麦農家のためのカラスムギ対策! 効果的な防除体系は?
カラスムギは、小麦農家・大麦農家を悩ませる難防除雑草の1つで、湛水期間を設けられない畑地化したほ場で問題になっています。この記事では、カラスムギの生態と被害の状況、効果的な防除体系について解説します。
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関東・東海地域の麦類のほ場では、カラスムギの被害が常態化しています。効果的な除草剤が少ないため、カラスムギの生態を踏まえた防除計画を立てることが、被害の拡大防止につながります。
カラスムギとは
カラスムギは、ヨーロッパから西アジアが原産のイネ科一年生雑草で、麦作では世界的な雑草の1つです。日本には縄文時代に麦とともに渡来したといわれ、畑地のほか、牧草地、道端や河川敷、休耕地などでも発生します。
このカラスムギが、麦類のほ場に侵入し、蔓延してしまうと大きな減収と品質低下を招き、激発した場合は収穫放棄という事態になりかねません。
カラスムギの登熟・成熟期は、麦類の登熟・成熟期と重複
出典:茨城県「農業総合センター農業研究所」「マニュアル等」の項所収「麦圃場におけるカラスムギの防除技術 Ver.1」
公益社団法人茨城県農林振興公社「穀物改良部生産振興と消費宣伝米・麦・大豆」所収「小麦『さとのそら』栽培ごよみ」よりminorasu編集部作成
nobmin / PIXTA(ピクスタ)・keikok / PIXTA(ピクスタ)・wanya / PIXTA(ピクスタ)
関東地方でのカラスムギの生態サイクルを紹介します。
カラスムギ出芽は9~10月ごろから始まり、11~12月頃にピークを迎え、春先までだらだらと続きます。出穂は4月~5月頃で、そのあと6月にかけて登熟し、小麦の収穫期には成熟して種子が落ちます。
このときの種子は休眠していますが、夏の高温・乾燥に合うことで休眠が破られ、秋に出芽を始めます。
ただし、休眠の深さは場所やカラスムギの種によってかなり差があり、出芽の始期~揃期の時期にもかなりずれがあることがわかっています。
ほかの冬の雑草と比べてやっかいなのが、出芽可能深度が深く、出芽後の越冬生存率が高いことです。カラスムギ種子の出芽可能深度は、土壌の硬軟によりますが10~20cmほどで、ほかの冬の雑草の5cmほどと比べかなり深く、越冬生存率もほかの雑草と比べて高いのです。
このように「出芽が長期にわたって続く」「出芽可能深度が深い」「出芽した幼植物の越冬生存率が高い」というカラスムギの生態が、難防除雑草となる要因となっています。
出典:
茨城県「農業総合センター農業研究所」「マニュアル等」の項所収「麦圃場におけるカラスムギの防除技術 Ver.1」
農研機構「プレスリリース・広報|刊行物|技術紹介パンフレット|麦作・大豆作・水稲作の難防除雑草 埋土種子調査マニュアル(第2版)」所収「麦作・大豆作・水稲作の難防除雑草 埋土種子調査マニュアル(第2版) 3.種子の特徴と調査法(30~31ページ)」
カラスムギと麦類との見分け方
カラスムギの葉身基部には葉耳がない
写真提供:HP埼玉の農作物病害虫写真集
生育初期のカラスムギは麦類との見分けがつきにくく、出穂してから気づくこともあり、それが防除が遅れる原因となっています。
生育初期における麦類とカラスムギの見分け方
麦類 | カラスムギ | |
---|---|---|
葉色 | ー | 灰緑色を 帯びる |
葉耳 | あり | なし |
ねじれ方 | 右回り | 左回り |
出典:茨城県「農業総合センター農業研究所」「マニュアル等」の項所収「麦圃場におけるカラスムギの防除技術 Ver.1」
出穂してしまえば、カラスムギの小穂は下向きに垂れるため、容易に見分けることができます。
出穂始めのカラスムギ 小穂は下向き
写真提供:HP埼玉の農作物病害虫写真集
被害の実態
keikok / PIXTA(ピクスタ)
カラスムギの種子は、湛水状態におかれると死滅するため、水稲との二毛作や、田畑輪換で数年おきに湛水状態になるほ場では、カラスムギの発生は見られません。
しかし、畑地化したほ場で麦類を連作すると、カラスムギの発生が非常に大きくなりやすいことがわかっています。
茨城県が2016~2017年に実施した調査によると、「水稲ー水稲ー麦類ー大豆」という輪作体系のカラスムギ発生程度は全ほ場で「無」であったのに対して、「麦類ー夏畑作物」の体系では、発生程度が「甚」(ほ場面積の90%以上で発生)となるほ場が最も多くなっています。
収量はカラスムギの発生が多いほど低下し、また、国産小麦の主な仕向け先であるパンや麺に求められるタンパク質含有率を維持できなくなってしまいます。
前出の茨城県の調査では、カラスムギの発生が「甚」であるほ場の小麦収量は「無~微発生」(ほ場面積の1%未満で発生)のほ場の4~5割減になり、カラスムギの発生程度が高いほどタンパク質含有率が低くなり、追肥によって含有率を維持することも困難になる、と報告されています。
出典:茨城県「茨城県農業総合センター農業研究所 | H30主要成果」所収「麦類の難防除雑草カラスムギの発生および被害状況」
カラスムギ対策は体系防除が基本
カラスムギは出芽期間が長期にわたるため、除草剤だけでは完全に防除できません。除草剤に使用に併せ、石灰窒素の散布や遅蒔き、プラウ耕といった耕種的防除を組み合わせた体系防除が有効です。
カラスムギ防除体系の例
出典:茨城県「農業総合センター農業研究所」「マニュアル等」の項所収「麦圃場におけるカラスムギの防除技術 Ver.1」、公益社団法人茨城県農林振興公社「穀物改良部生産振興と消費宣伝米・麦・大豆」所収「小麦『さとのそら』栽培ごよみ」よりminorasu編集部作成
除草剤と石灰窒素の施用、プラウ耕などを組み合わせた体系防除の例を紹介します。なお、石灰窒素の散布、除草剤の使用、プラウ耕の具体的な方法については後述します。
- 石灰窒素の散布:麦類を播種する3~4週間前に実施します。カラスムギ種子の休眠覚醒を促し、早く多く発芽させ、その後に茎葉処理型除草剤を使うことで、カラスムギの種子密度を下げることができます。
- 溝施肥:溝施肥播種機が必要ですが、播種溝に施肥することで、麦類の肥料吸収が優先され、カラスムギの肥料吸収が抑制されます。
- 除草剤の散布:カラスムギの出芽前~1葉期の間に2回散布します。年明け以降春先まで、さらに発生する場合には、追加散布を検討します。
- プラウ耕:麦類の収穫後、カラスムギが出芽できない深さに種子を埋め込み、発芽を抑制します。
そのほか、特別な農機が必要ですが以下の防除法も効果があります。
- 蒸気除草:蒸気処理防除機が必要ですが、麦類の収穫後に地表を加熱することでカラスムギの種子を死滅させることができ、激発ほ場では特に効果的です。
- 不耕起管理:不耕起播種機が必要ですが、収穫後の夏にも播種時にも「耕起しない」ことで、カラスムギ種子を地表にとどめておき、休眠覚醒と出芽を早め、麦類の播種前の一斉防除を可能にします。
収穫を放棄せざるをえないほど激発したときは、カラスムギが種子を付ける前にすき込み、麦類を2年以上休耕します。休耕中は、12月ごろ・3月ごろ・6月ごろに耕うんすることで、より密度を下げることができます。
除草剤は「出芽前~1葉期まで」を狙って複数回
HAPPY SMILE / PIXTA(ピクスタ)
小麦の播種後から出芽前にかけて土壌処理型除草剤を散布しても一定の防除効果を得られます。
前出の茨城県のマニュアルでは、トリフルラリン乳剤(トレファノサイド乳剤)とジフルフェニカン・フルフェナセット水和剤(リベレーターフロアブル)を組み合わせた2剤処理の体系を推奨しています。
この試験では、播種後~発芽前にプロスルホカルブ乳剤(ボクサー)の1回処理と、播種後と出芽期の2剤処理を比べており、2剤処理のほうが効果が高かったと報告されています。
2剤処理の1回目は播種後すぐの出芽前に、2回目は出芽期に入ってから実施します。1葉期を過ぎると除草効果を得られないため、カラスムギの発生状況を見極めた上で出芽前~1葉期までを狙って散布するのがポイントです。
併せて実施したい耕種的防除
除草剤の散布と併せて実施すると効果的な耕種的防除の具体的な方法を紹介します。
遅播き
nobmin / PIXTA(ピクスタ)
関東地方での麦類の播種時期は11月上旬~下旬が目安ですが、11月下旬~12月上旬に遅播きするとカラスムギの発生密度を減らせます。
発生密度が低くなれば、脱落する種子の量も減るので、翌年以降もカラスムギの防除効果を得られるのがメリットです。播種前にカラスムギが出芽した場合でも、耕起作業で枯殺させられます。
一方、暖冬でない限り出穂・成熟が遅れるため減収につながるのがデメリットです。収穫時期が遅れると梅雨の影響で品質が低下するリスクも生じます。品種にもよりますが、播種量を増やすことで収量を増やす方法がとられます。
石灰窒素
麦類のほ場に石灰窒素を散布することでカラスムギの種子が休眠から覚醒し、早期の出芽を促せます。その結果、麦類の播種前の防除を効率化できるだけでなく、翌年の出芽数を減らせるのがメリットです。
播種の3~4週間前の、降雨前後の土壌が湿った状態のタイミングで、石灰窒素を10a当たり40~50kg散布します。石灰窒素の散布後に耕起・鎮圧処理を行うと土壌水分を一定に保ちやすく、休眠覚醒効果を高められます。
なお、粒状の石灰窒素には窒素成分が20%含まれるため、その分基肥の窒素成分を調整する必要があります。
※2023年8月時点では、石灰窒素の麦類での適用は一年生雑草の防除であって、休眠覚醒効果は登録されていません。あくまで酸度矯正などの土壌改良資材、あるいは肥料として使用するようにしてください。
▼石灰窒素の「肥料効果」「農薬効果」「土作り効果」については、下記記事をご覧ください。
プラウ耕
528969423 - stock.adobe.com
麦類の収穫後にプラウ耕を実施することで、カラスムギが出芽できない深さに種子を埋め込みます。20cmより深い場所にカラスムギの種子を埋めれば出芽を回避でき、1~2年ほどで種子も死滅します。
プラウ耕では土壌を深く耕すため反転効果が高く、微生物を活性化させたり微量要素を土壌全体に混和させたりできるのもメリットです。プラウ耕を実施する際はディスクプラウ(パワーハロー)を使用し、低速で深耕するようにします。
ただし、プラウ耕を繰り返すと耕盤層が形成され、排水性が悪化したり作物の養分吸収に支障を来したりする恐れがあるので注意が必要です。
▼プラウ耕のメリット・デメリットについては、下記の記事をご覧ください。
カラスムギの出芽期間は長期にわたるため、麦類の減収を回避するためには除草剤の散布に加えて耕種的防除を実施することが重要です。播種前の石灰窒素散布、播種溝への施肥、除草剤の2剤散布、収穫後のプラウ耕などを組み合わせることで防除効果が高まります。
なお、小麦栽培で有効な除草剤や雑草防除の基本的なポイントについては下記の記事でも解説しています。防除計画を立てる際には、こちらも併せてご覧ください。
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舟根大
医療・福祉業界を中心に「人を大切にする人事・労務サポート」を幅広く提供する社会保険労務士。起業・経営・6次産業化をはじめ、執筆分野は多岐にわたる。座右の銘は「道なき道を切り拓く」。