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農業経営者になるには? 就農を成功させるコツと、活用したいサポート事業

農業経営者になるには? 就農を成功させるコツと、活用したいサポート事業
出典 : cba/PIXTA(ピクスタ)

農業経営者になるには、土地の確保、農作業の技術習得、資金調達などの課題を解決する以外にも、マーケティングや先端技術に関する知見を習得するなど、多くの準備が必要です。この記事では、起業と安定経営に必要なポイントについて詳しく解説しています。

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農業の経営形態は多様化し、個人で新規に農業経営者となるハードルは低くなりました。とはいえ、農業分野での起業は土地の確保などの問題があり、ゼロからのスタートは困難です。この記事では、新たに農業経営者をめざす方にとって有益な情報を紹介しますので、ぜひ活用してください。

そもそも農業経営者とは? 言葉の定義と、日本における現状

農業 経営者 起業

cba/PIXTA(ピクスタ)

農業経営者とは、文字通り農業を経営する者ですが、その形態は多様化し、誰でも職業として農業を選択できる時代になりました。まずは、この記事で扱う農業経営者についての概要とその実態について解説します。

「農業経営者」の定義

少し前までは、意欲や能力があっても、農家に生まれなかった人が職業として農業をめざすことは困難でした。しかし現在、新規就農には「親族の経営に参加・継承する」以外にも、「起業」や「農業法人への就職」、「農作業を受託」などさまざまな方法があります。

特に農業経営者としての起業は、自ら経営するので自由裁量度が高く、栽培の方針や販路開拓、販売戦略、仕事内容なども自由に決められる点が魅力です。

ここでは、就農者のうち法人への就職ではなく自ら経営者として農業を行う人すべてを「農業経営者」と呼びます。中には、継承できる農地がなく、農業経営のノウハウを学べる身近な人が不在でありながらも、自ら起業し農業経営をめざす方もおられるでしょう。

そういった方に向け本記事では、「農業経営者になるには何が必要か」を整理し、必要な準備事項や利用できる便利な制度について解説します。

日本の農業経営者数と平均年齢

まずは、詳細の確定数値が公表されている2015年の農林業センサスを参考に、日本の農業経営者の実態を見てみましょう。なお、農林業センサスとは、「日本の農林業の実態や農山村の現状・変化を的確に捉えて、農林業政策に役立つ資料となる統計を取るための調査」で、農林水産省が5年に一度行っています。

現在公表されている2015年の調査結果によると、販売農家の世帯員数は221,633人で前回(2010年)と比べ77,359人、割合で見ると25.9%減少しています。

なお、この場合の販売農家とは「経営耕地面積が30a以上、または調査期日前の1年間における農産物販売金額が50万円以上の農家」を指します。

世帯員数とは家族の人数です。「14歳以下、15~29歳、30~39歳、40~49歳、50~59歳、60~64歳、65歳以上」に分けられたすべての階層で世帯員数は減少しており、特に29歳以下の階層では大幅な減少が見られます。少子化の影響が農家にも顕著に現れているのです。

また、販売農家の農業経営者の実態を見ると、農業経営者数は57,239人で前回比13,645人(19.2%)減少しています。

年齢階層別に見てもすべての階層で減少しており、特に40代、50代の階層で大幅な減少が見られます。その結果、農業経営者の平均年齢は65.9歳と、高齢化もかなり進んでいることがわかります。

こうした現状から農業現場では、地域の農業を支えられる若い新規の就農者、特に農業経営者を待ち望んでいる状況が伺えます。

出典:農林水産省「農林業センサス 2015年」

新規就農から農業経営者になるには? 必要な準備&活用できる支援策

農業支援 申請

カッペリーニ/PIXTA(ピクスタ)

この項では、農業経営者として農業に新規参入するために必要な3つの重要な準備について解説します。

1. 経営や栽培方法のノウハウを学ぶ

農業経営者となるのであれば、営農の技術だけでなく、経営者としての経営管理や組織運営についての知識も必要です。

農業大学校などで学ぶ

学校へ通って基礎から学びたいのであれば、全国42道府県にある農業大学校や、民間の研修教育機関に入学するとよいでしょう。

授業料や諸経費はかかりますが、寮が整備されている学校も多く、経営者コースなどがあれば営農技術に加えて経営に必要な知識も学べます。山形県鶴岡市には、市立の農業経営者育成学校まで存在します。

農林水産省のサイトで、全国の農業大学校や研修教育機関が紹介されています。

農林水産省ホームページ「農業を学ぶための研修教育機関のご案内」

※農業大学校についてはこちらの記事もご覧ください。

農業法人などで働きながら学ぶ

より実践的に農業を学ぶために、農業法人などで従業員として働きつつ研修を受けられる制度も各地に設けられています。

就農希望の地域にある農業法人で研修を受ければ、生産技術や加工販売技術、経営のノウハウなどを実践的に学べるほか、地域の人たちや農業関係者との人脈も得られます。

従業員に独立支援を行っている農業法人は、全国新規就農相談センター「農業をはじめる.JP」のサイト内「求人情報」で、条件を絞ることで検索できます。

全国新規就農相談センター「農業を始める.JP|求人情報」

農業法人などで働きながら学ぶ

十分な資金がなくても研修を受けたいという方は、研修中の所得を確保できる「農業次世代人材投資資金(準備型)」があります。

次世代を担う農業経営者を志す人に対し、年間150万円を最長2年交付するものです。年齢制限や所得制限のほか、研修終了後1年以内に就農するなどの条件などはありますが、資金面に不安のある方には心強い制度です。

制度についての詳細は、農林水産省ホームぺージ「農業次世代人材投資資金(旧青年就農給付金)」の「準備型」の項をご覧ください。

※「農業次世代人材投資資金」についてはこちらの記事もご覧ください。

2. 経営資金を調達する

新規就農時には、まとまった資金が必要です。2017年に行われた「新規就農者の就農実態に関する調査結果」を参考に、就農1年目の費用と自己資金の実態を見ると、機械施設などの費用と種苗・肥料・燃料などの費用を合わせ、平均で500~600万円ほどかかっています。

このほか、実際に収益が発生するまでの生活費についても考えておく必要があります。

ところが、実際に新規就農者が用意した営農面の自己資金は200~300万円弱で、これに生活面の自己資金は150~200万円ほどです。多くが、必要費用との差額を、融資や各種支援・助成金によって埋め合わせていると考えられます。

出典:一般社団法人全国農業会議所 全国新規就農相談 センター「新規就農者の就農実態に関する調査結果(平成28年度)」

こうした資金調達に使える支援策としては、前項でも紹介した「農業次世代人材投資資金」の経営開始型(5年以内)や、「認定新規就農者制度」があります。

農業次世代人材投資資金は、年齢制限や所得制限のほか、「独立・自営就農であること」や、「作成する青年等就農計画などが決められた基準を満たしていること」などの条件があります。

しかし、認定されれば、就農後、経営が安定するまで最長5年間、経営開始1~3年目は年間150万円、4~5年目は年間120万円を定額交付されます。

青年等就農計画制度は、新規就農者が作成する青年等就農計画を市町村が認定した場合、その計画に沿って農業を営む「認定新規就農者」に対して、さまざまな支援措置などを行う制度です。

※青年等就農計画制度について、詳しくはこちらの記事もご覧ください。

3. 農地を取得する

農業経営を始める際に、最も重要な問題が農地の取得でしょう。一度取得したら簡単には替えられないので、何を栽培したいのか、地域風土や周辺の環境は自分のやりたい農業に合っているかなど、営農ビジョンをしっかり立ててから慎重に決めましょう。

農地を探すには、インターネット上で、地図や条件から好みの土地を検索できる全国農業会議所の「全国農地ナビ」が便利です。

※全国農地ナビについては、こちらの記事をご覧ください。

土地の売買や賃借では、売買契約や賃借契約を締結し、買い手(借り手)が代金を支払って土地の所有権を取得したり賃借権の設定等をしたりしますが、農地の場合は、農地法によって定められた条件があります。

まず、売買でも賃借でも、農業委員会の許可が必要です。買い手(借り手)か売り手(貸し手)のどちらかが農業委員会に申請し、農業委員会から許可指令書が交付されてから契約をしましょう。

なお、個人が農地を取得するには、「その農地すべてを自ら耕作すること」「常時農業に従事すること」など、いくつかの条件を満たすことが必要です。

※農地の取得について、詳しくはこちらの記事もご覧ください。

農業経営者として成功を収めるための“3つのコツ”

資金や土地の準備に目処が立ち、いよいよ農業経営を始めるという段階で押さえておきたい3つのコツについて解説します。

常に「消費者の視点」を意識する

農産物 消費者

hellohello /PIXTA(ピクスタ)

農業に限らず、経営者・生産者の心得として大切なのが、「消費者の視点」を持つことです。作付け品目、栽培方法、野菜の売り方など、農業経営には多くの判断や選択が伴います。その際には、常に消費者視点を意識するとよいでしょう。

消費者の視点を正確に把握するには、常に市場の動向やニーズの変化に気づくよう、マーケティングの知識も不可欠です。

就農後、消費者ニーズを把握して品目や品種を変更し、成功を収めた例もあります。例えば、熊本県にある有限会社内田農場の内田智也社長は、就農後自ら営業活動を行い、焼き肉店や酒造メーカーなどに直接話を聞いたことで、卸先によって求める米の品質や特徴がまったく異なることを知ります。

その経験を活かし、卸先のニーズや用途に合わせて10品種以上の米を生産しており、ユーザーの需要に応えることを大切にしています。

農業生産法人 有限会社内田農場 ホームぺージ

出典:ヤンマーホールディングス株式会社ホームページ内「<アグリ・ブレイクスルー>成功する農業者はここを重視している。先進的農業経営者に見られる共通の経営手法」

「具体的な経営目標」を設定する

農業経営を成功させるためには、具体的な目標設定とそれを実現するための経営戦略が求められます。それを実践したのが、熊本県にある有限会社重元園芸の重元茂さんです。

就農当時はメロンを主力品目としていましたが、きゅうり生産に切り替えることにし、周年栽培による年間安定供給という目標を設定しました。

その目標を達成するため、きゅうりについてのさまざまな情報を集め、戦略を練ります。具体的には、労働集約型のきゅうりは収穫に人手と時間がかかり、一度に作付け可能な経営面積は限られることから、「まとまった面積で周年供給できれば取引先の信頼を得られるはず」と方向性を定めました。

試行錯誤の末、平場と高冷地にあるほ場を活用したリレー出荷を確立し、今では一日も欠かさず出荷することで取引先の高い信頼を得ています。

有限会社重元園芸 ホームぺージ

出典:ヤンマーホールディングス株式会社ホームページ内「<アグリ・ブレイクスルー>成功する農業者はここを重視している。先進的農業経営者に見られる共通の経営手法」

現代農業の課題を解決する「スマート農業」の導入

日本では、農業の担い手が減少する中でも収量を維持するために、農業経営の大規模化や効率化が進み、農作業の機械化やICT化が推進されています。ドローンを活用したほ場の空撮や農薬散布は、スマート農業を象徴する姿といえるでしょう。

自動操舵機能の付いたトラクターや田植え機も普及が進み、今は無人で自動運転や遠隔操作ができる農機の開発が進んでいます。また、AIを使った施設栽培の環境制御システムや水田の水管理システムも開発され、農作業の省力化、効率化に大きく寄与しています。

施設栽培や大規模経営農業と先端技術は相性がよく、これから農業経営者をめざすのであれば、スマート農業の技術をどこまで導入するかについても、自分の経営目標や予算と照らし合わせ、検討することが重要です。

経営上の課題解決を支援する「農業経営者サポート事業」の活用も検討を

経営サポート 農業 専門家

freeangle /PIXTA(ピクスタ)

十分に準備を整えてスタートしたとしても、農業経営を進めるうえで困難にぶつかることもあるでしょう。そういったときに活用したいのが、農林水産省が2018年度から行っている「農業経営者サポート事業」です。

この事業は、農業経営者が直面するさまざまな経営上の課題に対して経営相談・経営診断に応じるだけでなく、必要に応じて専門家の派遣や巡回指導などの伴走型支援を行う「農業経営相談所」を、各都道府県に設置するものです。

相談に関わる専門家は行政や指導農業士だけでなく、公庫や地銀などの金融関係者、税理士、社会保険労務士、弁護士、中小企業診断士、経営コンサルタントなど多岐に渡ります。相談の際は農業経営相談所が取り次いでアドバイスを行います。

これにより、近隣に専門家が不足している地方でも、経営計画実現のためのサポートを受けられたり、経営課題について適切なアドバイスを貰うことができ、効率的・安定的な農業経営を進めることができます。こうしたサービスも積極的に活用し、経営に役立てていきましょう。

農業経営者サポート事業の詳細と、各都道府県の農業経営相談所開設情報は、農林水産省のホームぺージ内「農業経営に関する相談(農業経営相談所)」をご覧ください。

農業経営には特有の課題が多く、新規参入するには多くの困難があります。しかしその分、手厚い支援や助成も充実しており、それらをうまく活用すれば、早期に経営を安定・発展させることも可能です。明確な経営ビジョンと高い意欲を持って周到な準備を行い、農業経営者としての就農を実現しましょう。

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ご回答ありがとうございました。

よろしければ追加のアンケートにもご協力ください。(全6問)

農地の所有地はどこですか?

栽培作物はどれに該当しますか? ※販売収入がもっとも多い作物を選択ください。

作付面積をお選びください。

今後、農業経営をどのようにしたいとお考えですか?

いま、課題と感じていることは何ですか?

日本農業の持続可能性についてどう思いますか?(環境への配慮、担い手不足、収益性など)

ご回答ありがとうございました。

お客様のご回答をminorasuのサービス向上のためにご利用させていただきます。

大曾根三緒

大曾根三緒

ビジネス、ペット、美術関連など多分野の雑誌で編集者として携わる。 全国の農業協同組合の月刊誌で企画から取材執筆、校正まで携わり、農業経営にかかわるあらゆる記事を扱かった経験から、農業分野に詳しい。2019年からWebライターとして活動。経済、農業、教育分野からDIY、子育て情報など、さまざまなジャンルの記事を毎月10本以上執筆中。編集者として対象読者の異なるジャンルの記事を扱った経験を活かし、硬軟取り混ぜさまざまなタイプの記事を書き分けるのが得意。

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