【トマトの摘果】適切な時期や方法は? 栽培手法と品種別の収量向上技術
トマトの摘果を適切に実施することで、収量の増加と品質向上が可能になります。摘果時期の見極め方や具体的な方法、適切な着果数について解説しますので、高品質トマトの栽培をめざしている方はぜひご覧ください。
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目次
トマトの適切な摘果は、収量増加と品質向上につながります。この記事では、摘果に適した時期やタイミングの見極め方、着果数の目安、必要性について解説します。
トマトの「摘果」とは? 実施の目的と作物への影響
Ystudio / PIXTA(ピクスタ)
果実には、種子を守りつつ成熟させるという役割があります。しかし、果実自身で栄養分を作り出すことはできないため、植物自体が蓄えた栄養分などを使って成熟していきます。
果実数が多いと、その分1つ当たりの果実に届く栄養分が少なくなります。そこで必要になるのが「摘果」です。摘果とは、成熟前の段階で果実を選別し、適切に取り除くことをいいます。
これによって果実1つ当たりに届く栄養分が増えるため、果実が大きく高品質になるだけでなく、収量増も期待できるでしょう。
トマトの摘果に適した時期・タイミングの見極め方
トマトの摘果は、時期を見分けることが大切です。タイミングが遅くなると摘果する果実に消費する栄養分が多くなり、残す果実に十分な栄養が届かない可能性があります。
反対に摘果のタイミングが早すぎると、摘果に適切な果実を見分けられないことがあります。摘果する果実は次のような不良果が望ましいため、優良果を誤って摘果しないようにしましょう。
●ガク片が大きく、花どまりが大きい「乱形果」
●ガク片が少なくて肩部分の緑色が濃く、光沢が強い「小果」
●花落ち部分が黒変している「尻腐れ果」
●そのほか「奇形果」や「チャック果」、「窓開き果」など
トマト 尻腐れの初期症状
写真提供:HP埼玉の農作物病害虫写真集
定植してから30日程経つと、果実がゴルフボール程度の大きさ(指でOKサインを作ったときの親指と人差し指で囲む円程度の大きさ)に生長し、摘果のタイミングとなります。時期を逃さず、不良果を見つけて摘果しましょう。
収量・品質を上げる! 失敗しないトマトの摘果方法
適切に摘果を実施することで、トマトの果実に十分な栄養が行き渡り、より高品質な果実を収穫できるようになります。また、不良果を早めに取り除くことで、出荷できる果実を増やし、収量増にもつながります。
そこで、失敗しない摘果の方法や、摘果する果実の選び方について解説します。
摘果のやり方と、適切な着果数の目安
Ystudio / PIXTA(ピクスタ)
不良果があまりない場合でも、摘果を実施します。正常に生長している果実も、ゴルフボール大のタイミングで着果数を減らすことにより、残した果実に栄養分が届き、より大きく、より高品質な生長が期待できるからです。
一房当たりの着果数の目安は以下のとおりです。
●第1段~第3段果房:3果
●第4段果房以降:4果
摘果の時期がきたら果房についている実を切り、目安の数まで減らします。中玉トマトやミニトマトの場合は、果房の先端近くの実を摘果すると生長しやすい果実を残すことができます。
摘果するトマト果実の選び方
sasuke / PIXTA(ピクスタ)
摘果するトマトは、不良果を中心に選びます。不良果があまりないときや、どれもよい果実に見えるときは、次の3点を満たしている幼果を残し、適切な着果数まで減らすようにしましょう。
●ガク片が7枚
●豊かで丸みのあるフォルム
●果実の色が灰緑色でくすんでいる
単為結果性トマトの摘果は「5果」が最適
一方、パルトなどの単為結果性トマト(ホルモン処理を行わないトマト)は、1段ごとに4果以下の通常の基準で摘果すると、無摘果の場合よりも収量が減少してしまうことが研究によって示されています。収量増と品質向上を実現するためにも、単為結果性トマト品種については、5果を目安に摘果するようにしましょう。
また、週1回程度を目安に側枝を取り除くと、果実の大きさや品質、収量向上につながります。作業時間は増えることになりますが、単為結果性トマトを栽培するときは側枝を取り除き、1段当たり5果に管理することを実践してみてください。
出典:
地方独立行政法人北海道立総合研究機構「農試集報 第104号 」所収「単為結果性トマト品種の生育,収量および品質特性評価と摘果の影響」
東京都農林総合技術センター 「単年度成果(平成28年度)」所収「トマト無加温半促成栽培における「パルト」の側枝除去および摘果による果実肥大効果」
そもそも摘果は必要? 品種と栽培方法に基づく考え方
摘果を行うことで残す果実に十分な栄養分が行き渡り、より大きくより高品質なトマトを収穫できるようになります。しかし、肥料などの栄養分を十分に与えることで、摘果しなくても生長するのではないかと考えるかもしれません。
そもそも摘果は、トマト栽培において必要な作業なのでしょうか。品種と栽培方法に分けて解説します。
慣行栽培の大玉品種は必須、ミニトマトは状況に応じて判断を
大玉品種においては、摘果は必須です。摘果をせずに自然のまま放置すると果実の生長を阻害し、大玉品種であっても中玉程度にしか生長しないことがあります。大玉品種では、通常1つの果房に5~6個の幼果が付くので、摘果して段ごとに3~4個までに減らしましょう。
特に1~3段目の果房は、3個までに減らすことが大切です。トマトは下段から収穫時期を迎えるため、下段の生長に栄養分が偏ると中段以降の果実が生長不良になり、トマトの株全体に負担を与えることがあります。下段の着果数を制限することで樹勢を高め、収量増加をめざしましょう。
●大玉トマト
Ystudio / PIXTA(ピクスタ)
樹勢が強いときでも、大玉品種を栽培するときは果房当たり5個以上の幼果を残さないようにします。幼果がゴルフボール大、あるいは卵程度の大きさになったタイミングで摘果を実施します。
残す幼果は下段は3個まで、中段と上段は4個までに制限し、花付きを悪くしないように調整してください。
樹勢が弱いときは、トマトの株に負担を与えないように早めに摘果する必要があります。幼果が500円玉程度の大きさになったときに摘果を実施しましょう。
樹勢にもよりますが、下段の残す幼果は2個程度にまで抑えます。下段の摘果後に樹勢が強まったときは、通常と同程度に3~4個を残して摘果してください。
●中玉トマト
一方の中玉トマトは、果実当たりの重量が小さく、大玉品種と比べるとトマトの株にかかる負担が少なくなります。しかし、果房の先端部は栄養分が届きにくく肥大しにくいため、適度な摘果の実施は、残した幼果の適切な生長を促すことにつながります。
▼中玉トマトの栽培管理についてはこちらの記事をご覧ください。
●ミニトマト
ミニトマトも果房の先端部は肥大しにくいことがあります。基本的にミニトマトは摘果不要ですが、肥料の効きや日当たりによっては先端部の生長が遅れることもあるので、様子を見ながら適宜摘果を実施しましょう。
金久暢彦 / PIXTA(ピクスタ)
「低段密植栽培」なら大玉トマトも摘果は不要
トマトの栽培手法の1つに「低段密植栽培」があります。これは通常の多段栽培よりも密植したうえで、1~3段程度の低段で栽培する方法であり、段数が少ない分だけ収穫期間が短く、株の負担も少なくなります。
低段密植栽培を実施する場合は、大玉品種であっても摘果をせずに、着果数を安定させるほうがよいでしょう。
【あわせて読みたい】 高品質トマトを栽培するための関連コンテンツ
高品質のトマトを栽培する方法は、適切な摘果だけではありません。播種や温度管理、栽培管理を適切に行うことで、より高品質かつ大きさや形状も優れたトマトに仕立てられます。
例えば、播種の時期は栽培方法によって大きく異なります。露地栽培では2月頃が一般的ですが、トンネル栽培や早熟栽培では1月頃から播種を始めることもあります。促成栽培では8~9月頃の播種が一般的です。
播種を成功させる要素は、時期選びだけではありません。培土の準備から発芽までの温度管理、鉢上げ後の温度管理と多くの要素が関わります。以下に、播種と播種前後において確認したい事柄をまとめて紹介しているので、ぜひご一読ください。
トマトの自家育苗
発芽率を高めるためには、温度管理が不可欠です。25~30℃がトマトの発芽に適した温度とされていますが、発芽後は少し温度を下げて管理する必要があります。日中は20~25℃、夜間は8~13℃に管理すると、育苗に適した環境を保ちやすくなるでしょう。
また、発芽率を高めるだけではなく、同時に発芽させることも大切なポイントです。トマトは発芽と育苗に適した温度が異なるため、発芽時期に差が生じると、発芽できない種子や生長しない芽などが増える可能性があります。
育苗のポイントはこちらの記事をご覧ください。
アブラムシ類の防除
トマトの生長を妨げる害虫として、アブラムシ類が挙げられます。アブラムシ類が増殖すると生長が阻害されるだけではなく、すす病やモザイク病などの病害を招くこともあります。次の記事では、アブラムシ類の防除法や農薬を使った対策について紹介しています。
トマトの高温障害対策
露地栽培のトマトは夏に収穫を迎えますが、トマトは決して高温状態に強い作物ではありません。気温が高いときや気温の上昇幅が大きいときは高温障害が生じ、着果率の低下や奇形果の増加を招くことがあります。
この記事では、高温障害の対策について解説していますので、参考にしてください。
適切に摘果することで、より大きく、より高品質なトマトに仕立てることができます。大玉品種を栽培するときは、株の状態も確認しつつ、下段では3個、中上段では4個を目安に幼果を残して摘果する必要があるでしょう。
また、中玉品種やミニトマトを栽培する際にも、樹勢や日当たりによっては摘果が必要になります。ぜひ紹介した情報を参考にしてみてはいかがでしょうか。
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林泉
医学部修士、看護学博士。医療や看護、介護を広く研究・執筆している。医療領域とは切っても切れないお金の問題に関心を持ち、ファイナンシャルプランナー2級とAFPを取得。