台風による農作物被害を防ぐには? 栽培方法別の対策と、事後処理のポイント
現在日本では、異常気象による台風をはじめとした自然災害が多発しており、農業にも甚大な被害を与えています。これまで被害を受けてこなかった地域で被害が発生することも多く、各地で台風への対策が急がれています。そこで今回は、露地栽培・施設栽培・水稲・果樹それぞれの台風対策を詳しく紹介します。
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目次
日本では現在、台風などの自然災害による農業への被害が増加傾向にあります。そこで今回は、営農類型別に台風対策を紹介するほか、被災時に利用できる給付金制度について紹介します。
対策必須! 増加傾向にある、自然災害による農作物の被害額
近年、大規模な自然災害が頻発しており、農林水産に関係する被害額も増加傾向にあります。2019年は全国で4,883億円の被害が発生し、東日本大震災のあった2011年をのぞくと過去10年間で最大級の被害額となっています。
出典:農林水産省「令和元年度 食料・農業・農村白書(令和2年6月16日公表)」「令和2年度 食料・農業・農村白書(令和3年5月25日公表)」「令和3年度 食料・農業・農村白書(令和4年5月27日公表) 」よりminorasu編集部作成
中でも「令和元年(2019年)東日本台風(台風19号)」がもたらした被害は甚大でした。河川決壊に伴う農地や果樹園への流出土砂の堆積や、農業用機械の損壊、果樹や水稲の冠水、水没などが起こり、被害総額は2,506億円にものぼります。
出典:農林水産省「令和元年度 食料・農業・農村白書(令和2年6月16日公表)」よりminorasu編集部作成
これらの台風によるリスクを最小限に抑えるには、作物や作型に適した対策が重要です。そこで次に、営農類型別の台風対策について具体的に紹介していきます。
【野菜類】露地栽培における台風対策
田舎の写真屋 / PIXTA(ピクスタ)
初めに野菜類の露地栽培における台風対策について、通過前・通過後にわけて紹介します。
台風発生時には「作物の被覆・土寄せ」と「排水対策」が重要
露地栽培では台風による強風が直撃するため、早い段階で対策を行うのがおすすめです。まずはほ場が水没しないよう、排水溝が機能しているかを事前に確認し、清掃などを行っておきます。
作物が強風で煽られないようにするには、防風ネットを設置します。設置した防風ネットが飛ばされないように固定することも大切です。
果菜類の場合は、支柱の補強や誘引線の強化を行うとともに、不要な枝やつる、葉を落として風圧の影響をできるだけ小さくします。
通常の出荷時より小さくても収穫可能なサイズであれば収穫してしまいましょう。果菜類などではその分株重が軽くなり倒伏リスクを軽減できます。
キャベツやブロッコリーなどでは、株元の土寄せを行い、根元から折れてしまうのを防ぎます。
台風通過後は、病害を防ぐ「殺菌剤の散布」や「土壌通気性の確保」を
台風の通過後には最初にほ場を確認し、水が溜まっていたならばすぐに排水を行って湿害を防いでください。
強風で作物が倒伏していた場合には、引き起こし、必要であれば誘引を行って固定します。傷葉や病葉、折れた枝等は取り除いてください。
風に煽られると、茎や葉に目には見えない小さな傷がつき、傷口から菌が入り込むことで病害の原因となります。見た目に問題がなかったとしても、予防的な農薬散布を行いましょう。
また細根や茎葉が傷み、その後の生育不良が見込まれる場合は、必要に応じて液肥や葉面散布肥料などで肥料を補います。
株元が露出していたり、土壌が固くなっている場合には、天候の回復後に土寄せや中耕を行って通気性をよくしてください。
【野菜類】施設栽培における台風対策
Akiphoto / PIXTA(ピクスタ)
次に野菜類の施設栽培における台風対策を紹介します。
台風発生時、風が吹き始める前の「ハウスの点検・補強」はマスト
施設栽培の場合、ガラスやビニールに物が飛んで破損しないよう、まずは施設周辺に物が置かれていないかを確認してください。
ビニールハウスの場合、構造の点検や補強も重要です。ビニールに穴がないか、マイカー線に緩みがないかを確認します。穴が空いていたならばすぐに補修してください。
使用していないビニールハウスの場合は、ビニールをはがすか、最大限巻き上げてハウスへの被害を最小限に抑えます。
使用中のビニールハウスは、開口部をすべて締め切ります。ただし換気扇がある場合は稼働させましょう。
▼ビニールハウスの点検や補強の方法についてもっと詳しく知りたい方は、以下の記事でも紹介されています。こちらも併せてチェックしてください。
▼自然災害に備えて、ビニールハウスにかけられる保険についてはこちらの記事をご覧ください。
台風通過後は、まず「高温障害・湿害対策」や「ハウスの修復」に着手
台風の通過後、まずは施設に被害がないかを確認します。ビニールの穴などは、たとえ小さくても次の台風通過時により大きな被害を生むため注意が必要です。
続いて施設内を確認し、浸水していた場合は換気によって土壌を乾燥させ、施設内の温度を下げます。
土壌に水分が多く残り、湿度や温度が高い状態が続くと病害の発生に繋がるため、しっかりと乾燥させることが大切です。
また、露地栽培と同様、病害発生を予防するための農薬散布を行います。
【水稲】水田作における台風対策
Yoshi / PIXTA(ピクスタ)
次に水田における台風対策について紹介します。
台風発生時には「深水管理」と「排水対策」を実施
強風が予想される場合は深水管理で水稲の振動を抑え、倒伏や振動によるくず米増加をできるだけ軽減させます。
また、強風は植物の体表面から多量の水分を奪うため、この深水管理によって水分不足で発生する白穂や青枯れも防止できます。
浸水や冠水が予想される場合は、排水路のつまりなどを点検・補修し、台風が来た際に素早く排水できるように整えます。
もしも毎年のように台風が来るようであれば、防風林や防風ネットを常設して風を防ぎましょう。収穫間近であれば、早めに稲刈りを行うのもおすすめです。
台風通過後は、「病害虫の防除」など品質・収量をできる限り保つ処置を
穂発芽
写真提供:HP埼玉の農作物病害虫写真集
台風通過後、まずは水稲が倒伏していないかを確認します。もしも倒伏していた場合は排水を行い、穂についている籾の発芽を防ぎます。次に倒伏した水稲を可能な限り持ち上げて株を起こし、乾燥させてください。
穂についた籾が発芽する前に、倒伏した水稲はなるべく早めに刈り取ってください。また水稲が倒伏した場合は、青米や茶米、死米の増加、石の混入による品質低下が懸念されるため、籾すりの調整精度をあげ丁寧に行います。
ほ場が浸水、あるいは冠水していた場合には、一刻も早く排水してください。被害を受けた水稲は水分を調整する機能が低下し、水分を失いやすいため、収穫時に仕分けを行って乾燥と調製作業を行ってください。葉が水面に出た後はゆっくり排水し、乾燥を防ぎます。
退水後は、水稲に付着した泥土をなるべく早く洗い落とします。水に浸かった水稲はいもち病や白葉枯病などの病害が発生しやすいため、ほ場すべてを確認して早めに防除を行ってください。
【果樹】露地栽培における台風対策
dr30/ PIXTA(ピクスタ)
最後に、果樹の露地栽培を行っている場合の台風対策を紹介します。
台風発生時の処置は「強風による枝や果実の損傷対策」が中心
台風による強風に備え、まずは防風ネットや果樹棚の支柱を点検し、緩みなどの不具合があれば補修・補強を行ってください。また、防鳥・防虫ネットは撤去します。
梨やブドウなどの棚栽培をする果樹については、棚自体を補強して枝を棚面にしっかりと誘引します。
倒伏しやすい樹体や主枝、亜主枝は支柱を立てて固定しましょう。高接ぎした樹は、接ぎ木部分から折れやすいため添え木を行います。
また排水がしっかり行われるよう、園地周辺の排水路の点検と清掃を実施します。
地盤の弱い果樹園や人家に近い果樹園の場合は、土砂崩れを防ぐため、日頃から土のうや杭によるほ場の補強を行っておきます。
野菜類と同様、収穫可能な果実があるならば、強風による被害を受ける前にできる限り収穫してしまいます。
台風通過後は、「生育の回復」に努めて被害拡大を防止
台風通過後は被害の程度を確認し、冠水していればすぐに排水を行ってください。園地内が長時間にわたって冠水状態で放置されていると、樹体の枯死に繋がります。
次に折損した枝の修復、被害果実の摘み取り、剪定、摘果、液肥の葉面散布などで生育の回復に努めます。野菜類と同様、病害発生を予防するための農薬散布も行います。
強風による倒伏や枝裂けが起こっていた場合には、健全な根を切らないように起こし、支柱によって固定します。風による枝の損傷は切り返し、切り口に殺菌剤などを塗布して枯れ込みを防ぎます。
落葉が多い場合は果実の日焼けが発生する可能性があるため、被害の程度に応じて摘果や白塗剤の塗布を行ってください。
また、台風通過後は一時的に高温になりやすく、乾燥した風で葉焼けを起こす可能性があります。これらが予想される場合は散水し、樹体温の低下と湿度の維持で被害を軽減させましょう。
台風被害を受けたとき使える、国の助成金や支援策はある?
川竜 / PIXTA(ピクスタ)
これまで大きな自然災害が起こった場合には、「強い農業・担い手づくり総合支援交付金(被災産地施設支援対策)」が支出されるなど、政府によって対策が講じられてきました。
例)農林水産省「強い農業・担い手づくり総合支援交付金(被災農業者支援型)(令和元年8月から9月の前線に伴う大雨(台風第10号、第13号、第15号及び第17号の暴風雨を含む。)、台風第19号等)について」
災害で被害をうけた時には、農林水産省「逆引き事典」を活用して、その時点で、防災・災害復旧に使える助成金制度を調べてみてください。
そのほか、農地や水路の早期復旧を後押しする「査定前着工制度」もあります。
査定前着工制度とは、災害査定を待たずに復旧工事に着手できる制度です。復旧を急げば次の作付けに間に合う農地の復旧や、排水施設など生活に直結した施設の早急復旧に活用できるので積極的に利用しましょう。
▼査定前着工制度の詳細については、農林水産省「災害復旧事業」のページにある「農地・農業用施設の災害復旧事業とは?」「査定前着工制度の活用について」などの資料をご確認ください。
▼農業保険についてまとめたこちらの記事もご覧ください。
今回は、野菜類の露地栽培・施設栽培、水稲、果樹それぞれに分けて基本的な台風対策を紹介しました。
基本を押さえたうえで、自治体やJAなどの情報を確認しながら早めに適切な手を打っていきましょう。
台風の被害にあってしまった場合は、行政による支援制度をうまく活用し、被害復旧に対する経済的負担をできるだけ軽くすることも考えましょう。
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百田胡桃
県立農業高校を卒業し、国立大学農学部で畜産系の学科に進学。研究していた内容は食品加工だが、在学中に農業全般に関する知識を学び、実際に作物を育て収穫した経験もある。その後食品系の会社に就職したが夫の転勤に伴いライターに転身。現在は農業に限らず、幅広いジャンルで執筆活動を行っている。