米の食味ランキングとは?品質向上を目指すポイントや各県の取り組み事例を紹介
米の食味ランキングは、米の品質ではなく、米の味を基準にした評価となっています。消費者にとって具体的で分かりやすいランキングのため、販路拡大に向けて積極的に活用したい基準です。今回は、食味ランクの向上を目指す方法や取り組み事例を紹介します。
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水稲農家にとっては客観的な米の品質判断も重要ですが、米の消費拡大につながる食味ランキングの動向は、ぜひとも今後の米作りに役立てたいところ。では実際にどのように活用すればよいのか、食味ランキングのしくみと、それを参考にした高品質な米作りについて解説します。
米の食味ランキングとは
shige hattori / PIXTA(ピクスタ)
「米の食味ランキング」とは、一般社団法人日本穀物検定協会が、昭和46年産米から公表して いる食味官能試験の結果を発表したものです。いわゆる米の等級評価とは基準が違うので、後ほど詳しくご説明します。まずはその概要を紹介しましょう。
評価基準・評価項目
食味に対する評価は、専門の食味評価エキスパート20名による「食味官能試験」として行われます。評価項目は「外観・香り・味・粘り・硬さ・総合評価」の6つで、炊飯した白飯を試食して評価を行います。
試験には基準米と試験対象米との比較という方法がとられます。まず複数産地のコシヒカリをブレンドして基準米に設定し、この基準米と試験対象米とで各評価項目について比較します。
その結果、基準米より特に良好な米を「特A」とし、以下良好な米は「A」、ほぼ同等の米は「A’」、やや劣る米は「B」、劣る米は「B’」として5段階評価されます。食味ランキングは、その年に収穫された米の美味しさランキングと考えることができるでしょう。
等級評価との違い
米の品質基準としては、「等級評価」もよく知られています。等級評価は農産物検査の一項目として行われ、収穫された一定量の玄米の中にある、整った形の米の割合(整粒歩合)や虫食い米の有無のほか、外観・粒の大きさ・透明感などを目視検査で調べます。つまり、「米の食味ランキング」は米の味、「等級評価」は米の見た目を評価する試験なのです。
検査結果から等級評価は「一等米」「二等米」「三等米」「規格外」の4つに格付けされます。この検査は客観的な基準による品質検査で、原則として、その年に収穫されたすべての米が評価を受けます。この検査を受けないと「未検査米」という扱いになり、ランクは大きく下がります。
食味ランキングと等級評価は、価値基準が大きく違いますが、どちらもよい米を選ぶ基準になるため、この2つの基準を組み合わせて米を選ぶケースもあります。
評価ランクの表示ルール
食味ランキングの評価を受けた米は、「不当景品類及び不当表示防止法」に違反しないように、適正な表示を行う義務があります。販売時には正しい表示を、精米袋や販売用の袋に表示することが必要です。
表示例としては「産地品種銘柄」と、「食味ランキング対象年」を正しく伝え、「商品そのものの評価ではありません」などの表示で、消費者が誤解しないように注意喚起しなければなりません。
令和元年度の食味ランキング結果概要
Rhetorica / PIXTA(ピクスタ)
第49回令和元年度の食味ランキングは、全国155産地品種を対象に、2019年11月から2020年2月までの期間に食味試験を行い、同年2月26日に発表されました。試験対象米には原則として、等級評価での最高順位である一等米が使用されています。
今年度の作柄は北海道・東北・北陸では平年以上でしたが、それ以外の地域では7~8月の低温と日照不足に加えて、台風による潮風害やウンカなどの病虫害があったため、作況指数(10アールあたりの平年収量を100とした時の収量)は平均99と「平年並み」でした。
今回最高ランクの「特A」と評価されたのは、過去最高だった前年度の55銘柄に次ぐ54銘柄でした。その中で「A」から「特A」にランクアップしたのが18銘柄、逆に「特A」から「A」にランクを下げたのは21銘柄と、ここ数年の傾向そのままに入れ替わりの激しいランキングになっています。
今回注目されるポイントは、「青森まっしぐら」「山形雪若丸」「福井いちほまれ」など7産地品種が、初めて「特A」を獲得したこと。また全体の155銘柄のうち「特A」となった54銘柄の割合が約34.8%と、やはり前年度の約35.7%に次いで過去2番目の高水準になったことです。なお「B」以下の評価は14年連続で出ていません。
特A評価を目指すための品質向上のポイント
よっちゃん必撮仕事人 / PIXTA(ピクスタ)
「特A」評価を得ることは、農家にとっては育てた米の商品価値を高めるとともに、銘柄米としてその産地の米のブランド化にも貢献します。米がおいしい産地として認知されれば、その分販路拡大もしやすくなります。
栽培する米の品質向上に取り組めば、食味ランキングで「特A」を目指すことは決して無理なことではありません。ではどのような点に注意して米を栽培すればよいのか、ポイントを確認しましょう。
玄米タンパク質の含有率を下げる
食味のよい米にするには、デンプン質を増やし、玄米タンパク質含有量を抑える必要があります。玄米タンパク質が多いと、炊飯時に吸水を妨げるため食味は低下します。
玄米中のタンパク質を抑えるためには、稲の生育中に過剰な窒素の供給を行わないことが重要です。またデンプン質を増やすには、登熟後半の生育を良好にして収穫直前まで玄米を肥育させ、粒厚をなるべく厚くすることがポイントです。米粒中のデンプン質が増えれば、相対的に玄米タンパク質は少なくなります。
土壌改善・土作りを積極的に行う
稲が健康的に生育するために必要なのは、水と肥料だけではありません。土壌中のミネラルなどの栄養分や微生物、そして有機物(腐植)の含有量も米の味を左右します。これらが不足していると、稲の生育に影響を及ぼす場合があります。
国内の水田はケイ酸不足の傾向があるため、土壌100g中に20~50mgを目安に補給する必要があります。ケイ酸が充分にあれば高温下でも光合成効率が低下せず、稲自体の強度が増して病虫害への耐性も向上し、結果的に米の品質向上に貢献します。
土壌中の有機物や栄養分を増やすためには、積極的に堆肥を投入することも必要です。ケイ酸と堆肥のような土壌改良材を効果的に活用して、食味向上につながる土作りを行うことが重要です。
ただし、施肥の方法については注意しましょう。施肥過剰は食味低下を招く玄米タンパク質を増やしてしまいます。逆に施肥不足でも高温障害を受けやすくなるので、葉色による穂肥診断などでバランスをとる必要があります。
品種に合った植え付け時期・収穫時期を見極める
現在、米の品種が多様化したこともあり、それぞれに適切な植え付けと収穫の時期が違う場合があります。特に高温障害に弱い品種は植え付け時期を遅らせ、登熟後半の低温を避けたい品種は植え付けを早めるなどの工夫が必要です。
同様に収穫時期が早すぎると玄米タンパク質が多くなりすぎ、遅すぎると米粒の胚乳部分に亀裂を生じる「胴割れ」が発生しやすくなるので、適切な収穫時期を見極めることも重要です。
極端な疎植栽培は避ける
低コスト化できる疎植栽培(株間を空けて栽植密度を下げる栽培法)では、米が小粒化して玄米タンパク質の含有量が高くなる場合があるので、極端な疎植栽培は避けるべきです。目安として1坪当たり37株以下、株間30cm以上にはならないように調整しましょう。
適切な水管理を行う
玄米タンパク質の含有量は、水管理の方法によっても変化します。過剰な籾をつけさせないための中干しや、登熟期の土壌を乾燥させすぎないための間断潅水、正しい落水時期の厳守、といったことが食味向上につながります。
米の品質向上を目指す取り組み事例
最後に農業新技術を導入して、米の品質向上と食味向上に取り組んでいる具体的な事例を紹介します。
三重県での取り組み
三重県津市ではドローンとマルチスペクトルカメラを導入して、経験に頼らないAI技術による生育診断を実施しています。光の波長(マルチスペクトル)を分析するカメラを使用することで、稲の生育変化を観察でき、生育不良個所の特定も可能になりました。
その結果、ほ場内に生育ムラがあり、その原因が秋~冬の土作りにあることを突き止めました。現在は高付加価値型の有機農法推進に向けて、作業のさらなる機械化や自動化を進めています。
出典:農林水産省東海農政局「スマート農業」所収「三重県 ドローンを活用したマルチスペクトル生育診断による米の品質向上」(農業新技術活用事例(令和元年度調査)
茨城県での取り組み
茨城県八千代町ではほ場管理システムを導入することで、収量や水分・タンパク質含有率を数値で確認できるようになりました。これによりほ場ごとに違う米の食味を判別でき、品質に自信を持って販売することが可能になりました。
さらに蓄積されたデータをもとに、土壌改良の効果を追跡確認できるため、ほ場ごとに施肥設計を見直すことで、収量増と食味向上を効率的に進められるようにもなりました。今後もシステムの普及を促進し、農業の大規模経営化をめざす方針です。
出典:農林水産省関東農政局「茨城県内における優良事例の紹介」所収「ほ場管理システムと食味・収量コンバインの導入による作業の効率化と水稲の収量・品質の向上」(茨城県八千代町)
米を愛する消費者にとっては、美味しさを客観的に評価してくれる食味ランキングは、非常に役に立つと同時に楽しみの1つでもあります。米作農家が今まで以上に積極的に食味の向上を目指すことが、米の消費量アップにもつながるのではないでしょうか。
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大澤秀城
福島県で農産物直売所を立ち上げ、店長として徹底的に品質にこだわった店づくりを行い、多くの優れた農家との交流を通じて、農業の奥深さを学ぶ。 人気店へと成長を遂げ始めたさなかに東日本大震災によって被災。泣く泣く直売所をあきらめ、故郷の茨城県で白菜農家に弟子入りし、畑仕事の厳しさを身をもって体験する。 現在は農業に関する知識と体験を活かしながら、ライターと塾講師という2足のわらじで日々歩みを進めている。