バイオスティミュラントとは?肥料・農薬とも違う、農業資材の定義と効果
近年、バイオスティミュラントという新たな農業用資材が世界的に普及しています。バイオスティミュラントは、植物の育成を促進し、病害への抵抗性を向上する効果があり、農薬や肥料、土壌改良剤など従来の農業資材を補完する働きが期待できます。
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EUでは、バイオスティミュラントが法律で定義されるなど、活用に向けての整備が進んでいます。しかし、日本ではまだ定義付けや法整備が不十分であり、導入には十分な検討が必要です。そこで本記事では、バイオスティミュラントの定義や働き、具体的な製品例などを解説します。
農業資材「バイオスティミュラント」とは?
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「バイオスティミュラント」とは、英語で「Bio Stimulants」と表記します。生物を意味する「Bio」と、刺激を意味する「Stimulants」を合わせた言葉です。和訳すると「生物刺激剤」ですが、日本では「BS」や「BS資材」と表記されることもあります。
言葉の通り、バイオスティミュラントは作物に刺激を与えて活性を高める資材です。作物の免疫力や成長力を向上し、ほ場環境の悪化や異常気象に作物自身が耐えられるようにします。
バイオスティミュラントは、これまで対応が難しかった高温や乾燥、風などの「非生物的ストレス」の緩和が可能です。
このように聞くと革新的な資材だと思われる方もいるかもしれませんが、バイオスティミュラントは特別な成分を含んでいたり新しい技術を用いたりするわけではありません。主に、昔から身近にあるさまざまな物質や微生物を原料としています。
実は、日本の農業でも、生産現場の経験や勘からバイオスティミュラントが古くから使われています。
例えば、有機物と土を混ぜた「ぼかし」が挙げられます。ぼかしは、成長の促進や品質の向上などの目的で使われており、原料にはバイオスティミュラントにも使われる大豆かすや米糠が含まれています。
古くから使われていたバイオスティミュラントが、いま世界的に注目されている背景には、持続的な生産への関心の高まりや異常気象の頻発による食糧不足が挙げられます。
バイオスティミュラントは、高温や低温、湿害、干ばつ、塩害などの非生物的ストレスを軽減し、減収を抑える資材のため、持続的な生産の実現や、異常気象への対策として有効だと考えられています。
また、世界的な穀物需要の増加やエネルギー価格の上昇などの影響により肥料価格が高騰しています。そこで、バイオスティミュラントの使用により肥料の使用量を抑えられれば、経費削減につなげられます。
バイオスティミュラントと肥料・農薬の違い
品質や収量の向上という目的は変わりませんが、バイオスティミュラントは農薬や肥料、土壌改良剤などとは異なる特徴を持っています。
改めて、農薬・肥料・土壌改良の定義を述べると、農薬は、病害虫や雑草などの生物的ストレスの緩和や、作物の成長促進に用いられる資材のことです。肥料とは、作物への栄養供給や土壌の改善のために施用するものを指します。
そして、土壌改良材は、土壌の物理的・化学的・生物的性質に変化をもたらし、生産能力を向上させる資材のことです。これらは、作物の周りの環境を整える目的で利用されています。
対してバイオスティミュラントは、作物の能力や状態を向上する資材を指します。ほかの資材と大きく異なるのは、周囲の環境を改善するのではなく、作物そのものを改善する点です。適切に利用することで、高温や乾燥、風などの、対処が難しい非生物的ストレスにも強い作物になります。
バイオスティミュラントの種類と効果
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バイオスティミュラントの代表的な効果は、非生物的ストレスの緩和だと紹介しました。しかし、原料によって役割や効果は異なります。EUでは、以下のうち、1つ以上の効果があるものをバイオスティミュラントとしています。
- 栄養素の利用効率の向上
- 非生物的ストレスへの耐性の強化
- 品質特性の向上
- 微量栄養素の可給性(可用性)の向上
どれも、収量や品質の改善に役立つ効果ではありますが、作用するポイントは異なります。ここでは、バイオスティミュラント資材を6つに分類し、それぞれの効果を解説します。
【腐植物質】
腐植物質のうち、酸・アルカリのどちらにも溶けるものを「フルボ酸」、アルカリのみに溶けるものを「腐植酸」といいます。成長促進機能や養分の調節機能を持っており、ストレス耐性の強化や根圏環境の改善、根の活性の向上などの効果があります。
▼フルボ酸については、下記記事をご覧ください。
【海藻・海藻抽出物・多糖類】
海藻抽出物や海藻由来の多糖類は、多くのバイオスティミュラントに活用されています。活性酸素種の除去やストレス耐性の調節などの機能を持ち、ストレス耐性の強化や代謝の向上、蒸散や浸透圧の調整など多くの効果があります。
【アミノ酸・ペプチド】
アミノ酸とペプチドは、動物の内臓や動物排泄物などの原料から得られます。発病を抑制する機能や非生物的ストレス耐性を付与する機能に加え、ストレス耐性や代謝、光合成、開花・着果などを促進する効果があります。
【ミネラル・ビタミン】
肥料としておなじみの「カリウム」「リン」「カルシウム」などのほか、植物の生育に必要な「必須元素」や「微量要素」と呼ばれる成分です。
ミネラルやビタミンの種類によって機能は異なりますが、例えばビタミンCは、乾燥や塩害などの非生物的ストレスへの耐性を付与する機能を持ちます。ミネラルやビタミンの一般的な効果としては、光合成の促進や蒸散の調整、発根の促進などが挙げられます。
【微生物】
バイオスティミュラントに分類される微生物には、根圏環境を改善したり、根量の増加や根の活性化を促したりする効果のある「共生菌」が含まれます。
例えば、アーバスキュラー菌根菌(AM菌)が挙げられます。AM菌は、作物の根の外に菌糸を伸ばし、そこから吸収したリンやミネラルなどの栄養素を作物に届けます。土壌中の栄養素を効率よく吸収して利用できるようになるため、肥料の量を低減できる効果があります。
▼アーバスキュラー菌根菌については、下記記事をご覧ください。
【その他】
上記の5つに当てはまらないバイオスティミュラントには、微生物からの抽出物や、酵素などがあります。
種類によって作用は異なりますが、根の活性を高めて作物の成長を促進したり、蒸散や浸透圧を調整したりすることで、作物の品質や収量を高めます。
最大限活用するには? バイオスティミュラント資材の選び方
バイオスティミュラント資材は農薬や肥料と異なり、効果が数値に表れにくいという特徴があります。
農薬や肥料を施用すると「害虫を防除した」「病害を防除できた」「生育を促進した」などのわかりやすい効果が表れます。害虫や病害などの目に見えるマイナスの状態を改善するため、効果がはっきりしやすい傾向にあります。
しかし、バイオスティミュラントの効果は「収量の低下が抑えられた」、「生育が順調だった」「高温に耐えられた」というように表れます。マイナスを改善するのではなく、マイナスにならないように予防する役割といえます。そのため、バイオスティミュラントの効果を測定するのは非常に困難です。
このように、バイオスティミュラントは施用の結果があいまいになりやすいため、なんとなく導入してしまうと適切に効果を測定できません。ほ場との相性を知るためには、導入の段階から目的を明確にし、効果やほ場への適性を明確にする必要があります。
ここからは、バイオスティミュラントを最大限活用するために押さえておきたい選び方のポイントを解説します。
作物の生育が悪い理由(制限要因)を見極める
バイオスティミュラントの効果を十分に発揮し、収量や品質を向上するには、解決すべき課題を明確にする必要があります。まずは、どのような要因が作物の生育を制限しているのかを分析しましょう。
分析できたら、どのような作用を持つ資材を利用すれば課題を解決できるかを考えます。以下に例のように考えてみてください。
- 水稲が猛暑による高温障害で収量が伸びない→高温ストレスへの耐性を高める資材を選ぶ
- 根の張りが悪く、肥料を十分に吸収できない→根量を増やしたり、根の活性を促したりする資材を選ぶ
- 土壌が肥沃で病気もないが、収量が伸びない→代謝や光合成を促進する資材を選ぶ
このように、解決したい課題とその要因を適切に見極めることで、導入効果を最大限に引き出すことができます。
バイオスティミュラントに期待する効果を考える
課題と要因が明確になったら、目的に応じた資材を選びます。前出の表も参考にしながら、目的の効果が得られる資材を選択します。
選ぶ際には、以下の例のように考えるとよいでしょう。
- トマトの糖度を上げたい→光合成を活性化するアミノ酸やペプチドが含まれる資材を選ぶ
- 根圏の環境を改善したい→腐植物質や微生物が含まれる資材を選ぶ
- 高温に負けない作物を作りたい→蒸散を調整する作用がある海藻やミネラルが含まれる資材を選ぶ
バイオスティミュラント資材の課題とこれから
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最後に、日本におけるバイオスティミュラントの現状・課題と、これからの農家に必要な考え方を解説します。
バイオスティミュラント資材を規制する法律は現状ない
日本では、農薬は「農薬取締法」、肥料は「肥料取締法」、土壌改良資材は「地力増進法」によってそれぞれ定義され、規格や基準も明確にされています。
ところがバイオスティミュラントについては、まだ法整備が整っておらず規定がないため、効果にかかわらず「バイオスティミュラント」として売り出すことができます。
農林水産省が打ち出した「みどりの食料システム戦略」の中でバイオスティミュラントの活用について言及されるなど、日本でも活用の流れは進んでいるものの、早急に規格・基準を制定することが求められます。
出典:農林水産省_「みどりの食料システム戦略」技術カタログ_2030年までに利⽤可能な技術_露地野菜
特性を理解し正しく活用していくことが重要
異常気象が頻発する中で農産物の安定的に生産し続けるためには、農薬や肥料を適切に使用しながら、必要に応じてバイオスティミュラントも活用することが求められます。
とはいえ、バイオスティミュラントを規制する法律がない中で、ご自身に適した製品を選んでその効果を得るには、資材の特性を十分に理解する必要があります。農薬や肥料の量を変化させなければならない場合もあるため、ご自身の状況に応じた製品を選ぶことが重要です。
クチコミや評価だけを参考に資材を選ぶのではなく、ご自身が抱えている課題を解決できる特性を持ったバイオスティミュラントはどれかを考えてみると良いでしょう。
M-ElenaNSK / PIXTA(ピクスタ)
バイオスティミュラントは農薬や肥料、土壌改良剤と同様に、食糧の安定的な生産を支える重要な農業資材として注目されています。適切に活用することで、作物の増産や品質の向上をめざせるだけでなく肥料コスト削減や施肥作業の省力化も期待できます。
しかし日本におけるバイオスティミュラントの普及はEUなどに比べると遅れているため、情報や事例があるとはいえません。2018年に設立した「日本バイオスティミュラント協議会」などの情報源から正しい知識を取り入れ、今後の農業経営に役立ててみてはいかがでしょうか。
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大曾根三緒
ビジネス、ペット、美術関連など多分野の雑誌で編集者として携わる。 全国の農業協同組合の月刊誌で企画から取材執筆、校正まで携わり、農業経営にかかわるあらゆる記事を扱かった経験から、農業分野に詳しい。2019年からWebライターとして活動。経済、農業、教育分野からDIY、子育て情報など、さまざまなジャンルの記事を毎月10本以上執筆中。編集者として対象読者の異なるジャンルの記事を扱った経験を活かし、硬軟取り混ぜさまざまなタイプの記事を書き分けるのが得意。