イチゴの追肥時期は?育苗中・定植後の施肥設計とやり方
イチゴ栽培の追肥は、気候や品種特性に合わせてタイミングややり方が異なります。本記事では、一季成り性品種のイチゴの追肥について「育苗中」と「定植後」に分けて解説します。全量基肥の場合や露地栽培、施設栽培での違い、施肥設計のポイントも参考にしてみてください。
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イチゴは肥料切れや肥料過多の影響を受けやすいため、イチゴ栽培において施肥管理は品質を左右する重要なポイントです。本記事では、土耕栽培における追肥に重点を置き、やり方やタイミング、注意点を解説します。
イチゴの追肥は「育苗中」と「定植後」に行う
LEICA / PIXTA(ピクスタ)
イチゴの品種は大きく「一季成り性品種」と「四季成り性品種」に分類されます。両者の違いは、花芽分化の特性と栽培・収穫時期にあり、一季成り性品種は春季に限って開花します。
土耕栽培における一季成り性イチゴの追肥タイミングは、主に「育苗中」と「定植後」に分けられます。
育苗中(採苗後)では、全量基肥を行う体系もありますが、一般的には基肥を適量施用し、苗の様子を見ながら適宜追肥を行います。育苗期の追肥は、窒素切れによる不時出蕾や、定植後の芯止まりを発生させないように注意します。
本圃への定植後では、露地栽培と施設栽培で追肥のタイミングや回数が異なります。
露地栽培の場合、苗の活着後と開花後で計2回の追肥を行うのが基本です。施設で促成栽培を行う場合は、生育状況を確認しながら複数回追肥します。
▼肥料の選び方については、以下の記事も参照してください。
※本記事では、栃木県とちおとめの栽培技術資料、栃木県及び神奈川県の施肥基準を参考に施肥量を紹介しています。施肥量は、品種や作型・作期によって異なります。必ず、地域の農業試験場や営農部署に施肥基準を確認してください
【施肥量】 高品質なイチゴを作る追肥のやり方
マハロ / PIXTA(ピクスタ)
イチゴ栽培で追肥を行う場合の具体的な施肥設計や肥培管理の方法を解説します。
育苗中(基肥+追肥)
Ystudio / PIXTA(ピクスタ)
育苗中の追肥は、基肥によって追肥の必要性が異なるので、基肥と併せて体系的に考えることが重要です。特に窒素分を含む培地を使う場合には、窒素過多に注意して施肥量を調整します。
また、作型や育苗方法によっても施肥量を調整する必要があります。
無処理
温度調節などをしない施設で育苗する場合、株当たり窒素施用量100~200mgを目安に施肥します。育苗方法がポット、セル、小型ポットいずれであっても同様です。
ポット育苗の基肥では、例えば燐硝安加里や有機質肥料を混用することがあります。追肥では、灌水を兼ねて液肥や葉面散布剤を散布します。IB化成肥料やポット育苗用錠剤肥料なども施用できます。
低温暗黒処理
低温暗黒処理を行う場合は、苗の体内窒素レベルを下げる必要があるため、窒素施用は控えめに、1株当たり窒素施用量70~120mgを目安とします。育苗方法はポットが基本です。施肥は無処理のポット育苗と同様に行いますが、冷暗所に入れる約1ヵ月前からは追肥を控えます。
夜冷処理
夜冷処理による育苗の場合は、低温暗黒処理よりさらに窒素施用量が少なく、ポットで70~120mg、コンテナやセルトレイで40~70mgを目安とします。
ポットによる育苗では、こまめに灌水と追肥を行いますが、育苗期の後半では灌水を減らしていきます。
セルトレイでは、液肥を用いて、窒素成分で株当たり5mgほどを5日間隔で施用します。夜冷処理前に20mg程度、夜冷処理中も適宜施肥を行います。追肥は根が活着したあとで始めます。
いずれの処理においても、肥料切れを起こさないように注意深く草勢や葉色などを観察し、追肥のタイミングを見計らいます。特に、高温のため灌水が多かった場合は肥料切れしやすいので注意します。
育苗中(全量基肥)
イチゴ栽培では、育苗培土に肥効調節型肥料を施用した全量基肥で、追肥を省力化する施肥体系もあります。肥効調節型肥料は、肥効成分が徐々に溶出していくという特徴があります。そのため、根が浅く肥料焼けしやすいイチゴに適しています。
ただし、肥料利用率が通常の化成肥料に比べて高いので、施用量は控えめにし、育苗期の後半では生育状況に応じて追肥を行います。
また、イチゴの育苗期間は高温期に当たるので、肥効調節型肥料の溶出速度が上がります。溶出量は育苗後半で少なくなるため、育苗日数より長めの溶出タイプを選びます。
定植後(施設土耕栽培)
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施設で土耕栽培を行う場合は、基肥に加えて液肥の追肥が基本です。追肥量や回数は、葉の色と着果状況に応じて調整します。
定植後のイチゴに必要な施肥量は、10a当たり窒素20~25kg・リン酸20~25kg・カリ20~25kg程度とされています。
例えば栃木県の施肥基準によると、10a当たりの基肥は窒素15kg・リン酸20kg・カリ20kgで、追肥は窒素1kg・カリ1kgで計5回とされています。(品種:とちおとめ、とちひめ)
また、神奈川県の施肥基準をみると、10a当たりの基肥は窒素15kg・リン酸20kg・カリ15kgですが、追肥は窒素2kg・カリ2kgで4回とされています。(品種:とちおとめ、章姫、さちのか、さちのか、紅ほっぺ、やよいひめ、かなこまち)
出典:
栃木県「農作物施肥基準」所収「野菜類|果菜類」
神奈川県「神奈川県作物別施肥基準」所収「全体版」
定植後(露地栽培)
露地栽培では、基肥のほか10~11月に1回追肥を行うことで、根を張らせて越冬させることができます。さらに3~4月頃に開花が始まったタイミングで追肥を行い、計2回の追肥を行うのが基本です。
堆肥が多く投入されていたり、残存肥料が多かったりするほ場では、土壌診断に基づいて、窒素過多に注意しながら基肥の窒素施用施肥量を調整します。
露地栽培のイチゴに必要な施肥量は、施設土耕栽培とおよそ同じです。神奈川県の施肥基準によると、10a当たりの基肥は窒素15kg・リン酸20kg・カリ15kg、追肥は各7kgで1回とされています。
出典:神奈川県「神奈川県作物別施肥基準」所収「全体版」
なお、施用に当たっては、イチゴは肥料焼けを起こしやすいため、直接肥料が根や葉に触れることのないように注意してください。
追肥で失敗しない! イチゴの施肥設計“3つのポイント”
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イチゴの追肥を適切に行い、肥料切れや窒素過多を防ぎつつ高品質な偽果(花托)を作るためには、次の3つのポイントを押さえた施肥管理が重要です。
- 窒素欠乏には液肥を使う
- 過剰施肥を避ける
- カルシウムの施用を意識する
窒素欠乏には液肥を使う
肥料が不足し、窒素が欠乏すると、イチゴでは生育の抑制や葉の黄化、葉面積の減少などの症状が現れ、収量の低下につながります。
窒素欠乏の症状が見られた場合は、液肥によって速やに窒素を供給することが重要です。固形の肥料ではなく液肥を施用することで、効率よく無機態窒素を吸収することができ、迅速な回復が見込めます。
過剰施肥は避ける
作物は、生育に必要な土壌成分、日射、灌水、施肥、温湿度などの環境のバランスが崩れると、生理障害や栄養障害が発生します。
イチゴを大きく、そして甘くするには、肥料は不可欠ですが、過剰になれば、細根の発育を阻害したり、生理障害や病害の発生を助長したりすることがあります。
施肥回数や施肥量は、基本の値にこだわらず、草勢を見て加減することが重要です。基肥を控えめにして、様子を見ながら追肥をすると調整しやすくなります。
カルシウムの施用を意識する
イチゴはカルシウムが不足すると「チップバーン」という生理障害が発生します。チップバーンが発生すると、細胞分裂の活発な新葉の縁、がく片の先端などがところどころ褐変し、チップのように見えます。
見た目が悪くなるほか、苗に発生して症状が悪化すると枯死することがあります。さらに、定植後に発生すれば葉が育たず生育不良となったり、がく片に症状が出てイチゴが正常に育たなかったりするため、収量の大幅な減少につながります。
応急処置としては、塩化カルシウム液の葉面散布が効果的です。ただし、カルシウム不足を防ぐには、ただカルシウムを施用すればよいだけではありません。次の2点に留意し、株自体の吸収する力を維持することと、環境整備の両面から対策を取ることが必要です。
○根を健全に生育させる
苗の頃から根を十分に発達させ、カルシウムをはじめ養分の吸収をよくすることが重要です。
○土壌を理想的な塩基バランスに整える
作物の育成に当たり適切な土壌の塩基バランスは、一般的にカルシウム・マグネシウム・カリウムがそれぞれ5:2:1の割合とされています。このバランスが崩れると、拮抗作用によって、いずれかの栄養素が吸収されにくくなるといわれます。
そのため、土壌中のカルシウムが不足している場合、作付け前に苦土石灰を施用したり、追肥にはカルシウム成分を含む肥料を施用したりすることも重要ですが、マグネシウムやカリウムもバランスよく含む土作りを心がけることも大切です。
イチゴの生理障害「チップバーン」
写真提供:HP埼玉農作物病害虫写真集
甘くて大きく品質のよいイチゴを生育するためには、適切な追肥が欠かせません。しかし、イチゴは生育フェーズや栽培方法別に肥培管理の方法が異なります。肥料は、必要な分量・回数を見極め、肥料切れや過剰施肥とならないように注意が必要です。
慣れないうちは、本記事で紹介した目安の値を参考にしながら、地域で同じ品種を生育する人に聞いたり、JAや農業改良普及センターに相談したりして少しずつ施肥量を調整し、イチゴの品質向上をめざしてください。
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大曾根三緒
ビジネス、ペット、美術関連など多分野の雑誌で編集者として携わる。 全国の農業協同組合の月刊誌で企画から取材執筆、校正まで携わり、農業経営にかかわるあらゆる記事を扱かった経験から、農業分野に詳しい。2019年からWebライターとして活動。経済、農業、教育分野からDIY、子育て情報など、さまざまなジャンルの記事を毎月10本以上執筆中。編集者として対象読者の異なるジャンルの記事を扱った経験を活かし、硬軟取り混ぜさまざまなタイプの記事を書き分けるのが得意。