稲わらのすき込み+石灰窒素で地力向上! 収量を増やす水田の土作り

稲わらの秋すき込みは、気候などの要因で思うように腐熟が進まない場合がありますが、石灰窒素の散布で腐熟を促進できます。実際に散布する場合の目安となる分量や散布の手順、同時に施用することでさらに地力を上げる肥料について解説します。
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目次
作物の品質や収量を上げるには地力の向上が欠かせません。そのためには堆肥に近い効果を発揮する「石灰窒素を加えた稲わらの秋すき込み」がおすすめです。その効果を上げるポイントに触れながら、稲わらの秋すき込みの具体的な方法やメリットを紹介します。
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地力を上げて収量アップ! 稲わらのすき込みが水田の土作りにもたらす効果

dr30 /PIXTA(ピクスタ)
近年の気温上昇は水稲栽培に強い影響を及ぼしています。その1つが、水稲の出穂期から登熟期まで高温が続くことで、高温障害により品質や収量が低下している問題です。
また、台風や大雨の増加により、収穫後に稲わらが流され、用水路や周辺の道路に流出・散乱してしまうという被害も発生しています。
こうした状況の改善に効果的なのが、収穫後に行う稲わらの秋すき込みです。秋の早い時期に行い、すき込んだ稲わらが堆肥化する時間を十分とることで、地力向上に寄与します。
本来、地力向上に効果的なのは堆肥の投入ですが、堆肥作りと投入には非常に労力がかかることから最近では省略する農家が増えており、地力低下の要因の1つになっています。

田舎の写真屋 / PIXTA(ピクスタ)
稲わらの秋すき込みは、堆肥を投入するよりも少ない労力でほぼ同等の効果が得られ、しかも、稲わらの処理と管理という問題も解決できます。
また、秋にすき込まれた稲わらは、土壌中で堆肥化することで、炭素を貯留してメタンの発生を抑制します。メタンは水稲の根腐れなど生育障害の原因となる「ワキ(ガス)」に多く含まれる成分であり、これを抑制すれば水稲の生育も向上します。
さらに、メタンは温室効果ガスでもあるため、環境負荷の軽減にも役立つのです。

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効果的な稲わらすき込みのポイントは「腐熟の促進」
これまでに稲わらのすき込みを行ったけれど、うまくいかなかったという方もいるでしょう。秋の稲わらのすき込みを効果的に行うには、いくつか注意すべきポイントがあります。ここではポイントについて説明します。
未腐熟な稲わらの春すき込みにはデメリットが多い
もともと秋耕をせず春耕のみを行っていた人は、秋に刈り取ったあとの稲わらを放置し、春耕の際にすき込む場合が少なくないようです。
しかし、稲わらは地上に積んだまま放置しても腐熟せず、すき込まれてから腐熟を始めるので、春にすき込むのでは間に合わず、未腐熟のまま田植えを迎えてしまいます。

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微生物が有機物を分解する過程では窒素や酸素を多量に吸収します。そのため、苗が植えられてからも稲わらが腐熟を続けていると、土壌中の酸素と窒素が不足してしまいます。
そして、土壌中の酸素が欠乏すると有機酸、硫化水素などが発生して還元状態となり、作物の養分吸収が阻害されてしまうのです。
この状態になると除草剤の薬害が出やすくなりますので、注意が必要です。また、窒素不足では、水稲の初期成育も抑制されていきます。
こうしたことから、春に稲わらをすき込むと効果がないどころか、かえって逆効果になってしまうこともあるのです。
これを避けるためには秋に稲わらをすき込み、春までに十分に腐熟させることが重要です。そのあとに春耕することで、栄養豊富な土壌になるのです。
稲わらの腐熟を促進させる条件

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秋に稲わらをすき込んだのに、うまくいかなかったというケースもあるでしょう。効果的に腐熟を促進するには、秋に行うだけでではなく、微生物が活動しやすい条件を整える必要があります。
まず大切なのが、地温が十分に高いことです。土壌微生物が活発に活動するためには地温15℃以上が必要です。
そして、微生物が稲わらを分解するには十分な酸素と窒素も必要です。酸素が不十分でも、窒素が不足していても腐熟は進みません。
そのため、酸素を十分に行き渡らせるよう工夫したり、窒素を人工的に補ったりする必要があります。具体的な方法については後段で詳しく説明します。
加えて、地力を上げるためには、春耕までの間は田んぼを乾かすことも大切です。
秋すき込み+石灰窒素で効率的に腐熟を進めて土壌改善

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同記事内では、福島県農業試験場で行われた試験についても紹介しています。その試験では、稲わらの秋すき込みに、「石灰窒素を施用した場合」と「施用しなかった場合」、そして「無施用で春すき込みを行う場合」に分けて、発生するメタンの量をそれぞれ測定しました。
試験結果として「秋すき込みで石灰窒素を施用する場合に、発生量を大幅に抑えられる」という結果が報告されています。
秋のすき込みには別のメリットもあります。
土壌中にいもち病や紋枯病などの病原菌、害虫の卵や幼虫、雑草の塊茎や種などがある場合、耕うんによってそれらを埋め込んだり掘り起こしたりすることで、ある程度死滅させることができます。この効果も、収量や品質アップにつながる大切なポイントとなっているのです。
上述した腐熟条件を整えた稲わらの秋すき込みにおいて、さらに腐熟促進剤として「稲わらより炭素率の低い窒素肥料」つまり石灰窒素を施用すると、効果をより高められます。
微生物が稲わらを分解する際には多量の窒素を吸収するため、窒素を補給してあげることで、分解作用をより活性化させられるのです。
その効果を明確に示したのが、埼玉県の農家で行われた稲わらの秋すき込みの実証実験です。この実験では、同じほ場の石灰窒素を施用した地区と施用しなかった地区とで、移植3週間後の水田の状況や苗の生育状況を比べました。
結果は、石灰窒素を施用した地区は、施用しなかった地区よりも「浮きわら」(腐熟できなかったわらが浮いてくる現象)の発生率が減り、ワキの発生もなく、水稲の初期生育が良好でした。
出典:JAcom 農業協同組合新聞「【特集・土づくり】地力増強と環境にやさしい農業を 石灰窒素による稲わら秋すき込みで」
▼石灰窒素の土作り効果についてはこちらの記事もご覧ください。
具体的な手順は? 稲わらの秋すき込み+石灰窒素添加のやり方
次に、実際に稲わらの秋すき込みや石灰窒素の施用を行う際のコツについて説明します。
作業を行う時期は「収穫後できるだけ早く」が正解
収穫が終わってからできるだけ早く作業を行う理由は、「地温が15℃以上の日が多い時期に行うことで、すぐに微生物が活発に活動しはじめ、腐熟が速く進むため」です。
地域や気候によって前後しますが、1日でも多く15℃以上の日が続くようにしましょう。それには収穫後、初秋のうちにできるだけ早く実施することが重要です。
東北などの冷涼な地域では15℃以上になる期間が短く、作業時間を確保しにくいことから、秋のすき込みが難しいかもしれません。その場合には、秋にまとめておいた稲わらの上に石灰窒素を表面施用し、それを春にすき込むのもよい方法です。
山形県農業総合研究センターが行った試験では、「石灰窒素を表面施用した稲わらのほうが、施用しなかった稲わらを春にすき込むよりもメタンの発生が大幅に抑えられた」という結果が出ています。
すき込む深さは「5~10cm程度の浅め」でOK

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窒素と同様に酸素も腐熟を促進するために必要です。十分な酸素を供給するためには、耕深は10~15cm程度の深さにとどめます。それによって、土壌中の稲わらまで酸素が行き渡ります。
可能であれば、秋のうちに2回、もしくは秋と春に1回ずつ耕起しましょう。残った酸素や窒素がならされ、より効率的に腐熟を進めることができます。
また、春耕までの間は田んぼをしっかり乾燥させることも大切です。土壌を乾燥させてから春耕することで、土壌中にある窒素のうち多くを占める有機態窒素が、植物に吸収されやすい無機態窒素に変わります。土壌の乾燥を促進させるためにも、10~15cm程度の耕深がよいでしょう。
コンバインで裁断後、プラウやロータリーですき込みを
コンバインやフレールモアで裁断された稲わらは、ほ場全体に均一に散らし、上から石灰窒素を散布してプラウやロータリーですき込みます。その際、稲わらが山盛りになっていると腐熟にムラが生じるので注意が必要です。
また、冬の間の灌水も腐熟を妨げ還元状態になるので、湿田や排水の悪い水田の場合は、すき込みの際に排水溝を作るなどの対策をしましょう。
添加する石灰窒素の量は「10a当たり20kg」が目安
土壌中で有機物が腐熟する速さは、炭素率(C/N比)という炭素と窒素の割合が関わっており、この炭素率が低いほど、早く腐熟する傾向があります。
つまり、分母となる窒素を土壌に加えることで炭素率が小さくなり、その分腐熟が早まるということです。「10a当たり稲わら500kgに対し石灰窒素20kg散布」が基本の目安量です。
石灰窒素に加えて、ようりん40kgまたは苦土重焼燐20kg、リンスター25kg、ケイカル120kg、アヅミン30kgなどの肥料を合わせて施用すると、さらなる土壌改善効果が期待できます。
こうして多様な養分をバランスよく含ませてやることで土壌は肥沃になり、地力が上がります。地力を保つためには、毎年こうしたすき込みを続けることが大切です。
出典:JA全農「土壌診断について」のページの「土壌診断結果をより詳しく知りたい方へ」の項に所収の「稲わら・有機物」
▼C/N比と腐熟速度についてはこちらの記事をご覧ください。
土壌分析や栽培管理支援システムでより効果的に地力アップ
稲わらのすき込み効果をさらに上げるには、現状の地力を把握しておくことが大切です。地力を知ることで、ほ場に適した資材の種類や量、場所を判断できます。
ほ場の地力は、土壌分析や栽培管理支援システムで知ることができます。
土壌分析:土壌養分の過不足がわかる
土壌分析を行うことで、養分やpHなどといった土壌の化学性がわかります。例えば、JAが実施する土壌診断では、主に以下の項目を測定できます。
- pH
- EC(電気伝導度)
- 可給態リン酸
- CEC(陽イオン交換用量)
- 塩基飽和度(石灰・苦土・加里)
- 有効態ケイ酸
養分の過不足が定量的に確認できるため、どのような資材をどれだけ投入すべきかを判断できます。
▼土壌分析の詳細は以下の記事をご覧ください。
栽培管理支援システム:ほ場の地力ムラがわかる
栽培管理支援システムとは、収量アップやコスト削減、効率化を実現してくれるスマート農業ツールです。システムの中には、衛星データから地力を推定できるものがあり、稲わらをすき込むべき場所をピンポイントで把握できます。
例えば、ドイツの大手化学メーカーBASFが開発する栽培管理支援システム「xarvio®(ザルビオ)フィールドマネージャー」には「地力マップ」機能があります。
ザルビオの地力マップは、過去15年分の衛星データを基にほ場の地力を推定するため、地力の改善に取り組むべきポイントがすぐにわかります。地力を推定するためのデータは人工衛星で取得するため、ドローンでの撮影は不要です。

ザルビオの地力マップでは、ほ場全体の地力が一目でわかる
画像提供:BASFジャパン株式会社
地力マップの精度は非常に高く、実際に地力マップを活用した農家によると、地力マップが示す地力と実際の収量がほぼ一致したそうです。

画像提供:BASFジャパン株式会社
地力が低い場所に稲わらなどの土壌改良資材を施用することで、ほ場全体で地力アップが期待できます。
地力マップと稲わらの秋すき込みによる収量アップ事例

ほ場の前に立つ眞木さん
撮影:minorasu編集部
佐賀県吉野ヶ里町で米・麦・大豆を栽培する眞木さんは、化学農薬と化学肥料を使わずに特別栽培米を栽培しています。また、慣行栽培も行っていますが、下水道由来の堆肥を活用するなど、特別栽培に近い方法で栽培しています。
そんな眞木さんは、地力の改善をとても重要だと捉えているそうです。
「私は、土づくりを大切にしています。人間関係と一緒で、作物を栽培するにも、団粒化(風通しのよい土)なども含め、シッカリとした土壌づくりが大切だと思っています。」
地力改善のため、天然由来の土壌改良資材などを施用しています。
「落ち葉や藁、籾殻など、田んぼの残渣物も活用します。田んぼでは、18度以上になるとバチルス菌が働いて、藁などが発酵分解され肥料になります。さらに、卵の殻をほ場に撒くこともあります。卵の殻の主成分は炭酸カルシウムなので、二酸化炭素の発生により土を柔らかくして団粒構造を作ることができます。」
さらに、資材投入に当たっては地力マップを活用して改善ポイントを見極めているようです。
「ザルビオの地力マップ機能では、ほ場内の地力ムラが細かくわかるので、卵の殻などは地力の低い場所に撒いて、ほ場全体の地力アップにつなげています。」
また、地力のムラを解消するため、施肥にも工夫を施しています。
「地力マップを活用して可変施肥に近い施肥を行っています。全ほ場の地力マップを頭に入れておき、まずは均等に肥料を撒きます。その後、地力が低い場所に追肥する方式です。」

ザルビオの地力マップで見たほ場内の地力ムラ
出典:眞木優さんnote「特別栽培米の眞木優」内「6/28(水/雨)【ザルビオ…地力マップ】」
眞木さんは、土壌改良資材で地力の向上を図りつつ、可変施肥で地力のムラを補う工夫により、高い効果を感じることができているといいます。
「最も感じている効果は収量アップです。正直、驚いています。ほ場ごとの反収は確実に増えましたね。それと、稲わらの秋すき込みを行うことで、翌年の水稲栽培での施肥量を減らすこともできています。」
眞木さんのように、地力マップを活用して地力を上げることができれば、特別栽培米などの付加価値の高い作物の栽培や収量アップにより、収益の向上につなげることができるかもしれません。
稲わらの秋すき込みは、堆肥と同等の効果を発揮して地力を上げる効果があります。また、作物や環境に有害な有機酸、硫化水素やメタンの発生を防いだり、病害虫や雑草の発生を抑えたりとさまざまな効果があります。
収穫が終わったらできるだけ速やかに稲わらと石灰窒素を散布し、すき込みを実施しましょう。
また、稲わらのすき込みの効果を高めるには、ほ場の地力を知ることが重要です。土壌診断や栽培管理支援システムを活用し、適切な場所に施用することで効果を高められます。
ほ場全体の地力が確認できる「地力マップ」はザルビオで利用できます。まずは一度、最先端の栽培管理ツールをお試しください。
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大曾根三緒
ビジネス、ペット、美術関連など多分野の雑誌で編集者として携わる。 全国の農業協同組合の月刊誌で企画から取材執筆、校正まで携わり、農業経営にかかわるあらゆる記事を扱かった経験から、農業分野に詳しい。2019年からWebライターとして活動。経済、農業、教育分野からDIY、子育て情報など、さまざまなジャンルの記事を毎月10本以上執筆中。編集者として対象読者の異なるジャンルの記事を扱った経験を活かし、硬軟取り混ぜさまざまなタイプの記事を書き分けるのが得意。