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水稲初期一発除草剤の効果を高めるには? 省力化を目指す防除体系と散布のコツ

水稲初期一発除草剤の効果を高めるには? 省力化を目指す防除体系と散布のコツ
出典 : 泉ちゃん / PIXTA(ピクスタ)

水稲栽培において雑草を効果的・効率的に防除するためには、水稲の生育段階ごとに、水田や雑草の状況に合わせて最適な農薬を選択することが重要です。そこで本記事では、水稲栽培において気を付けるべき代表的な雑草と、除草効果を上げる体系処理についてご紹介します。

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水稲除草剤には有効成分や剤型、使用時期などの違いによりさまざまな製品があります。今回は特に、使用時期による除草剤の分類に着目し、水稲初期一発除草剤など各時期に適した除草剤の特徴と、それぞれの効果を上げる防除体系について解説します。

水稲用除草剤の種類とは? 使用時期から見た除草剤の分類について

タイヌビエ(雑草ヒエ(ノビエ))

hiro / PIXTA(ピクスタ)

除草剤は、雑草の発芽を妨げたり枯らしたりする効果があり、広範囲を少ない労力で雑草を防除できる農薬です。一方、同じ植物である水稲が薬害を受けないよう、施用に当たっては農薬の特性や効果をよく知り、水田の水持ちや土質、発生する雑草の種類、地域性などに留意する必要があります。

水稲用除草剤には非常に多様な種類があり、使用時期により以下のように分類されます。なお、異なる時期の除草剤を組み合わせ、効果の持続期間が途切れないように防除することを「体系処理」といいます。

初期除草剤

主に初期のノビエを防除します。代かき後~田植え7日前まで、または田植え時~田植え後約5日(ノビエ1~1.5葉期)までに使用します。

発芽したばかりの雑草を出芽させない効果がありますが、すでに出芽し生長している雑草に対してはほとんど効果を期待できません。残効期間は10~25日程度です。

一発除草剤

多種類の雑草に効果があるうえ、残効期間も処理後30~50日と長い除草剤です。初期除草剤と中期除草剤2種類分の効果を一度に発揮するため、「一発除草剤」と呼ばれます。現在の水稲用除草剤における主流とされ、最もよく使われています。

このうち、初期除草剤とほぼ同時期の、田植え時~約7日後までに使用するものを「初期一発除草剤」、約14日後までに使用し持続期間がより長いものを「初中期一発除草剤」といいます。

雑草の少ない水田なら初期一発除草剤だけ、平均的な水田なら初中期一発除草剤だけで、その作の除草は済んでしまいます。

中期・後期除草剤

初期除草剤や一発除草剤と組み合わせて体系処理に使われる除草剤です。ノビエ3~5葉期までに使用するものを「中期除草剤」、それ以降、水稲の幼穂形成期までに使用するものを「後期除草剤」といいます。

雑草の発生が多く、一発除草剤を用いてなお初期の雑草の取りこぼしや、後発性の雑草の発生が見られる場合は、雑草の種類に適した中期・後期除草剤を選別し使用しましょう。

雑草別・除草に有効な成分と、代表的な除草剤

雑草にはさまざまな分類方法があり、分類を知ることで効果的に防除できます。生育期間による分類では、毎年新しい種子によって発芽し一年以内に枯れてしまう「一年生」と、一度種子から発芽すると秋冬に地上部が枯れても地下部は残り、数年の間同じところから生えてくる宿根性の「多年生」に大別できます。

また、植物の系統による分類では、「イネ科」「カヤツリグサ科」「広葉雑草」という3つに大きく分けられます。各系統に適する特有の除草剤があるので、どれに分類されるのかを正確に見極めましょう。

以下では、水稲における代表的な雑草の特徴と、有効な農薬の例を解説します。なお、ここで挙げる農薬はすべて、2021年5月現在、水稲に登録のあるものです。実際の使用に当たってはラベルをよく読み、使用方法や地域の決まりを守って正しく施用してください。

収量減を招く、一年生・イネ科の「ヒエ」類

水田で発生し始めたイヌビエ

水田で発生し始めたイヌビエ
写真提供:HP埼玉の農作物病害虫写真集

「ノビエ」は、タイヌビエ・イヌビエ・ヒメタイヌビエなどの総称で、水田の雑草として最も代表的なものです。水稲用除草剤のラベルなどでは、このノビエの葉齢が使用時期の目安とされています。

ノビエは水稲と競合しやすく、繁殖力も強いので、多発すると養分や光を取られて減収につながります。しかも、見た目が水稲とそっくりで見つけにくいため、早期に注意深く確認しておきましょう。

田植えと同時に発生すると被害が大きいため、早期の防除が重要です。多発した水田では、ノビエの種子が土壌中に多く含まれます。収穫後の秋の深耕で地中深く埋設させ、また春の代かきで除草剤の処理層をしっかり作ることで、除草剤の効果を安定させましょう。

移植・直播ともに初期に使える「テマカットフロアブル」や「ハーディ1キロ粒剤」、初中期一発除草剤の「イッテツフロアブル」などで早期防除し、残草や後期に発生した場合は「ワイドアタックSC」や「クリンチャーEW」などを散布するのがおすすめです。

水稲の生育に悪影響、一年生・広葉雑草の「コナギ」

水田内で繁茂したコナギ

水田内で繁茂したコナギ
写真提供:HP埼玉の農作物病害虫写真集

「コナギ」は水田に発生する強害雑草として知られる、代表的な一年生広葉雑草です。分げつ期に水稲と窒素を奪い合い、穂数減などの大きな被害をもたらします。種子は土壌中で10年以上も生存し、25~35℃の発芽適温で発芽します。

生育初期から農薬による防除が効果的ですが、SU抵抗性生物型(注)が増加しているため要注意です。「ブロモブチド」と「カフェンストロール」を組み合わせたり、「ハーディ1キロ粒剤」などSU抵抗性コナギにも強い農薬を施用したりして、早期に防除しましょう。

(注)SU抵抗性生物型:スルホニルウレア系除草剤(SU剤)が効かない形質を持った雑草の生物型

増殖力が強く防除が厄介、多年生・カヤツリグサ科の「クログワイ」

クログワイ 塊茎から針金状の茎が数多く立つ

クログワイ 塊茎から針金状の茎が数多く立つ
写真提供:HP埼玉の農作物病害虫写真集

「クログワイ」は地中深くまで地下茎を伸ばし、黒褐色球状の塊茎を形成し繁殖します。水稲の栽培期間中、長期にわたって塊茎から出芽するため、除草剤で防除しても次々に発生する厄介な雑草です。塊茎の寿命は5~7年といわれます。

大量繁殖すると水稲の収量が減少するため、発生したら田植え時~水稲生育後期まで防除する必要があります。栽培中は初期剤「テマカットフロアブル」、初中期一発除草剤「銀河ジャンボ」、中・後期除草剤「バサグラン液剤」などを適宜施用し、繁殖を防ぎましょう。

稲刈り後、根にも除草成分が浸透する「ラウンドアップマックスロード」「タッチダウンiQ」などの茎葉処理除草剤を施用したり、秋に15cm以上深耕したりすることで、翌春までに地中の塊茎数を大幅に減らせます。農薬と耕種的防除を組み合わせることが防除のポイントです。

小さくても侮れない、多年生・カヤツリグサ科の「イヌホタルイ」

水稲の間で繁茂するイヌホタルイ

水稲の間で繁茂するイヌホタルイ
写真提供:HP埼玉の農作物病害虫写真集

草丈は20~60cmほどと小さいものの、発生量が多く生育も旺盛な強害雑草です。水田ではほとんどが種子から発生しますが、越冬株から発生するものもあり、それらは種子発生よりも除草剤が効きにくい傾向にあります。土中での種子の寿命は10~20年と、非常に長く生存します。

多発すると、水稲と養分を取り合って収量が減少したり、カメムシ類の宿主となって斑点米被害の原因となったりします。

早期の除草剤による防除が重要ですが、SU抵抗性を持つものが増えており、初期除草剤だけでは十分な効果が得られないかもしれません。「バサグラン液剤」などのベンタゾン剤により、追加防除を行いましょう。耕起や代かきといった耕種的防除と組み合わせることも有効です。

より上手に使うには? 初期一発除草剤の効果を高める防除体系と、散布の注意点

近年の主流となっている初期一発除草剤を効果的に使うために、注意すべきポイントをご紹介します。

繁殖している雑草の種類によって複数回防除する「体系処理」が基本

初期一発除草剤は多種類の雑草の発芽を妨げ、初期除草剤よりも長い残効で防除します。とはいえ、雑草が多いと防除しきれないこともありますし、クログワイやオモダカなど除草剤の効果が切れてから発芽する雑草もあります。

そのため、散布から2ヵ月ほど経ち、初期一発除草剤の効果が切れる頃合いを見計らって、発生した雑草に適する中・後期除草剤を散布する体系処理が効果的です。

また、代かき直後すでに発生している雑草に対しては、初期一発除草剤の前に、田植え前から施用できる初期除草剤を併用することで、より長期的かつ効果的に防除できます。

農薬の効果を十分に発揮するために重要な「水管理」

水田の代かき

barman / PIXTA(ピクスタ)

水稲用の初期除草剤や初期一発除草剤は、茎葉処理剤と土壌処理剤の効果を併せ持つ「茎葉兼土壌処理剤」です。

散布後、田面の水に溶けた成分が、すでに発生した雑草に吸着しつつ、数日かけて土壌表面に落ち着き「処理層」を作ることが重要です。その後、処理層が少しずつ分解されて、除草効果がなくなっていきます。

十分な効果を発揮するには、除草剤の散布前後に次のような水田の水管理が必要です。

・代かきを十分に行い、田面を平らにならす
・散布時は水深を3〜5cmに保つ
・処理層ができるまで1週間ほど湛水を保ち、農薬の流出防止のために止水管理する
・散布後、効果が切れるまでの間は処理層の分解が早まるため、田面が露出しないように注意する

茎葉兼土壌処理剤のあとは1週間ほど湛水を保つ

Blue flash / PIXTA(ピクスタ)

除草剤成分が水稲に多く吸収されることにより発生する「薬害」に注意

初期一発除草剤に限らず、農薬登録されている水稲用の除草剤は、日本型の食用米品種で試験を繰り返し、安全性が確認されたものです。

しかし、浅植えで稲の根が露出していたり、砂壌土であったり、除草剤散布後に高温や強風にさらされたりするなどの条件下では、薬害が大きくなることがあります。

これを防ぐためには、「浅植えを避ける」「土壌の粘度を調整する」「散布前後の天候を確認する」など、薬害が出やすい条件を避ける工夫が必要です。

また、「農薬の説明をよく読み、使用量・回数・適期を守って施用すること」「過去に薬害が生じたほ場では、同一成分を含む除草剤を避けること」も大切です。

水稲の収量と品質を確保するためには、農薬による早期の除草が効果的です。

薬害を防ぐため使用時期に適した除草剤を正しく選択し、初期除草剤、中・後期除草剤と一発除草剤を組み合わせた体系処理で、効率的に防除しましょう。秋期の深耕などの耕種的防除も組み合わせると、より効果が高まります。

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大曾根三緒

大曾根三緒

ビジネス、ペット、美術関連など多分野の雑誌で編集者として携わる。 全国の農業協同組合の月刊誌で企画から取材執筆、校正まで携わり、農業経営にかかわるあらゆる記事を扱かった経験から、農業分野に詳しい。2019年からWebライターとして活動。経済、農業、教育分野からDIY、子育て情報など、さまざまなジャンルの記事を毎月10本以上執筆中。編集者として対象読者の異なるジャンルの記事を扱った経験を活かし、硬軟取り混ぜさまざまなタイプの記事を書き分けるのが得意。

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