栄養成長・生殖成長とは? 作物の成長過程に応じた栽培管理の考え方
植物の生育段階は栄養成長・生殖成長・登熟期間の3時期に分かれています。作物の増収や品質向上を目指すには、生育段階に応じて適切な栽培管理を実践することが重要です。この記事では、栄養成長と生殖成長の違いや成長過程に応じた栽培管理の考え方について解説します。
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栄養成長は栄養器官の形成、生殖成長は生殖に関わる成育を担っています。しかし、成長過程、栄養成長から生殖成長への切り替わりのタイミングは作物によって異なります。この記事では、栄養成長と生殖成長の定義、両者の違い、切り替わる条件、栽培管理などについて解説していきます。
栄養成長・生殖成長とは?
植物は栄養成長で体を大きくした後に、種を残す生殖成長に切り替わります。植物によっては、栄養成長と生殖成長が同時に進行する場合もあります。
栄養成長とは、植物体をつくる葉や茎などの栄養器官を作り出すプロセスです。根の発達、分げつ、分枝、茎葉の成長、草丈の伸長などがみられます。栄養成長の期間は植物の発芽から花芽分化が始まるまでです。栄養成長期間の長さは、気温、日長などによって変化します。栄養成長の状態は、生殖成長に影響を与えます。そのため、栄養成長期の栽培管理は収量増加にとって重要です。
また、生殖成長とは花など、子孫を残すための生殖器官を形成し、種子や果実を作るプロセスです。開花後に茎葉の生育が衰える植物がある一方で、大豆のように開花後も栄養成長と生殖成長が共存していく作物や、きゅうりやトマトのように茎葉が枯れるまで生殖成長と栄養成長を共存させながら繰り返す作物もみられます。
したがって、栄養成長と生殖成長のバランスを考えて栽培管理を実践することが収量を確保するための重要なポイントです。
具体的な違いは? 栄養成長期・生殖成長期に起こること
栄養成長期と生殖成長期に起こることについて、それぞれ解説します。
栄養成長期に起こること
Kei / PIXTA(ピクスタ)
栄養成長は植物を播種した段階で始まり、発芽した後は根から吸収した養分と光合成で作り出した有機化合物を使って植物体が成長していきます。葉などの光合成器官も増えていくため、有機化合物の生産量も増加し、デンプンなどとして貯えられ、生殖成長へと移行していきます。
ただし暖地における水稲のように、最高分げつ期から幼穂形成期までの期間が長い作物もあります。栄養成長期でありながら、茎数が減っていく状態です。
生殖成長期に起こること
一般的には、栄養成長が十分に進み、植物体内に有機化合物を貯えはじめるようになると生殖成長への切り替わりの時期を迎えます。生殖成長では花芽が形成された後、開花、受精を経て果実・種子が作り出され種の維持につながっていきます。生殖成長に切り替わると収量・品質が低下する恐れのある作物もあります。
栄養成長から生殖成長へ切り替わる条件
栄養成長の過程で、さまざまな条件が整うと生殖成長に切り替わります。温度、日長、C/N比(炭素率)という主な条件について解説します。
温度
秋に発芽して冬を経てから春に開花する作物の場合には、長期間の低温がなければ生殖成長に移行しません。これは、冬に開花することを防ぐために、遺伝子が花を作ることを妨げているためであると考えられています。ただし、春に種をまいて発芽する作物については、温度と生殖成長への移行との関係は、明らかにされていません。
日長
日長とは昼の時間の長さのことです。植物には以下の通り、日長条件により花芽形成の時期が決まる植物があります。
- 長日植物:日長が一定時間よりも長くなる場合に生殖成長を始める。大根、ほうれん草など
- 短日植物:日長が一定時間よりも短くなる場合に生殖成長を始める。水稲、大豆など
- 中性植物:生殖成長の開始が日長とほとんど関係がない。トマト、きゅうりなど
C/N比(炭素率)
C/N比(炭素率)とは、糖(炭素源、C)と窒素源(N)のバランスのことです。窒素肥料の施肥量を減らしたりすることによって、作物が高C/低N状態になると、花芽形成が促進されます。反対に低C/高N状態であると、生殖成長期への移行がスムーズに進行せず、花芽形成が遅れます。
栄養成長期・生殖成長期で異なる、栽培管理の考え方
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収量・品質を向上させるためには、作物ごとに栄養成長と生殖成長のタイミングを見極めた上で、施肥バランスや潅水量などを管理していくことが重要です。施設栽培の場合は温度、湿度、日照時間、CO2濃度の管理も加わります。
栄養成長期には光合成の促進が必要不可欠なので、窒素の施用や潅水を十分に行います。窒素過剰が起こると植物が徒長し、反対に窒素不足になると植物が十分に生育しなくなり収量低下を招く恐れがあるため要注意です。
一方、生殖成長期に移行させたい場合は、一般的には窒素量・潅水量ともに減らします。生殖成長期では、窒素を過剰に与えると、徒長してしまうことが一般的です。栄養成長と生殖成長が共存する作物の場合は、栄養成長と生殖成長のバランスを考えて施肥するのが収量を最大化するポイントです。
【作物別】 栄養成長期・生殖成長期の管理方法
栄養成長期と生殖成長期における適切な栽培管理方法は、作物によって異なります。作物の特性別に管理方法を解説します。
【栄養成長期に収穫する野菜】キャベツ・大根など
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キャベツや大根ほうれん草などは、葉、茎、根などの栄養器官が大きく成長した栄養成長期に収穫します。そのため、花芽分化をさせない、トウ立ちさせないなど、生殖成長期に入らないように管理するのが重要です。
例えばキャベツの場合は、平均気温13℃以下で、平均最低気温が10℃以下の期間が1ヵ月以上続くと花芽分化が起こり、トウ立ち(抽苔)してしまいます。秋播き栽培の作型で多発する傾向なので、早播きを避けて年内は生育を抑制し、翌春の追肥で生育を促進するのがトウ立ちを防ぐポイントです。
【生殖成長期に収穫する作物】ブロッコリー・水稲・メロンなど
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ブロッコリーや水稲やメロンといった生殖成長期に収穫する作物は、葉や茎を成長させた後に生殖成長へ移行させ、花蕾や種子や果実の部分を収穫します。そのため、施肥量や温度・潅水状態を管理した上で適切なタイミングで生殖成長へ切り替えることが重要です。
例えば水稲の場合、幼穂形成期を過ぎても低C/高N状態であると栄養成長から生殖成長に移行できず、花芽形成が遅れたり徒長したりして収量低下の原因になります。各地域の自治体やJAの指導に従って、適期に穂肥を行い、穂の形成に必要な養分を与えます。ただし、穂肥の量が多すぎると過繁茂や倒伏を引き起こす恐れがあるので注意が必要です。
▼水稲の追肥については、こちらの記事をご覧ください。
【栄養成長・生殖成長が同時に進行する野菜】トマト・ナス・きゅうりなど
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トマト、ナス、きゅうりなどは、栄養成長と生殖成長が同時に進行する野菜です。栄養成長と生殖成長のバランスを保つことが重要です。栄養成長に比重がかかりすぎると、過繁茂となり収量の低下を招きます。また、生殖成長に比重がかかりすぎると、一時的に果実は多く収穫できるものの、やがて品質・収量の低下を招きます。
きゅうりやナスは、種子形成までには至らない果実を収穫する作物です。長く収穫できるような施肥設計が必要です。一方、トマトは種子形成まで果実を成熟させます。それぞれの作物に応じた栽培管理が求められます。
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栄養成長は植物体を大きくする時期であり、生殖成長は果実・種子を作り出す時期です。栄養成長と生殖成長が切り替わるのは花芽分化の時期ですが、温度日長、C/N比(炭素率)によって変化します。作物の特性に合わせて生殖成長への切り替え時期をコントロールし、収量の最大化を目指しましょう。
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舟根大
医療・福祉業界を中心に「人を大切にする人事・労務サポート」を幅広く提供する社会保険労務士。起業・経営・6次産業化をはじめ、執筆分野は多岐にわたる。座右の銘は「道なき道を切り拓く」。