水稲の「すす病」を防ぐ!原因となる害虫と、防除に使える農薬情報
すす病は水稲を含む多くの作物に共通する病害で、発生すると見た目が汚くなり品質が著しく低下するだけでなく、光合成を妨げることで生育が抑制されます。植物自体ではなく植物に寄生した害虫の排泄物に発生するため、原因となる害虫を防除する必要があります。
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目次
水稲に発生するすす病は、主にセジロウンカとツマグロヨコバイの排泄物が原因となります。そこで、この記事ではこの2種の害虫に焦点を当て、発生原因や特徴、防除方法、効果のある農薬などについて、見た目の特徴がわかる写真を添えて詳しく解説します。
水稲の収量・品質低下をもたらす病気、「すす病」とは?
ツマグロヨコバイによるすす病
写真提供 HP埼玉の農作物病害虫写真集
すす病は糸状菌(カビ)を病原とする病害で、多くの作物の葉や茎、果実に発生します。水稲の場合は、主に上位葉や止め葉、穂に発生が見られます。
水稲にすす病が発生すると、黒いすす状の菌糸で葉や穂が汚れ、触ると手にも黒い粉のようなものが付着します。葉に多発した場合は光合成が十分にできず生育が抑制され、穂に発生した場合は籾が黒く汚れます。その結果、千粒重の減少や品質の低下などの被害につながります。
原因となるカビは1種類ではなく多数あり、ほとんどが空気中に浮遊している腐生菌です。腐生菌とは腐ったものなどに生える菌の総称で、生きている植物自体には寄生しません。
つまり、すす病は葉や穂などの植物体に直接発生するのではなく、そこに付着している害虫の排泄物に発生するのです。また、すす病は害虫が多発した際に発生し、害虫がいなければすす病も発生しません。そのため、原因となる害虫を防除することが、すす病そのものの防除対策になります。
【画像で確認】 すす病の原因となる主な害虫とその生態
水稲に発生するすす病の原因となる害虫は、主に「セジロウンカ」と「ツマグロヨコバイ」です。そこで、この2種類の害虫について、見た目の特徴や生態を解説します。
セジロウンカ
日本の水田に発生するウンカ類は、主にセジロウンカ、トビイロウンカ、ヒメトビウンカの3種で、そのうちセジロウンカは7~8月に多く見られるため「夏ウンカ」と呼ばれます。
セジロウンカの成虫(雌:体長4mm)
写真提供:HP埼玉の農作物病害虫写真集
セジロウンカの成虫(雄:体長4mm)
写真提供:HP埼玉の農作物病害虫写真集
成虫は体長約3~4mmで、名前の通り背中に白い斑があります。多発したほ場では、水田を歩くと粉が舞うように飛び上がる成虫を確認できます。
成虫・幼虫とも水稲のみを吸汁し、休眠しないため日本では越冬できません。それでも毎年発生するのは、ベトナム北中部から中国南部などに生息するセジロウンカが、6~7月に発生する下層ジェット気流に乗って大陸から日本に飛来するためです。そのため、九州など西日本に多く発生しますが、東北でも見られることがあります。
日本の水田に飛来した成虫は、2~3日後から水稲の葉鞘などに産卵します。葉の表面を傷つけ組織内に産みつけるため、産卵痕が赤褐色の縦筋状に残るのが特徴です。25℃の環境下で卵期間は9日、幼虫期間は12日~2週間程度で、蛹を経ずに不完全変態で成虫になり、ひと夏に2~3世代を経ます。
セジロウンカの幼虫(4齢:体長1.8mm)
写真提供:HP埼玉の農作物病害虫写真集
飛来した成虫の卵からふ化した第2世代が発生する7月下旬~8月中旬が最も多発する時期で、出穂期以降には成虫が多く見られます。その後、通常は水田から飛び去って被害が収まりますが、水田内に多く残った場合、9月以降にすす病などの被害が多発します。
セジロウンカの吸汁被害そのものは、通常は深刻になることはありませんが、すす病が発生すると収量や品質を大きく低下させます。
また、「イネ南方黒すじ萎縮病」を媒介することもあるため、こうした病害を発生させないように早期防除が必須です。
セジロウンカの排泄物が原因で水稲に発生したすす病
写真提供:HP埼玉の農作物病害虫写真集
ツマグロヨコバイ
ツマグロヨコバイは北海道を除く日本各地に分布し、水稲やイネ科雑草のみに発生する中型のヨコバイです。排泄物がすす病の原因となるほか、萎縮病、矮化病や黄萎病を媒介します。
ツマグロヨコバイの排泄物が原因で水稲に発生したすす病
写真提供:HP埼玉の農作物病害虫写真集
幼虫は淡黄色または淡褐色で、5齢を経て約1mm~3.5mmに成長し、不完全変態で成虫になります。成虫は雄が約4.5~5mm、雌が約6mm、淡緑色で、羽の先端が雄は黒く、雌は淡褐色なのが特徴です。
ツマグロヨコバイの幼虫(4齢:体長2.7mm)
写真提供:HP埼玉の農作物病害虫写真集
ツマグロヨコバイの成虫(雌:体長6mm)
写真提供:HP埼玉の農作物病害虫写真集
ツマグロヨコバイの成虫(雄:体長5mm)
写真提供:HP埼玉の農作物病害虫写真集
雌は葉や葉鞘の組織内に数粒~十数粒の卵塊を産みつけ、1匹の産卵数は100~200粒ほどといわれます。25℃の環境下で卵は10日ほどでふ化し、幼虫期間は約20日、成虫寿命は約2週間です。
冬の間は水田周辺のイネ科雑草などで幼虫が越冬し、4月下旬頃から越冬世代が成虫となって雑草の中で繁殖します。田植え後、水田に飛来して、収穫期までの間に約4世代を経ます。暖冬で雨が少ない年には越冬数が増えるため発生が多くなり、また、夏も高温が続くと9月頃に多発します。
発生の増える時期は地域によって異なり、それぞれ被害も違うので注意が必要です。
西日本では、水稲の生育初期に多発する傾向があり、吸汁被害そのものよりも若い苗が萎縮病や矮化病、黄萎病に感染する被害が問題になります。
▼イネ萎縮病についてはこちらの記事をご覧ください。
北陸や北日本では、生育初期の被害はそれほど大きくならない一方、後期に多発しやすく、出穂期~登熟期に吸汁されることで籾に被害が発生し、収量・品質が低下します。
ツマグヨコバイの寄生で褐変した水稲の穂
写真提供:HP埼玉の農作物病害虫写真集
水稲に使える農薬は? すす病を防ぐ、効果的な害虫対策
すす病は、病原である腐生菌を防ぐことが困難なため、発生原因となるセジロウンカとツマグロヨコバイを防除することが基本です。そこで、これらの害虫を効果的に防除する方法について解説します。
セジロウンカ、ツマグロヨコバイは農薬による防除が基本
吉野秀宏 / PIXTA(ピクスタ)
セジロウンカ、ツマグロヨコバイともに、農薬による防除が効果的です。どちらの場合も、農薬が効きやすい若齢幼虫の時期に行うことと、耕種的防除により発生密度を低くしておくことで、効果がより高まります。
基本的には、初期のウイルス病感染を防ぐ育苗箱施用と、後期の吸汁害を防ぐため発生状況に応じた本田防除を行います。
地域の病害虫発生予察情報を確認しつつ、ほ場の飛来状況をよく観察し、多発する前に適切な農薬を使用して発生を抑えましょう。本田に農薬を散布する際の目安は、一株当たり成虫および幼虫が30匹程度見られた頃です。
なお、どちらの害虫も薬剤抵抗性を持っていると考えられ、1種類の成分では十分な効果が得られない場合があります。系統の異なる複数の農薬をそろえておき、効果が低い場合は系統を変えたり、いくつかを組み合わせて使ったりするとよいでしょう。
特にツマグロヨコバイは越冬して次の年に薬剤抵抗性を引き継ぐため、ローテーションによる使用が必要です。
水稲栽培で使える農薬の例と、防除の注意点
次に、水稲栽培でのセジロウンカやツマグロヨコバイ防除に使える農薬をいくつか紹介します。ただし、ここで紹介する農薬は2022年6月21日現在、水稲と、ウンカ類またはツマグロヨコバイに登録のあるものです。
実際の使用に当たっては、必ず以下のサイトで使用時点での登録を確認し、ラベルをよく読み、用量・用法を守りましょう。また、地域に農薬の使用についての決まりがある場合は、必ず従ってください。使用した農薬は、作業日・農薬名・使用量を正確に栽培記録簿に記載するなど、適切な管理が必要です。
農薬登録情報提供システム
育苗箱施用剤
育苗箱施用剤の施用
写真提供:HP埼玉の農作物病害虫写真集
育苗箱施用剤では、セジロウンカとツマグロヨコバイを同時防除できる「アドマイヤーCR箱粒剤」「アクタラ箱粒剤」「スタークル箱粒剤」、ウンカ類に効果のある「プリンス粒剤」「チェス粒剤」などがあります。「アドマイヤー顆粒水和剤」など、灌注できるものもあります。
このうち、プリンス粒剤はセジロウンカに対する効果が低下しているといわれますが、同じく水稲の厄介な害虫であるトビイロウンカには効果が高いため、両方のウンカとツマグロヨコバイを同時防除したい場合に、アドマイヤーCR箱粒剤などと組み合わせて使うとよいでしょう。
複数の害虫を同時に防除できる混合剤もさまざまなものが販売されています。
本田散布
taka tyan/PIXTA(ピクスタ)
本田散布には、セジロウンカとツマグロヨコバイを同時防除できる「アドマイヤー1粒剤」や「マラソン乳剤」「ダントツ水溶剤」「スタークル粒剤」などがあります。
近年はドリフト対策のため、粒剤の利用を検討するケースも増えているようです。同じ農薬でも粒剤のものがあれば使用を検討してみましょう。また、散布後は必ず効果を確認し、効いていない場合は適切な期間をおいて、異なる種類の農薬を用いて追加防除しましょう
併せて対策! 害虫の増殖を抑える3つの耕種的防除方法
害虫の防除は農薬だけでは非効率でコストもかかってしまうことから、耕種的防除も併せて行うことが重要です。適切な耕種的防除を行うことで、害虫の発生密度を下げ、農薬の効果を高めます。そこで、セジロウンカとツマグロヨコバイに効果的な耕種的防除について解説します。
水田周辺の除草を徹底する
セジロウンカは水稲にしか寄生しませんが、ツマグロヨコバイは水田周辺に茂ったイネ科雑草が越冬場所や春先の繁殖場所となります。そのため、越冬世代の成虫が出現する前に水田内や周辺の雑草を防除しておくことが重要です。
夏場も、周囲に雑草があるとそこが温床となったり、水田に農薬を散布した際の避難場所となったりしてしまうので、常に雑草の管理を徹底しましょう。
但し、すでにツマグロヨコバイが多発した雑草地を除草すると、水田への飛来を促し、逆効果になります。除草のタイミングにも注意が必要です。
▼畦畔除草についてはこちらの記事をご覧ください。
極端な早植え・遅植えは避ける
セジロウンカは6~7月にかけて日本に飛来しますが、この時期に水稲の生育が進んで葉が茂り、株間が狭くなっていると、天敵に見つかりにくく定着率が上がります。
また、早植えは育苗箱施用剤の効果が切れるタイミングも早く、肝心の飛来時期に効き目がなくなってしまうことも起こり得ます。
一方で、移植が遅いと苗の活着期にセジロウンカの発生密度が上がり、生育初期に激しい食害を受けることで黄化や生育抑制、分げつ抑制が起こり、収量が低下します。被害が著しい場合は枯死する場合もあります。
飛来が多くなる6月下旬~7月上旬頃が穂ばらみ期~出穂前に当たらないよう、飛来情報を確認しながら適切な移植時期を慎重に検討することが重要です。
セジロウンカによる籾の稔実不良
写真提供:HP埼玉の農作物病害虫写真集
“多肥密植栽培”を行わない
セジロウンカや、同様に大陸から渡ってくるトビイロウンカは、多肥や密植栽培によって発生が増えるという研究結果があります。特に、窒素施肥量が発生に大きく影響するという試験結果が報告されています。
出典:佐賀県 農林水産部 農業試験研究センター「平成25年度研究成果情報」所収「水稲の無農薬栽培におけるウンカ類と紋枯病の発生は、施肥量の影響が栽植密度より大きい(佐賀県農業試験研究センター 有機・環境農業部・有機農業研究担当)」
窒素過剰については、株が育ちすぎて葉が茂り、株元がウンカ類の繁殖しやすい高温多湿環境になることや、養分を多く含んだ株を吸汁することでウンカ類もよく育ち、産卵数が増えることでも発生を助長すると考えられています。密植も高温多湿の環境を作るため、同様の影響があります。
セジロウンカを含むウンカ類の繁殖を抑えるためには、土壌診断をもとに適切に施肥し、密植を避け、適切な株間を取りましょう。先述した佐賀県研究成果情報の調査結果によれば、移植の際に1平方m当たり12~18株とすると病害虫の被害が少なく、収量も安定するとされます。
たいやき / PIXTA(ピクスタ)
すす病による収量・品質低下の被害を防ぐためには、その原因となる害虫を防除することが基本です。
日本では、すす病を発生させる害虫は主にセジロウンカとツマグロヨコバイの2種類とされています。これらの発生が予想される地域では、水田や周囲の雑草の防除を適切な時期に行うことが重要です。
加えて、複数種類の農薬を準備するとともに早期防除により害虫の密度を下げて、すす病の発生を防ぎましょう。
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大曾根三緒
ビジネス、ペット、美術関連など多分野の雑誌で編集者として携わる。 全国の農業協同組合の月刊誌で企画から取材執筆、校正まで携わり、農業経営にかかわるあらゆる記事を扱かった経験から、農業分野に詳しい。2019年からWebライターとして活動。経済、農業、教育分野からDIY、子育て情報など、さまざまなジャンルの記事を毎月10本以上執筆中。編集者として対象読者の異なるジャンルの記事を扱った経験を活かし、硬軟取り混ぜさまざまなタイプの記事を書き分けるのが得意。