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AIは農業をどう変える? 効率化を叶える“スマート農業技術”と活用事例

AIは農業をどう変える? 効率化を叶える“スマート農業技術”と活用事例
出典 : zapp2photo - stock.adobe.com

AIを活用したスマート農業の現状について、導入メリット・デメリットを交えて解説します。さらに、実際に農家でAIがどのように活用されているのか、最新事例も紹介。農業での人手不足の解決、熟練技術の継承などにつながる可能性を明示します。

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スマート農業の技術はAIの活用によって大きく進展しています。熟練農業者に匹敵する知識と判断力で、AIはスマート農業をけん引しているのです。具体的には、栽培管理の完全制御や大型農機の完全自動運転の開発などまで進んでいます。

本記事では、こうしたAIによって農業はどう変わってきているのか、AI導入によるメリット・デメリットは何かについて解説します。実際のAI導入事例も掲載しているので、ぜひ参考にしてください。

最新のAI技術を活用した「スマート農業」とは?

スマート農業とは、ロボット技術やAI(Artificial Intelligence:人工知能)、IoT(Internet of Things:モノのインターネット)といった先端技術を活用した農業のことです。AIやIoT技術全般が進化している昨今、日々新たな農業用技術も実用化・導入されています。

自動運転コンバイン

ライダー写真家はじめ / PIXTA(ピクスタ)

例えば、トラクタや田植え機・コンバインも自動運転が実用化され、施設栽培や水田の水管理についても自動制御やスマートフォンによる遠隔操作の導入が進んでいます。農業界でもリモートワークがトレンドになる日も遠くないかもしれません。

また、データの収集や応用技術も進歩しています。カメラを搭載したドローンや人工衛星を活用してほ場全体の生育状況を撮影し、AIがその画像を分析することで、NDVI(注)という作物の生育状態を表す指標データを自動で作成・マップ化することができます。

(注)NDVI:Normalized Difference Vegetation Index。日本語では「正規化植生指標」

NDVIによる生育マップ

zapp2photo - stock.adobe.com

さらにはそれを分析して元肥・追肥の施肥設計を行ったりする技術まで開発されています。

上記のように、AIが作成した指標データをクラウドで蓄積・管理する営農支援システムも、複数の企業から提供されています。こうしたシステムを利用することで、同じほ場のデータを複数の人や機械の間で共有しながら、営農プランを立てることもできるのです。

ここが変わる! AI技術を農業に取り入れるメリット

高齢農家のタブレット活用

Fast&Slow/PIXTA(ピクスタ)

人間が自分の経験から学んだり、新たな知識を得て順応したりするような「知的ふるまい」を、現在ではAIが再現しています。AIはさまざまな情報を分析して適切な判断を重ねることで、最適な回答を導くことができるのです。

ここでは、こうした学習力を持つAIを農業で活用することによって、どんな具体的なメリットが得られるかについて解説します。

農作業の自動化・効率化による人手不足の解消

農林水産省の「農業労働力に関する統計」によれば、基幹的農業従事者の数は2015~2020年の5年間で175.7万人から136.3万人に減少し、平均年齢は67.1才から67.8才に上がっています。こうした数値から、農業の人手不足と高齢化の深刻さがわかります。

基幹的農業従事者数と平均年齢の推移

出典:農林水産省「農林業センサス」よりminorasu編集部作成

こうした事情を背景に、少ない人手や、技術や体力に自信がない人材たちでも、農業水準を維持・拡大できる技術として、昨今AIに大きな期待が寄せられているのです。

AIをさまざまな農機に搭載することによって、多くの作業を自動化することが可能です。例えば、田植えには「決められた幅でまっすぐに走行させる」ために熟練技術が必要です。しかしAIを搭載した田植え機に乗れば、自動操舵機能を使用することで簡単に実行できます。

収穫作業では、個々の収穫物について正確にその成熟度を判断する必要があります。この点でも、AIが適期を見極め、その指示によって自動収穫するロボットの実用化が進んでいます。

こうした技術導入により、農家の作業負担が軽減し、熟練者だけに偏っていた負担をほかの従業員でも担えるようになるわけです。農業への新規参入もしやすくなり、かつ少ない人数でも農業が可能になるので、人手不足解消も期待できるでしょう。

AGRIST株式会社が開発し実用化しているピーマンの自動収穫ロボット。AIの画像認識技術の精度をあげ夜間でも収穫可能

AGRIST株式会社が開発し実用化しているピーマンの自動収穫ロボット。AIの画像認識技術の精度をあげ夜間でも収穫可能
出典:株式会社PR TIMES(AGRIST株式会社 ニュースリリース 2022年1月12日)

ビッグデータを活用した作物の品質・収量向上

今日の農業は、後継ぎがいないために、熟練者たちが持つ多くの貴重な知識・技術が失われつつあります。しかし昨今の高機能なAIは、こうした熟練農家が持つ栽培技術や経験に基づく”感覚”などまで、データとして学べるようになりました。

あらゆる状況において、「どのような判断・対策が正しいのか」というノウハウを蓄積させることを通して、AIへの技術継承が可能なのです。

このように、AIが習得した技術は誰でも共有できるという点も重要です。つまり新規就農者でも、AI技術を活用することで熟練農家と同等の栽培管理を実践し、就農後すぐに成果を上げられるということです。こうした面で、AIは農業全体の発展に大きく寄与するでしょう。

加えてAIは、蓄積した過去のデータに基づき適切な栽培管理方法を導出します。つまり、過去の失敗・成功の条件を導き出し、将来の計画へ反映しているのです。これを繰り返すことで、年々分析の精度は上がるので、収量や品質の向上へとつながっていくでしょう。

一方で課題も? AI技術の導入を阻むデメリット

得られるメリットとコストのバランス

Totallypic / PIXTA(ピクスタ)

AI導入にもデメリットはあります。先述したような大きなメリットが見込めるにもかかわらず、農業現場での活用が進まないのは、このデメリットが原因です。以下でデメリットを具体的に解説しますので、適切なAI導入のためにも、ぜひ理解しておきましょう。

農家にとって最大のデメリットは「多額の導入コスト」

AI導入には多額のコストがかかります。AIはソフトウェアなので目に見えるものではありませんが、トラクタや田植え機、コンバインなどの大型農機や収穫ロボット、選別機に至るまで「AI搭載」型になると価格が跳ね上がります。

そして、AIの機能を十分に活用するには、AI搭載型農機など個々の機器だけではなく、あらゆるデータを収集・共有・蓄積することが重要です。そのためにはAIを統括するシステムが必要です。

大手メーカーやベンチャーがさまざまなシステムを開発していますが、それらの導入には数十万から数百万の初期投資がかかる上、継続的な利用料もかかります。

最新技術を運用する作業者の育成も課題に

もう1つのデメリットが、AIを理解し活用できる作業者の育成です。優れた製品を導入しても、AIを使いこなす技術がなければ、メリットが活かせません。

従来の農作業に求められる能力と、AI活用に求められる能力が異なるため、「現状のスタッフではAIが十分に使えず、導入コストに見合わない」という状況にある農家も多いでしょう。

実用化されている農業AI製品と、その活用事例

農業用ドローン

DREAMNIKON/PIXTA(ピクスタ)

上記のデメリットに対処しつつ、うまく導入を進めている農家も少なくありません。そうした農家のもとで、すでに実用化され、実績を上げているシステムも存在するのです。

ここからは、「AI技術が農業をどう変えるのか」を示す実際のシステムを、その導入実例とともに3つピックアップして紹介します。

ドローン×AIで農地をデータ化! 葉色解析サービス「いろは」

株式会社スカイマティクスが手掛ける葉色解析クラウドサービス「いろは」は、まずドローンで上空からほ場を撮影して画像データを取得し、次にAIがその画像データから葉色を解析するサービスです。これによって、ほ場全体の作物について診断・管理を行うことが、インターネット上で可能となります。

具体的な使用手順としては、まず農家スタッフがドローンを使い、ほ場の画像を撮影し、それを専用のクラウドへアップします。するとAIが、クラウド上で生育診断機能を用いてデータ分析を開始します。これにより、病害虫や雑草の発生を含む生育状況を画像ごとに診断・記録できるのです。

専用のドローンをシステムとセットで購入することもできますし、サービス対象機種であれば手持ちのドローンを活用することも可能です。ドローンは飛行ルートをあらかじめ設定でき、基本的に自動飛行するため、操縦も難しくありません。

「いろは」内の画像管理画面では実際の画像に分析結果の色分けが重ねられるため、ほ場全体の生育状況が一目で把握できる

「いろは」内の画像管理画面では実際の画像に分析結果の色分けが重ねられるため、ほ場全体の生育状況が一目で把握できる
出典:株式会社 PR times(株式会社スカイマティクス ニュースリリース 2019年4月1日)

茨城県のキャベツ農家では、実証実験を兼ねて、このシステムが導入されています。この例では、ドローン撮影したキャベツのほ場全域の画像をつなぎ合わせつつAIが解析し、その情報を基に、収量予測を行う、というプロジェクトを実践中です。

具体的には、2週間に1度のペースで撮影を行い、合計で1000枚前後の写真を撮影します。その写真をつなぎ合わせてほ場全体を映す1枚の画像を作成します。低空で撮影するため、画像はキャベツ一つひとつのサイズや色合いがはっきりわかるほど高い解像度です。

キャベツは作物自体が大きく、また個々に重なることがないので、上空からの撮影やその画像に基づく管理と特に相性がよいのです。

この画像データをAIが分析し、その結果を、個々のキャベツのサイズを色別の枠で囲むなど、画像上に重ねて可視化するのです。そのためその画像を見れば、キャベツの生育状況が一目で判断できます。必要な施肥や環境改善などをスムーズに判断し、ピンポイントで対策を取れるのです。

「いろは」の葉色診断画面。解像度が高いので、拡大して一つひとつの作物の様子を見ることができる

「いろは」の葉色診断画面。解像度が高いので、拡大して一つひとつの作物の様子を見ることができる
出典:株式会社 PR times(株式会社スカイマティクス ニュースリリース 2019年4月1日)

加えて、AIに過去の画像まで検証データとして分析させれば、より正確な収量予測が可能となります。正確な収量予測は、売り先と直接契約をしている農家にとっては不可欠であり、大きな信頼を得ることにつながります。

出典:株式会社つくば研究支援センター 地域支援部 近未来技術社会実装推進グループ
農作物の生育診断・収量予測実証試験(令和2年度 近未来技術社会実装推進事業)
農作物の生育診断・収量予測実証試験(令和元年7~12月)

ベテラン農家のノウハウで最適な栽培管理を指示「トマトのKIBUN」

AI-RICH農法から生まれたブランドトマト「エンリッチミニトマト」

AI-RICH農法から生まれたブランドトマト「エンリッチミニトマト」
出典:株式会社 PR times(株式会社北海道産地直送センター ニュースリリース 2021年4月9日)

長万部アグリ株式会社では、地方創生事業として新たにトマト栽培に参入しました。

農業経験のない従業員がメインでしたが、北海道山越郡長万部町の特産であるホタテの貝殻を焼成した肥料を使い、株式会社プラントライフシステムズ(PLS)の協力のもと、糖度が高く食味のよいミニトマトの安定的な生産を実現しています。

農業経験が十分でなくても、栽培開始してすぐに質のよいトマトの収穫を可能にしたのがAI-RICH(アイリッチ)農法です。この農法では、PLS独自のセンサーシステムとAIを組み合わせ、トマトの生育状況を正確に予測・管理します。

AI-RICH農法では、ハウス内の各所に設置したセンサーから得られる情報、そしてトマトの生育状況や天候などのデータを、AIが分析します。それにより、灌水のタイミングや量、温湿度管理や施肥などの必要な管理を導出し、スマートフォンを通じて従業員に伝えます。

従業員は指示通りに作業をすれば、高品質に維持された高糖度のおいしいトマトを安定して生産できるのです。AIの指示が的確であることは、実際に生産されたトマトの品質が高く、さらにその品質ゆえにブランドトマト「エンリッチミニトマト」を確立できたことが証明しています。

出典:Plant Life Systemsホームページ 導入事例

全作業時間の大部分を占めるアスパラの収穫作業を自動化! 「自動野菜収穫ロボット」

アスパラガスの自動収穫ロボット。2019年当時の最新モデル。農家の意見を聞きながらリニューアルを続けている

出典:株式会社 PR times(inaho株式会社 ニュースリリース 2019年4月22日)

AIを活用したアスパラガスの自動収穫ロボットも実用化されています。

inaho株式会社の自動野菜収穫ロボットは、医療用のアームをカスタマイズすることで製作されました。そのため繊細な挙動によって、作物を傷つけずに収穫します。また、目の前のアスパラガスを画像認識し、サイズや病害の有無を判別して適格な個体だけを収穫することもできます。

ハウスの地面に白い線を引くことで、移動ルートを固定できます。また、白い線をつなげて引いておけば、いくつかのハウスの間も移動可能です。充電式で夜間稼働も行うので、時間を有効利用でき、収穫作業の負担を大きく減らします。

アスパラガス農家が収穫作業にかける時間は全作業時間のうちでもかなりの割合を占めており、かつ、しゃがんで作業するため体の負担も大きく、過酷なものとされています。自動野菜収穫ロボットは、アスパラガスの収穫の9割を自動化することを目指しており、導入農家の意見を直接聞きながら改良を重ねています。

このロボットを導入したアスパラガス農家からは、「時間に余裕が生まれたため、販路の開拓など、新たな作業を行えるようになった」という声が多く寄せられています。

出典:inaho株式会社ホームページ「RaaSモデルによるアスパラガス収穫ロボットの導入」

AI技術で「完全無人運転」を実現⁉ 電動トラクタのコンセプトモデルも登場

トラクタや田植え機など自動走行農機の開発も盛んです。これらの自動走行は、衛星からの位置情報に基づいて行われます。

2021年現在、「人が乗った状態で自動運転するトラクタ」や「人が近くで監視しながら、1つのほ場内を自動走行するロボットトラクタ」などはすでに実用化されています。さらに、ほ場間の移動を含む無人走行をスマートフォンなどによって遠隔操作できる技術を開発中です。

実用化されているものはまだ「完全無人」とはいえませんが、それでも、トラクタなどの自動操舵は自分で運転する場合に比べて、作業効率向上や作業疲労軽減などの効果が期待できます。

そして現在では、大手の農機メーカーである株式会社クボタから、AI技術を活用した完全無人電動トラクタのコンセプトモデルが発表されています。AIを活用することで、安全な走行や経路の自動構築、ナビゲーション、ほ場間の移動なども自動化できるようになります。

株式会社クボタ ニュースリリース 2020年1月15日「クボタ130周年夢のトラクタを公開」

このほかにもAI活用型ロボットトラクタは多く研究されており、将来的に、AIを活用した完全自動走行農機が登場すると期待されています。

※ロボット農機の進化については、こちらの記事もご覧ください。

農業AIの導入負担を軽くする補助金制度もある!

先述したように、スマート農業は導入コストがかかるというデメリットのために、全般的な普及が進まない現状があります。財力のある企業や大規模農家だけに導入が進み、小規模農家が置き去りにされるような事態は避けなければなりません。

事例として紹介した「いろは」やinahoのアスパラガス自動収穫機は、資金力のない農家でも必要な機能だけを短期間で利用できるように工夫されています。

「いろは」では月々の価格が1,000円と安い「従量課金プラン」を用意しており、inahoのアスパラガス自動収穫機は販売ではなくリースをしているので、初期投資やメンテナンス費を抑えられます。

さらに国や自治体も、農家にかかる導入コスト軽減を目的として「スマート農業総合推進対策事業」などの補助金制度を実施しています。慢性的な人手不足に悩んでいるのであれば、ぜひこれらの制度を活用して農業AIの導入を検討してみてください。

活用できる補助金は農林水産省の「逆引き辞典」などで検索もできます。

スマート農業の導入に使える補助金制度についてはこちらの記事もご覧ください。

スマート農業の技術は、AIの活用で飛躍的に発展し、実用化が進んでいます。農作物やほ場に関する膨大なデータを基に短期間で習得するAIは、人手不足に悩む農業の救世主となるかもしれません。

自治体や国の補助金制度や、メーカーが提供するコストカットプランなども参照し、積極的に導入を検討してみてください。スマート技術を個々の農家が無理のない範囲で取り入れていくことで、農業全体の活性化や課題解消まで着実につながっていくでしょう。

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大曾根三緒

大曾根三緒

ビジネス、ペット、美術関連など多分野の雑誌で編集者として携わる。 全国の農業協同組合の月刊誌で企画から取材執筆、校正まで携わり、農業経営にかかわるあらゆる記事を扱かった経験から、農業分野に詳しい。2019年からWebライターとして活動。経済、農業、教育分野からDIY、子育て情報など、さまざまなジャンルの記事を毎月10本以上執筆中。編集者として対象読者の異なるジャンルの記事を扱った経験を活かし、硬軟取り混ぜさまざまなタイプの記事を書き分けるのが得意。

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