【水田雑草】ホタルイの効果的な除草対策と、防除に使えるおすすめ除草剤一覧
ホタルイは、水田に発生する代表的な雑草の1つです。種の生産量が多く、生育も旺盛で、大発生して水稲の生育に影響したり、カメムシ類を誘引して斑点米被害を増加させたりします。防除が難しく、効果的に防除するには適切な除草剤を使った防除体系の構築が不可欠です。
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目次
ホタルイの防除が難しい理由には、種子の寿命が長いことや繁殖力旺盛なこと、除草剤の有効成分に耐性を持ちやすいことなどがあります。本記事では、防除効果を上げるために必要なホタルイの基本情報や有効な除草剤、耕種的防除などについて解説します。
難防除の水田雑草「ホタルイ」とは? 生態と被害の例
イヌホタルイの葉と小穂
写真提供:HP埼玉の農作物病害虫写真集
水稲栽培にはつきものといってよいほど、「ホタルイ」は全国の水田にごく普通に見られる雑草です。
ホタルイはカヤツリグサ科の多年生雑草で、近似の草種として「イヌホタルイ」「タイワンヤマイ」などがありますが、水田という人為的な環境下で発生するのは、ほとんどがイヌホタルイとされています。
この3種は見た目がよく似ているものの、防除対策上は区別する必要がなく、同じ方法で防除できます。除草剤の適用草種としての表記は、3種を合わせて「ホタルイ」とされるので注意しましょう。
なお、本記事では以降、特に説明のない場合は、「ホタルイ」とは「イヌホタルイ」のことを指すものとします。
多年生であるホタルイは、越冬株からも萌芽しますが、水田ではほとんどの場合、種子から発生します。種子は土中で10~20年も生存し、深い休眠性を持ちます。秋から春にかけて低温に合うことで覚醒し、発芽の機会を待ちます。
発芽に良好な条件は、深度1~2cm以内の湛水条件下で、気温15℃以上になると発芽します。発芽適温は30℃で、水田では平均気温が13~14℃となる移植後10日前後から発芽し始め、20~30日ほどの長期にわたって発生し続けます。
生育期のイヌホタルイ
写真提供:HP埼玉の農作物病害虫写真集
出芽後、初めは線形の細い葉を3~6枚ほど出し、その後、細い円柱形の花茎を多数出して草丈30~60cmほどの大きな株になります。ただし、ノビエのように水稲よりも高くなることはありません。
開花期のイヌホタルイ 小穂 茎の途中についているように見える
写真提供:HP埼玉の農作物病害虫写真集
夏になると、数個の円錐形の小穂が固まって、茎の先に付きます。小穂は茎の途中に付いているように見えます。この小穂の上部にあるのは、茎と同じ形の苞葉(花芽を包む葉)です。やがて大量の種を落とし、水面を流れて広範囲に広がり、翌年以降、次々と出芽します。
ホタルイは多発しやすく、多量の養分を吸収して稲の生育を阻害するほか、カメムシ類を誘引します。これにより斑点米が増え、等級が落ちてしまうことも少なくありません。
イヌホタルイの大発生により葉が黄化した水稲
写真提供:HP埼玉の農作物病害虫写真集
イヌホタルイとクログワイを見分けるポイント【画像あり】
雑草対策を適切に行うには、多発している雑草の種類を的確に見分けたうえで、その草種に適した除草剤を使用することが重要です。
先述の通り、イヌホタルイとホタルイ、タイワンヤマイは、除草剤の適用草種としても合わせて「ホタルイ」と表示され、同じ対策で防除できるので区別する必要はありません。
防除対策において、特に見分けづらく注意が必要なのが、イヌホタルイとクログワイです。この2種は、生態や除草剤の適用が異なるので、的確に見分ける必要があります。
見分けるポイントは以下の通りです。なお、この項ではクログワイとの比較対象として、「イヌホタルイ」と表記します。
クログワイとイヌホタルイの株の違い
写真提供:HP埼玉の農作物病害虫写真集
<イヌホタルイ>
茎の先:花穂の上に、先端が尖って縦筋のある苞葉が伸びている
地際:先端が尖った硬質の葉鞘が茎を包む
茎の内部:スポンジ状に詰まっており、指で押すと固くしこりがある
芽生え:種子から芽生え、葉の先に種子の殻が付いていることもある
<クログワイ>
茎の先:茎の先端に、茎とほぼ同じ太さの花穂が付く
地際:茎が赤みがかっており、膜質で筒状の、縦縞模様のある葉鞘が茎を包む
茎の内部:竹のような角膜で仕切られた空洞で、指で押すとプチプチと音がする
芽生え:球形の塊茎から茎が伸びている
ホタルイ(イヌホタルイ)の除草が難しい2つの理由
ホタルイは、除草が難しい強害雑草として知られています。ここでは、主な2つの理由について解説します。
SU抵抗性(スルホニルウレア系除草剤抵抗性)を持つことがある
otamoto17 / PIXTA(ピクスタ)
SU抵抗性雑草とは、SU(スルホニルウレア)系の成分に対して抵抗性を獲得した雑草のことを指します。
SU系の成分は幅広い種類の雑草に効果があり、持続性も高いうえに、人畜や周囲の環境への影響が少ないという特長があります。その優れた効果のため、一発処理除草剤の多くにSU成分が主成分として含まれています。
ところが、SU成分を含む除草剤(SU剤)を連続して使用するうちに、特定の雑草がSU抵抗性を獲得したことが、全国各地で報告されるようになりました。ホタルイでもSU抵抗性の獲得が各地で報告されており、まだ確認されていない地域でも注意が必要です。
抵抗性を獲得すると、SU系成分ではその種類の雑草だけ除草剤が効かずに残り、ほかの雑草がなくなったあとに大発生することがあります。また、抵抗性は遺伝するため、一度獲得すると次の年以降もSU剤が効きません。
適切に除草剤を使用し、その後も効果を弱めるような原因(降雨など)がないのに除草剤が効かない場合や、SU系の除草剤を使ったあとにホタルイの生育した株だけが多く残っている場合は、抵抗性を持つ個体群であると推測できます。
また近年では、SU抵抗性雑草に効果がある新規の成分として注目されているALS阻害剤(アセト乳酸合成酵素阻害剤)にも対しても、抵抗性を持つイヌホタルイが確認されています。
SU系以外の成分を使う場合にも、同じ有効成分を連続で使用しないよう、ローテーション体系を徹底しましょう。
▼SU抵抗性雑草について、詳しくはこちらの記事も参考にしてください。
種子の寿命が長く、田畑輪換でも死滅しない
kog_pix / PIXTA(ピクスタ)
水田で生育したホタルイは大量の種子を落とし、種子は水田の水面を広範囲に広がります。前述の通り、土中でのホタルイの種子の寿命は10~20年に及び、深いところにある種子は休眠します。
そのため、多くの雑草対策として有効な田畑輪換を行っても、ホタルイの種子は死滅せずに残り、数年後、地表近くに掘り起こされ湛水状態となったときに発芽します。
発芽も水稲の移植後10日頃から30日頃まで長く続き、発芽後の生長も早いため、一発処理除草剤だけではなかなか防除しきれません。
ホタルイの除草方法と、効果的な実施時期
難防除とされる理由を踏まえ、効果的に防除する方法について解説します。
移植前後に、SU系の一発処理剤でまず除草
mofukun / PIXTA(ピクスタ)
SU抵抗性を獲得していなければ、多くのSU系一発処理除草剤がホタルイに有効です。なお、除草剤の表記では、イヌホタルイはタイワンヤマイとともに、「ホタルイ」に含まれることに注意しましょう。
抵抗性の獲得を防ぐため、SU系除草剤を使用する場合は、同じ成分を含む除草剤の連続使用を避け、SU系以外の有効成分を持つ除草剤とローテーションを組んで散布することが重要です。
すでにSU抵抗性を獲得した個体群が発生していることがわかっているほ場では、SU剤の使用を避け、新たな除草体系を組む必要があります。
まず、SU抵抗性雑草に効果がある初期剤や初期一発処理除草剤を散布し、その後、様子を見ながら中・後期剤を散布する、という体系処理を行うとよいでしょう。
SU抵抗性が初めて確認されたホタルイは、追加防除で拡散を防ぐ
前年までは問題なく除草できていたにもかかわらず、SU系の初期一発剤や初中期剤を使用したあと、生育したホタルイが残った場合は、SU抵抗性を獲得した可能性が高いと思われます。
初めて抵抗性獲得を確認したほ場の場合は、次年への残存や周囲への拡散を極力抑えるため、ベンタゾン剤などの後期剤を使用して追加防除を行い、できる限り種を残さないようにしましょう。
水稲刈り取り後の秋耕・春耕で、翌年の発生を軽減
chinen / PIXTA(ピクスタ)
強害雑草であるホタルイは、除草剤の散布だけでなく耕種的防除を組み合わせることで、効果的に密度を減らせます。耕種的防除として効果があるとされるのが、刈り取り後の耕うんです。
刈り取り後の耕うんは、土表面に残った種子などを地中深く埋め込むことで、翌年の発芽を減らすので、ほかの多くの草種にも有効です。ホタルイの場合は、種子が地中深くにあっても生存し続けますが、休眠状態になり発芽はしません。
本来、多年草であるホタルイは、発生後のほ場をそのままにすると越冬株が残り、翌年の春にそこから発生します。越冬株から発生したものは、種子から発生したものよりも生育が旺盛で除草剤も効きにくいので、耕うんによって株の基部を乾燥させ枯殺しましょう。
また、本田に移植する前の代かきに先立って、あらかじめ湛水代かきをしてあえてホタルイを発生させ、移植前の代かきで土中に埋没させて枯殺する方法も効果的です。
愛知県 都築様
■栽培作物
米・小麦・大豆
▷記録の蓄積による作業効率化
▷タスクの管理
▷雑草防除などの農作業の記録や情報伝達に不足を感じていた
▷記録の蓄積がないことで、作業や計画の効率化が図りにくかった
▷紙のマップで管理していた雑草防除などの作業効率が大幅にアップした
▷写真付きのメモを残せるので、ほ場で異変を後で振り返りやすくなった
▷タスク入力ができることでPDCAサイクルが回しやすくなった
【タイプ別】 ホタルイ対策におすすめの除草剤例
ホタルイの防除に使える除草剤の例を、タイプ別に紹介します。有効成分のうち、「*」が付いているものはSU成分を表します。この成分を主成分とする除草剤を連続使用しないように注意しましょう。
※なお、ここで紹介する除草剤は2023年5月11日現在、登録が確認されているものです。実際の使用に当たっては、必ず使用時の登録を確認し、ラベルをよく読んで用法・用量を守りましょう。登録の確認は、「農薬登録情報提供システム」で確認できます。
<初期剤の例>
田植え同時、または田植え直後など、ホタルイ発生前に散布して発生を抑えます。残効期間は10~25日程度と短く、必要に応じて一発処理除草剤や中期剤につなぎます。
・マーシェット1キロ粒剤(ブタクロール粒剤)
・ホクコーメテオフロアブル(ペントキサゾン水和剤)
<初期一発処理除草剤の例>
初期剤とほぼ同時期に散布し、残効期間が初期剤よりも長い除草剤です。移植時~移植後7日目頃までに散布します。
・クサホープD粒剤(ジメタメトリン・ピラゾレート・プレチラクロール粒剤)
・ヨシキタジャンボ(イマゾスルフロン・ブロモブチド・ペントキサゾン粒剤)
<初中期一発処理除草剤の例>
残効期間の長い一発処理除草剤のうち、移植後14日目頃までに使用するものです。難防除雑草がなければ、名前通りこれ1つで除草が済むほど高い効果があります。防除体系を組む場合でも、一発処理除草剤を軸に、初期剤や中・後期剤を組み合わせるのが基本です。
・トップガンLジャンボ(ピリミノバックメチル・ブロモブチド・ベンスルフロンメチル・ペントキサゾン剤)
・イネキングジャンボ(ピラクロニル・ピラゾレート・ベンゾビシクロン粒剤)
<中期・後期剤>
田植え後15日目以降も使用できる除草剤で、初期剤や一発剤で取りこぼした雑草を防除します。発生期間の長いホタルイには必須です。
・テッケン1キロ粒剤(ペノキススラム・ベンゾビシクロン粒剤)
・バサグラン粒剤(ナトリウム塩)(ベンタゾン粒剤)
繁茂してしまったイヌホタルイ
写真提供:HP埼玉の農作物病害虫写真集
ホタルイは水田で大発生しやすく、防除が困難な強害雑草です。しかも、ホタルイ防除に効果の高いSU除草剤に対して抵抗性を獲得する草種が増え、全国各地で農家を悩ませています。
SU抵抗性を獲得したホタルイも含めて防除し、新たに抵抗性を獲得させないためには、適切な除草剤の防除体系の確立と、耕種的防除を組み合わせた対策を数年にわたって徹底することが重要です。
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大曾根三緒
ビジネス、ペット、美術関連など多分野の雑誌で編集者として携わる。 全国の農業協同組合の月刊誌で企画から取材執筆、校正まで携わり、農業経営にかかわるあらゆる記事を扱かった経験から、農業分野に詳しい。2019年からWebライターとして活動。経済、農業、教育分野からDIY、子育て情報など、さまざまなジャンルの記事を毎月10本以上執筆中。編集者として対象読者の異なるジャンルの記事を扱った経験を活かし、硬軟取り混ぜさまざまなタイプの記事を書き分けるのが得意。