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田畑輪換のメリットと地力の維持改善のための注意点

田畑輪換のメリットと地力の維持改善のための注意点
出典 : rujin - stock.adobe.com

米の生産過剰状態が続く中、国は田畑輪換や転作など、水田の水稲以外の作物への活用を推進しており、需要の高い大豆や小麦、飼料用作物の増産が求められています。この傾向は今後も続くと見られ、より効率的な水田活用や作物の品質向上が重要視されています。

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国が推進する水田の活用方法には、田畑輪換や転作、大規模栽培向けのブロックローテーションなどがあります。本記事では、その中でも取り組みやすい田畑輪換について、メリットや留意点、適したほ場条件、利用できる交付金などにも触れながら概要を解説します。

田畑輪換とは?

田畑輪換 水稲の収穫期、大豆の生育期

ふるさと探訪倶楽部 / PIXTA(ピクスタ)

「田畑輪換」とは、水田を活用し、水稲作と小麦・大豆・飼料作物や野菜などの転作作物を数年ごとに輪作する方式です。もともとは、水稲農家が米の生産調整や転作奨励に従い、やむを得ず水田を畑地化して畑作物を栽培し、数年後に水田に戻して水稲作を行うというものでした。

しかし、米余りの状態が続き、一方で国産大豆や小麦などの需要が高まる状況の中で、国は支援金を設けて転作や田畑輪換の推進を一層強化しています。

米の価格が低迷していることもあり、これまで水田では水稲だけを作付けしていた農家も、より単価の高い作物を導入できる田畑輪換を取り入れることで、収入アップが期待できます。

ただし、水田の畑地化には適した土壌や環境の条件が限られます。そのため、導入前に自分のほ場の環境が田畑輪換に適しているかを見極めることが大切です。

土壌や気候条件が輪換に合わない水田では、畑地化によってデメリットが生じることもありますが、適していれば多くのメリットが得られることがわかっています。特に、大規模化され、用排水路などの基盤整備が十分になされた排水性の高いほ場に向いているとされています。

田畑輪換 大豆ほ場の排水性をよくする溝堀

田舎の写真屋/PIXTA(ピクスタ)

田畑輪換のメリット

まずは、田畑輪換で得られるメリットについて解説します。

土壌物理性が改善する

水田では湛水の期間が長いため、酸素が不足します。しかし、畑に転換することで土壌の乾燥が進み、亀裂が形成されて下層にも酸素が供給されるようになります。それとともに根が伸びやすくなり、透水性も高まります。

土中に十分な酸素が供給されることによって、嫌気性微生物と好気性微生物が交代し、土壌の生物相が畑地に適するように改善されます。また、下層まで亀裂が入ることで地下水位が低下し、排水性も高まります。

通気性・排水性の良好な土壌であれば、これらの変化が速やかに進み、転作作物の生育安定化につながります。

連作障害が軽減される

土壌伝染性の病害の例 ブロッコリーの根こぶ病

土壌伝染性の病害の例 ブロッコリーの根こぶ病
写真提供:HP埼玉の農作物病害虫写真集

土壌伝染性の病害の例 ネギ白絹病

土壌伝染性の病害の例 ネギ白絹病
写真提供:HP埼玉の農作物病害虫写真集

畑作では、同じ作物を作付けし続けることで生育の悪化や病害の多発など、連作障害が発生します。これは、土壌の塩類濃度の上昇や養分の偏り、同じ病原菌の密度の高まりなどが原因といわれます。

しかし、輪換の中で再び水田として湛水することで土壌環境が適正化され、こうした連作障害が起きにくくなります。特に、土壌中の病原菌は湛水によって死滅するものが多く、土壌病害の発生が軽減されます。

ただし、中には湛水状態を生き延びる病原菌もあります。そうした菌が発生した場合、土壌中の拮抗菌が死滅してしまい、病害が激発することもあるため注意が必要です。

雑草の発生を抑制できる

水田に発生する雑草と畑地に発生する雑草は、それぞれ生育条件が異なるため、転換時に互いの発生を軽減させられます。

一方、センダングサなどの田畑共通雑草は、ほかの雑草が抑制される分、増加する傾向にあるため要注意です。

田畑共通の雑草 アメリカセンダングサ

田畑共通の雑草 アメリカセンダングサ
髙橋義雄 / PIXTA(ピクスタ)

土壌養分を有効利用できる

水田には、もともと周囲の山野から養分が流れ込み、潜在的に高い肥沃度を持つ場合が多く見られます。そのような水田の土壌を乾かし畑状態にすることで、多量に含まれていた有機態窒素が微生物に分解されて無機化し、可給態窒素になります。

そうして顕在化した窒素は畑作物に吸収され、生育に活かされます。特に大豆は土壌窒素に大きく依存するので、転換初期に土壌から放出される窒素を有効活用できます。

また、大豆によって無機化された窒素は、次に作付けした水稲の生育を良好にする効果もあります。

田畑輪換の大豆ほ場

田舎の写真屋/PIXTA(ピクスタ)

交付金が受けられる

田畑輪換を導入した場合、転作作物によっては「水田活用の直接支払交付金」を受けられます。この交付金は、主に麦・大豆などの作付面積を拡大し、食料自給率を上げることを目標にしたもので、生産する作物によって支援内容が異なります。

例えば、水田を活用して麦・大豆・飼料作物・加工用米などの「戦略的作物」を生産すると、「戦略作物助成」や「畑作物の直接支払交付金(ゲタ対策)」が受けられます。

また、主食用米と比べて面積当たりの収益性が高い野菜や果樹などの「高収益作物」を生産すると、「高収益作物定着促進支援」や「高収益作物畑地化支援」が受けられます。

国はこの交付金について、2022年から2026年の5年間で一度も水張り(水稲作付)が行われなかった農地は2027年度以降、交付対象水田から除外する方針を示しています。その場合、水田から畑作への転作は対象外となりますが、田畑輪換は交付対象です。

出典:農林水産省「水田活用の直接支払交付金」所収「令和4年度水田活用の直接支払交付金(当初予算額)」

ただ、これまでの田畑輪換や転作は交付金頼みなところがあり、それゆえに作物の品質や収量の向上が追求されなかったという状況があります。

交付金に満足することなく、田畑輪換のメリットを活かして高品質の作物を安定的に収穫できるよう、工夫を重ねることが大切です。

田畑輪換の留意点

次に、田畑輪換の実施において留意すべき点を挙げます。

地力の消耗が見られることがある

前項では田畑輪換のメリットの1つに、土壌養分の有効活用を挙げました。これは裏を返せば、長い時間をかけて水田に蓄積した養分を活用しているということであり、水田の潜在的な地力は消耗してしまいます。

初めのうちは作物の生育がよくなっても、次第に地力が失われていき、生産性の低下につながります。特に大豆においては、その傾向が顕著です。

地力低下による生産性の低下を回避するには、堆きゅう肥の投入や緑肥・稲わらなどのすき込み、さらに適切な施肥を続けることが大切です。

▼稲わらの秋すき込みについての記事もご覧ください。

米粒が高タンパク化する恐れがある

メリットの多い田畑輪換ですが、そもそもの目的は米の生産を減らし、その分をほかの作物に活用することであり、メリットは付随的なものです。初めから収量や品質を向上させる効果を期待する方策でないことは、理解しておきましょう。

メリットの項目で述べたように、一時的に水稲・畑作物とも収量が向上しますが、徐々に地力が失われていきます。また、畑作からの復元田では、一時的にタンパクが過剰になり、米の食味が低下することもあります。

米の品質・等級検査

YUMIK / PIXTA(ピクスタ)

復田に多大な労力とコストがかかる

水田から畑地への転換は比較的容易ですが、復田時にはかなりの労力を要します。

復田時にはまず、ほ場の均平化を行います。また、畑地化した際にひび割れが入って排水性が向上したほ場の場合は、漏水する恐れがあるので、畦ぬりをして漏水を防止します。心土破砕を行った場合は、耕盤層の形成作業が必要となります。

これらの作業は、田畑輪換のサイクルが短いほど頻度が増し、労力・コストともに負担が大きくなります。

田畑輪換 心土破砕

田舎の写真屋/PIXTA(ピクスタ)

田畑輪換に向いている土壌

田畑輪換に向き、より高い効果を得られる土壌条件は、透水性に優れ、排水の良好な乾田型土壌です。排水不良なほ場では、畑転換時に湿害のリスクが大きく、収量や品質の大幅な低下につながります。

排水を速やかに行えれば畑地としても利用しやすく、復田時における水管理が容易なことも大切なポイントです。これらの点から、排水性の高さに加え、0.5ha以上の規模で、基盤整備を実施したほ場が田畑輪換に適しているといえます。

田畑輪換に向いている作物

田畑輪換 小麦

gorosuke/PIXTA(ピクスタ)

田畑輪換に向いている作物としては、まず水田利用に向く大豆・小麦・とうもろこしなどが挙げられます。

そのほか、野菜類であれば、土壌が適していればほとんどの作物が栽培可能なので、水稲と作業競合しないものがおすすめです。比較的手のかからないアスパラガスやニラ、作業が重ならない夏作のナスやきゅうり、スイカなど、あるいは冬作のイチゴなどが取り組みやすいでしょう。

野菜類は有機物が少ないので、スイートコーンやソルゴーなど有機物の多い作物と組み合わせると、地力の低下を抑えられます。

また、輪換畑では根が浅いと土壌の透水性が悪くなります。麦類・葉菜類のような浅根性の作物は、スイートコーンや芋類、根菜類のような深根性作物を組み合わせるとよいでしょう。

田畑輪換で生産性を維持するための注意点

前述した田畑輪換全般の留意点とは別に、生産性を維持するための注意点について解説します。

地力の維持改善のために有機物を施用する

水田への堆肥散布

田舎の写真屋/PIXTA(ピクスタ)

先述のとおり、水田を畑転換すると、蓄積された土壌中の有機態窒素が可給態窒素となって減耗してしまい、徐々に生産性が低下します。それを防ぐためには、窒素の施肥対応が必須です。

ただし、復田初年は畑作により土壌の地力窒素発現量が増しているので、一般的な施肥量の47〜78%程度に減らします。

出典:一般社団法人 北海道農産協会「北海道の米づくり|稲作栽培 冊子等の資料|平成23年 北海道の米づくり」所収「XI 田畑輪換(243ページ)」

そのほかの栽培工程においては、一般的な栽培と同様に健苗育成や適期移植、適正栽植密度などの基本に準じます。

用排水路の水管理を行う

田畑輪換 小麦 用水路

田舎の写真屋/PIXTA(ピクスタ)

一度畑地として活用したあとの復元田は、土壌の透水性・排水性が高くなっており、漏水の可能性があります。したがって、漏水対策も重要です。

ほ場の土壌自体も漏水しやすくなっているうえ、畦畔や用水路は転作期間中使用していないため、雑草が繁茂していたり畦から漏水したり、水路が崩壊することもあります。それらを防ぐために、入水前に畦や用水路を点検し、修繕しておきましょう。

また、復元田の代かき用の水量は、一般的な水田の1.5〜2倍ほど必要といわれます。事前に十分な用水量を確保し、余裕を持って入水しましょう。

ほ場の土壌にできた亀裂から、暗きょに水が流れてしまう例もあるため、入水後は水深を確認し、多量の減水深があった場合は漏水箇所の特定・修繕を行います。

出典:一般社団法人 北海道農産協会「北海道の米づくり|稲作栽培 冊子等の資料|平成23年 北海道の米づくり」所収「XI 田畑輪換(241ページ)」

田畑輪換に適した基盤整備技術として、9道県やJA、農研機構が普及を推進している地下水位制御システム(FOEAS)や集中管理孔があります。

こうした技術を導入することで、水田の灌水・排水機能が改善し、水稲の低コスト化や麦類・大豆の品質向上、安定的な収量向上につながることが期待されます。

出典:農研機構 中日本農業研究センター「水田輪作における地下水位制御システム活用マニュアル」

▼フォアスについてはこちらの記事もご覧ください。

田畑輪換は、米の生産量を抑えながら小麦・大豆・飼料作物や野菜など需要の高い作物を収穫できる、有用な方策です。適切に活用すれば、土壌や作物にとっても多くのメリットがありますが、排水性の低い土壌などでは湿害や病害が多発したり、施肥の管理が悪いと地力が低下したりして収量も減ってしまいます。

また、転作作物によっては交付金も受けられますが、それに頼りきりでは田畑輪換の本来の効果を発揮できません。

自身のほ場の土壌や環境が田畑輪換に適しているなら、用排水基盤などを整え、何を栽培し何年おきに輪換するかなど長期的な見通しも立てたうえで、計画的に取り組みましょう。

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大曾根三緒

大曾根三緒

ビジネス、ペット、美術関連など多分野の雑誌で編集者として携わる。 全国の農業協同組合の月刊誌で企画から取材執筆、校正まで携わり、農業経営にかかわるあらゆる記事を扱かった経験から、農業分野に詳しい。2019年からWebライターとして活動。経済、農業、教育分野からDIY、子育て情報など、さまざまなジャンルの記事を毎月10本以上執筆中。編集者として対象読者の異なるジャンルの記事を扱った経験を活かし、硬軟取り混ぜさまざまなタイプの記事を書き分けるのが得意。

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