【根こぶ病対策】アブラナ科野菜を守る! 耕種的防除法と使える農薬
「根こぶ病」は、キャベツや白菜などのアブラナ科野菜の栽培で注意すべき重要な病害です。病原菌は土壌内に潜伏し、発生を繰り返すので、適切な防除が欠かせません。本記事では、根こぶ病の特徴や症状、発生原因、効果的な農薬やそのほかの防除対策について解説します。
- 公開日:
- 更新日:
記事をお気に入り登録する
目次
根こぶ病は、発見しにくいうえに繁殖力が強く、発病すると生育不良や枯死を引き起こします。風や水を通じて休眠胞子が拡散するため、被害が拡大しやすく、作物の収量に深刻な影響が及びかねません。根こぶ病の原因や特徴を知ったうえで、適切な防除対策を講じましょう。
アブラナ科野菜の病害「根こぶ病」とは?
根こぶ病は、アブラナ科の野菜類に特有の病害で、根が病原菌に感染することで大小さまざまなこぶが形成されます。
こぶの影響で根が変形し、水分や養分の吸収が妨げられた結果、生育不良や品質・収量が低下します。発生が著しい場合は、枯死に至るケースも少なくありません。
根こぶ病の特徴
根こぶ病発病株 白菜・ブロッコリー・キャベツ
写真提供:HP埼玉の農作物病害虫写真集
根こぶ病の最大の特徴は、アブラナ科野菜にのみ発生することです。白菜やキャベツのほか、カブやブロッコリーなどに共通して発生します。
一方で、全てのアブラナ科野菜に発生するわけではなく、品種にもよりますが、大根など辛味成分を含む野菜にはあまり発生しません。
生育初期に感染した場合は、主根に大きなこぶが形成され、根が変形します。生育途中に感染した場合は、側根に小さなこぶが多数形成されます。
発病初期は、地上部の外見にほとんど変化が見られません。しかし、地下部では根こぶが徐々に肥大し、根が吸収した水分を茎・葉に送り込む導管を圧迫し始めます。すると、地上部では茎や葉が萎れるようになります。
晴天が続いたあとに異常な萎れのある株を引き抜くと、根にこぶが発生していることがあります。
こぶは白色ですが、収穫期が近付くにつれて褐色に変わります。気温・地温が高いとこぶが腐敗しやすくなり、ほ場に悪臭が漂います。
茎葉の萎れが続くと生育が進まず枯死したり、キャベツや白菜では結球しなくなったりする被害が生じます。
根こぶ病の発生原因
根こぶ病の病原は、「Plasmodiophora brassicae(プラスモディオフォラ・ブラシカエ)」というカビの一種(糸状菌)です。
この病原菌は、土壌中では発芽前の状態である「休眠胞子」として生息しています。休眠胞子はキチン質の細胞壁で構成され、温度や水などさまざまな環境変化に耐えることができます。休眠胞子の状態で7〜10年以上にわたって土壌中に留まり続けるなど、長い期間生き延びます。
アブラナ科野菜の根が近づくと、休眠胞子は発芽し、べん毛をもった「第一次遊走子」という細胞に変化します。第一次遊走子には運動性があり、アブラナ科野菜の根毛に到達した第一次遊走子は細胞壁を突き破って細胞内に押し入ります。
根毛細胞に侵入した第一次遊走子は細胞分裂を繰り返し、根毛細胞内を丸い細胞「遊走子のう」で充満させます。遊走子のうは第一次遊走子から増殖した細胞で、中には4〜8個程度の「第二次遊走子」ができています。第二次遊走子は体の4倍もの長さのべん毛を備えています。
第二次遊走子は一時的に根毛の外に放出された後、主根や側根の皮膚細胞に侵入します。この第二次遊走子に感染することで、アブラナ科野菜の根にこぶができます。
成熟した根こぶは、1g当たり数億個もの「休眠胞子」が含まれるとされています。根にできたこぶが腐敗すると、長い期間生き延びることができる休眠胞子が土壌中に広まります。
そのため、根こぶ病が発生したほ場は適切な防除を行わないと、土壌中に残る休眠胞子によって翌年以降も感染被害が続くことになります。
根こぶ病が発生しやすい条件
根こぶ病は酸性の土壌で発生しやすく、pH6.0以下で発生しやすくなります。一方、土壌pHを7.2以上までに高めることができれば、根こぶ病の発生が抑えられることが知られています。
土壌水分も根こぶ病の発生しやすさに関係します。ほ場の水はけが悪い場合や土壌の水分が多い場合は、遊走子が土壌内を移動しやすくなるため、発生しやすくなります。特に、土壌水分が80%以上の場合は発生しやすいとされています。
また、根こぶ病は温度(地温・気温)が18℃〜25℃で発生しやすいとされています。
根こぶ病とネコブセンチュウの違い
根こぶ病が発病した白菜の根(左)とネコブセンチュウが寄生したきゅうりの根(右)
写真提供:HP埼玉の農作物病害虫写真集
根こぶ病はアブラナ科の作物のみに発生しますが、ネコブセンチュウは野菜類や花きなど、500種類以上の作物に幅広く寄生します。特にナス、トマト、ピーマンなどのナス科野菜や、キュウリ、スイカ、メロンなどのウリ科の作物での被害が顕著です。
また、根こぶ病のこぶは太くて大きいごろっとしたつぶが特徴で、比較的地際に近い部分に発生します。一方、ネコブセンチュウのこぶは小さく、数珠状に付くのが特徴です。
ネコブセンチュウも根こぶ病と同様に根からの水分や養分の吸収を阻害するので、地上部が萎れたり枯れたりする症状が見られます。
しかし、根こぶ病とネコブセンチュウでは防除方法が異なり、使用される農薬の種類も異なるので、正確に見分けることが重要です。
▼ネコブセンチュウの被害については、以下の記事も参照してください。
【写真あり】根こぶ病の作物別症状
発生している症状が根こぶ病かどうかを判断する目安として、作物ごとの主な症状について、画像付きで解説します。
根こぶ病の白菜
白菜に根こぶ病が発生すると、根の機能が低下することで、地上部では茎葉の生育が衰えて葉や株が萎れたり、葉色の退色や黄化が見られたりといった症状が現れます。
白菜の生育初期に発病した場合、主根に大きなこぶが形成されて、根は変形し奇形となります。結球しないなどの生育不良が起きたり、地上部が枯死したりすることもあります。
根こぶ病の白菜 地上部の症状
写真提供:HP埼玉の農作物病害虫写真集
根こぶ病の白菜 根の症状
写真提供:HP埼玉の農作物病害虫写真集
白菜の生育後期の発病では、地上部の被害が軽く、市場出荷に支障のない場合もありますが、その場合でも土壌中の病原菌の密度が高まり、翌年以降に発生しやすくなるので注意が必要です。
▼白菜の病害と対策については、以下の記事も参照してください。
根こぶ病のキャベツ
キャベツに発生する根こぶ病の症状は、ほかの作物と同様、生育不良や日中の萎れが見られます。 キャベツの場合、生育初期に発病するほど症状が重く、重症株は結球不良や枯死に至ります。
根こぶ病のキャベツ 地上部の症状
写真提供:HP埼玉の農作物病害虫写真集
根こぶ病のキャベツ 根の症状
写真提供:HP埼玉の農作物病害虫写真集
キャベツの生育後期に発病した場合は、根にこぶが見られても地上部への影響が少なく、出荷に差し支えない場合もありますが、次作の感染を防ぐためにしっかり防除してください。
▼キャベツの根こぶ病については、以下の記事も参照してください。
根こぶ病のブロッコリー
ブロッコリーに根こぶ病が発生した場合、生育不良や日中の萎れといった症状に加え、出荷部分である花蕾が肥大せず、大幅な減収につながる恐れがあります。
根こぶ病のブロッコリー 地上部の症状
写真提供:HP埼玉の農作物病害虫写真集
根こぶ病のブロッコリー 根の症状
写真提供:HP埼玉の農作物病害虫写真集
いずれの作物にもいえることですが、生育が悪く、日中に萎れる症状が見られる株を発見した場合は、抜き取って根を確認してください。萎れの原因が根こぶ病の場合には、感染拡大や次作への影響を防ぐためにも、同じ症状が見られる株を取り除いてください。
▼ブロッコリーの根こぶ病については、以下の記事も参照してください。
根こぶ病対策には「発病ポテンシャル」の診断が重要
根こぶ病は一度発生すると防除が困難で、長期にわたり作物の収量が低下する可能性があるため、「発病ポテンシャル(発病しやすさ)」を把握したうえで防除手段を講じることが重要です。
発病ポテンシャルの把握には、「DRC診断」という方法が用いられます。
DRC診断では、対象となるほ場の土壌における病原菌密度と発病程度との関係を示す曲線(Dose Response Curve、DRC)を作成することで、栽培時の病原菌密度から発病度合いを簡易的に推定することができます。
「発病ポテンシャル」の診断方法
発病ポテンシャルはほ場によって異なるため、検査対象となるほ場ごとに土壌を採取して、別々の鉢で診断を行います。
1:採取した土壌を鉢に入れ、病原菌を接種します。接種には、対象となるほ場で生育した根こぶ病罹病株をもとに、その根こぶから得た調整液(休眠胞子を懸濁したもの)を使用します。
2:対象となるほ場で作付け予定の作物を1で用意した病原菌を接種した土壌が入った鉢に13粒播種し、ガラス室内で5週間栽培します。
3:栽培後、根を水洗いして鉢ごとに発病程度を調べます。
発病程度は、試験作物に根こぶがなければ「0」、側根にのみ発生すれば「1」、根こぶの発生が主根の半分以下なら「2」、主根の半分以上なら「3」という4段階で評価します。
この数値をもとに、鉢ごとに以下の計算式で発病度を算出し、平均値を求めます。
発病度={(各発病程度×各個体数)÷(3×全個体数)}×100
鉢ごとの発病度の平均値が20未満の場合、特に対策の必要はなく、ほ場の衛生管理をしっかり行い、病原菌の密度が上がらないように維持します。
発病度の平均値が20~60の場合には土壌管理など耕種的防除対策が必要です。対策を実施し、土壌の改善に努めます。発病度の平均値が60以上の場合は、農薬による土壌消毒などの対策が必要です。
出典:農研機構「土壌消毒剤低減のためのヘソディムマニュアル」所収「土壌消毒剤低減のためのヘソディムマニュアル診断のための技術情報
2. DRC診断のための実用的手法」
農研機構「次世代土壌病害診断(ヘソディム)マニュアル(2013年2月)所収「土壌の健康診断に基づいたアブラナ科野菜根こぶ病の診断・対策支援マニュアル」
根こぶ病防除のためにできる3つの耕種的対策
発病度の平均値が20〜60の場合に実施すべき耕種的防除対策には、次のようなものがあります。
- 土壌の酸度矯正
- 太陽熱による土壌消毒の実施
- おとり作物の作付・短期輪作
土壌の酸度矯正
先述したように、根こぶ病は酸性の土壌で発生しやすく、pH6.0以下で発病リスクが高まりますが、土壌pHを7.2以上に高めることができれば、根こぶ病はほとんど発生しません。
土壌の酸性度を矯正するために、苦土石灰(主成分は、炭酸カルシウムと炭酸マグネシウムの混合物)や生石灰・消石灰、石灰窒素、ケイ鉄を施用するのが一般的です。
ただし、土壌のpHを7.5以上に高めると、マンガンやホウ素など作物に必要な微量要素が不溶化し作物に吸収されにくくなります。
苦土石灰や生石灰・消石灰の多量施用は微量要素の欠乏をもたらしやすく、そのうえアブラナ科野菜は特にホウ素の要求性が高いので、多量施肥には注意が必要です。
石灰窒素の場合、主成分であるカルシウムシアナミドが加水分解してシアナミドとなり、このシアナミドの殺菌力が効果を発揮します。シアナミドの殺菌効果は休眠胞子よりも遊走子への作用が大きいとされています。
ただし、石灰窒素は窒素肥料としての一面もあるため、多量施肥による窒素過多に注意してください。
▼石灰窒素の効果や使い方については、以下の記事も参照してください。
ケイ鉄は「転炉さい」「転炉スラグ」ともいい、主成分はケイ酸カルシウムで、副成分としてマンガンやホウ素などの微量要素が含まれています。
土壌pHを高める際に懸念される微量要素欠乏になりにくいメリットがあり、また、一度施用すると酸度矯正効果が10年程度継続するといわれています。
ただし、ケイ鉄は比較的安価ではありますが、先述した苦土石灰に比べると土壌の酸度矯正力が弱いことから多量の施用が必要となること、資材自体が重いといった難点もあります。
太陽熱による土壌消毒の実施
根こぶ病防除のための耕種的対策には、太陽光で土壌の温度を上げて、病原菌を殺菌する方法もあります。雑草の種子や、センチュウ類をはじめとする害虫の卵・幼虫・さなぎの防除効果も期待できます。
梅雨明けから8月下旬までの気温が高い時期に、灌水して土壌を十分に湿らせ、土表面との間にすき間ができないよう透明マルチまたはビニールで覆います。消毒期間が長いほど効果が大きくなるため、20~30日程度の期間をとるようにします。
太陽熱消毒後すぐに播種・定植できるよう施肥や畝立てなどを済ませておくと効率的です。消毒後に耕起すると消毒効果が薄れる点にも留意してください。
▼太陽熱土壌消毒について、詳しくは以下の記事も参照してください。
おとり作物の作付・短期輪作
土壌中に生存する根こぶ病の休眠胞子は、アブラナ科の作物が近付くことで活性化し、根に入り込みます。そこで、根こぶ病に感染しても発病しない「おとり作物」を輪作することで、土壌中の休眠胞子を減らして菌密度を下げることができます。
おとり作物には、根こぶ病の抵抗性が高いアブラナ科の作物である宮重系青首大根、聖護院系大根のほか、葉大根やエン麦・ほうれん草などが有効です。おとり作物専用の品種も開発されています。
例えば「おとり大根 CR-1」は、10a当たり6ℓの施用量で病原菌を50〜90%減少させた実績があります。
CR-1は1ヵ月程度栽培したあと土壌にすき込み、さらに1ヵ月ほど腐らせます。腐ったCR-1は十分に分解され、アブラナ科野菜の定植までに根こぶ病の病原菌密度の低下を図ります。
また、おとり作物である大根をマルチ栽培して収穫したあと、マルチを撤去せず、大根を抜いた穴にそのまま次作の苗を定植する方法も高い効果を上げています。 これが根こぶ病防除のため短期輪作です。
この方法は大根に続いて次作物を栽培することになります。そのため、マルチを張る前に大根と次作物の2作分、速効性と緩効性の肥料を組み合わせて、全量基肥1回で施用します。
特に大根の抜けた穴周辺は養分が少なくなっているので、次作の定植前に穴の中に5~7gほどの石灰窒素を撒くなど、必要な養分を補ってください。
出典:農研機構「次世代土壌病害診断(ヘソディム)マニュアル(2013年2月)」所収「土壌の健康診断に基づいたアブラナ科野菜根こぶ病の診断・対策支援マニュアル」
日本石灰窒素工業会「石灰窒素だより|技術情報」所収「だいこんを「おとり」にはくさいの根こぶを防ぐ」 (石灰窒素だより No.138)
根こぶ病の防除に使える農薬と散布方法
発病度の平均値が60〜100で根こぶ病の発病度が高いと評価されたほ場は、農薬を使用してより効果の高い防除を行います。
「ネビジンSC」「ネビリュウ」などの有効成分フルスルファミドや「ホクサンフロンサイド粉剤」などの有効成分フルアジナムは休眠胞子の発芽を抑制します。根こぶ病に対して高い効果を上げますが、土壌内の病原菌の密度は減らないという点に注意が必要です。
おとり作物と併用できる「オラクル顆粒水和剤」は、休眠胞子から放出された遊走子に直接作用するため、感染を防ぐだけでなく土壌内の病原菌の密度も下げます。おとり作物の栽培と組み合わせると効果的です。
特に発病度が高いほ場は、オラクル顆粒水和剤または粉剤を用いて、セルトレイ育苗で灌注処理を行い、本圃では土壌混和処理を行うと予防効果が高まります。
このほか、TPN粉剤の「ダコソイル」なども有効です。
なお、本記事で紹介する農薬は2024年4月1日現在、登録のある農薬です。実際の使用に当たっては、必ず使用時点での登録を確認し、ラベルをよく読んで使用方法を守って使用してください。
農薬の登録は、以下のサイトで確認できます。
アブラナ科の作物特有の根こぶ病は、一度発生すると作物への感染を繰り返しながら土壌中で菌が増え続けます。
有効な防除方法や抵抗性品種も多数あるので、早期に発見し、早めの防除対策を行うことで、被害を防ぐことが大切です。
記事をお気に入り登録する
minorasuをご覧いただきありがとうございます。
簡単なアンケートにご協力ください。(全1問)
あなたの農業に対しての関わり方を教えてください。
ご回答ありがとうございました。
お客様のご回答をminorasuのサービス向上のためにご利用させていただきます。
舟根大
医療・福祉業界を中心に「人を大切にする人事・労務サポート」を幅広く提供する社会保険労務士。起業・経営・6次産業化をはじめ、執筆分野は多岐にわたる。座右の銘は「道なき道を切り拓く」。