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みどりの食料システム法とは? 認定要件と、農家が使える補助金・交付金の例

みどりの食料システム法とは? 認定要件と、農家が使える補助金・交付金の例
出典 : REI / PIXTA(ピクスタ)

「みどりの食料システム法」は、農業が直面する課題を解決するとともに、持続可能な食料生産体制の構築をめざす「みどりの食料システム戦略」を実現するための法律です。この法律には、戦略に沿った取り組みを実践する農家が受けられる、多くの支援が定められています。

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これからの日本の農業を持続的に発展させ、農村の地域コミュニティを活性化していくために重要となるのが、「みどりの食料システム法」です。本記事では、みどりの食料システム法が農業にどう関わり、実際にどのように活用できるのかについて詳しく解説します。

みどりの食料システム法とは?

「みどりの食料システム法」を知るには、同法に深く関わる施策、「みどりの食料システム戦略」がどのようなものかを理解する必要があります。

そこでまずは、この戦略の概要と「みどりの食料システム法」との関係、この法律で定められた優遇措置など、農家に深く関係するポイントについて解説します。

「みどりの食料システム戦略」を実現するための法律

「みどりの食料システム戦略」は、農業が抱える高齢化や担い手不足などの課題を解決するとともに、環境負荷を軽減し、持続的で安定した生産基盤を構築することなどを目的に、2021年5月に策定された政策です。

この戦略では、これらの目的と同時に、世界的に推進されているCO2排出量削減などの環境負荷軽減についても、2050年までの目標を掲げ、達成をめざしています。

みどりの食料システム戦略(具体的な取組み)の全体像

出典:農林水産省「みどりの食料システム戦略 トップページ」掲載の「みどりの食料システム戦略(具体的な取組み)」よりminorasu編集部作成

目的の実現に向けて、これまでにない革新的な技術や工夫(イノベーション)で、農林水産業の生産者と加工・流通業者、食品関連業者、調達資材などを扱う業者、消費者までが一体となった地域ぐるみの取り組みを推進しようとしています。

とはいえ、ただ目標を掲げるだけでは、効果的な推進はできません。そこで、2022年4月22日、「みどりの食料システム戦略」の実現をめざすために「みどりの食料システム法」が成立し、同年7月1日に施行されました。

この法律は、正式名称を「環境と調和のとれた食料システムの確立のための環境負荷低減事業活動の促進等に関する法律」といいます。

「みどりの食料システム戦略」の基本理念や概要を定めるとともに、農林水産業の生産者や関連事業者に向けて具体的な取り組み計画の認定制度を設け、戦略の実現を支援するものです。

▼「みどりの食料システム戦略」の詳細はこちらの記事をご覧ください

認定制度に基づき、さまざまな優遇が受けられる

「みどりの食料システム法」には、農林水産業の生産者や関連事業者の事業計画を対象とした、「みどり認定」と呼ばれる認定制度が設けられています。

農家がこの認定を受ける場合、都道府県・市町村が作成した基本計画に基づき、環境負荷低減をめざす取り組みの5ヵ年の事業計画を作成して、都道府県に申請します。

みどり認定の申請・認定フロー

出典:農林水産省「みどりの食料システム戦略|みどりの食料システム法について」所収「みどりの食料システム法のポイント」、「環境政策|みどりの食料システム戦略」所収「みどり戦略施策活用ガイドブック(令和5年9月版)」よりminorasu編集部作成

提出された計画を都道府県知事が認定すると、認定された農家やそのグループは、税負担の軽減や補助金・交付金の優先採択など、さまざまなメリットを受けられます。

認定対象となる取り組みは、持続性の高い農業生産方式の実践や、有機農業、下水汚泥などの未利用資源の有効活用、温室効果ガス排出削減に向けた農業の実践など、地域の持続的発展をめざすものです。

具体的な取り組み内容は、都道府県・市町村が基本計画として定めているので、地域の自治体に確認してください。取り組み例や受けられるメリットについては後述します。

みどりの食料システム法の認定要件

「みどりの食料システム法」の認定制度には、環境負荷低減に取り組む農林水産漁業の生産者を対象にした認定と、新技術の提供などを通して持続可能な食料生産を支える機械・資材メーカーや支援サービス業者、食品業者などを対象にした認定があります。

みどり認定の申請・認定フロー

出典:農林水産省「環境政策|みどりの食料システム戦略」所収「みどりの食料システム戦略パンフレット」よりminorasu編集部作成

当然ながら、それぞれの認定は、申請時に提出する計画の内容や、支援措置の内容が異なります。ここでは、農家を含む生産者を対象にした認定や支援措置に絞って、その概要や申請方法について解説します。

有機農業など、環境負荷を低減する取り組みが認定される

農家が申請し、認定を受ける計画は「環境負荷低減事業活動実施計画」というもので、環境負荷を低減する農業活動の実施計画です。

また、モデル地区として地域ぐるみで行う取り組みの場合は、「特定環境負荷低減事業活動実施計画」という、複数の農家を含む地域ぐるみで行う先進的な取り組みについての計画を作成・申請し、認定を受けます。

「環境負荷低減事業活動実施計画」の農業者を想定した具体的な取り組みの類型として、以下のようなものが例示されています。

  • 土作りによる地力向上と化学肥料・化学農薬の使用低減を合わせた取り組み
  • 温室効果ガスの排出を削減する取り組み(具体的には、秋耕・中干しの延長、ヒートポンプの導入、省エネ機械や資材の導入など)

この2つが主な取り組み類型で、このほか農林水産大臣が定める事業活動として、以下の類型も挙げられています。

  • 水耕栽培と化学肥料・化学農薬の使用低減を合わせた取り組み
  • 窒素やリンの流出を抑制する家畜への飼料投与
  • バイオ炭の農地利用
  • プラスチックごみ排出の抑制
  • 化学肥料・化学農薬の使用低減と生物多様性の維持を合わせた取り組み(具体的には、冬期湛水や江の設置など)

これらの類型のいずれかに当てはまる取り組みについて計画を作成し、申請することで認定を受けられます。

なお、化学肥料・化学農薬の使用低減というのは、有機農業などへの取り組みだけを指すのでなく、栽培管理や防除体系を見直すことで、無駄な施用を減らし、使用を適正化することも含まれます。

一方、地域ぐるみでモデル地区として取り組む「特定環境負荷低減事業活動実施計画」の類型には、以下のようなものがあります。

  • 有機農業への取り組み
  • 廃熱などの地域資源を活⽤することによる温室効果ガス削減
  • スマート農機の導入など先端技術の活用による環境負荷の低減

出典:農林水産省「環境政策|みどりの食料システム戦略」所収「みどりの食料システム法の認定制度等について」、「みどり戦略施策活用ガイドブック(令和5年9月版)」

申込・相談先は都道府県の担当部署

農家など生産者の場合、計画認定の申請は、都道府県または市町村に対して行います。

まず、国の基本方針をもとに、各都道府県が市町村と共同で作成した独自の基本計画があります。その基本計画に照らし合わせ、認定の対象となる取り組みや申請方法を確認してください。

すでに取り組んでいることや、これから取り組みを計画していることが認定の対象になるか、またどのような設備投資が必要で、それらは交付金などの支援対象になるかについても確認が必要です。

申請方法については、都道府県または市町村に問い合わせてください。指定の申請書類を取り寄せて作成し、都道府県ごとに指定された提出先に提出します。

その後、都道府県による審査を経て認定を受けると通知が届きます。認定を確認したら、計画に沿って取り組みや設備投資を実行します。

地域ぐるみで取り組みを行う場合は、農協の生産部会など、同じ作物を栽培していたり、連携して取り組みを行ったりする複数の農家が1つの計画を作成し、グループとして認定を受けられます。

グループとして認定を受ける場合も、具体的な申請方法は都道府県か市町村に問い合わせてください。

みどりの食料システム法の認定を受ける農家のメリット

農業 トラクター 大規模化

hamahiro / PIXTA(ピクスタ)

農家が「みどりの食料システム法」の認定を受けることで得られるメリットは、主に次の4つです。

  • 農業資金の融資が無利子・低利子で受けられる
  • 一部の行政手続きが簡素化される
  • 設備導入時の所得税・法人税の負担が軽くなる
  • 一部の補助金の採択で優遇される

それぞれのメリットについて、次項で詳しく解説します。

農業資金の融資が無利子もしくは低利子で受けられる

「みどりの食料システム法」の認定を受けた農家は、取り組みの実行に必要な設備投資への資金繰り支援として、日本政策金融公庫の「農業改良資金」を借り入れできます。

この「農業改良資金」は、融資限度額が個人で5,000万円、借入の全期間にわたって無利子で、償還期間12年と条件のよい資金です。

出典:株式会社日本政策金融公庫「農業改良資金(農業者向け)」

設備導入時の所得税・法人税の負担が軽くなる

化学肥料・化学農薬の使⽤低減の取り組みを行う場合に限り、「みどり投資促進税制」が適用されます。適用されると、必要な設備を導入する際、通常の償却額に、次の割合で上乗せして償却できる特別償却が導入できます。

  • 機械等:取得価額×32%
  • 建物等:取得価額×16%(機械等と一体的に整備した場合)

例えば、700万円で耐用年数7年の機械を導入した場合、1年目の償却額は通常100万円のところが、取得価格の32%である224万円を上乗せし、324万円と計上できます。

みどり投資促進税制 特別償却の仕組み

出典:農林水産省「環境政策 みどりの食料システム戦略 みどりの食料システム法について」内「法律」の項所収「みどりの食料システム法の認定制度等について」よりminorasu編集部作成

これにより、設備導入当初の所得税・法人税の税負担が軽くなります。なお、対象者は「みどりの食料システム法」の計画認定を受けた、青色申告を行う農業者または、その農業者の組織する団体です。

また、対象となる設備などは、以下の条件を満たしたものに限られます。

  • 取得価額の合計額が100万円以上であるもの
  • 国の確認を受けた設備・機械メーカーのもの(注)
  • 計画認定されて以降、2024年3月31日までに導入したもの

注:「国の確認をうけた設備・機械メーカー」については、農林水産省のホームページに掲載されています。

出典:農林水産省「環境政策 みどりの食料システム戦略 みどりの食料システム法について」
「みどり投資促進税制」の項所収「みどり投資促進税制パンフレット」
「法律」の項所収「みどりの食料システム法の認定制度等について」

農地転用許可など、一部の行政手続きが簡素化される

モデル地区として「特定環境負荷低減事業活動実施計画」の認定を受けた場合、「農地転用許可」や「補助金等交付財産の目的外使用」などの行政手続きをワンストップ化できます。

ワンストップ化とは、認定を受けた計画に従って農地を転用したり、補助金などを目的外に使用したりする場合に、はじめから農地転用や目的外使用の許可があったものとみなされるしくみで、これによって許可を得る手順を省略できます。

強い農業づくり交付金など、一部補助金の採択で優遇される

認定を受けると、「みどりの食料システム戦略推進交付金」をはじめ、以下のようなさまざまな国庫補助事業の採択審査においてポイント加算され、採択されやすくなります。

  • 強い農業づくり総合支援交付金
  • 産地生産基盤パワーアップ事業のうち新市場獲得対策のうち国産シェア対策
  • 国内肥料資源利用拡大対策事業
  • 農地利用効率化等支援交付金
  • 農山漁村振興交付金
  • 茶・薬用作物等地域特産作物体制強化促進
  • 果樹農業生産力増強総合対策
  • コメ・コメ加工品輸出推進緊急対策事業
  • 持続的畑作生産体系確立緊急支援事業 など

出典:農林水産省「環境政策|みどりの食料システム戦略 みどりの食料システム法について」内「予算説明資料」の項所収「みどりの食料システム法の認定による主な補助事業等の優先採択に係る検討状況」

▼農業関連の補助金について、網羅的に知りたい方は、「komeney」内の以下の記事をご覧ください。

みどり認定で優遇される補助金・交付金の例

前項で触れた、「みどりの食料システム法」の認定を受けると採択審査において優遇される補助金・交付金のうち、特に農家に関係があるのは次の4つです。

  • みどりの食料システム戦略推進交付金
  • 強い農業づくり総合支援交付金
  • 産地生産基盤パワーアップ事業
  • 農地利用効率化等支援交付

以下の項目で、それぞれの交付金や事業について詳しく解説します。

みどりの食料システム戦略推進交付金

「みどりの食料システム戦略推進交付金」とは、環境負荷の低減や農林水産業の持続的発展をめざして、各地域の状況に応じた地域ぐるみのモデル地区創出を支援するための交付金です。農林水産業の生産力向上と持続性の両立を促すことを目的としています。

この交付金には複数の事業があり、目的に合った事業を選択できます。事業ごとに支援内容や事業実施主体が異なります。事業は毎年見直されるので、最新の事業内容を常にチェックしましょう。例えば、2023年度では以下のような事業があります。

  • 推進体制整備
  • 有機農業産地づくり推進
  • グリーンな栽培体系への転換サポート
  • SDGs対応型施設園芸確立
  • 地域循環型エネルギーシステム構築
  • バイオマス地産地消の推進
  • バイオマス地産地消施設整備

出典:農林水産省「環境政策|みどりの食料システム戦略 みどりの食料システム法について」内「(参考)みどりの食料システム戦略推進交付金の交付等要綱等」の項所収「みどりの食料システム戦略推進交付金交付等要綱」(13~16ページ)

この中でも、特に「グリーンな栽培体系への転換サポート」では、「グリーンな栽培体系」への転換を目的としたスマート農業機械などの導入に対して支援を受けられます。

なお、「グリーンな栽培体系」とは、環境負荷の低い栽培技術と省力化につながる技術を、それぞれ1つ以上取り入れた新たな栽培体系のことです。

また、支援を受けられる対象機械は、自動操舵システム、直進アシスト機能付き農機や無人自動走行農機、小型ロボットや農業用ドローン、水管理システムなど多岐にわたります。

取り組み事例や詳細はこちらをご覧ください。
農林水産省「農産|グリーンな栽培体系」

強い農業づくり総合支援交付金

産地の収益力を強化し、持続的な発展や食品流通の合理化などを通して「強い農業」を作るために、必要な産地基幹施設や卸売市場施設などの整備を支援する交付金です。

加工用・業務用野菜の出荷量を拡大することや、2050年までに化石燃料を使用しない園芸施設に完全移行することなどを目標にしています。

この事業は、主に産地の強化・合理化に向けた支援と、食品流通の合理化のため卸売市場の施設整備などに向けた支援に分かれます。農家に関係するのは前者で、具体的にはスマート農業や、産地での戦略的な人材育成に必要な施設の整備などを支援します。

出典: 農林水産省「強い農業づくりの支援| 2023年度 強い農業づくりの支援に係る関係通知について」所収「PR版(強い農業づくり総合支援交付金)」

▼詳細はこちらの記事をご覧ください。

産地生産基盤パワーアップ事業

「産地生産基盤パワーアップ事業」は、産地の収益力を強化する取り組みを計画的に行う支援です。その産地の農家が、収益力向上のためにスマート技術など高性能な機械や施設を導入し、栽培体系を転換する場合などに総合的に支援します。

具体的には、AI選果機や野菜の選別・パック詰めロボットなどを備える施設、その他、都道府県や地方農政局⻑が特に認める施設の新たな整備や改修について、補助率1/2以内で支援します。

また、収益力強化のため農業機械や設備を取得したりリース導入したりする際の支援や、輸出など新市場獲得のための貯蔵・加工施設の整備、流通の効率化に向けた機械や施設の整備のための支援、生産基盤の強化・継承への支援、堆肥を活用することによる全国的な土作りへの支援など、その支援内容は多岐にわたります。

出典:農林水産省「強い農業づくりの支援|産地生産基盤パワーアップ事業関係情報」

▼産地生産基盤パワーアップ事業については、以下の記事もご覧ください。

農地利用効率化等支援交付金

この事業は、地域が目標とする将来の集約化に向けて農地利用を進め、そのための経営改善を行う場合に、必要となる農業用機械や施設の導入を支援するものです。

2023年度までに、地域の全農地面積に対して担い手が利用する面積の割合を8割に増加することを目標としています。

その実現のために、スマート農業の導入や中山間地域などにおける集約型農業に向けた機械の導入、「みどりの食料システム戦略」の方針に沿った環境負荷を軽減する営農に必要な機械などの導入などを支援します。

出典:農林水産省「経営体育成支援|農地利用効率化等支援交付金(令和5年度)」所収「農地利用効率化等支援交付金PR版」

「みどりの食料システム法」は、農業が抱えるさまざまな問題を解決すると同時に、収益性を高め、持続可能な強い農業を実現するために、農家や地域ぐるみの計画的な取り組みを支援します。

その事業内容は多岐にわたり、認定を受ければ多くのメリットを得られます。収益アップや規模拡大、経営改善に向けて自身がすでに進めている、あるいはこれから導入しようとしている取り組みがあれば、認定を得られる可能性があります。

どの事業に該当するのかを調べ、計画書を作成し、積極的に申請してみましょう。

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大曾根三緒

大曾根三緒

ビジネス、ペット、美術関連など多分野の雑誌で編集者として携わる。 全国の農業協同組合の月刊誌で企画から取材執筆、校正まで携わり、農業経営にかかわるあらゆる記事を扱かった経験から、農業分野に詳しい。2019年からWebライターとして活動。経済、農業、教育分野からDIY、子育て情報など、さまざまなジャンルの記事を毎月10本以上執筆中。編集者として対象読者の異なるジャンルの記事を扱った経験を活かし、硬軟取り混ぜさまざまなタイプの記事を書き分けるのが得意。

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