【キャベツの肥料設計】特性を生かした施肥設計と、品質・収量を保つ栽培のコツ
キャベツは肥培管理が比較的楽な作物として知られています。その特性を十分に理解した上で施肥設計を行えば、収量や品質向上も可能です。そこで今回はキャベツの栽培において品質や収量を保つ施肥設計の例、栽培のコツについて紹介します。
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目次
キャベツは吸肥力が強く、過剰施肥による障害も出にくい作物
さなさな / PIXTA(ピクスタ)
多くの作物の中でもキャベツは吸肥力が強いことで知られています。仮に過剰施肥をしたとしても過剰生育や濃度障害などを起こしにくく、肥培管理が比較的楽である点が魅力です。しかしそれだけに多肥栽培になりやすいため、施肥設計を十分に考える必要があります。
キャベツが吸収する10a当たりの養分量の目安は以下のとおりです。
・窒素(N) 20~30kg
・リン酸(P) 5~7kg
・カリウム(K)25~35kg
レタスや白菜では球の肥大後期まで養分の吸収率が高いのに対して、キャベツは結球の開始期前後に最も養分を吸収し、結球期の後半になると養分の吸収が緩やかになる特徴があります。結球が始まるこの時期に外葉をしっかり張らせると球の肥大が進みます。結球の開始期の養分不足は収量低下につながります。
そのため、施肥は初期生育を促進させるように行いましょう。窒素の追肥は外葉が形成される初期の段階で重点的に行ってください。窒素の吸収特性から、結球が始まってからの施肥は効果が低く、追肥が遅れると収穫時期の遅れや裂球に繋がる恐れがあるため注意が必要です。
加えてキャベツの施肥においては窒素による過剰害が出にくいため、多肥になりやすい傾向があります。窒素が多すぎると結球の遅れや病害の発生を招いてしまうこともあるのです。有機物から供給される肥料養分を考慮し、適宜減肥してください。
川村恵司 / PIXTA(ピクスタ)
作型により違いはある? 吸肥特性を生かしたキャベツの施肥設計の例
次にキャベツの具体的な施肥設計について、詳しく紹介します。作型ごとに施肥量を調整する考え方も紹介しているので、ぜひ参考にしてください。
基肥と追肥の量は? キャベツの基本の施肥量目安
Hemerocallis / PIXTA(ピクスタ)
キャベツの基肥の10a当たり施肥量目安は以下のとおりです。
・堆きゅう肥…2,000kg
・苦土石灰…120kg
・熔リン…60kg
・窒素…15kg
・リン酸…15kg
・カリウム…15kg
土壌のpHは6.0~6.5程度、堆きゅう肥と苦土石灰は定植の20日前に、それ以外は定植の7日前までに施用してください。10aごとの追肥量の目安は以下のとおりです。
・窒素…10kg
・リン酸…5kg
・カリウム…10kg
施肥量は合計で窒素25kg、リン酸20kg、カリウム25kgにしましょう。連作ほ場では、ホウ素を1kg、微量要素肥料であるFTEを4kg合わせて施用するのがおすすめです。ただしこの量はあくまでも目安であり、定期的な土壌診断に基づき、地域や栽培品種に合わせた施肥設計を行ってください。
作型によって施肥量を調整するための考え方
春播き栽培の場合は、高温期に球が肥大して生育期間も短いため、施肥量を少なめにする傾向があります。そのため基肥は2/3量~全量、追肥も早めに行って即効性の肥料を中心に施用します。
生育期間が長くて収量も増える夏播き栽培では、施肥量を多めにするのがおすすめです。全体的に窒素とカリウムを3.75~5kg(全体の15~20%)増やし、栽培時期により基肥と追肥に分けて施しましょう。
夏播きの場合は生育期間の長さに合わせて、中生~晩生では追肥を3回行います(早生~中早生は2回)。第3回目の追肥は12月に行ってください。
施肥以外のコツが知りたい! 多収で高品質なキャベツを生産する栽培管理
多収で高品質なキャベツを栽培するコツは、施肥以外にもさまざまなものがあります。そこで次に施肥以外の方法でよりよいキャベツを栽培するコツについて詳しく紹介します。
キャベツの生育に適したほ場を整える
tenjou / PIXTA(ピクスタ)
キャベツは土質に対する適応範囲が比較的広いことで知られています。中でも耕土が深く、排水が良好な砂質壌土~粘質壌土が適しています。
有機質に富む排水の良好なほ場が選定できない場合には、弾丸暗渠(あんきょ)や畝間明渠(めいきょ)、額縁明渠や高うねなどの排水対策を実施してください。
連作を行うと、土壌の伝染性による病害やセンチュウの発生が増加します。これらの連作障害を避けるため、輪作などに努めましょう。
水田の転作であるほ場の場合は、排水や鍬床(すきどこ)破砕などの対策を徹底することが必要です。これらが十分に行われない不良な土壌では、極端な生育不良を招く恐れがあるので注意してください。
土壌がpH7.0以上または強い酸性になると、生育に必要な微量要素が土壌で溶解しにくくなり、欠乏につながる恐れがあります。そのため土壌pHは6.0~6.5程度を保ちましょう。土壌が酸性の地域では、石灰などでpHを6.0~7.0前後に矯正してください。
病害虫の初期防除を徹底する
キャベツ軟腐病 発病株(初期)
写真提供:HP埼玉の農作物病害虫写真集
キャベツは生育の初期、特に結球が開始される時期までに病害虫の防除ができなければ収量や品質に大きな影響が出るため、防除を徹底してください。病害が発生しやすい土壌の特徴としては酸性が強いこと、排水性が悪いこと、日照不足などが挙げられます。特に排水性が悪い土壌や雨が多い気候では、軟腐病が発生しやすいのが特徴です。
軟腐病とは排水性が悪いうえに窒素分の多い肥料の与え過ぎで起こる病害で、キャベツが軟弱化することで発生しやすくなります。キャベツの外葉に水がしみたような暗褐色の病斑ができ、進行すると悪臭を放ちます。
農薬による防除はできますが、結球時期に発症すると感染の拡大を止められず、収穫も不可能となるので十分注意しましょう。またアブラナ科の作物を生育したほ場の連作も、病害を発生しやすくさせる原因の1つです。
これらを予防するためにはアブラナ科の連作を避け、施肥量を多めにし、ほ場をよく耕して排水性のいい土壌での栽培を行いましょう。また梅雨時期や秋の長雨時期にも注意を払うことが大切です。
そのほかのキャベツの病害や対策についてもっと知りたいという方は、以下の記事で詳しく紹介しているのでぜひ参考にしてください。
栽培条件や作型にあった品種選定も重要!
施肥量と同じように、品種の選定も作型や地域によって選び方を変えなければいけません。以下に作型ごとの品種選定の例を紹介するので選び方の参考としてください。
春播き栽培
全体として高温多湿の期間が長く、降雨量も多いため生理障害や病害が発生しやすいのが特徴です。高温多湿の土壌に適用する必要があるため、裂球が遅く腐敗しにくい「おきな」などの品種や、萎黄病や黒腐病に耐性のある「彩里」か「涼音」などの品種を選びましょう。
Tony / PIXTA(ピクスタ)
夏播き栽培
播種時期が高温になる以外は比較的冷涼で、一番栽培しやすい作型です。しかし収穫時期が1~2月の場合は生育適温外の栽培期間が長くなるため、耐寒性や低温での肥大性に優れる「夢ごろも」などの品種を選びましょう。
中間地などで冬に入るまでに収穫したいのであれば、熟期の早い早生・中早生種である「若峰」や「彩峰」などが主体となります。
Tony / PIXTA(ピクスタ)
秋播き栽培
低温期を苗で過ごし、気温の上昇とともに生育が再開して収穫期は冷涼で栽培しやすくなります。3~4月の早春どりであれば、低温感応する枚数が多く気温上昇で早く結球する「味春」などがおすすめです。
5~6月の春どりであれば低温感応のほか、裂球が遅く腐敗しにくい品種である「YR春空」などを選びましょう。
Yoshi / PIXTA(ピクスタ)
業務用キャベツの栽培では、「疎植」と「遅効性肥料の追肥」で多収と省力化をめざせる
業務用キャベツの栽培をめざすのであれば、家庭消費用のM・Lサイズ(1~1.6kg)よりも大きいサイズが求められます。そのため品種を選ぶ場合は、結球部分に葉が詰まった寒玉系の品種から、肥大性がよくて芯の部分が小さいものを選ぶのがポイントです。
また定植の際は、10a当たり3,700~4,200株程度と通常の5,000株と比べてやや疎植にするのがおすすめです。疎植にすると結球内部に葉が詰まってから収穫できるため、通常よりも結球量が0.5Kg、収量が10a当たり2t、合計で収量が30%程度アップします。
施肥に関しては、遅効性の肥料を用いれば追肥1回での栽培も可能です。鶏糞を基肥として施用した場合は窒素量で10a当たり20kgが最適となるため、施肥の省力化や低コスト化が実現できます。
川村恵司 / PIXTA(ピクスタ)
今回は、キャベツの特性を活かして収量や品質を向上させるための施肥設計の方法や、栽培のコツなどを紹介しました。キャベツは吸肥力が強く、過剰施肥の障害も出にくい作物で、肥培管理も比較的楽に行えます。
しかしそれだけに多肥栽培になりやすいため、キャベツの特性を理解し、目安となる施肥量を確認した上でほ場の環境に合った施肥設計を行いましょう。
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百田胡桃
県立農業高校を卒業し、国立大学農学部で畜産系の学科に進学。研究していた内容は食品加工だが、在学中に農業全般に関する知識を学び、実際に作物を育て収穫した経験もある。その後食品系の会社に就職したが夫の転勤に伴いライターに転身。現在は農業に限らず、幅広いジャンルで執筆活動を行っている。