そばの栽培は儲かる?その方法は?品質と利益を上げる栽培マニュアル
「品質のよいそばを作りたい」「収量をもっと増やしたい」そば栽培に関わる農家にとって、これらは常に取り組み続けるべきテーマといえます。しかし、栽培方法を少し工夫するだけで、こうした問題を解決して単収の増加を実現することは可能です。この記事では、そばの品質や利益向上につながる栽培方法のポイントを紹介します。
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そばの栽培において、基本的な栽培方法を知っておくことはもちろん重要ですが、品質の向上や収量を増加させるためには、押さえておくべきポイントがあります。
この記事では、そば栽培者向けに基礎知識と収益をあげるための工夫を網羅しました。
ちょっとした工夫で今まで以上の収益を得ることが可能になり、より品質のよいそばを収穫できるようになるので、ぜひ参考にしてみてください。
そばの栽培に関する基礎知識
reeangle / PIXTA(ピクスタ)
そばの栽培には、最低限知っておかなければならないポイントがあり、それを踏まえて栽培することで、品質の向上や利益の拡大につながります。この記事では、そのポイントについて紹介していきましょう。
そばの国内需要と生産動向(作付面積の推移)
栽培方法に触れる前にまず、生産物としてのそばの国内需要と、生産動向について押さえておきましょう。
そばの国内作付面積は、2010年の時点で4.8万haだったのに対し、2019年には6.5万haと、約10年の間におよそ1.4倍に増加しています。
ところが、作付面積と生産量とが比例せず、2015年から2016年にかけては、作付面積が2,400haほど増加したにも関わらず、生産量は6,000tも減少しました。
つまり、現状では、そばの生産量は安定しているとはいい難いのですが、それには大きく2つの理由が考えられます。
1つは、そばは湿害に弱いため、大雨などの天災の影響を受けやすいこと。もう1つは、そばは水稲からの転作作物として栽培されることが多く、米の需給調整の影響を大きく受ける傾向があるためです。
一方で、そばの国内需要(国内消費仕向量)は、年間12〜13万tの間で安定して推移しており、平成25年度(2013年)には14万tまで上昇しています。年々そばの国内需要は高まっており、このうちの国産そばの供給は約3〜4万tとなっています。
出典:農林水産省「そば及びなたねをめぐる状況について(平成27年1月)」
このように、そばは安定した需要があるにも関わらず収量の変動が大きいため、食品メーカーなどの需要者からは安定的な国内生産が求められている作物といえます。
栽培に適した土壌・気候
そばは生育期間が短いため、日本で栽培されているのは、主に「夏型(春まき型)」と「秋型(夏まき型)」の2種類です。作型によって、栽培暦や播種時期も異なります。
夏型…5月頃に播種し、7月頃に収穫する。
秋型…7〜8月頃に播種し、10月頃に収穫する。
このように、それぞれ播種や収穫の時期が決まっており、秋型品種と夏型品種を同時に栽培することはできません。夏型品種を秋型の時期に栽培することは実質的には可能ですが、日照時間などの影響により実がほとんど着生せず、収量が減ってしまうためおすすめできません。
栽培方法と品質の高いそばを作るためのポイント
r.s / PIXTA(ピクスタ)
品質のよいそばを栽培するには、準備から収穫に至るまでにはさまざまな注意点があります。1つずつポイントを押さえていきましょう。
ほ場の準備&施肥
まずはほ場を準備する必要があります。そばは成長速度が速いため、雑草防除の目的で深く耕す必要はありませんが、ロータリー耕や鍬で土を細かく砕いておけば、出芽率を高めることができます。また湿害には極めて弱いため、水はけのよい土壌を選ぶことと、土壌の排水性を高めておくことが重要です。
そばはやせた土地が適しているため、無肥料でも栽培可能といわれますが、実は肥料を与えた方が収量は増加するということが実証されています。
基本的に堆肥であれば、10a当たり500kgから1tほど施します。そばは根張りが浅く茎が弱いため、肥料のバランスに注意しないと倒伏しやすくなります。
特に窒素成分が過剰になると茎が徒長し倒伏しやすくなるため、前作の肥料の残効のある土壌では、施用量を控えた方がよいでしょう。
播種
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播種の時期は、夏型は5月頃、秋型は7〜8月頃です。播種量は10a当たり4〜6kgが標準で、畦幅は30〜50cm程度空けるとよいでしょう。畦の中の播き幅は、10cm前後に保つようにします。
収穫にコンバインの使用を想定している場合には、散播でも問題ありません。深さは1cmほどに撒き、足で軽く鎮圧しておきます。間引きは基本的に必要ありませんが、密植状態にはならないように注意します。
除草&病害虫防除
そばの栽培では、除草の必要はありませんが、暖かい地域で夏型の品種を栽培する場合には、雑草が発生しやすいので、畦間の除草を行います。土寄せをすると収量が多くなるので、除草をする際には同時に土寄せすることをおすすめします。
さらに、そばは害虫による被害がほとんどないため、病害虫防除なども基本的に必要ありません。ただし、ヨトウムシによる葉・茎・種実の食害には注意が必要です。害虫対策をする場合には、訪花昆虫に影響のない登録農薬を用います。
収穫
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収穫時期に関しては、夏型が7月頃、秋型は10月頃に収穫します。収穫適期の見極めが難しく、完全に黒褐色に変化した子実が全体の何%を占めるか(黒化率)で判断するのがポイントです。
手刈りによる収穫の場合、基本的には子実の色が60%以上黒褐色に変化したら収穫しますが、コンバインで収穫する場合は80%以上になるまで待ちましょう。
乾燥と調整
乾燥機によって仕上げを行います。
通常は平型静置乾燥機や循環式乾燥機を使用しますが、できれば乾燥ムラのない循環式乾燥機の使用をおすすめします。
最終的に子実水分は15~16%、子実の整粒歩合は75%以上になるよう調整します。
出典:九州沖縄農業研究センター
刈り取った穂を束にしてほ場に立て、1〜2週間程度置いたまま乾燥する「島だて乾燥」は、一般に食味や香りがよいといわれていますが、降雨の影響をうけやすく含水率にばらつきがでるというリスクもあります。
交雑と種子更新
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ここまで栽培の流れをひと通り紹介しましたが、注意事項として「交雑」と「種子更新」について付け加えておきます。
交雑
そばは、昆虫などによって他の個体から運ばれた花粉によって実を結ぶ「他家受粉植物」です。そのため、近くのほ場で栽培されている他品種と交雑しやすい作物です。
交雑率が高いと当然ながら収穫したそばの品質が揃いにくくなるため、作付けの際は、ハチの行動範囲といわれる概ね2Km以内に他の品種が栽培されていないかを確認します。
種子更新
近年は新しい品種が開発されているとはいえ、在来種を自家採種して栽培している農家が多い状況です。
在来種の自家採種を繰り返していると、気をつけていても交雑が起き、そばの特性にばらつきがでてきます。そこで、品種固有の特性を維持するため、採種用には、特性や由来の確かな種子を、農業試験場や、JA、種苗店などから入手してつかいます。これを「種子更新」といいます。
採種用種子の供給状況にもよりますが、可能ならば毎年、少なくとも3~4年に一度は種子更新を行うことが望まれます。
そば栽培で儲けるには?収益を上げるコツ
秋AKI / PIXTA(ピクスタ)
農業経営の中で、そばを主力作物として栽培するためには、栽培を継続するだけの利益を確保できるかどうかが重大なポイントとなります。そこで最後に、そばの栽培でより多くの収益をあげる方法について紹介します。
夏型と秋型の二期作栽培を行う
どのような作物でもいえることですが、収益をあげるためには作付け面積あたりの収量を増やすことが必要です。そば栽培でもっとも効率的な方法は、夏型と秋型の二期作栽培を行うことです。
二期作栽培を採用すれば、1度しか収穫しない単作栽培に比べて、倍近い収穫が可能になります。また、農業経営の中でそば栽培の比重が大きくなれば、知識や技術、農機具などをそば栽培に必要なものに絞ることができ、作業の省力化・経営の効率化にもつながります。
最近は、播種から収穫までが45日間という新しい品種も登場しているので、そうした早生の品種を栽培するのもよいでしょう。
水稲、麦、大豆などとの二毛作・輪作を行う
水稲、麦、大豆などとの二毛作や輪作を行うことで、収益をあげる方法もあります。そばの作付け期間は4〜8月に播種をし、9〜11月に収穫するのが一般的です。例えば、秋口から春先にかけて栽培ができる麦類と組み合わせることで効率がアップします。
水田を利用して二毛作を行う場合、農林水産省の経営所得安定対策に基づいて、国から地方自治体へ交付される「水田活用の直接支払交付金(水田フル活用ビジョンに基づく産地交付金)」などの申請ができる場合があります。
申請は「地方農政局」または各都道府県、市町村の「地域農業再生協議会」に対して行います。各年度、各地方自治体によって対象作物や申請・支給の要件が異なるので、地方自治体の担当部署に直接確認してください。
※お役立ち情報:以下はそばと水稲の二毛作を実施している農家でのスマート農業の活用事例です。ご興味のある方はぜひご覧ください。
上関ふぁーむ
渡辺様・伊東様・伊東様
新潟県 2015年設立
構成員数:6名
水稲25ha / そば10ha
可変施肥による収量アップ。
営農の効率化、収穫タイミング等の正確さ向上
農地の拡大による、管理工数の増大
いもち病などへの対処までのタイムラグ
生育マップで薄い部分に重点的に施肥する可変施肥を実施。追肥の判断も生育マップで行い、コシヒカリの収量を10aあたり0.7-0.8トンの収量増加。
生育ステージ予測機能における収穫タイミングの見える化で作業の正確性が向上
ザルビオの病害アラートにより病害虫の発生にすぐ気づくことができるようになった
暖かい地域で時期を早めて栽培する
九州などの暖かい地域では、夏型品種を栽培することで早めの収穫が可能です。ほかの地域よりも早い3月中旬〜4月上旬頃に播種できるため、生育期間の短い品種であれば6月上中旬頃までに収穫ができます。これを「そば春まき栽培」といい、温暖な地域ではおすすめの栽培方法です。
そば春まき栽培の最も大きなメリットは、ほかの地域よりも早く出荷できることです。そばの需要は5月頃から上昇し夏季にピークを迎えるため、ピーク時に出荷を合わせることが可能となり、ほかの地域との差別化を図ることができます。
そば栽培における注意点や、収益を高める方法について紹介しました。今回紹介した注意点を参考にそばの品質向上をめざし、収量を増やすと同時に作業の効率化を図ってみてください。そばの需要が高まっている今こそ、そば栽培で経営を安定させるチャンスかもしれません。
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鎌上織愛(かまがみおりえ)
北海道出身。両親は北海道で農業を営む現役の農業者で、自身も幼少期より農作業を行う。農作物はもち米・人参・アスパラガス・とうもろこしを中心に、ハウス一棟を自家菜園として様々な種類の野菜を育成する。現在は食生活アドバイザーとして、ライターなどの執筆活動の傍ら、こどもの食育などに力を入れている。