産省地球温暖化対策計画」所収「農林水産省地球温暖化対策計画の概要(2021年10月)

地球温暖化が農業にもたらす被害は深刻で、多くの地域・作目の収穫量に影響を与えています。温暖化は一時的なものではなく、今後も進行していくことが予想されている確実な変化です。

そのため、農家は従来の農業にとらわれず、気候の変化に合わせて栽培スタイルを柔軟に変えていくことが必要です。

国内ではすでに温暖化の影響に対応して、新しい作物の栽培に挑戦している農家の事例も多く存在します。地域の環境に応じて、適切な対応策に取り組んでみましょう。

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大曾根三緒

大曾根三緒

ビジネス、ペット、美術関連など多分野の雑誌で編集者として携わる。 全国の農業協同組合の月刊誌で企画から取材執筆、校正まで携わり、農業経営にかかわるあらゆる記事を扱かった経験から、農業分野に詳しい。2019年からWebライターとして活動。経済、農業、教育分野からDIY、子育て情報など、さまざまなジャンルの記事を毎月10本以上執筆中。編集者として対象読者の異なるジャンルの記事を扱った経験を活かし、硬軟取り混ぜさまざまなタイプの記事を書き分けるのが得意。

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