トマトのネコブセンチュウ類を徹底防除!症状・状況別の対策と使える農薬例
「ネコブセンチュウ」は土壌中に存在するセンチュウの一種で、ナスやトマト、ピーマンなど、ナス科の果菜類にとっては注意すべき害虫です。特に高温の条件下では被害が増大し、抵抗性品種であっても寄生されるケースがあるので、予防を中心とした防除対策が必要です。
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目次
トマト栽培において、根からの養水分の吸収を阻害し、生育不良や品質低下をもたらす「ネコブセンチュウ」の予防・防除は非常に重要です。本記事では、土壌中のネコブセンチュウの密度を低く保つ方法や、多発した場合の防除対策について解説します。
トマトの害虫「ネコブセンチュウ」類の生態と被害
トマト ネコブセンチュウ被害根
HP埼玉の農作物病害虫写真集
土壌中にはさまざまなセンチュウ類が生息しており、種の数だけでいえば数百万以上と推定されています。
そのうち農作物に害を与えるものは10種類程度で、トマトに被害があるセンチュウは「ネコブセンチュウ」「ネグサレセンチュウ」「シストセンチュウ」です。その中で、「ネコブセンチュウ」は、収量減少や品質低下の要因となります。
トマト栽培への被害を防ぐためには、ほ場の土壌中に生息するネコブセンチュウの状況を把握し、生息密度を低く抑えることが重要です。
そこで、まずはネコブセンチュウの被害症状と発生しやすい条件について解説します。
ネコブセンチュウ類の生態
ネコブセンチュウ類は主に土壌中で卵の状態で越冬し、地温が10℃以上になると、卵の中で脱皮をしてから第2期幼虫がふ化して土壌中を移動します。寄生できる植物があると根から内部に侵入して寄生し、寄生後は根に定着して食害します。
第2期幼虫はウナギのような細長い形をしていますが、第3期・第4期幼虫になるとウインナーのように太く短くなり、成虫になると2mm程度の透き通ったしずくのような形になります。
ほとんどが雌で、雄はごくわずかしかいません。雌のみでも繁殖でき、雌は成虫になるとゼラチン状の卵のうの中に数百個もの卵を産みます。卵から成虫までの期間は30日程度で、春から秋までの間に3〜4回発生します。
ネコブセンチュウ類によるトマトの被害症状
トマトが寄生されると、根の組織が膨れて多数のコブができます。コブの中には多数の幼虫や成虫がいますが、幼虫は細く長さ1mmにも満たないため肉眼ではほぼ見えません。
根にコブができると養水分を吸収しにくくなり、生育が悪くなります。多発すると根が腐ったり脱落したりして、葉の黄化や萎れが見られるようになり、枯死することもあります。
また、ネコブセンチュウ類による直接的被害のほかに、トマトの重大な病害である「青枯病」などの土壌病害が発生しやすくなることも深刻な問題です。
青枯病の原因菌は、ネコブセンチュウ類と同様に土壌に存在し、根の傷口から侵入して感染します。そのため、ネコブセンチュウ類によって根が傷付けられると発病を助長します。
なお、根にコブができる症状は「根こぶ病」でも見られますが、根こぶ病はキャベツや白菜などのアブラナ科植物に発生する病害で、トマトには発生しません。
▼根コブ病の防除はこちらの記事をご覧ください
ネコブセンチュウ類の発生条件
ネコブセンチュウ類は日本国内だけで数種類存在し、そのうちトマトに寄生し被害をもたらすのは、主に「キタネコブセンチュウ」と「サツマイモネコブセンチュウ」です。基本は同じ方法で防除できます。
どちらも広食性で、トマト以外にナス科のピーマン、ウリ科のきゅうりやメロンなどの果菜類、ニンジン・大根・ジャガイモ(馬鈴薯)などの根菜類、レタス・小松菜などの葉菜類、いんげん・大豆などの豆類といった多様な作物に寄生します。
しかし、サツマイモネコブセンチュウがよく寄生するサツマイモ(甘藷)やスイカ、オクラには、キタネコブセンチュウは寄生せず、キタネコブセンチュウがよく寄生するイチゴには、サツマイモネコブセンチュウは寄生しないといったように、寄生性には違いもあります。
ネコブセンチュウ類含め、センチュウ類は土壌中に一般的に存在するもので、密度が低ければ大きな被害にはなりません。
ところが、トマトの連作を続けていると、ほ場の土壌中に存在する生物相のバランスが偏り、トマトに寄生するネコブセンチュウ類の密度が高まります。密度が高まると、寄生が多発して被害が大きくなり、連作障害の要因となることもあります。
また、30℃以上の高温になると、センチュウ類に抵抗性を持つ品種でも寄生される確率が高まることがわかっています。高温になりやすい施設栽培では、特に注意が必要です。
出典:熊本県「トマトの線虫抵抗性品種を侵すネコブセンチュウの発生」所収「トマトの線虫抵抗性品種を侵すネコブセンチュウの発生」
トマトほ場における、ネコブセンチュウ類の検定方法
Hanna / PIXTA(ピクスタ)
ネコブセンチュウ類の防除計画を立てるうえでは、土壌中の密度を確認しておくことが大切です。
トマトを植え付けるほ場の土壌中に、どのようなセンチュウ類がどれくらい存在しているのかを詳しく知るためには、ほ場の土壌サンプルを採取し、自治体の農業センターや防除所などの検査機関に送って調査を依頼します。
また、ホウセンカを使い、簡易的にネコブセンチュウの密度を検定することもできます。
具体的な方法は、3号程度の素焼きの鉢に調べたいほ場の土を詰め、ホウセンカを栽培します。ホウセンカは根の生育がよくネコブセンチュウが付きやすいため、検定のサンプルに適しています。
採取するほ場の土は一箇所ではなく、畑の列に沿って数箇所から集めたり、四隅と中央から集めたりといった具合に複数箇所から採取すると、検定の精度が高まります。
4月頃にホウセンカを播種し、30〜40日ほどで掘り起こして根を観察します。根に多くのコブができている場合は、ネコブセンチュウの密度が高いので、被害の出やすいトマト栽培は避けるか、栽培前に次項の防除対策を実施します。
photofes / PIXTA(ピクスタ)
【生育ステージ別】トマトのネコブセンチュウの防除対策と農薬例
トマトに寄生するネコブセンチュウの防除対策について、効果のある農薬の例を挙げながら紹介します。
※なお、ここで紹介する農薬は2023年5月7日現在、トマトに登録のあるものです。実際の使用に当たっては、必ず使用時点での農薬登録情報を確認のうえ、ラベルをよく読んで用法・用量を守ってください。
※また、現時点でトマトとミニトマトは登録が異なるため、それぞれ別に調べる必要がある点にも注意しましょう。
定植前:土壌くん蒸剤を用いた土壌消毒
hamayakko / PIXTA(ピクスタ)
センチュウ類は冬の間、土壌中や土壌内にある被害植物の根の残さに、卵や幼虫の状態で生存しています。また、栽培期間は根の中に生息しているため、地上部に発生する害虫のように直接農薬を散布できません。
そのため、作付け前に土壌消毒でセンチュウ類の密度を下げることが効果的な防除方法です。
一般的には、作付けの10~15日前までに「D-D剤」や「カヤクダブルストッパー」などのくん蒸剤で土壌処理します。D-D剤は全面処理または作条処理、ダブルストッパーは1穴処理など、くん蒸剤によって処理方法が異なるため、各剤の使用方法に従いましょう。
なお、D-D剤を用いた場合、くん蒸剤の効果は地温10℃のときより15℃で効果が高いことがわかっています。そのため、地温15℃以上を目安に処理を行うとよいでしょう。
また、卵よりも幼虫に対してのほうが効果的なので、土中に残った被害根の残さを腐熟させ、ふ化を促すと効果が高まります。
抑制トマトなど、低温期に土壌消毒を行う必要がある場合は、栽培後にほ場を耕うんし、灌水・被覆して太陽熱や地熱を利用することで効果が高まります。
出典:千葉県「令和3年度試験研究成果普及情報課題一覧」所収「抑制トマトのネコブセンチュウ防除のための低温期土壌くん蒸処理手法の改善」
定植前〜定植時:農薬(粒剤・液剤)の土壌混和
kelly marken / PIXTA(ピクスタ)
トマトを定植する前には、粒剤などの農薬を土壌混和するのも有効です。定植前に使える農薬には、「ネマトリン粒剤」や「ラグビーMC粒剤」などがあります。いずれも定植前に全面散布し、土壌混和します。
定植前〜定植時:天敵製剤の活用
「パストリア水和剤」は、サツマイモネコブセンチュウだけに特異的に寄生し、増殖を抑制するパスツーリア・ペネトランス(Pasteuria penetrans)菌を使った天敵微生物農薬です。
「野菜類」「ネコブセンチュウ」に登録のある農薬の一種で、サツマイモネコブセンチュウ以外の土壌生息生物に影響を与えない点で、環境への負荷が軽減できます。
またパスツーリア・ペネトランス菌は、ネコブセンチュウに寄生できなくても土壌中で数年間生存するため、残効性が高い点でも優れています。
ただし、重粘土質土壌では増殖が難しいので適しません。また、価格は比較的高いため、くん蒸剤と併用することでコスト削減を図るとよいでしょう。
※クロルピクリンくん蒸剤との併用はできませんのでご注意ください
定植後:農薬(液剤)の処理
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定植後、生育中にセンチュウ被害が発生してしまった場合は、基本的には農薬を使用できません。そのため、生育不良の株があったら根を確認し、ネコブセンチュウが疑われる場合には被害株を撤去して拡大を防ぎます。
ただし、栽培中にも使用できる成分として「ホスチアゼート」があり、これを有効成分とする農薬が「ガードホープ液剤」です。
4000倍に希釈した薬液をジョウロや動噴、灌水装置を使って土壌灌注することで15cmほどの作土層まで浸透し、高い殺センチュウ効果を発揮します。植物体への浸透移行作用があり、トマトの株そのものをセンチュウの侵入から守り、また、侵入したセンチュウの生育を抑制します。
大分県からは、農薬の効果が最も高くなるのは定植後8週間である、という研究結果が公表されています。
出典:大分県「普及カード (関係者向け成果情報) > 普及カード (病害虫関連)」所収「トマトのネコブセンチュウ防除におけるホスチアゼート液剤の処理適期」
液肥混入器でマルチの下へ処理するため、蜂などの有益な生物への影響も抑えられ、土壌中の微生物にもほとんど影響がありません。
併用して効果を高める、農薬以外のセンチュウ防除方法
農薬と併せて行うと効果的な防除方法もあります。防除方法を組み合わせて、農薬の使用を適正範囲に抑えるとよいでしょう。
接ぎ木苗や抵抗性品種の利用
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トマトには、ネコブセンチュウ類に抵抗性を示す品種や、耐病性の台木品種が多く普及しています。これらの品種や台木を選択することで、ネコブセンチュウ被害を大幅に軽減できます。
ところが、近年は抵抗性品種にも寄生して被害を及ぼす抵抗性打破系統が発生しています。また、トマトのセンチュウ抵抗性は30℃以上の高温によって低下することも知られており、高温期には特に注意が必要です。
出典:熊本県「トマトの線虫抵抗性品種を侵すネコブセンチュウの発生」農業研究センター 生産環境研究所 病害虫研究室所収「トマトの線虫抵抗性品種を侵すネコブセンチュウの発生」
また、同一ほ場でトマトを連作する場合は、抵抗性品種であっても、土壌消毒などの対策を併せて行うことが必須です。
石灰窒素の施用
石灰窒素は、緩効性の窒素肥料としてさまざまな農作物に活用されていますが、病害虫防除の効果も期待できます。実際に複数のメーカーの石灰窒素が、「野菜類」「センチュウ類」に適用のある農薬として登録されています。
石灰窒素と稲わらを施用し、湛水処理、ビニールマルチを組み合わせ、太陽熱の利用により地温を高める土壌消毒を行った長野県の調査では、その後のトマト栽培で11月中旬時点における被害株率が2%以下と、農薬による土壌消毒と同等の高い効果を得ています。
出典:日本石灰窒素工業会「石灰窒素だより」所収「石灰窒素による土づくりを活かしたセンチュウ防除」
▼太陽熱土壌消毒については以下の記事を参考にしてください
対抗植物の混植
植物の中には、殺センチュウ効果のある物質を含むものや、土壌中のセンチュウを減らす作用を持つものもあります。そのような植物を「対抗植物」と呼び、これを混植することで土壌中のセンチュウ密度を下げられます。
対抗植物には、イネ科やマメ科、キク科の植物が多く、それぞれ特定の種類のセンチュウに対して効果を発揮します。ただし、防除できるセンチュウが限定的な場合があるため、選定には注意が必要です。
トマトに寄生するサツマイモネコブセンチュウとキタネコブセンチュウの両方に対して減少させる能力の高い対抗植物は、イネ科のギニアグラスやソルゴー、マメ科のサンヘンプやクロタラリア・スペクタビリス、キク科のマリーゴールドなどです。
出典:農研機構「環境保全型農業の新技術」所収「対抗植物、天敵微生物等を利用した線虫防除技術」
マリーゴールドは、トマトのコンパニオンプランツ(共栄作物)にも該当します。マリーゴールドを植えることで、センチュウだけでなく、コナジラミまで防除できるため、同時栽培するのもひとつの選択です。
Lapinou / PIXTA(ピクスタ)
近年の温暖化によって、トマト栽培ではネコブセンチュウによる被害が増えています。従来は被害のなかった抵抗性品種でも抵抗性を打破して寄生する例があり、今後も被害が拡大する可能性があります。
ネコブセンチュウは防除が難しい害虫ですが、適切な防除体系を整えて、被害を最小限に抑えましょう。
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大曾根三緒
ビジネス、ペット、美術関連など多分野の雑誌で編集者として携わる。 全国の農業協同組合の月刊誌で企画から取材執筆、校正まで携わり、農業経営にかかわるあらゆる記事を扱かった経験から、農業分野に詳しい。2019年からWebライターとして活動。経済、農業、教育分野からDIY、子育て情報など、さまざまなジャンルの記事を毎月10本以上執筆中。編集者として対象読者の異なるジャンルの記事を扱った経験を活かし、硬軟取り混ぜさまざまなタイプの記事を書き分けるのが得意。