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農業収入の平均はいくら? 作物別所得の目安と、安定経営をめざすポイント

農業収入の平均はいくら? 作物別所得の目安と、安定経営をめざすポイント
出典 : Carbondale/PIXTA(ピクスタ)

新規就農で見込める収入の目安、農業で安定した経営をめざすために知っておきたいポイントについてまとめました。就農前に収入計画を立てるのはとても大切なことです。効率よく就農準備を進めるための情報を多角的な観点から解説しています。

新規就農をめざしている方にとって、農業経営でどれだけの収入が見込めるのかは深刻な問題です。農業は、国のさまざまな施策が実り、工夫次第で安定的な収入が得られる職業になっています。災害への備えも含め、高収入をめざすためのポイントについて解説します。

主業農家の平均収入はどれくらい⁈ 経費もかかるので要注意!

農業 収入 計算

artswai/PIXTA(ピクスタ)

ひと口に農家といっても、収入や支出は扱う作物によって大きく異なります。1種類の作物だけを栽培している農家や、農業だけで生計を立てる農家はあまり多くありません。

例えば水稲農家であっても、米の生産をする以外に、水稲栽培の農閑期を利用してほかの作物を栽培している農家や、農業以外の仕事で収入を得ている農家は数多く存在します。

これを踏まえたうえで、農業収入の1つの目安となる「2019年農業経営体の経営収支」の調査結果は以下となっています。

・個人経営体における1経営体当たりの農業所得
農業粗収益661.7万円-農業経営費548.1万円=113.6万円

出典:農林水産省「農業経営統計調査 令和元年営農類型別経営統計」

この結果だけを見ると、たとえ単身世帯であっても、農業で十分な収入を得るのは困難だと感じてしまうかもしれません。

しかしこの数値には、農業だけで収入を得ている農家だけでなく、農業以外の仕事を持っている農家や、年金を受給しながら農業に取り組んでいる農家も含まれています。

次に、農業を主な職業としている経営体に絞った場合の統計結果を見てみましょう。以前は「専業農家」と言われる経営体が多くありましたが、2020年の農林業センサス以降では、「主業農家」「準主業農家」「副業的農家」という分類で把握されるようになりました。

主業農家2019年の農業経営統計調査による「営農類型別経営統計」は、以下の通りです。

・主業経営体における1経営体当たりの農業所得
農業粗収益1916.4万円 - 農業経営費1497.9万円 = 418.5万円

これは農業のみで得た収入であり、共済・補助金などの受け取りは含まれていない数値です。

2018年、財務省のまとめた資料によると、主業農家の農業所得は498万円となっており、共済・補助金などの受取金をプラスした所得は662万円であったと報告されています。

出典:財務省「歳出改革部会(令和2年10月19日開催)」資料「農林水産」

2008年の数値と比較してみると、それぞれ50%以上の増加が見られます。その背景には、農政改革の推進により農業経営の規模が拡大していることや、農産物の物価上昇などの理由があると考えられています。

【作物別】年間農業所得額の目安

ハウス栽培 トマト 収入

zak /PIXTA(ピクスタ)

前項で紹介した農林水産省の資料を出典として、個人農家の具体的な収入を見ていきます。

2019年の個人経営体における営農累計別農業経営収支の中から、水稲、露地野菜、施設野菜、果樹に関して、それぞれ収支の特徴を説明します。

一つひとつの収入が大きなものでなくても、複数の作物を効率よく組み合わせて栽培していくのが農業のおもしろみです。どの作物をメインとするか、どの作物と組み合わせると効率よく収入が得られるのかといった施策も、農家の腕の見せどころといえるでしょう。

この項の出典:
農林水産省「農業経営統計調査 令和元年営農類型別経営統計」
農林水産省「品目別経営統計」

水田作(水稲)

水田作の収支は、地域や作付け延べ面積によって大きく変わります。前掲の農林水産省の出典による統計では、個人経営体1経営体当たりの農業所得は、農業粗収益327.2万円-農業経営費309.7万円=17.5万円です。

これだけを見ると、水稲作は収入につながりにくいように見えます。しかし、これは副業的農家や順主業農家の作付けする5ha以下の小規模な水田作を含めた数値です。主業農家のみで絞ると数値は以下のように変わります。

・水田作の主業農家に限った場合の農業所得
農業粗収益1,450.2万円-農業経営費1,155.3万円=294.9万円

これに、共済・補助金など受取金から掛け金・拠出金を引いた265万円が加算されます。また、規模が大きくなるほど農業所得は増加するため、20.0ha以上の面積を所有している農家では、以下のように収入も増します。

・水田作の作付延べ面積20.0ha以上
農業粗収益4,321.4万円-農業経営費3,226.2万円=1,095.2万円

これに共済・補助金等の受取金を加算して、掛け金・拠出金を引くと、受取金額は1,135.7万円となります。

このように、大規模であるほど農業所得は大幅に増加します。水稲作の所得は、地域によっても大きく差があり、東海地方より西側の水田作は平均所得がマイナス傾向であるのに対し、東北や北陸では平均的に高い傾向にあります。

なお、その中でも群を抜いて高所得となっているのは、大規模経営が多い北海道です。

露地野菜作

水稲作と同様に、露地野菜作も準主業農家や副業的農家を含む数値であるため、これだけで所得の実態をつかむのは難しいでしょう。

・露地野菜作における個人経営体1経営体当たりの農業所得
農業粗収益839.5万円-農業経営費664.9万円=174.6万円

収入目安の資料としては、品目別経営統計があります。調査は2007年で終了しているため、少し古いデータとなりますが参考までに紹介します。

露地野菜作で特に所得率の高い作物は、ししとうの10a当たり農業粗収益200.5万円、所得142.8万円です。ナスは粗収益180.3円、所得122.6万円、きゅうりは粗収益177.3万円、所得118.5万円と、主に果菜類で高い収入が得られることがわかります。

一方で、根菜類の大根は粗収益31.5万円、所得14.0万円、葉茎菜類のキャベツでは粗収益39.2万円、所得18.2万円にとどまっているようです。

この数値は10a当たりのものであり、規模が大きければそれだけ収入は増加します。また、栽培期間の短い葉茎菜類であれば、年間で数回のサイクルで植え付けたり、他の作物と輪作したりできるため、それらを合算したものが年間所得となります。

施設野菜作

準主業農家や副業的農家を含めた数値は以下の通りです。主業的農家に限った場合では、所得がもう少し増加します。

・ビニールハウスなど施設野菜作における個人経営体1経営体当たりの農業所得
農業粗収益1,598.1万円-農業経営費1,219.7万円=378.4万円

2007年時の統計を見ると、施設栽培で最も収益・所得ともに高いのがミニトマトで、10a当たり粗収益407.1万円、所得202.8万円です。

また、露地栽培で収益の高いししとうは、施設でも粗収益375.9万円、所得146.3万円とほぼ同じくらい収益が高く、ナスでは粗収益351.4万円、所得169.4万円と露地栽培の所得を上回る結果です。

一方で、葉茎菜類の青ねぎは粗収益86.3万円、所得34.2万円であり、露地栽培をした場合の所得50.4万円を下回る結果となっています。

スイカやメロンなどのうり類は施設栽培向きですが、メロンの粗収益が125.2万円、所得57.0万円と、果菜類と比較すると効率は劣ります。

果樹作

準主業農家や副業的農家が含まれた所得は以下の通りです。

・果樹作における個人経営体1経営体当たりの農業所得
農業粗収益628.5万円-農業経営費446.6万円=181.9万円

果樹で収益・所得の高い作物は、おうとうで10a当たり粗収益78.7万円、所得36.3万円、次いでキウイフルーツの粗収益54.7万円、所得35.5万円です。

所得が低い作物は、いよかんの粗収益19.5万円、所得5.0万円、栗の粗収益11.2万円、所得6.4万円などです。

まとまった収入を得るには、広い土地で収量を増やすほか、繁忙期の競合しない作物を並行して栽培するとよいでしょう。

実際、農業収入がいくらあれば生活できる?

夫婦 二人 農業

マハロ/PIXTA(ピクスタ)

農業収入だけで生活していけるかどうかをシミュレーションするには、まず生活にいくらかかるかを算出しなければなりません。農業を営んでいくには、生活に必要な費用のほかに、作物生産にかかる費用が必要です。

総務省による2020年家計調査では、単身世帯の消費支出平均は1ヵ月15万円程度と報告されています。このデータを基に15万円×12ヵ月で、1人ならば年間180万円で生活できると仮定してみましょう。

作物生産にかかる経費は、露地野菜か、施設野菜かといった営農形態や作物により、大きく変わります。さらに、寒冷地であれば霜よけなどの寒さ対策、風の強い地域では防風対策が必要になるなど、地域的・気候的な要素によっても左右されます。

新規就農する際には、めざす営農形態にかかる基本的な費用を詳しく割り出し、その地域特有の設備が必要かどうかを事前に調べておきましょう。脱サラして新規就農する場合は、十分な資金を貯めておくと、余裕をもってスタートできます。

水田作で農業を始める場合の平均的な費用を見てみましょう。「営農類型別農業経営収支」の平均値から経営規模を225aと仮定します。

農業経営統計調査の結果によると、その規模の米の生産費は10a当たり約13万円です。13万円×22.5で、生産費は全体で290万円ほどかかると推定できます。

出典:農業経営統計調査 令和元年産米生産費

つまり、単身世帯の場合、180万円+290万円=470万円の農業収入があれば生活していけると考えられます。2人以上の世帯の場合は消費支出額がさらに増えるため、将来展望も含めたうえで必要な生活費を明確にしておきましょう。

農業経営を長く安定して続けるためのポイント

農家 初心者 研修

cba /PIXTA(ピクスタ)

農業は、経営が軌道に乗って安定的な収入を得られるまでに数年かかります。うまく軌道に乗せることができても、気候や市場動向により収入が不安定になる場合も考えられます。

新規参入後、どのような点に注意すれば安定した農業経営ができるのか、押さえておきたいポイントについて解説します。

指定野菜など、高需要かつ価格が安定した作物を選ぶ

指定野菜 14品目

出典:独立行政法人農畜産業振興機構「指定野菜の生産・流通・消費動向(令和2年7月)」よりminorasu編集部作成
画像:R-DESIGN / PIXTA(ピクスタ)

日本では、野菜価格安定制度に基づいた14品目の野菜を「指定野菜」としています。これは、特に消費量が多い野菜として国が定めたものです。

さらに、指定野菜を栽培する季節ごとの優良産地は「指定産地」として定められています。指定産地で指定野菜の価格が基準値を下回った場合には、平均価格を基準に差額の最大90%が補てんされます。

指定野菜はキャベツ、きゅうり、里芋、大根、玉ねぎ、トマト、ナス、ニンジン、ネギ、白菜、ジャガイモ、ピーマン、ほうれん草、レタスの計14品目です。指定産地については、季節に応じて野菜別に市町村単位で選定されます。

指定産地については、農林水産省「野菜生産出荷安定法」のページの「野菜生産出荷安定法の規定に基づく野菜指定産地一覧」で確認できます。

この補償を受けるためには、農協などの登録出荷団体に所属して野菜の出荷を行うか、既定の規模を満たした生産者が直接登録して負担金を納入する方法があります。

農業を営んでいる地域が指定産地になっているのなら、市町村に問い合わせて詳しい条件を確認してみるとよいでしょう。

※指定野菜産地制度についてはこちらの記事もご覧ください。

就農時には補助金や支援制度を最大限活用

青年等就農計画制度など、就農時の生活、資金の確保を支援する制度が複数用意されています。これらの制度を最大限に活用すれば、自己資金の負担を減らしながら就農できるでしょう。

青年等就農計画制度では、条件を満たした就農者が「青年等就農計画」を作成し、市町村に提出したのち、認定されれば認定新規就農者となります。

認定新規就農者になると、就農時のさまざまな問題に対して市町村のサポートが受けられるようになります。資金援助や投資、融資、農地集積など、安定した経営に必要な措置を集中的に受けられるのはとても心強いものです。

まずは認定をめざして準備を進めていきましょう。

新規就農者への支援制度について、詳しくはこちらの記事をご覧ください。

農業収入保険など、保険・共済制度への加入を検討する

野菜価格安定制度には、産地や品目、出荷団体といった指定があります。しかし、農業収入保険は、複雑な条件に縛られることなく、野菜価格安定制度とほぼ同じ内容の補償を受けられます。

加入の条件は「青色申告を行っている農業者」で、それ以外の条件はありません。自然災害や価格下落、怪我や病気による収量低下などが原因となり、収入が大幅に減少した場合の備えとして加入しておくのも有効です。

農業収入保険や共済について、詳しくはこちらの記事をご覧ください。

一定の収入が確保できる「農業法人への就職」という方法も

農作業 就職

mits /PIXTA(ピクスタ)

農業収入で生計を立てるという目標があるのなら、はじめから農家として独立する以外に「農業法人へ就職する」という方法もあります。

この方法を選択肢として加えておけば、農業に携わりつつ会社員としての安定した収入や福利厚生も担保できます。また、農業のノウハウを身に付けて人脈を作り、独立をめざすのもよいでしょう。

農業求人サイト・第一次産業ネット調べによると、農業法人の平均初任給は年々上昇傾向にあり、2018年時点で19万7,128円~28万8,487円となっているようです。

就職できる農業法人を探すなら、希望する地域のハローワークに問い合わせるほか、全国新規就農相談センター、都道府県新規就農相談センターのホームページで情報を取得しましょう。

全国新規就農相談センター
都道府県の就農相談窓口

サポートや補助の充実もあり、新規就農のハードルは以前と比べて下がっています。収入への不安が解消されるようになり、安心して農業に取り組める環境も整ってきました。効率的な営農プランを実現させるために、うまく補助を活用しながら安定的な高収入をめざしましょう。

大曾根三緒

大曾根三緒

ビジネス、ペット、美術関連など多分野の雑誌で編集者として携わる。 全国の農業協同組合の月刊誌で企画から取材執筆、校正まで携わり、農業経営にかかわるあらゆる記事を扱かった経験から、農業分野に詳しい。2019年からWebライターとして活動。経済、農業、教育分野からDIY、子育て情報など、さまざまなジャンルの記事を毎月10本以上執筆中。編集者として対象読者の異なるジャンルの記事を扱った経験を活かし、硬軟取り混ぜさまざまなタイプの記事を書き分けるのが得意。

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