クログワイの除草対策! 水田雑草を見分けて効果的に防除する方法
クログワイの防除には、除草剤による体系防除のほか、耕種的防除も高い効果が得られます。本記事では、クログワイと間違えやすい雑草の見分け方を画像付きで解説しつつ、除草剤による防除と耕種的防除を組み合わせた適切な防除体系構築のポイントについてまとめています。
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クログワイは、水稲栽培における難防除雑草として知られ、各地で問題になっています。地中の深いところに作られた塊茎から発生するため、発生時期がほかの多くの雑草よりも遅く、長期間続きます。多発すると水稲の生育を妨げるため、発生期間を通した体系的な防除が必要です。
水田雑草「クログワイ」の生態的特徴
クログワイ 生育期
写真提供:HP埼玉の農作物病害虫写真集
クログワイの茎の断面
写真提供:HP埼玉の農作物病害虫写真集
水田に発生する雑草「クログワイ」は、北海道を除く全国に分布するカヤツリグサ科ハリイ属の多年草で、特に関東以北に多く見られます。多発すると水稲の生育を抑制したり、倒伏を引き起こしたりして、減収につながるうえに、一度発生すると根絶は難しい難防除雑草です。
名前が示すように黒くクワイに似た塊茎を持ち、塊茎には複数の芽があります。土壌中にある塊茎は5~7年も発芽力を維持します。また、休眠性があり、年によって芽を出さない塊根もあります。
塊茎は地表面から20cmほどの深いところに作られ、30cmの深さにある塊茎からも出芽します。そのため、多くの雑草よりも発生時期が遅く、水稲移植後1ヵ月ほどで芽を出し始め、移植後80日前後まで、非常に長い期間にわたって発生し続けます。
クログワイ
写真提供:HP埼玉の農作物病害虫写真集
出芽後、針金状の茎が立ち、続いて多数の太い茎が出て株を作り、高さ40~70cmほどに生長します。円柱状の茎は中空で、2~4cmの間隔で隔膜があるのが特徴です。クログワイの葉は、薄い膜のような筒状の鞘となって茎を包みます。
太い茎が伸びる頃、塊茎から地下茎を伸ばし、その先に株を作って増殖します。夏には茎の先に、茎とほぼ同じ太さの円柱形の花穂を作ります。秋には地下茎の先に多数の塊茎を作り、次年の発生源となります。
クログワイの花穂
写真提供:HP埼玉の農作物病害虫写真集
【画像あり】 クログワイとイヌホタルイの見分け方
多くの除草剤は複数の雑草の同時防除ができますが、多発している雑草をより確実に防除するには、雑草の種類を的確に見分けたうえで、その雑草に効果の高い除草剤を使用したり、雑草の特性に合わせた耕種的防除を実践したりすることが重要です。
クログワイは、特に同じカヤツリグサ科のホタルイ属である「イヌホタルイ」との区別がつきにくいので、注意して見分けましょう。見分けるポイントは以下の4つです。
1.芽生えの状態
イヌホタルイは種子から発生するため、葉の先に種の殻が付いていることがあり、根の先には何も付いていません。クログワイは塊根から茎が伸びているので、茎元に球形の塊茎が付いています。この頃に的確に見分けられると、早期に確実な防除ができます。
2.茎の状態
クログワイの茎(上)とイヌホタルイ(下)の茎の断面
写真提供:HP埼玉の農作物病害虫写真集
ともに円柱状の茎をしていますが、クログワイのは中空で隔壁があるため、指でつぶすと、パチパチと内部の隔膜が破れる音がします。イヌホタルイの茎の内部はスポンジ状で、指で押すと固くしこりがあります。茎を縦に切って断面を見ても区別できます。
3.株の根元
クログワイ(左)の株元は赤く、イヌホタルイ(右)の株元と見分けられる
写真提供:HP埼玉の農作物病害虫写真集
クログワイは株元が赤いのが特徴で、イヌホタルイと区別できます。また、地際の鞘葉の状態も異なり、クログワイの鞘葉は膜質で縦縞模様ですが、イヌホタルイの鞘葉は硬質で先が尖っています。
4.茎の先
クログワイの茎の先には、茎と同じ太さで淡色の花穂が付きます。一方、イヌホタルイは葉の途中に花穂が付き、茎の先端は鋭く尖って縦筋が見られます。
クログワイに効く除草剤は? 体系処理の具体例
mofukun / PIXTA(ピクスタ)
クログワイの防除は一朝一夕にはできません。数年かけて根気よく密度を減らしていくことが重要です。以下では、クログワイの防除に効果の高い除草剤と防除体系について解説します。
クログワイ対策は、生育段階に応じた体系処理が重要
先述の通り、クログワイは地中深い塊茎から長期間にわたって次々と芽を出します。しかも、1つの塊茎が複数の芽を持ち、表面に出た芽が除草剤によって枯れても、残ったほかの芽から発生するので、1回の処理で確実に防除するのは困難です。
除草剤を用いた基本的な防除体系では、クログワイの発生前と、発生後してから草丈が15cmになるまでの2回、除草剤を使用すると、水稲生育後期まで防除の効果が継続します。
水稲栽培の作業でいえば、中干し頃までの防除が重要です。徹底防除するには、こうした体系を3年ほど続けることが有効です。
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ほかの雑草の防除も考慮すると、早期に水稲を移植するほ場では、移植からクログワイの発生まで1ヵ月ほど間が空くため、まず移植後初期に発生する雑草を初期剤で防除し、移植後25日頃のクログワイ発生前後に中期剤、さらに水稲の幼穂形成期までに後期剤を散布する、という3回の防除体系が有効です。
移植時期が遅く、移植からクログワイの発生までそれほど間がない場合は、クログワイ発生後、草丈10cm以下のうちに初中期一発剤を、その約1ヵ月後に中・後期剤を散布すると効果的です。
また、稲刈り後、非選択性茎葉処理剤で防除すると塊茎の形成を抑制し、翌年の発生密度を低減させることができます。クログワイの塊根は土壌中で長く生存し、発生し続けるため、数年間はこうした防除体系を根気よく継続することが不可欠です。
田舎の写真屋 / PIXTA(ピクスタ)
クログワイに効く除草剤と、時期別の使い分け方
クログワイには、スルホニルウレア剤(SU剤)などのALS(アセト乳酸合成酵素)阻害剤が高い効果を発揮します。
ただし、SU剤は1995年以降、アゼナ類やコナギ、イヌホタルイなど多くの雑草で抵抗性の獲得が報告されており、それらのSU抵抗性雑草の大発生が各地で問題になっています。
抵抗性獲得を防ぐには、同一のSU成分を含む除草剤の連用は避け、SU成分を含まない除草剤とのローテーション体系を組むことが大切です。
そこで以下では、クログワイの防除に有効な成分と、それが含まれる除草剤の例をまとめました。「*」の付いた成分や除草剤はSU系成分に該当するもの、またはそれを含む除草剤です。
※なお、ここで紹介する除草剤は2023年5月11日現在、クログワイに登録のあるものです。実際の使用に当たっては、使用時点での登録を確認し、ラベルをよく読んで用法・用量を守りましょう。
初期有効成分:ペントキサゾン、ピラクロニルなど
初期・中期有効成分:ベンフレセート、ピリミスルファン、プロピリスルフロン*、メタゾスルフロン*、ハロスルフロンメチル*など
後期有効成分:ベンタゾンなど
<初期剤>
テマカットフロアブル、草笛フロアブルなど
<初中期一発剤>
トップガンGT1キロ粒剤51、ビクトリーZ1キロ粒剤*など
<中期剤、後期剤>
ザーベックス粒剤、ツインスター1キロ粒剤*、バサグラン粒剤(ナトリウム塩)など
上記成分や除草剤は一例です。これらをもとに「初期剤+中期剤+後期剤」または「初中期一発処理剤+後期剤」など、水稲の生育状況やクログワイの発生時期に応じた組み合わせをして使用しましょう。数年連用することで効果が高まります。
田舎の写真屋 / PIXTA(ピクスタ)
▼SU抵抗性雑草について、詳しくはこちらの記事も参考にしてください。
クログワイの除草は、耕種的防除も合わせて行うとより効果的
クログワイは、地中深くにある塊茎から数年にわたって芽が出るため、除草には根気が必要です。除草剤の散布と併せて耕種的防除も行い、効率アップを図りましょう。
耕種的防除としては、乾田地帯での秋耕、また遅植や密植、中干し、田畑輪換などの実施が効果的です。
秋耕は、低温や乾燥に弱いクログワイの塊茎を掘り起こし、乾燥させたり凍結させたりして死滅させ、塊茎の密度を下げます。
深い位置にある塊茎を地表に露出させる必要があるため、ロータリ耕よりもプラウ耕が適しています。ただし、気温の高い地域では、効果が出ない場合もあります。
通常よりも大きく育った苗を移植する遅植や、移植の畝間や株間を狭めて密度を高める密植は、雑草の生育初期に光を遮断し、水稲との競合に雑草が負けることで、塊茎の形成量を減らす効果があります。
また、中干しや間断灌水は、水田を乾燥させて空気に触れさせることで、湛水状態を好むクログワイの発生を抑えることができます。
同様に、田畑輪換も水田を数年にわたって乾燥させることで、地中にあるクログワイの塊茎を減少させる効果が期待できます。ただし、畑土中でも塊茎は生き続けるので、3年は継続することが望ましいでしょう。
▼中干しや秋耕、田畑輪換については下記の記事をご覧ください。
クログワイは、土壌深くにある塊茎から数年にわたって発生するため、根絶が困難です。しかし、早期に発見し、適切な除草剤の散布や耕種的防除を組み合わせることで密度を下げ、被害を軽減することが可能です。
SU抵抗性雑草の発生にも気を付けながら、クログワイに効果の高い除草剤のローテーション体系を整えて、根気強く除草対策を続けましょう。
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大曾根三緒
ビジネス、ペット、美術関連など多分野の雑誌で編集者として携わる。 全国の農業協同組合の月刊誌で企画から取材執筆、校正まで携わり、農業経営にかかわるあらゆる記事を扱かった経験から、農業分野に詳しい。2019年からWebライターとして活動。経済、農業、教育分野からDIY、子育て情報など、さまざまなジャンルの記事を毎月10本以上執筆中。編集者として対象読者の異なるジャンルの記事を扱った経験を活かし、硬軟取り混ぜさまざまなタイプの記事を書き分けるのが得意。