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トマトの平均反収は? 10a当たり収量・収益の目安と、多収をめざす栽培術

トマトの平均反収は? 10a当たり収量・収益の目安と、多収をめざす栽培術
出典 : hamayakko / PIXTA(ピクスタ)

トマトは年間通して安定した需要があり、仕向け先は、生食用だけでなく加工用もあります。経営安定のカギとなるのは、反収と商品果率のアップです。本記事ではトマトの反収と経営収支の関係や、多収実現のための新しい栽培技術を紹介します。

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この記事では、トマト農家の平均反収や経営指標、多収を実現する栽培技術のほか、施設内の環境制御や生産管理のIT化によって大幅な収量アップに成功した農家の事例などを紹介します。

トマトの反収は地域によって大きな差がある!

スーパーの売場に並ぶ大玉トマトとミニトマト

人工知熊 / PIXTA(ピクスタ)

トマトの産地は北海道から九州まで広範囲におよび、産地と作型を変えながら季節を問わず通年で出荷されています。


この章では、普通トマト・ミニトマト別 × 夏秋・冬春別の反収について、全国平均と都道府県ランキングをみていきます。

トマトの平均反収|全国平均は?

農林水産省の作況統計によれば、2021年産のトマトの作付面積は1万1,400ha、収穫量は72万5,200tで、10a当たり収量(反収)の全国平均は6,360kgでした。

2021年産 トマトの作付面積と収穫量

※統計の小数点処理の関係で、各項目の合算が合計と合わない場合がある
※普通トマトについては、作況統計の年産数値から、ミニトマトを除いた数値を普通トマトとして算出
出典:農林水産省「作物統計調査 作況調査(野菜) 確報 令和3年産野菜生産出荷統計」よりminorasu編集部作成

施設栽培で収穫期間が長い冬春トマトは、作付面積は全体の34%ですが、収穫量では54%を占め、結果、反収は冬春トマトのほうが高くなります。

2021年産 トマトの反収 旬別 普通・ミニトマト別

※統計の小数点処理の関係で、各項目の合算が合計と合わない場合がある
※普通トマトについては、作況統計の年産数値から、ミニトマトを除いた数値を普通トマトとして算出
出典:農林水産省「作物統計調査 作況調査(野菜) 確報 令和3年産野菜生産出荷統計」よりminorasu編集部作成

夏秋・冬春、普通トマト・ミニトマト・加工用別に反収を見ると、冬春の普通トマトが最も高く、10,874kg、次いで冬春のミニトマトの8,900kgです。

夏秋トマトは、普通トマトで4,405kg、ミニトマトは3,870kgと、収穫期間が夏に限られるため、冬春トマトの半分以下になっています。

トマトの反収ランキング|どの県が高い?

2021年産トマトの反収の都道府県ランキングを見ると、反収(10a当たり収量)は産地によってかなり差があることがわかります。

2021年産 普通トマトの反収ランキング

※普通トマトについては、作況統計の年産数値から、ミニトマトを除いた数値を普通トマトとして算出
夏秋トマトは収穫・出荷期間が7~11月、冬春トマトは収穫・出荷期間が12~6月のトマトを指す
出典:農林水産省「作物統計調査 作況調査(野菜) 確報 令和3年産野菜生産出荷統計」よりminorasu編集部作成

2021年産 ミニトマトの反収ランキング

出典:農林水産省「作物統計調査 作況調査(野菜) 確報 令和3年産野菜生産出荷統計」よりminorasu編集部作成

反収は、品種と作型、経営面積と作付回数によって変わってきますが、収益の目標を立てるときは、自分の地域の平均反収と、自治体の農政部などが示している推奨品種の目標反収を見合わせて慎重に検討しましょう。

目標反収は高めに設定されていることが多いので、目標反収に届かなかったときにどのくらいで赤字になってしまうかを把握することがポイントです(詳細後述)。

トマト農家は儲かる? 反収と期待できる収益の目安

トマト栽培の平均的な経営指標として、農林水産省の「営農類型別経営統計」と、トマトの収穫量1位の熊本県の経営指標を見てみましょう。

トマトの経営収支|全国平均

2021年産 トマト作の経営収支

露地
大玉トマト作
施設
大玉トマト作
施設
ミニトマト作
作付延べ面積22a43a39a
生産量19.6t53.8t30.7t
粗収益580.7万円1,730.2万円1,917.7万円
うちトマト574.4万円1,667.0万円1,884.8万円
うちその他6.3万円63.2万円32.9万円
経営費373.5万円1,413.3万円1,491.4万円
農業所得207.2万円316.9万円426.3万円
農業所得率35.7%18.3%22.2%

出典:農林水産省「農業経営統計調査|営農類型別経営統計|確報|令和3年営農類型別経営統計」内「野菜作経営、果樹作経営、花き作経営|個人経営体の部門収支(野菜作、果樹作、施設ばら作)」よりminorasu編集部作成

作型をずらしてほぼ通年で出荷する施設トマトのほうが、夏から秋にかけ一気に稼ぐ露地の大玉トマトより、当然ながら、粗収益・農業所得とも大きくなっています。

しかし、農業所得率に着目すると、露地の大玉トマトが35.7%なのに対し、施設の大玉トマトが18.7%、施設のミニトマトが22.2%と、施設トマトのほうが15%以上低くなっています。

2021年産トマトの生産費・所得の構成比

出典:農林水産省「農業経営統計調査|営農類型別経営統計|確報|令和3年営農類型別経営統計」内「野菜作経営、果樹作経営、花き作経営|個人経営体の部門収支(野菜作、果樹作、施設ばら作)」よりminorasu編集部作成

同じ統計で生産費・所得の構成比を見ると、施設栽培では「動力燃料費」や「雇人費」が、露地よりかなり高く、所得率を押し下げていることがわかります。

トマトの反収と経営収支の関係

農業経営統計には「露地大玉トマト作」「施設大玉トマト作」「施設ミニトマト作」の経営収支がありますが、経営面積がないので、反収との関係がわかりません。

そこで、熊本県が公開している経営指標から、反収と経営収支の関係を考察します。

抑制栽培の冬トマト100a以外は、20a~40aを想定し、家族労働のみでまかなう前提になっています。

熊本県の農業経営指標(トマト)

夏秋トマト
(雨よけ)
冬春トマト
(促成)
冬トマト
(抑制)
ミニトマト
(促成)
夏秋
ミニトマト
人数家族 2.5人家族 2.5人家族3.0人
雇用あり
家族3.0人家族2.0人
経営面積40a35a100a30a20a
生産量50.0t70.0t85.0t37.5t14.7t
出荷量46.0t64.4t80.0t34.5t14.0t
商品化率92.0%92.0%94.1%92.0%95.0%
10a当たり生産量12,500kg20,000kg8,500kg12,500kg7,368kg
粗収益1,462.8万円2,176.7万円3,200.0万円1,863.0万円810.6万円
経営費865.3万円1,367.4万円2,194.2万円991.8万円417.0万円
農業所得597.5万円809.3万円1,005.8万円871.2万円393.6万円
農業所得率40.8%37.2%31.4%46.8%48.6%

出典:熊本県「行政情報|熊本県農業経営指標を改訂しました」所収「熊本県農業経営指標|作物別経営指標|野菜_1」よりminorasu編集部作成

どの作型も利益が十分でていますが、ここで気をつけたいのが、反収(10a当たり収量)です。目標なので、かなり高めの設定になっています。もし、目標反収に届かなかったらどうなるのでしょうか。

赤字になる境界線を知るための目安として、雨よけ夏秋トマトの目標収量12,500kgを、その8割、6割・・・と変化させ、売上高と経営費をこれに合わせて変化させたのが下のグラフです。

目標の4割強、5,000kg強までなら赤字にならないことがわかります。

夏秋トマト(雨よけ)

出典:熊本県「行政情報|熊本県農業経営指標を改訂しました」所収「熊本県農業経営指標|作物別経営指標|野菜_1」よりminorasu編集部作成

同様に、促成の冬春トマトを見ると、目標収量20,000kgに対して、10,000kgなら赤字にならず、目標の4割、8,000kgだと赤字になってしまいます。

冬春トマト(促成)

出典:熊本県「行政情報|熊本県農業経営指標を改訂しました」所収「熊本県農業経営指標|作物別経営指標|野菜_1」よりminorasu編集部作成

これらのことから、同じ経営面積、同じ販売単価であれば、反収が収益増の大きなテコになることがわかります。反収が増えた分、荷造・運賃・手数料などの経費が増えても、これを上回る売上高の増が見込めるからです。

トマトの反収を増やすには? 押さえておきたい3つの栽培技術

では、反収を増やすにはどうしたらよいのでしょうか。

基本となるのは、適切な草勢を保つ肥培管理です。肥料切れにも窒素過多にも傾かず、安定した着果が続けば、収量の確保につながります。そして、施設栽培では、温湿度、CO2濃度、光環境などの総合的な環境制御を取り入れることで収量が上がることがよく知られています。

この章では、これらの基本を踏まえたうえで知っておきたい技術を3つ紹介します。

【雨よけミニトマト】「夏越し長期どり」から「2作型」へ

ミニトマト 雨よけ栽培

Ystudio / PIXTA(ピクスタ)

雨よけハウスでのトマト栽培は、春に定植し、12月上旬まで収獲する「夏越し長期どり」と呼ばれる作型が長く主流でした。

この作型は、高温期に株が消耗し草勢を維持するのが難しいこと、販売単価が高くなる9月以降の収穫量が減ることが課題となっていました。これを解決すべく、2000年代前半頃から、「抑制」と「半促成」を組み合わせた「トマト2作型」を導入する産地が出てきました。

出典:
熊本県「農林水産部|農業研究センター| 研究成果(平成15年度)」所収「トマトの作型分散による作期拡大」
農薬工業会「植物防疫資料館・デジタル資料館| 植物防疫アーカイブ| 第57巻第3号 平成15年3月号」所収「産地、今(12)愛知県のトマトの産地」
大分県「農林水産部| 農林水産研究指導センター農業研究部|研究報告」内「第5号(H27/2015)」所収「トマトの年2作型に着目した周年出荷平準化技術の確立」

最近では、島根県の農業技術センターと岩手県農業研究センターが、ミニトマトでの導入試験を行っており、いずれも「長期1作」より「2作型」のほうが収穫量が増えたと報告しています。(ただし、両試験とも、作型の導入だけでなく、環境制御を併用しています)。

出典:
島根県「 農業振興|普及活動| 普及活動・試験研究成果発表会|」所収「島根県でミニトマト収量を飛躍的に高める栽培技術の開発(農業技術センター栽培研究部)」
岩手県 農業研究センター「試験研究成果 |研究レポート|平成30年発行 研究レポート(No.876~918)」所収「ハウスミニトマト栽培における多収化モデル技術の導入効果」

【促成長期栽培】光合成を活発にする「CO2」を補う

植物 昼間の光合成、夜間の細胞呼吸

iimages / PIXTA(ピクスタ)

植物は、根から吸い上げた水と気孔から取り入れた二酸化炭素を、光エネルギーによって合成して、糖と酵素を作り、これを植物体自身の生育や子孫保存のために使います。そのため、作物の健全な生育には、水と二酸化炭素、光が重要な鍵を握っています。

施設栽培では換気によってもたらされる二酸化炭素より、作物が取り入れる二酸化炭素が多くなり、光合成に必要な量が足りない状態になることがあります。

愛知県農業総合試験場では、2013年にトマトの「促成長期栽培」で、CO2施用の効果測定を行いました。

CO2施用区は、無施用区に比べ、1株当たりの規格外果が減り、1個の当たり果重が増え、結果として収量が増加したことが報告されています。特に、厳冬期の日中に午前・午後ともCO2を施用した場合に大きな効果が得られたそうです。

出典:愛知県「農業総合試験場|愛知県農業総合試験場研究報告 第48号」所収「二酸化炭素(CO2)施用時間がトマト促成長期栽培における収量および無機成分含量に及ぼす影響」

前出の島根県のミニトマトの2作型の試験では、ハウスのサイドを開けて換気していてもCO2を施用できるよう、CO2が染み出るチューブを設置する方法を取りました。結果、可販収量が約1.19倍に増加したと報告されています。

出典:島根県「 農業振興|普及活動| 普及活動・試験研究成果発表会|」所収「島根県でミニトマト収量を飛躍的に高める栽培技術の開発(農業技術センター栽培研究部)」

【促成長期栽培】新しい技術「LED樹間補光」が 光不足を解消

トマトは生育に強い光を必要としますが、初冬から6月頃まで収穫する「促成長期栽培」は、厳寒期の日射量不足が問題になります。特に葉が込み合っている部分や、株の中段から下段は、光が届きにくくなっています。

最近、注目されているのが、畝の間に管状の細長いLEDランプを通す「LED樹間補光」という方法です。補光によって光環境が大幅に改善されるため、慣行よりも栽植密度を高めてさらに収量を上げる方法が試験されてます。

愛知県総合農業試験場、栃木県農業試験場で行われた試験研究結果をみると、補光と密植が収量増に寄与することが見て取れます。

トマト促成長期栽培 LED樹間補光

出典:以下資料よりminorasu編集部作成
愛知県「農業総合試験場|愛知県農業総合試験場研究報告 第54号」所収「トマト促成長期栽培における群落内LED補光が収量及び経済性に及ぼす影響」
栃木県「農政部|農業試験場ニュース」所収「令和4年2月号vol.416|LED 樹間補光と密植栽培の組合せでトマトの大幅な増収が期待できます」

高度なIT化で収量アップ! 所得を10倍にしたトマト農家の事例

minorasu(ミノラス)の画像

出典:株式会社PR TIMES(株式会社ファームオーエス プレスリリース 2019年2月14日)
井出トマト農園の井出代表は、自社開発した農業生産性管理システム「AGRIOS」を株式会社ファームオーエスを通じて販売し、農業経営者同士のパートナーシップの構築をめざしている

1930年、神奈川県藤沢市で創業した株式会社井出トマト農園は現在、農場面積5.4ha、ハウス面積1.4haを誇るトマト農家です。

2006年、実家である同農園に就農した井出寿利さんは、それまでの経験と勘に頼っていた生産管理に限界を感じ、2011年以降にトマト栽培のIT化に着手しました。

温度、湿度、CO2、日射量といったハウス内環境をセンサーで測定し、それをグラフ化して管理するソフトウェアを導入したほか、それまでExcelで行っていたトマトの栽培履歴や収穫・実績の管理をシステム化しました。

2018年にはスタッフの作業量の可視化も行える自社開発システム「AGRIOS」を導入し、3ヵ月後にはスタッフの1日の作業量を平均50%アップさせることに成功しました。

IT化を中心とした生産性向上とともに、自社ECや農園直売所、BtoBなどでの販路拡大にも取り組んだことが奏功し、2007年時点で約5,500万円だった売上高を2020年時点で約2億2,000万円へと大幅に増加することができました。

 株式会社井出トマト農園のホームページ
 株式会社井出トマト農園が開発した生産性管理アプリ「AGRIOS」のホームページ

▼具体的なトマト栽培のIT化のプロセスや、IT化に伴って自社開発した独自の生産管理システムについて、詳しくはこちらの記事をご覧ください。

トマトの収量アップというと、最後に紹介した事例のように、大型の施設での高度な環境制御システムを連想しますが、雨よけ栽培や小型の施設でもできることがあります。

前半で紹介した、反収と経営収支の関係を参考にしながら、実現できる反収に見合った改善や設備投資に取り組んでください。

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大森雄貴

大森雄貴

三重県伊賀市生まれ。京都を拠点に企業・団体の組織運営支援に携わった後、2020年に家業の米農家を継ぐためにUターン。現在は米農家とライターの二足の草鞋を履きつつ、人と自然が共に豊かになる未来を願いながら、耕作放棄地の再生、農家体験プログラムの実施、暮らしを大切にする経営支援などに取り組んでいる。

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