キャベツ農家に求められるスマート農業の確立 高収益化への取り組み
キャベツ農家の高収益化には、スマート農業を導入することが必要です。この記事では、スマート農業の内容やキャベツ農家の年収などの現状、課題について解説します。
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キャベツ農家の収益性を高めるためには、経営管理や収穫の機械化、収穫後の処理の自動化などのスマート農業の導入が必要です。キャベツ農家の年収や抱える課題を紹介しつつ、具体的なスマート農業のアイデアを解説します。
キャベツ農家の年収は?
Yoshitaka / PIXTA(ピクスタ)
キャベツ生産量が多い群馬県が2021年4月に発表した「農業経営基盤の強化の促進に関する基本方針」では、農家の労働時間と所得において以下のような目標が定められました。
主たる従事者 1人当たり | 1経営体当たり | |
---|---|---|
目標年間労働時間 | 1,750~2,000時間程度 | |
目標年間農業所得 | おおむね500万円 | おおむね750万円 |
出典:群馬県「農業経営基盤の強化の促進に関する基本方針(令和3年4月改訂)」所収「農業経営基盤の強化の促進に関する基本方針(産業として自立した農業経営の確立に向けて)令和3年4月」
では、実際には、キャベツ農家の経営収支はどうなっているのでしょうか。古いデータのため参考程度ではありますが、2007年まで実施されていた農林水産省の「品目別経営統計(農業経営収支)」ではキャベツ農家の経営収支は以下のように報告されています。
10a当たり | 1戸当たり | |
---|---|---|
平均粗収益 | 39.2万円 | 387.7万円 |
平均経営費 | 21.0万円 | 207.6万円 |
農業所得(年収額)の目安 | 18.2万円 | 180.1万円 |
出典:農林水産省「農業経営統計調査 平成19年産品目別経営統計 農業経営収支(1戸当たり) 露地野菜作経営 キャベツ」よりminorasu編集部作成
このデータによれば、キャベツ栽培による全国の平均所得目安(農家1戸当たり)は180.1万円となっています。
また、10a当たりの所得目安と1戸当たりの所得目安から、農家当たりの平均経営規模はおおよそ1haと考えられます。
これらのデータから、群馬県のキャベツ農家が、冒頭で紹介した県の所得目標を達成するには、作付面積の拡大やほかの作物も栽培すること、ほかの収入手段を確保することなどが必要だと考えられます。
ただし、大規模化や複合化で労働時間が増えてしまうようでは、県の労働時間目標を達成できず、人件費が増えて所得率も下がってしまいます。
労働時間を抑えた状態で生産量の増加、所得の増加を図るには、生産性に着目し、作業効率化と収益性向上を実現することが必要です。
キャベツ農家の現状と課題
ニングル / PIXTA(ピクスタ)
キャベツなどの葉茎野菜類は、人力による作業が多く、自動化されていない作業が多いという特徴があり、この現状のまま。作付面積を増やすことは容易ではありません。
キャベツ農家の作業効率を高めるためにも、機械など作業の自動化ができるしくみを導入することが必要です。
キャベツの収穫機は2000年に製品化されましたが、当時はあまり普及はしませんでした。その理由として、当時のキャベツの収穫方法が「選択収穫」であったことが挙げられます。
選択収穫とは、見た目のよいキャベツだけを選択して収穫する方法で、収穫機を使って全てのキャベツを収穫する方法とは逆の方法です。
現在は、調理済みの製品や外食産業などの実需者からのキャベツ需要が増えたため、選択収穫せずにすべてを収穫し、用途ごとに仕分けをするスタイルが一般的です。不揃いの形であっても十分に商品化することができるため、収穫機を使って収穫する条件が整ったといえます。
また、収穫以外の作業も自動化を図り、高齢者や女性でもキャベツを栽培、収穫、出荷しやすいしくみを作ることで、キャベツ栽培がより幅広い世代、幅広い労働者に受け入れられるようになるでしょう。
瑞鳳 / PIXTA(ピクスタ)
キャベツ農家が収益を上げるためにはスマート農業が必須!
キャベツ農家が作業を効率化し、収益を上げるためには、ロボットやAI技術、IoTなどの先端技術を活用したスマート農業が必須といえます。
従来の農業は人の作業や能力、経験に依存する部分が多く、人手不足や熟練者が少ない環境では思うような作業ができないという特徴がありました。
しかし、ロボットやAI技術を適切に導入することで作業の自動化や農家の負担軽減、データ活用によって農家の経験不足を補うことが可能になっています。
スマート農業を実施することで、次のような効果が得られるでしょう。
●作業の自動化により、大規模化のハードルが下がる
●熟練した農家のスキルを、ICT技術を通して若手農家に継承する
●データの活用と分析により、作物の生育や病害を予測し、効率性の高い農業経営が可能になる
▼スマート農業について詳しく知りたい方は、次の記事もご覧ください。
高収益化に向けたスマート農業の実践方法
高収益化を実現するためのスマート農業を実践するには、「何を改善・実現したいか」を明らかにし、その課題に応じた方法を選択することが基本です。次の3点に分けて、スマート農業の実践方法について解説します。
●経営管理を始める
●機械化・自動化を進める
●生産効率を上げる
経営管理を始める
経営を一から見直して最適化を図る手段として、経営管理が挙げられます。例えば、キャベツの出荷による売上が変わらなくても、経費を抑えることができれば、高収益化を実現できます。経営管理の流れは以下の通りです。
STEP1. ライフスタイルに合う経営目標(経営規模、作物の種類、目標所得、目標労働時間)を立てる
STEP2. 売上や費用、減価償却費などを細かく記録して経営実態を把握する
STEP3. 生産性と収益性、安全性の側面から経営分析を実施する
STEP4. 生産性と収益性、安全性に分け、改善計画を作成する
STEP5. 経営規模や作物、労働力、設備を考慮し、収支計画や資金繰り計画などの発展計画を作成する
経営実態を把握するためには、売上や費用などの経済面の記録だけでなく、作業日誌を作成することも重要です。作業日誌を丁寧に記載することで、作業の流れ、作業内容などの無駄を発見できることもあります。
pashapixel / PIXTA(ピクスタ)
機械化・自動化もキャベツ栽培の高収益化に貢献します。具体的には以下のようなことを行います。
●生育状況を画像分析する
●収穫作業を自動化する
●土壌センサで適切な施肥量を判断する
●施肥や農薬散布をドローンで自動化する
キャベツ農家が利用できる機械は開発されているものの、あまり普及していないのが現状です。しかし、収穫方法の多様化などの要因もあり、今後は普及していくと考えられます。
機械の導入には初期費用がかかりますが、国の導入支援補助金制度「スマート農業の全国展開に向けた導入支援事業」を利用することで初期費用を軽減できます。
この導入支援事業は、次の3つの対象者に向けた事業です。
タイプ | 対象者 | 補助率(補助上限額) |
---|---|---|
農業支援サービス導入タイプ | 農業支援サービス事業者 | 1/2以内(利用者ごとに300万円、上限1,000万円) 一定の条件を満たすときは2/3以内(利用者ごとに300万円、上限1,500万円) |
一括発注タイプ | 補助機械を導入しようとしている農業者などの集まり | 1/2以内(上限900万~1,000万円) 一定の条件を満たすときは2/3以内(上限900万~1,500万円) |
共同利用タイプ | 2者以上で機械を共同利用する団体や農業者 | 1/2以内(上限100万円) |
出典:以下資料よりminorasu編集部まとめ
農林水産省農林水産省「農業支援サービス関係情報」のページの 「3. 農業支援サービス事業関連の支援措置(補助金、融資など)」のうち「ウ スマート農業の全国展開に向けた導入支援事業」の項所収の事業概要
「スマート農業の全国展開に向けた導入支援事業(農業支援サービス導入タイプ)令和4年7月」
「スマート農業の全国展開に向けた導入支援事業(農業支援サービス導入タイプ)令和4年7月」
「スマート農業の全国展開に向けた導入支援事業(共同利用タイプ)令和4年7月」
補助金の申請から機械導入までの流れは以下の通りです。
1. 申し込む補助金制度を決める
2. 条件を満たしているか確認する
3. 申請窓口に申し込む
4. 補助金を受け取る
5. 機械を導入する
制度利用のための申請には期限があり、2022年6月末でいったん公募は終了しています。年度内でも追加の公募がある可能性もあります。また、予算年度が変わると情報が新しくなるので、利用を希望する場合は、農林水産省のHPをチェックしておくといいでしょう。
※上記の「共同利用型」については、都道府県が直接の実施者になりますので、都道府県の農政部署に直接問合せてください。
防除でドローンを活用
ドローンも補助金制度を活用して導入できます。ドローンは無人ヘリコプターよりも安価に農薬散布ができ、今後より一層の普及が見込まれます。
自動収穫機の導入
ディープラーニングでキャベツを検出できる自動収穫機も補助金の対象です。自動走行や収穫自動化システムにより、作業量の削減を期待できます。
自動フォークリフトの導入
自動フォークリフトなど、自動搬送ロボットの開発も進んでいます。キャベツの運搬や出荷作業において、より一層の省力化が見込めます。
生産効率を上げる
機械化と経営管理の推進に加え、データの収集、蓄積を実施し、活用することで生産効率の向上が期待できます。生産の効率化により、次のメリットを得られるでしょう。
●収益率を向上できる
●作業の省力化を実現できる
●経営に注力できる
●後継人材を確保・育成しやすくなる
●日本の農業活性化によって国際競争力を強化できる
例えば、蓄積したデータから最適な施肥量を割り出したり、病害虫が発生しそうな時期を調べたりすることができます。また、効率化を行うことでコスト削減も可能です。
生産管理のためのツールも多く開発されています。スマートフォンで生育フェーズと作業内容を一元管理するアプリや、センシング画像からほ場の状態を分析するツールなどもあるため、導入を検討してみてはいかがでしょうか。
▼農業経営に役立つアプリについてはこちらの記事もご覧ください。
キャベツなどの葉茎野菜類は収穫作業などの自動化が難しいとされていましたが、ニーズの多様化や技術力の向上により、自動化・機械化といったスマート農業が確率され、高収益化への取り組みが進んでいます。
国の補助金制度を活用することでスマート農業の導入コストも抑えることができるため、高収益化のためにスマート農業を検討してみてはいかがでしょうか。
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林泉
医学部修士、看護学博士。医療や看護、介護を広く研究・執筆している。医療領域とは切っても切れないお金の問題に関心を持ち、ファイナンシャルプランナー2級とAFPを取得。