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ビニールハウスの暖房対策! コストを抑える加温方法と、省エネ実現の工夫

ビニールハウスの暖房対策! コストを抑える加温方法と、省エネ実現の工夫
出典 : chinen / PIXTA(ピクスタ)

ビニールハウスを加温する際は主に重油暖房が用いられますが、近年では燃料価格が高止まり傾向です。農家の収益を確保し続けるためには、効率的な加温方法や保温対策を検討する必要があります。この記事では、コストを抑えてビニールハウスを加温する方法や省エネにつながる暖房対策について解説します。

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施設園芸農家にとって、ビニールハウスの暖房に必要な燃料代の高騰は大きな経営課題です。燃料コストの削減をねらい、太陽熱を活用する次世代暖房システムや、スマート農業の1つである環境制御装置を導入する農家もみられます。燃料価格の推移を踏まえて、低コストでビニールハウスを加温する方法について解説します。

燃料価格が高騰! 「暖房」にかかる施設園芸農家の未来

ビニールハウスの暖房には、主にA重油が燃料として使われています。燃料価格は為替や世界情勢などの影響による変動を繰り返しており、A重油の価格は、2021年の10月頃から価格が高止まり傾向です。

minorasu(ミノラス)の画像

出典:経済産業省資源エネルギー庁「石油製品価格調査」掲載「産3.産業用価格(軽油・A重油)|2007年(平成19年)1月~【産業用A重油ファイル】」よりminorasu編集部作成

最近の動きをみると、2020年の4~6月には、1L当たり60円台の前半でしたが、その後は上がり続け、2021年10月に90円台、2022年1月に100円台に突入しました。2022年から2023年上半期は、概ね98~101円で推移したものの、2023年7月に再度100円台になり、8月・9月と価格が上がっています。

施設園芸では、気温が低い冬や春先に、経営費に占める燃料費の割合が高くなり、燃料費の高騰が利益を圧迫する一因となります。

【加温】 ビニールハウスを低コストで加温する方法

ビニールハウス内の温度を維持する方法は、加温と保温と温度管理の3通りです。まずはビニールハウスを省エネ・低コストで加温する方法を紹介します。

重油不要の薪ストーブを活用

ビニールハウスの暖房に薪ストーブを活用すれば、燃料費を削減し、温風暖房機より低コストでハウス内を加温できる可能性があります。電気がなくても使用できるのはもちろん、建築廃材や剪定した樹木を燃料として活用可能です。温風暖房機と併用する農家もみられます。

例えば、石村工業株式会社の薪ストーブ「ゴロン太」は連続燃焼時間が7~8時間あり、1台で130坪程度のハウス(内張りあり)を暖房できます。大型の「スーパーゴロン太」は連続燃焼時間が連続12~14時間あり、1台で200坪程度のハウス(内張りあり)の暖房が可能です。1晩あたりの薪代は1,650円〜2,200円程度であり、活用方法によっては燃料費を半減できる可能性があります。ただし、送風機能がないため、ハウス全体を暖房するには別途送風機の設置が必要です。

製品ページ:石村工業株式会社
「ゴロン太」
「スーパーゴロン太」

太陽熱を活用した次世代暖房システムの導入

太陽熱を活用する設備など次世代暖房システムの導入も、低コストでビニールハウスを加温する方法のひとつです。

AMO環境デザイン株式会社では、太陽熱を使ってビニールハウスを加温できる「高効率太陽集熱・高放射熱暖房チューブシステム」を実用化しています。日射量の多い地域では、「高温度太陽集熱器」により集めた太陽熱を暖房熱源とし、高放射チューブ内部を加熱し、電磁波放射による輻射熱で作物を直接加温するので、燃料代がかからないのが特徴です。

日射量の少ない地域では、「もみ殻温水ボイラー」を熱源とし、同様に高放射チューブ内部を加熱し、作物を直接加温します。

商品紹介ページ:AMO環境デザイン株式会社「商品紹介」

【保温】 ビニールハウスの断熱性を高めて暖房コストを下げる方法

ビニールハウスの断熱性を高めることも、暖房コストを下げるためには重要です。ビニールハウス内の保温方法や断熱資材の活用方法を紹介します。

内張り材(保温カーテン)を利用する

内張り材(保温カーテン)を張ったビニールハウス

SGO / PIXTA(ピクスタ)

ビニールハウス内に内張り材(保温カーテン)を張ると、ハウス内の保温効果が高まります。外張り材と内張り材の間にできる空気の層で断熱する仕組みで、内張り材を多層被膜とするほど、より高い保温効果が得られます。また、天井だけでなく側面・妻面もあわせて多層化することでも保温効果は高まります。

多層化する場合には、資材同士が結露水などで張り付かない程度に数cmの間隔を設けると保温効果の低下を防げます。ただし、多層化するほど光の透過性が低下するので、気象条件や作物の生育特性に応じた資材を選ぶのがポイントです。

保温性の高い被覆資材を利用する

ビニールハウスの被覆資材

smtd3 - stock.adobe.com

ビニールハウスの保温性を向上させるために、以下のようなさまざまな種類の被覆資材が活用できます。

  • 透明性資材よりも断熱性に優れた「反射性資材」
  • 中間に空気層を持つ「中空構造資材」
  • アクリル製やポリカーボネート製で空気層を持つ「複層板」
  • 断熱性素材を重ねた「多層断熱資材(布団資材)」
  • 2重被覆の間に空気を送り込む「空気膜2重被覆」

これらの被膜資材を使用することで、室温低下を防ぎ、省エネ効果の発揮が期待できます。特にビニールハウス北面に断熱資材を固定張りすると、冬期の北風による保温機能低下を防げます。

この中で、高い断熱性を持っているものの、厚みや重さがあるため普及が進んでこなかった資材が「多層断熱資材(布団資材)」です。近年、技術の発展により、軽量化や薄層化が進んできたため、今後の活用が期待されています。

ビニールハウスの隙間対策を行う

裾に隙間のないビニールハウス

yuruphoto / PIXTA(ピクスタ)

ビニールハウスに隙間があると暖房した熱が外に逃げ、暖房効率が低下して、燃料費がかさんでしまいます。保温効果を高めるためにはビニールハウスの隙間対策が重要です。

カーテンの裾部が短すぎると温室内に冷気が侵入しやすくなるため、裾部分を長めに確保した上で留め具や土盛り等で固定するようにします。留め具の緩みによって被覆が破損しないよう、こまめに点検するのもポイントです。出入り口付近や妻面にも隙間が発生しやすいので、カーテンを多層化するなどの対策をとります。また、ハウスの外張り被覆や天井部のつなぎ目・出入口、内張カーテンのつなぎ目や裾部に破損が見つかったら、早めに修理します。

【温度管理】 ビニールハウスの暖房効率を高める方法

ビニールハウス内に温度ムラがあると、無駄な加温による燃料消費量の増加につながります。燃料の消費量を最小限にするためには、温度ムラをなくすための対策が重要です。ここでは、適切な温度管理により、ビニールハウスの暖房効率を高める方法について解説します。

温風ダクトのエネルギーロスを削減

ビニールハウスの温風ダクト

Princess Anmitsu / PIXTA(ピクスタ)

ビニールハウスの加温では、温風暖房機が多く用いられています。暖房機から吹き出された温風で、広いハウス内を均一に温めることは難しく、どうしても温度ムラが生じてしまいます。ハウス内の温度を均一にするためには、温風をハウス内に行き渡らせる「温風ダクト」の配置が効果的です。無駄な燃料消費を抑えることにつながります。

温風ダクトを配置する前にハウス内の複数の場所で温度を測定しましょう。温度が低い場所ではダクトの本数を増やしたり、吹き出し穴の大きさ・間隔を増やしたりして送風量を確保する工夫が必要です。

また、太いダクトを使用し、つぶれや折れ曲がりを避けて配置すれば、送風抵抗を抑えられ暖房効率が高まります。ダクト表面からの放熱が大きいので、温度ムラをなくすためには暖房機から離れた場所での吹き出し量を多くするのがポイントです。

あわせて、暖房機が過剰燃焼にならないよう、温度センサーはハウス内の中ほどで栽培する作物の生長点付近に設置します。バーナーノズル付近や缶体をこまめに清掃することも、暖房効率の低下や不完全燃焼を防ぐためには重要です。

温風ダクト・循環扇の併用

循環扇

hamahiro / PIXTA(ピクスタ)

ハウス内の隅々まで暖気を届けるには、温風ダクトと循環扇の併用が効果的です。

温風ダクトに加えて循環扇を併用すると、さらに温度ムラをなくせます。循環扇をハウス内に適切に配置することによって、自然対流よりも強い水平方向の風の流れを作ります。

循環扇の正面部は風が強くなるため、作物に直接風が当たらないよう、温室の天井部と作物頭頂部との間に循環扇を設置するなどの注意が必要です。循環扇を設置することで多湿病害を抑制したり、光合成を促進したりする効果も期待できます。

環境制御装置の導入

ネポン株式会社 Youtube公式チャンネル「ネポン動画チャンネルハウス暖房用多段サーモ NT 381【省エネ+病害予防+温度ムラ軽減】」

温風暖房機と接続して使える環境制御装置を導入すればハウス内の温度管理を自動化でき、栽培管理を省力化できます。また、適正な暖房運転を行うため、省エネにもつながります。

例えば、ネポン株式会社の「多段サーモヤコン NT-381」では、同社製の温風暖房機「ハウスカオンキ」と接続して最大8パターンの温度管理が可能です。オプションの日射センサーを接続すれば、天候に応じてハウス内の温度を自動調節できるので省エネにも効果を発揮します。

さらに、室温センサー間の温度差を検知した際の送風機能により、温度ムラを緩和できます。事前に設定した時間帯での除湿運転も設定できるので、結露の発生を予防できます。

製品ページ:ネポン株式会社「多段サーモヤコン NT-381」

▼環境制御装置の詳細を知りたい方は、こちらの記事もご参照ください。

他にもある! 暖房費の負担を抑えるためにできること

低温でも栽培可能な品種やエネルギー消費量が少ない作型に転換することで、暖房費の負担を抑えられる可能性があります。また、省エネ化に対する国の補助金や支援制度を活用するのも、農業経営を安定させる方法のひとつです。

品種・作型の転換

暖房費を抑えるために、低温でも生育し収量が確保しやすい品種に切り替えたり、厳冬期を避ける省エネ型の作型へ移行したりする方法も考えられます。

品種・作型の転換を検討する際は、作物の栽培で得られる利益や地域での適応性・暖房費など必要経費とのバランスを考慮することが重要です。近年では、低温の着果性・肥大性や成熟性に優れた品種も開発されています。ただし、省エネに注力しすぎて商品価値を下げてしまう恐れもあるので、十分な検討が必要です。

補助金や支援制度の活用

農業の支援制度

カッペリーニ / PIXTA(ピクスタ)

燃料の調達や省エネ化にかかる費用負担を軽減するために活用できる、補助金や支援制度の一例を紹介します。

■産地生産基盤パワーアップ事業・施設園芸エネルギー転換枠

省エネ化と経営の安定化を図るため、加温設備を有する施設園芸産地を対象とした事業です。省エネ機器の導入面積を産地の50%以上に拡大するか、燃油使用量を15%以上削減する成果目標を設定した場合に、省エネ機器やハウス内部に設置する循環扇等機材のリース導入に対して補助されます。

詳細は以下を参照してください。
農林水産省「産地生産基盤パワーアップ事業関係情報」:所収「収益性向上対策のうち施設園芸エネルギー転換枠パンフレット」「収益性向上対策のうち施設園芸エネルギー転換枠PR版」

■施設園芸セーフティネット構築事業

国と農業者で積立てを行い、農業従事者5名以上または施設園芸農家3戸以上で構成する農業者団体が、燃料使用量を3年間で15%以上の削減を目指した取り組みを行う場合、燃料価格高騰時に燃料費の一部の補填を受けられる制度です。

詳細は以下を参照してください。
農林水産省「園芸作物(野菜・果樹・花き) 施設園芸のページ 施設園芸等燃料価格高騰対策関係」
一般社団法人日本施設園芸協会「施設園芸等の燃料価格高騰対策」

ビニールハウスの暖房コストを抑えるためには、加温、保温、温度管理の3点の対策が必要です。加温については薪ストーブや太陽熱を活用した次世代暖房システムの導入が、保温については内張り材や保温性の高い被覆資材の活用、ハウスの隙間対策が効果的です。また、温度管理については、温風ダクトや循環扇、環境制御装置の導入などが考えられます。さらに、品種・作型を転換したり、補助金や支援制度を活用したりして、燃料費の費用負担を軽減させましょう。

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舟根大

舟根大

医療・福祉業界を中心に「人を大切にする人事・労務サポート」を幅広く提供する社会保険労務士。起業・経営・6次産業化をはじめ、執筆分野は多岐にわたる。座右の銘は「道なき道を切り拓く」。

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