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耕作放棄地を農業ビジネスに活用! 参考になる事例と支援制度

耕作放棄地を農業ビジネスに活用! 参考になる事例と支援制度
出典 : shimanto/PIXTA(ピクスタ)・めがねトンボ / PIXTA(ピクスタ)・nobmin / PIXTA(ピクスタ)

耕作放棄地の活用は、農業振興・地域振興の両面から非常に重要な課題です。農家の努力だけでは問題の根本的な解決は難しく、地域を上げて取り組むことが大切です。地域ぐるみで取り組む耕作放棄地の農業ビジネスなど、地域の活性化にも役立つ情報をまとめました。

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日本各地で、農家の担い手不足や高齢化などの理由から耕作放棄地が増加の一途をたどり、病害虫の発生や景観の悪化など、周囲への影響も懸念されています。そこで、耕作放棄地を解消し活用するアイデアを、新たな農業ビジネスの事例を含めて紹介します。

そもそも耕作放棄地とは?

耕作放棄地 朽ち行くハウス

nobmin /PIXTA(ピクスタ)

耕作放棄地とは、耕作されなくなった農地を指します。同様の土地を「遊休農地」と呼ぶこともありますが、厳密にはそれぞれ明確に定義されています。まずは、この記事でいう耕作放棄地とはどのようなものを指すのかを説明します。

耕作放棄地の定義

「耕作放棄地」という言葉は、農林水産省が行っている「農林業センサス」という統計調査の中で使われている言葉です。「農林業センサス等で用いる用語の解説」の中では「以前耕作していた土地で、過去1年以上作物を作付け(栽培)せず、この数年の間に再び作付け(栽培)する意思のない土地」と説明されています。

農林業センサスは、国が日本の農林業や農山村の現状を的確に捉えることを目的に、5年に1度、すべての農林業を営む農家・林家、法人を対象に実施している調査です。耕作放棄地の実態は、農家などがこの調査に回答することで把握されます。

出典:農林水産省「農林業センサス等に用いる用語の解説」

遊休農地との違い

似たような意味を持つ言葉に「遊休農地」があります。遊休農地の意味するものは耕作放棄地とほぼ同じです。違いは、耕作放棄地が農林業センサスで使われている用語であるのに対し、遊休農地は「農地法」の第四章などで使用されている法令用語という点です。

農地法では、遊休農地について第三十二条で「現に耕作の目的に供されておらず、かつ、引き続き耕作の目的に供されないと見込まれる農地」および「その農業上の利用の程度がその周辺の地域における農地の利用の程度に比し著しく劣っていると認められる農地」と記されています。

出典:農地法第三十二条

遊休農地(農地法)・荒廃農地(荒廃農地調査)・交差右方基地(農林業センサス)

農地法による分類:
(注1)2号遊休農地:利用の程度が周辺の地域の農地に比べ著しく劣っている農地
(注2)1号遊休農地:現に耕作されておらず、かつ、引き続き耕作されないと見込まれる農地
農林業センサスによる分類:
(注3)何も作らなかった田・畑: 災害や労働力不足、転作などの理由で、過去1年間全く作付けしなかったが、ここ数年の間に再び耕作する意思のある田・畑
(注4)耕作放棄地:以前耕作していた土地で、過去1年以上作物を作付けせず、この数年の間に再び作付けする意思のない土地

出典:農林水産省「荒廃農地の現状と対策について(令和2年4月)」「農地法に基づく遊休農地に関する措置の概要」「農林業センサス等に用いる用語の解説」「令和元年 耕地及び作付面積統計」「平成30年農地の利用状況調査」「令和元年の全国の荒廃農地面積」「2015年農林業センサス」よりminorasu編集部作成

このことから、遊休農地と耕作放棄地とは厳密に同じではないものの、ほぼ同じ意味を持つと思っていいでしょう。やや固い法律用語よりも、農家が5年おきに直接目にしている耕作放棄地のほうが、馴染みのある言葉かもしれません。

なお、遊休農地の活用事例については以下の記事もご覧ください。

日本における耕作放棄地の現状と課題

日本ではどの程度の耕作放棄地を抱え、それによってどのような課題が生じているのか、データをもとに説明します。

耕作放棄地はなぜ増える? 面積の推移と増加の原因

耕作放棄地の面積推移

出典:農林水産省「農林業センサス累年統計(総農家等 5-16耕作放棄地面積)」よりminorasu編集部作成

2015年に調査が行われた農林業センサスの統計を見ると、耕作放棄地は全国合計で42万3,064haです。特に突出した地域はなく、全都道府県でまんべんなく発生しています。

なお、2005年の調査では、全国合計で38万5,791ha、その次の2010年の調査では39万5,981haと、耕作放棄地は増加の一途をたどっています。数値を見るだけで、本来は作付けできる田畑がこれだけ多く無駄になっている事態の深刻さがうかがえます。

耕作放棄地が増える原因としては、担い手不足や高齢化のほか、土地条件の悪化・鳥獣被害の増加などによる生産性の低さなども推測されています。

これらの背景には、周囲の自然環境の変化や地域の人口が減って管理が行き届かなくなり、従来の里山システムが十分に機能しなくなってきていることがあるのかもしれません。

耕作放棄地を放置することによって起こり得る問題

そもそも国内での食料生産が十分とはいえない日本においては、耕作放棄地の増加自体が憂慮すべき問題ですが、当該地域にとってはさらに深刻です。

作付けされないまま放置された畑は管理が行き届かなくなるため、年数が経つにつれ土壌の質が悪化し、雑草が繁茂して農地に戻しにくくなります。また、雑草や害虫の発生源となることで、周囲の農地や環境への悪影響も懸念されます。

※作付けしない畑などの雑草対策についてはこちらの記事をご覧ください。

使いにくい土地も甦る! 耕作放棄地の活用アイデア

人手不足の中でも耕作放棄地を作らないために、時間や手をかけずにできる、さまざまな工夫で収益性の低い農地を活用している地域もあります。すぐにでも取り入れられる活用方法を紹介しましょう。

作業負担の少ない作物を追加で作付けする

耕作放棄地を活用するには、引き続き農地として利用できる作物に転換するという方法があります。労働時間や作業負担が少ない作物や、鳥獣被害を受けにくい作物など、耕作を放棄する原因を解消できる作物を新たに栽培すれば、農地として使い続け、収益も確保できます。

耕作放棄地解消のため、農林水産省が各地の活用事例をもとに耕作放棄地への作付けに向く作物をまとめた資料があります。その中から、おすすめの作物を3つ紹介します。

出典:農林水産省「荒廃農地の発生防止・解消等」所収のパンフレット「耕作放棄地への導入作物事例(平成20年2月)」

1.そば

比較的作業負担の少ない作物として、従来、中山間地で水稲をやめたあとなどに広く作付けされてきました。地域ぐるみで加工や販売まで手掛け、地産地消したり、地域の名産として販売したりする取り組みも見られます。

冷涼な気候で、排水・日当たりのよい環境を好みますが、やせた土地でも作付けが可能です。4~6月に播種する夏そばと、7~8月に播種する秋そばの作型があります。

福井県坂井市のそば畑

めがねトンボ / PIXTA(ピクスタ)

2.なたね

9~10月に播種し、春の開花期には見事な景観となります。油かすを肥料としたり、販売したなたね油を回収して循環利用したりできるため、地域ぐるみで地域振興策や環境活動の1つとして取り組む例もあります。気候や土地を選ばず全国で栽培可能です。

愛知県田原市の菜の花畑

Rise / PIXTA(ピクスタ)

3.果樹

少ない労力で栽培でき、需要も安定したさまざまな種類の果樹があります。摘み取りや狩り取り体験ができる観光農業とする例や、6次産業化して加工(ジャムやワインなど)・販売まで地域ぐるみで行う例も見られます。

気候条件や土地条件にあう種類の作物を探して取り入れてみましょう。成功事例では、福島県三春町のブルーベリー、香川県小豆島町のオリーブ、高知県高知市のゆずなどが有名です。

いずれの作物でも、高収益や安定収量を見込めなくてもゼロよりはよい、という気持ちで取り組むといいでしょう。メインで栽培している作物と播種や収穫などの作業時期が競合しないものや、作業負担・コストのかからないものを選び、無理なく続けられることが大切です。

高知県馬路村のゆず

丸岡ジョー / PIXTA(ピクスタ)

ほ場を整備し、体験型農園を開設する

体験型農園とは、農園の開設者である農家が利用者を募り、利用者が農家の指導やサポートを受けながら、作付けから収穫までの農作業を行う農園です。

一般の人が農業体験をする方法として市民農園もあります。市民農園の場合、利用者は農園の開設者(農家や自治体)に賃借料を払って農地を借り、自由に農作業を行います。収穫物はすべて利用者のものとなります。

一方、体験型農園は農地を貸すのではなく、利用者は利用料を支払い、開設者の農地で指導を受けながら農作業を行います。収穫物は開設者に帰属し、利用者は代金を支払って収穫物を購入するというシステムです。

農地の貸し借りを行わないため農地賃借などの煩雑な法的手続きが必要のない点や、栽培指導サービスへの対価を得ることができ、収量に関わらず安定した収入を見込める点がメリットです。生産性が低い耕作放棄地においては、自ら作物を作付けするよりも安定した収入源となる可能性があります。

※体験型農園についてはこちらの記事もご覧ください。

営農型太陽光発電の導入で収入源を増やす

営農型太陽光発電とは、農地に支柱を立てて農作業に支障とならない上部空間に太陽光パネルを設置することで、太陽光を共有し農業生産と同時に発電も行う取り組みです。

栽培する作物に合わせて遮光率を調整することで、さまざまな作物栽培に適用が可能です。例えば、水稲や麦であれば遮光率25〜37%、大豆は33%、もともと被覆栽培を行っていた茶は40%などで実施している事例があります。

耕作放棄地は形や面積、立地などの条件により生産性が低い場合もありますが、営農型太陽光発電を取り入れれば、発電によって売電で副収入を得たり、施設園芸などにかかる電気代を補えたりする可能性があります。

営農型太陽光発電

営農型太陽光発電

参考になる、耕作放棄地の活用事例3選

最後に、実際に耕作放棄地を活用している事例を3つ紹介します。

1.立地を活かした作物栽培で規模拡大(有限会社岡野農場)

鳥取県境港市の有限会社岡野農場の代表を務める岡野修司さんは、もともと青果業を営んでいました。しかし、取り扱う農産物の安定確保のために自ら生産することを思い立ち、1994年、根菜類を中心に生産する同社を立ち上げました。

有限会社岡野農場

開業2年目の頃、県農業開発公社から、地区内に目立ち始めた耕作放棄地の対応策として、高原地帯での大根栽培をしないかと打診されました。それを引き受け、標高の高い場所にある耕作放棄地の立地を活かして大根の周年栽培に取り組みます。

ほとんどの耕作放棄地は干拓地や二十世紀梨園跡地などの優良農地であり、同社は堆肥製造から土づくりを行うことで、荒廃農地も含めてこれらの農地を活用し、徐々に経営規模を拡大していきました。

2003〜2011年の8年間で89haの耕作放棄地を解消・再生し、その面積は同社の全経営面積160haの56%を占めています。広域化した農地で根菜類の輪作体系を確立し、さらに、大山山麓の標高差を利用したリレー栽培により周年供給体制を実現しました。

コンビニのおでんネタ用の大根

yuki4444 / PIXTA(ピクスタ)

岡野社長は安定した生産体系だけでなく、青果業で培った経験や人脈を活かし、「コンビニのおでんねた」など、独自の発想や工夫で販路も確保してきました。今後はさらに100ha規模の耕作放棄地の活用をめざしています。

出典:一般社団法人 全国農業会議所「耕作放棄地発生防止・解消活動表彰」所収「耕作放棄地解消活動事例集vol.4」

2.「週末だけ楽しめる農業」を実現した体験型農園(株式会社マイファーム)

各地に点在する耕作放棄地を体験型農園として活用しながら、農業の楽しさやすばらしさを伝えるというユニークな事業で成功を収めているのが、株式会社マイファームです。

株式会社マイファーム

代表取締役の西辻一真さんは高校時代、地元の福井県郊外に点在する耕作放棄地を見て「あの休耕地をなんとかしたい」と思ったことをきっかけに農業を学びはじめます。そして2007年、株式会社マイファームを設立し、体験型農園を通して利用者に農業のノウハウも提供するなど、ユニークな事業を手掛けてきました。

農地を所有しない西辻さんは、耕作放棄地を抱える農家から委託を受けて農地を再生し、その農地を体験農園として利用者に提供するという独特の方法で体験農園を始めます。そして、その収益からオーナーである農家にロイヤリティを支払うシステムで、徐々に業績を伸ばしました。

マイファームが利用者に支持される理由は、週末しか来られなくても管理人による巡回サポートやプロによる農作業指導、農具や肥料の常備といった手厚いサービスがあり、気軽に農業体験ができる点にあります。

農作業指導、農具や肥料の常備といった手厚いサービスがあるマイファームの体験農園

農作業指導、農具や肥料の常備といった手厚いサービスがあるマイファームの体験農園
出典:株式会社PR TIMES(株式会社マイファーム ニュースリリース 2010年3月10日)

子供への食育や「自産自消」という独自の理念を利用者に広め、農業の楽しさを伝えたいという明確なビジョンも、ファンを増やす大きな魅力でしょう。こうした独自のビジネススタイルが評価され、ファンドを活用しながら事業を拡大してきました。

今では、体験農園マイファームは全国100ヵ所以上に増え、各地の耕作放棄地を有効活用しています。

また、農業を学べる大学や塾の運営、インターネットを利用した農地と農業をしたい人を結ぶマッチングアプリや卸売市場アプリの開発、農園のプロデュース、農産物を使った自社商品の開発などにも取り組み、柔軟な発想で農業の世界に新たなビジネスを生み出し続けています。

出典:公益財団法人 京都産業21 クール京都推進部 京都創生グループ「きょうと元気な地域づくり応援ファンド 平成20年度・平成21年度 事例集」所収「独自の貸し農園事業を通して、耕作放棄地問題解決に挑む(株式会社マイファーム)」

3.施設栽培にかかる光熱費を大幅削減!(株式会社サンフレッシュ小泉農園)

トマトの大規模施設栽培を行っている宮城県気仙沼市の株式会社サンフレッシュ小泉農園では、ハウスに隣接する未利用農地を活用し、営農型太陽光発電を実施しました。施設栽培にかかる燃料代のコスト削減が目的です。

太陽光パネルの下部の農地では、遮光率68.5%でジャガイモ(馬鈴薯)を栽培しました。

発電した電気を施設の加温などに利用することで、それまでかかっていた重油や電気代の使用を大幅に抑えられ、年間600万円ほどのコストカットにつながりました。

施設の暖房代だけでなく、日中に太陽光を使って高所作業台車の充電をしたり、出荷棟の空調設備の稼働に活用したりでき、職場環境の向上にも役立ちました。

出典:農林水産省「営農型太陽光発電について Case.01 営農型太陽光発電×トマト栽培施設への電力供給」

営農型太陽光発電

pixelcat / PIXTA(ピクスタ)

耕作放棄地は、そのまま放置すれば何も生み出さないだけでなく、周辺の農地や環境に悪影響を与えかねません。しかし、少しの工夫と発想の転換で、新たな利益やビジネスチャンスを生むことも可能です。多くの成功事例を参考に、新たな活用法を探ってみましょう。

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大曾根三緒

大曾根三緒

ビジネス、ペット、美術関連など多分野の雑誌で編集者として携わる。 全国の農業協同組合の月刊誌で企画から取材執筆、校正まで携わり、農業経営にかかわるあらゆる記事を扱かった経験から、農業分野に詳しい。2019年からWebライターとして活動。経済、農業、教育分野からDIY、子育て情報など、さまざまなジャンルの記事を毎月10本以上執筆中。編集者として対象読者の異なるジャンルの記事を扱った経験を活かし、硬軟取り混ぜさまざまなタイプの記事を書き分けるのが得意。

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