そば栽培|儲かる農家の栽培マニュアル
そばは、栽培期間が短く病害虫にも比較的強いため取り組みやすい作物で、栽培面積は増加傾向にあります。そこで本記事では、そばの基本的な栽培方法と時期、さらに安定的に収量・品質を向上させ、「儲かるそば農家」になるための栽培ポイントについて解説します。
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そばは比較的痩せた土地でも育ちやすい、非イネ科の穀物です。幅広い気候や土壌に適応することから、全国各地で栽培されています。地域に適した作型や品種を選び、栽培のコツを押さえれば、収量や品質を上げ、収益アップも期待できます。
そばの栽培時期
reeangle / PIXTA(ピクスタ)
国内でそばの生産量が最も多いのは北海道で、2023年の収量では全体の39%を占めています。次いで茨城県・長野県・山形県・栃木県が主な産地として並びます。
出典:農林水産省「作況調査」所収「農林水産省|作物統計調査 令和5年(2023年)産そば(乾燥子実)の作付面積及び収穫量」
そばの主な作型は「夏型」と「秋型」の2種類です。北東北などの産地では夏型、西日本では秋型で栽培されることが多く見られます。 長野県では夏型と秋型が併存しています。
気候によって多少ずれますが、北海道を除く本州以西におけるそれぞれの作型は、基本的に以下のような栽培スケジュールに沿って行われます。
夏型…4~5月頃の春に播種し、7〜8月頃に収穫する。
秋型…7〜8月頃の盛夏に播種し、9~11月頃の秋から晩秋にかけて収穫する。
北海道では、ほかの産地とは異なる独自の栽培スケジュールがあります。上記の夏型・秋型のちょうど中間に当たり、5月下旬から6月にかけて播種し、8月下旬から9月にかけて収穫します。
また、秋型が主流だった九州・沖縄では近年、温暖な気候を活かして、栽培期間の短い品種を用いた“春播き栽培”が普及しています。この新たな栽培方法について、詳しくは後述します。
収量・品質を上げる、そばの栽培方法
r.s / PIXTA(ピクスタ)
そばの基本的な栽培方法に加え、収量・品質を高め、そば農家として成功するための栽培技術や工夫について解説します。
ほ場の準備
そばは湿害に極めて弱い作物であり、特に生育初期に湿害が発生すると、収量に深刻な影響を及ぼします。湿害を防ぐためには、水はけのよい土壌を選ぶことと、土壌の排水性を高めることが不可欠です。
排水不良のほ場では作付けしないことが基本です。水田転換畑など排水性の改善が必要な場合は、暗渠や明渠を設置したり、心土破砕をして透水性や通気性を高めたりするとよいでしょう。地下水位は40~50cm以下にします。
また、大きな土塊が多くても、細かい土塊が多くても発芽を妨げるので、砕土率を高める耕起が重要です。プラウやロータリーを使用して15~20cmの深度を目安に耕起し、均平に整地します。
耕起することで、雑草や前作の残渣などの有機物が鋤き込まれて、堆肥としての効果が得られ、土壌物理性も改善されます。
土づくり・施肥
そばはやせた土地でも比較的栽培しやすいといわれますが、収量・品質を安定的に向上させるには、適切な施肥が必要です。
堆肥を施用する場合は、10a当たり500~1,000kgほどを目安にします。堆肥によってリン酸の肥効がよくなったり、鉄・銅・マンガンなど成育に欠かせない微量要素が補給できたりする効果が得られます。
土壌診断をもとにほ場環境や土壌条件、栽培品種を考慮し、3~4年に一度は適正量の堆肥を施用すると、地力を維持できます。
また、土壌pHの調整も、収量の向上には欠かせません。そばは酸性土壌でも生育できますが、石灰資材を投入するなどして、適正酸度であるpH6.0程度に調整します。施用量は堆肥と同様に、土壌診断や地域の指導などを参考にして、適正な量を割り出します。
基肥の施用も、土壌の状態や作型に合わせて行います。生育期間が短い品種や作型では全量基肥を基本とし、窒素成分で10a当たり4~6kgを目安に、ほ場環境や品種を考慮して適正量を施用しましょう。
そばは根張りが浅く茎が弱いため、肥料のバランスに注意しないと倒伏しやすくなります。特に窒素成分が過剰になると、茎が徒長し倒伏しやすくなるため、前作の肥料の残効のある土壌では、施用量を控えることも検討してください。
播種
sayuri / PIXTA(ピクスタ)
播種の時期は、夏型は晩霜限界を過ぎて降霜の恐れがなくなってからの4~5月頃、秋型は収穫までに初霜が降らないことを見込んで7〜8月頃が目安です。
過度の早播きは過繁茂になり、倒伏のリスクを高めます。一方、秋型の場合は、播種時期が遅れて初霜に当たらないよう注意が必要です。
播種量は10a当たり4〜6kgが基本で、寒い時期に発芽する「春播き栽培」では少し多めの5~8kgとします。
畦幅は30〜50cm程度空けるとよいでしょう。畦の中の播き幅は、10cm前後に保つようにします。
収穫にコンバインを使用する場合には、散播でも問題ありません。深さ1cmほどに覆土し、軽く鎮圧します。
間引きは基本的に必要ありませんが、密植状態にならないように注意します。
そばの播種では、交雑を避けることや種子の更新も重要です。
そばは、昆虫などによってほかの個体から運ばれた花粉で実を結ぶ、「他家受粉植物」です。そのため他品種と交雑しやすく、交雑率が高いと、品種特性が変化して子実量が低下したり、成熟が不ぞろいになったりするリスクがあります。
ハチなどの昆虫の行動範囲とされるおよそ2km以内は他品種を植えないことで、交雑を避けましょう。
また、自家採種を繰り返していると交雑率が高くなります。品種固有の特性を維持するために、少なくとも3~4年に一度は由来の確かな種子を農業試験場やJA、種苗店などから入手して種子更新することが重要です。
除草・病害虫防除
そばは生長が早く、雑草よりも先に葉を広げられるので、基本的に除草の必要はありません。ただし暖地で夏型の栽培をする場合には、雑草が発生しやすいので、畦間の除草を行います。
除草をする際には同時に土寄せすることをおすすめします。中耕・土寄せによって、除草だけでなく土壌の通気性・排水性が向上し、根張りがよくなって倒伏しにくくなる効果も期待できます。
また、そばは害虫による被害がほとんどないため、病害虫防除なども基本的に必要ありません。ただし、ヨトウムシによる葉・茎・種実の食害には注意が必要です。害虫対策をする場合には、訪花昆虫に影響のない登録農薬を用います。
収穫
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収穫時期は、基本的に夏型が7~8月頃、秋型は9~11月頃です。そばは収穫適期の見極めが難しく、完全に黒褐色に変化した子実が全体の何%を占めるか(黒化率)で判断するのがポイントです。
手刈りによる収穫の場合、基本的には黒化率が60%以上で収穫しますが、コンバインで収穫する場合は80%以上になるまで待ちましょう。
乾燥・調整
収穫後、種子に水分が多く含まれた状態で長時間放置すると風味を損なうので、速やかに乾燥機によって仕上げを行います。
乾燥機には「平型静置乾燥機」や「循環式乾燥機」があります。
循環式乾燥機は、種子を循環させながら乾燥するため乾燥ムラがなく、一度に大量の種子を乾燥できるので効率的です。
平型静置乾燥機を使用する場合は、送風温度を30℃以下に設定し、乾燥ムラを防ぐために途中で1~2回撹拌しましょう。最終的に子実水分は15~16%を目安に仕上げます。
刈り取った穂を束にしてほ場に立て、1〜2週間程度置いたまま乾燥する「島だて乾燥」は、一般に食味や香りがよいといわれます。ブランド化の際の付加価値などに活用できますが、時間がかかり、降雨の影響を受けやすく含水率にばらつきが出る、というリスクもあります。
乾燥後は、唐箕やライスグレーダーを用いて選別・調整をします。整粒歩合が75%以上になるよう丁寧に調整しましょう。
【2024最新】そば栽培は儲かる? 需給動向と農家の現状
shige hattori / PIXTA(ピクスタ)
これからそばの栽培に取り組むなら知っておくべき基本情報として、需要や作付面積の推移、農家の現状など、国内の最新動向を紹介します。
常に一定の需要が見込める国内産そば
出典:農林水産省「作況調査」よりminorasu編集部作成
平成に入って以降、そばの国内作付面積は、2013年の約6.1万haから2023年の約6.7万haへと、増加傾向にあります。この背景には、国内産そばの需要増加や、国の政策で水稲からの転作が推進されたことなどがあります。
ところが、生産量は一定していません。2021~2023年の生産量は約4.1万t、約4.0万t、約3.6万tと不安定です。 2023年産のそばは、夏場の高温などの影響から最大産地である北海道などの生産量が減り、前年の収量を下回りました。
生産量が安定しない原因は、大きく2つ考えられます。
1つは、そばの栽培は冷涼な地域が適しており、また湿害に弱いため、大雨などの天災の影響を受けやすいことです。もう1つは、そばは水稲からの転作作物として栽培されることが多く、米の需給調整の影響を大きく受ける傾向があることです。
一方で、そばの国内需要(国内消費仕向量)は、コロナ禍で外食が控えられた2020年、2021年を除けば、年間12万〜13万tの間で安定して推移しています。国産への需要も高く、自給率は3割以上を維持しています。
このように、そばは安定した需要があるにも関わらず、収量の変動が大きいため、食品メーカーなどの需要者からは安定的な国内生産が求められています。
出典:
一般社団法人日本蕎麦協会「各種情報」所収「そばの需給動向(年度)」
農林水産省「作況調査」所収「農林水産省|作物統計調査 令和5年(2023年)産そば(乾燥子実)の作付面積及び収穫量」
「水田活用交付金」の厳格化で作付面積の減少も?
国の生産調整によって、長い間、水稲栽培からそばへの転作が推進されてきましたが、その傾向も今後は変わることが予想されます。
水田活用の直接支払交付金が見直されたことで、2027年以降、過去5年間に水稲を作付けせず、水張りをしない水田は、交付対象水田から除外され交付金を受給できなくなります。
今後も交付金を受けるためには、5年以内のサイクルで水稲を含む輪作を行う必要があり、水を張らない体系で作付けを行う場合、交付金に頼らない経営を確立しなければなりません。
こうした状況から、そばの作付けをやめる農家が増えることが懸念されています。実際、2022年に秋田県で行われた調査では、そば農家の60%が今後の作付け見通しとして「作付けをやめる」と回答しています。
出典:秋田県議会 農林水産委員会・分科会(令和4年(2022年)第2回定例会(9月議会))所収「所管事項関係資料(9.15提出)」
「秋田県農林水産部|令和4年(2022年)第2回定例会(9月議会)農林水産委員会提出資料 」
▼水田活用の直接支払交付金の見直しについては、以下の記事も参照してください。
「儲かるそば農家」になるために。今できる栽培時の工夫
秋AKI / PIXTA(ピクスタ)
そば栽培をめぐる環境は厳しい面もありますが、需要は安定しています。それに加え、近年は国際情勢の影響で、そばの実の国際価格が上昇していることから、輸入そばとの価格差が縮小しています。
もともと国産そばの需要は高く、今後は一層安定して国産そばの需要が高まることが予想されます。そのため、安定生産できる体制を確立すれば、収益増が期待できます。
そこで以下では、安定して収益増加を実現するための栽培時の工夫について解説します。
新品種・特徴ある品種の採用
新品種・特徴ある品種を採用することで、収量の安定や向上をめざせます。近年開発された新品種には、以下のようなものがあります。
・NARO-FE-1(九州7号)
穂発芽しにくく、従来品種での春播きの適期に10日ほど遅れても多収が見込めます。また近年、春の播種時期に降雨が多く、適期に遅れてしまい収量が落ちることが問題になっており、それを解消できる品種としても期待されています。
・満天きらり
ダッタンそば種の新品種で、従来品種よりも苦みが少なく食味がよいうえに、そばに含まれるルチンを豊富に含有するのが特長です。強みを活かし差別化を図ることで、売り上げ増を見込めます。
・キタミツキ
北海道向けの「キタワセソバ」の後継品種として普及が進められている品種で、キタワセソバと比較して良食味、多収、容積重は重く、ルチン含有量も多いなど、優れた特長を持ちます。キタワセソバに代えて栽培することで、収益の向上が期待できます。
出典:
農研機構「穂発芽しにくいソバ新品種候補「九州7号」」
農研機構「苦味が弱く良食味、ルチンが豊富なダッタンソバ新品種「満天きらり」を育成」
農研機構「刊行物」所収「ソバ「キタミツキ」」
湿害回避技術の導入
そばは栽培が容易で取り組みやすい一方、極めて湿害に弱いため、降雨の多い近年の気候変動の影響を強く受け、収量が安定しない点が不安材料です。
湿害を防ぐには、明渠・暗渠の設置、溝切り、心土破砕などほ場の排水性を高める基本的な整備を徹底し、栽培管理を適切に行い、さらに気候や環境の変化に対応する栽培技術を積極的に導入する必要があります。
湿害回避や省力化につながる技術としては、以下のようなものがあります。
・耕うん同時畝立て播種技術
畝立てをしながら畝の上に播種するため、地下水位との距離を長くできるとともに表面排水も速やかになり、湿害回避につながります。さらに、耕うん・畝立て・播種を同時に行うため、作業の大幅な省力化もできます。
・新地下水位制御システム 「FOEAS(フォアス)」
ほ場の地下にパイプを巡らせ、用排水ボックスや水位制御器を取り付けて、ほ場全体の地下水位を一定に調整するシステムです。
用水中の泥やゴミを取り除けるので、暗渠の内部が詰まることがなく、暗渠管内の洗浄作業も簡単にできます。ほ場全体をムラなく調整でき、湿害・干ばつを回避します。
▼「FOEAS(フォアス)」のしくみやメリットについては、以下の記事も参照してください。
地域の気候に合った作型・作付体系の検討
収量・収益を向上させるには、地域の気候を活かし、ほかの作物の作業と競合しないように工夫して作付け体系を構築することも重要です。
夏型・秋型の二期作栽培
そば栽培で収量を増やす効率的な方法は、夏型と秋型の二期作栽培を行うことです。気温が低いために生育に時間がかかる寒冷地では難しいものの、暖地であれば「西のはるか」や「夏吉」など、生育期間の短い早生品種を選べば二期作が可能です。
二期作栽培を採用すれば、単作の倍近い収穫が得られます。また、同じ作物を栽培することで、知識や技術、必要な農機具などをそば栽培に集中させることができ、作業・コストの省力化・経営の効率化にもつながります。
ただし、連作を繰り返すことでほ場の成分が偏り、連作障害を引き起こすこともあるので対策が必要です。
温暖地の“春播き栽培”
九州などの暖地では、8月下旬から播種をして11 月下旬に収穫する、秋型栽培が主流です。しかし近年、夏型や中間夏型と呼ばれる生態型特性を持つ品種を用いた“春播き栽培”の技術が確立され、普及が進んでいます。
この春播き栽培では、3月中旬〜4月上旬頃に播種し、6月中旬頃までに収穫します。日長が長くなる時期に栽培し、栽培期間が 60 日程度と短いため、夏型や中間夏型の品種が向いており、特に「NARO-FE-1」「春のいぶき」などの品種が適しています。
そば春播き栽培の最も大きなメリットは、北海道や長野県で行われている夏型栽培よりも早く出荷できることです。そばの需要は5月頃から上昇し、夏季にピークを迎えるため、ピーク時に出荷を合わせることが可能となり、ほかの地域との差別化を図れます。
さらに、従来の夏型と組み合わせて二期作にしたり、6月下旬に定植する水稲栽培の前作にしたりして、収益増に活用されています。
水稲や麦、大豆などとの二毛作・輪作
水稲、麦、大豆などとの二毛作や輪作を行うことで、収益を上げる方法もあります。そばの秋型栽培では7〜8月頃に播種し、11月頃までに収穫を終えます。
例えば、そばの秋型栽培に、秋口から春先にかけて栽培ができる麦類と組み合わせることで、ほ場を無駄なく活用できます。二毛作や輪作は、異なる作物を作付けることで土壌環境が偏らず、連作障害の予防にもつながります。
ただし、そばは湿害に弱いので、水稲と輪作する場合は、転換のたびに排水対策が必要です。排水に問題がないのであれば、水稲との輪作は水田活用の直接支払交付金の対象となり、交付を受けられます。
実際のそばを含む作付け体系の例としては、青森県で行われている水稲や小麦との輪作、馬鈴薯−なたね−そばの輪作、山形県でのそば-大豆-小麦の2年3毛作、岩手県での夏そば-麦類-緑肥大豆-麦類-秋そば-大豆-大豆の5年7毛作などがあります。
安定的なそば生産で収益アップをめざすために
国産そばの需要は年間を通して高く、安定的に生産量を確保できれば高い収益が見込めます。そのためには、新しい技術や品種を積極的に取り入れながら湿害対策を徹底し、効率的なそば栽培体系を構築することが重要です。
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鎌上織愛(かまがみおりえ)
北海道出身。両親は北海道で農業を営む現役の農業者で、自身も幼少期より農作業を行う。農作物はもち米・人参・アスパラガス・とうもろこしを中心に、ハウス一棟を自家菜園として様々な種類の野菜を育成する。現在は食生活アドバイザーとして、ライターなどの執筆活動の傍ら、こどもの食育などに力を入れている。