稲作における水管理の方法とは? 自動化できるシステムの事例も紹介
稲作における水管理は、ほ場の条件や天候、水稲の生育状況などによって管理方法が異なります。本記事では、田植えから収穫まで、苗の生育ステージに合わせた水管理の基本的な工程や、水管理を効率化するスマート農業の最新事例を紹介します。
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田んぼの水管理は稲作の全労働時間の約3割を占め、品質や収量増加のために不可欠な作業です。本記事では、水稲の生育ステージに応じた水量調節の方法や、近年開発が進んでいるほ場の水管理を大幅に省力化できるスマート農業の最新技術について紹介します。
稲作における水管理とは
小町 / PIXTA(ピクスタ)
水稲の生育状態に合わせた適切な水管理は、根張りをよくし、分げつ数を適切に保つための重要な作業です。
水管理にかかる労働時間は、地域やほ場の規模によっても異なりますが、水稲栽培の労働時間の約3割を占めるといわれています。
出典:国立研究開発法人科学技術振興機構 J-STAGE「第247回日本作物学会講演会」 所収「水稲栽培ほ場における水田センサ活用による水管理の省力化」
水管理の種類
水稲栽培では、生育ステージごとに最適な水の深さや土の硬さ、地中の酸素濃度などが異なります。そのため、田植えから収穫までの時期を通じて湛水と落水を繰り返し、生育ステージに合わせた水管理を行います。
水管理は、大まかに「深水管理」「浅水管理」「中干し」「間断灌水」「湛水管理」にわかれています。生育ステージに合わせてこれらを使い分け、適切な水の量になるように調節します。
<水管理のイメージ>
農林水産省「農林水産技術のホームページ|農業技術総合ポータルサイト」 「基本的な栽培技術を見る!」の項 所収 「米(稲)~水稲栽培のポイント」
JA全農三重県本部「2022年03月29日 お知らせ|生育時期に応じた適切な水管理を!」所収「「徹底!水管理」チラシ」
JA全農富山県本部「高品質米の生産」所収「水管理について」
井関農機株式会社「ヰセキの営農情報|日本各地の栽培暦」所収「コシヒカリ栽培暦(茨城県 37株植)」
田植え直後の活着期は、根傷みを防ぎ、低温を避けるために、水深5cm目安の「深水管理」をします。
分げつ期の前半は、、3cm程度の「浅水管理」で水温・地温のを上げて生育を促し、その後、分げつが盛んになる時期は、7~10日程度の「中干し」を行い、根腐れと過剰な分げつを防ぎます。
中干し後から出穂期までの、主に幼穂形成期は、2〜3日おきに湛水と落水を交互に繰り返す「間断灌水」(間断灌漑ともいう)を行い、収獲に向け地盤が柔らかくなり過ぎないようにします。
穂ばらみ期から出穂期は、水分蒸散が盛んになるため、水分不測にならないよう、「湛水管理」の時期を設け、その後、収獲の5~7日前まで間断灌水で適度な水分を保ちますします。
※詳細については後段で解説します
水管理を行うためのほ場準備
田植え後の苗に均等に水や栄養素、日光が行き渡るためには、土の表面に凹凸が少なく、田面を平らな状態にすることが必要です。
水稲の根の80%以上は作土層に広がっており、生育に必要な養分や水分の大部分を得ています。作土層は浅すぎると肥効が持続せず、根張りの浅さや根の機能低下を引き起こします。
深すぎると青未熟が増えるため、適切な作土層の確保が欠かせません。耕起の際は、15~20cm程度を目安に作土層を確保してください。
▼田起こしについては下記の記事をご覧ください。
田植え前に行う代かきの際には、田面の高低差が3~4cm以内になるように作業を行います。
▼代かきについては下記の記事をご覧ください。
生育ステージ時期に応じた水管理の方法
水稲栽培では田植え直後から分げつ期、出穂期、登熟期と、それぞれの生育ステージで適切な水管理の方法が異なります。
以下では、田植え後の活着期から収穫直前までの水稲の状態と、それに応じたほ場の水量調節について解説します。
【活着期】深水管理で苗を守る
写真提供:HP埼玉の農作物病害虫写真集
田植え後、活着するまでは水深3〜5cmのやや深水で管理するのが一般的です。深水にすることで水の保温効果を高め、移植後の苗の活着を促します。
ただし、寒冷地では水温の維持のため、水温によって水位を調節します。低温の場合は深水で保温につとめ、晴れて気温が上がったときはやや浅水にして水温を上げます。
また、移植後に十分に活着していないときに、急激な灌水や苗が隠れるほどの深水は浮稲のリスクがあるため避けましょう。
【分げつ期①】浅水管理で分げつの発生を促進する
写真提供:HP埼玉の農作物病害虫写真集
苗の活着後は、水深2~3cm程度の浅水で管理します。水深を浅く保つことで日中の水温を高め、分げつの早期発生を促します。
昼夜の水温差を大きくすると分げつ発生が促進されます。そのため、日中に新しい水を入れると水温や地温が低下してしまうので昼間は止水し、朝夕に重点的に入水します。
【分げつ期②】中干しで過剰分げつを防ぐ
Photo753 / PIXTA(ピクスタ)
中干しとは、田植えの1ヵ月後から出穂前30日までを目安に落水して土壌を乾かす工程です。
気温の上昇と湛水により還元状態となることで発生する有毒ガスの発生を抑え、根を垂直に伸ばしてやり、剰な分げつを防ぐことが目的です。
まず、落水して土壌表面が固まってきたら、8~10条置きに溝切りをして、この時期以降の入水・排水をしやすく、また、ガスを抜きやすくします。
※排水性のよいほ場では、溝切りを行わない場合もあります
maco / PIXTA(ピクスタ)
そして、田面に幅1cmほどの小さなひびが入り、軽く足跡が付くくらいを目安に乾燥させます。
中干しで田面を硬化させることによって、登熟期の後半まで湛水してもスムーズに収穫作業が行えるようになります。
【幼穂形成期】間断灌水で地耐力を維持する
Photo753 / PIXTA(ピクスタ)
中干し後は、収獲期に向け、地耐力(地盤の強さ)の維持のために、3cm程度の水深で間断灌水を行います。急激な灌水を行うと酸素不足による根腐れや下葉の枯れ上がりにつながるため注意が必要です。
【出穂開花期~登熟期】湛水管理または間断灌水で水不足にならないように
cozy / PIXTA(ピクスタ)
穂ばらみ期(出穂の7~10日前)から出穂開花期にかけては、稲体の水分蒸散量と酸素の消費量が最大になります、水を切らさないよう、水深2〜3cm程度の浅水での湛水、または、間断灌水で管理します。
この間、高温が続きほ場内の水が不足していると、、白未熟粒や胴割粒が発生し、品質や食味低下の原因となります。
【登熟期~収獲5~7日前まで】間断灌水で根の活力を維持する
写真提供:HP埼玉の農作物病害虫写真集
出穂期では水深2〜3cm程度の浅水にし、湛水管理に移行します。出穂から約20日間は最も水を必要とする期間です。
登熟期にはいったら、土壌のようすをみながら間断灌水で水分を保ち、胴割粒などの発生を抑えます。
収穫の5〜7日前までは完全に落水しないように管理します。
地域の農業技術指導機関に相談しよう
:Fast&Slow / PIXTA(ピクスタ)
地域やその年ごとに異なる気候、排水性や土壌の硬さなどの条件、栽培する品種によって、水管理の方法もタイミングも異なります。水管理を含む栽培管理の方法について疑問や不安がある場合は、地域のJAや普及指導センターに相談することを推奨します。
各地域のJAは営農指導事業の中で全国に営農指導員を配置し、農業技術・経営指導を行っています。また各都道府県でも、普及指導センターなどで普及指導員が農業技術の指導、経営相談に当たっています。
地域に適した栽培方法を実施して、高品質、高収量の実現をめざしましょう。
【事例紹介】水管理を自動化できるシステムで労力と用水量を削減!
ipopba / PIXTA(ピクスタ)
ほ場の水管理は、水田を実際に目で見て回り、水量を調節するため時間がかかる作業です。しかし、近年では水管理を一気に省力化できるシステムが開発されています。
その例として「WATARAS(ワタラス)」と「パディウォッチ(以下、水管理におけるスマート農業の事例を紹介します。
WATARAS(ワタラス)
株式会社クボタ Youtube公式チャンネル「クボタほ場水管理システムWATARAS (ワタラス)のご紹介」
WATARAS(ワタラス)とは、遠隔操作や自動で給水・排水を行う国内初の水田のほ場水管理システムです。農研機構が中心となり、開発したものです。
既存の給水バルブと排水口にインターネット通信とセンシング機能を付加した制御装置を取り付けることによって遠隔および自動での水管理が可能です。ユーザーはスマートフォンやパソコンでほ場の水位、水温を確認することもできます。
水稲栽培における水管理は、ほ場の面積、形、土質、枚数、立地などによって大きく条件が異なるものの、農研機構による実証ほ場においては、水管理にかかる労働時間を約80%削減、出穂期から収穫期までに必要な水量を約50%削減しました。
出典:
農研機構「 田んぼの水管理をICTで遠隔操作・自動制御」
株式会社クボタ「ほ場水管理システム WATARAS(ワタラス)」
同「WATARAS お客様の声」
パディウォッチ(Paddy Watch)
Paddy Watch(パディウォッチ)はベジタリア株式会社が開発した水稲向け水管理支援システムです。ほ場の水位・水温を自動で測定し、スマートフォン、パソコンなどからモニタリングできます。
NTTドコモの専用回線を使用しており、電波の届きにくい地方や山間部などでも活用ができるほか、機器は台風や直射日光、化学薬品にも耐えることが可能です。
パディウォッチの導入によって水田の見回り回数が減り、水管理に関する作業の大幅な省力化が期待できます。また24時間自動でデータを取得できるため、さまざまな分析にも利用可能です。
例えば、水稲の生育に関わる天候や病害虫の発生を予測することが可能となるため、防除対策や作業スケジュールの調整にも貢献します。また、機器をレンタルした場合には、初期費用を抑えて利用することが可能となります。
▼パディウォッチについてより詳しく知りたい方は、以下の記事も参照してください。
水稲の水管理がうまくいかなかった場合、白未熟粒・胴割粒の発生など、米の品質や収量に影響します。
水の管理は水稲の総労働時間の中で少なくない時間を占めますが、近年では遠隔操作や自動で水田の水管理を行うシステムも登場しており、労働時間の削減や省力化が期待できます。
ほ場の条件や経営状況に鑑みてシステムの導入も検討し、水稲栽培の作業の効率化と、高品質な米の収量増加をめざしましょう。
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大森雄貴
三重県伊賀市生まれ。京都を拠点に企業・団体の組織運営支援に携わった後、2020年に家業の米農家を継ぐためにUターン。現在は米農家とライターの二足の草鞋を履きつつ、人と自然が共に豊かになる未来を願いながら、耕作放棄地の再生、農家体験プログラムの実施、暮らしを大切にする経営支援などに取り組んでいる。