特別栽培米とは? 農家のメリットと、生産・販売を始める方法

米の価格が下落傾向にある中、収益を上げる対策の1つとして、特別栽培米の生産という選択肢があります。この記事では、特別栽培米の定義やメリット・デメリット、そして、具体的な生産・販売方法、認証手続きの流れ、よくある疑問への回答も含めて、導入に必要な情報をまとめています。
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特別栽培米は、米に付加価値を付け、販売単価を上げる方法として有効です。導入に当たっては、国によるガイドラインを守って生産・販売する必要があるため、特別栽培米の特徴やメリット・デメリットをよく理解して、自身の農業経営に有益かどうかを見極めましょう。
「特別栽培米」とは?

shimi/PIXTA(ピクスタ)
特別栽培米の生産を始めるかどうかを検討できるように、特別栽培米の定義を正確に理解しましょう。基本的な定義と「無農薬」「減農薬」の違いを解説します。
特別栽培米の定義
特別栽培米は、コシヒカリ、つや姫、あきたこまちなどの銘柄には関係なく、栽培方法によって定義されます。
農林水産省が定める「特別栽培農産物に係る表示ガイドライン」では、以下のように定義されています。
「その農産物が生産された地域の慣行レベル(各地域の慣行的に行われている節減対象農薬及び化学肥料の使用状況)に比べて、節減対象農薬の使用回数が50%以下、化学肥料の窒素成分量が50%以下、で栽培された農産物です。」
出典:農林水産省「特別栽培農産物に係る表示ガイドライン」のページ「特別栽培農産物」の項
化学合成農薬や化学肥料の使用を制限することで、土壌の性質による農地の生産力を発揮することや、環境への負荷をできる限り低減することを原則としています。
出典:農林水産省「特別栽培農産物に係る表示ガイドライン(平成19年3月23日改正)」
上記ガイドラインで紹介した定義が、わかりやすくなるように補足します。
「慣行レベル」
その地域において慣行的に行われている栽培方法で、使用する農薬や肥料の使用状況のことです。地域によって基準が変わるので、ほ場を管轄する都道府県の農林事務所で確認しましょう。
「節減対象農薬」
化学合成農薬から「有機農産物のJAS規格で使用可能な農薬」を除いたものを指します。つまり、有機農産物で使用可能とされている農薬であれば、使用してもカウントする必要はありません。
上記の基準を満たして栽培された米で、地域ごとに定められた農林事務所や第三者の認証団体などによって認証されたものが、特別栽培米として流通可能です。この認証を受けずに特別栽培米と銘打つことはできません。
どこが認証を行うかは都道府県ごとに異なりますので、事前に確認しておきましょう。

出典:農林水産省「特別栽培農産物に係る表示ガイドラインパンフレット」よりminorasu編集部作成
無農薬・減農薬の違いと考え方
特別栽培米といっても、節減対象農薬の使用回数が50%以下、化学肥料の窒素成分量が50%以下で栽培されたものと、まったく使わなかったものが含まれます。そのため、消費者に伝わるように明記したほうがよいでしょう。
とはいえ、それらの米を「無農薬」「減農薬」と表記することはできません。消費者が持つ無農薬のイメージは、土壌や種子、周囲の農場からの飛散や流入も含めて、一切の残留農薬を含まないことだからです。つまり、無農薬と表記すると誤解が生まれ、正しい情報が伝わりにくいのです。
【有機米との違い】

有機JAS表示の魚沼産こしひかり
出典:株式会社PR TIMES (株式会社 DINOS CORPORATION ニュースリリース 2016年7月29日 )
特別栽培農産物とは別に、有機JASという規格制度があります。「堆肥による土作りを基本とし、は種または植つけ前2年以上の間、化学肥料や化学合成農薬を使用しないほ場で生産する」というものです。特別栽培よりも厳しい基準をクリアした米が「有機米」と表示できます。
以上のことから、農薬を使用しないで栽培した特別栽培米を「無農薬米」と表記してしまうと、「有機米」よりも基準が高いという誤解が生まれかねません。
一方、減農薬という表記についても、消費者にとっては「比較対象や削減割合、何をどう削減したのかがわかりにくい」という印象を受けるようです。
出典:農林水産省「有機農産物の日本農林規格」
【特別栽培農産物に係る表示ガイドライン】
こうしたさまざまな理由から、「無農薬」や「減農薬」は2007年の「特別栽培農産物に係る表示ガイドライン(以下、ガイドラインと略)」改正以降、表示禁止事項とされています。
2022年1月現在、特別栽培米の農薬使用量をわかりやすく示すために、栽培期間中はすべての農薬を使用していない農産物には「農薬:栽培期間中不使用」、節減対象農薬を使用していない農産物には「節減対象農薬:栽培期間中不使用」と表示します。
また、使用した農薬の割合は「節減対象農薬:当地比○割減」や「節減対象農薬:○○地域比○割減」という表示で明確にします。
米農家が特別栽培米の生産を始めるメリット・デメリット
次に、特別栽培米を生産・販売することによる具体的なメリットとデメリットを解説します。
最大のメリットは「消費者に選ばれやすくなる」こと

sasaki106 / PIXTA(ピクスタ)
特別栽培米の認証を受けて表示することで、農薬を適切・安全に使用していることを消費者にアピールでき、付加価値を付けられることは最大のメリットといえるでしょう。それにより販売単価のアップや販路拡大に活用できます。
なぜなら、食の安全性が重視されるようになった現代では、消費者の米を選ぶ基準が変化しているからです。具体的には、おいしい米であることだけでなく、栽培方法に注目して、米を選ぶ方が増えています。
また、特別栽培米の原則は、土壌の性質による生産力を発揮することや農業生産による環境負荷を低減することにあります。取り組むことで地力の向上や地域環境の保全といったメリットにつながります。特別栽培は団体で取り組むため、地域全体の環境改善も期待できます。

Fast&Slow / PIXTA(ピクスタ)
一方、生育不良や病害虫発生リスクの増加が懸念点に
特別栽培米はこれからの農業として理想的であるものの、懸念されるデメリットもあります。特に取り組みはじめの頃は、十分な地力がついていない状態で、農薬や化学肥料の使用量を急激に抑えてしまうと、生育不良や病害虫の発生リスクが高まります。
長く化成肥料に頼っていた農地の場合、地力が衰えている可能性があり、土壌の性質による生産性を発揮するには数年かかるでしょう。それまでは収量が落ちたり、耕種的防除をするための作業量が増えたりすることが想定されます。
以上のことから、特別栽培を導入する場合、農薬や化学肥料を無理して減らしすぎないことがポイントだといえます。土壌の質を改善し、耕種的防除と組み合わせながら、最も効果のある時期に適切に施用しましょう。
その結果として、農薬や化学肥料の使用量を必要最低限に抑えるという感覚で取り組むとよいでしょう。
また、認証を受けるためには、グループを作って確認責任者を置いたり、生産計画を作成したりといった手間がかかります。近隣の協力も重要となることから、地域をまとめる必要もあります。
特別栽培米の生産に取り組むかどうかは、増加する作業コストや労力、期待できる効果を検討したうえで決めましょう。

田舎の写真屋 / PIXTA(ピクスタ)
具体的にはどう始める? 特別栽培米を生産・販売する方法
特別栽培米の栽培を始める場合は、どのような手順で進めるのでしょうか。地域により若干の違いはありますが、多くの地域で共通する準備と実際の流れについて解説します。
※より詳しい情報は、地域の農林事務所に確認してみましょう。
まずは栽培責任者・確認責任者を決めよう

Carbondale / PIXTA(ピクスタ)
特別栽培米の栽培にあたっては、「栽培管理者」「確認責任者」を決めます。
「栽培管理者」
ガイドラインに基づく適切な生産・出荷が行われるよう管理します。農家自身が務めることもできますし、グループで生産する場合には生産・出荷組合やJAが担うこともできます。
「確認責任者」
栽培管理の方法を確認し記録を保管します。生産・出荷組合やJAの営農指導員、第三者の認証団体、特別栽培米専門の流通業者など、当該地域の農業に詳しく技術指導も可能な知識を持つ人が適任です。
「精米責任者」と「精米確認者」
さらに、特別栽培米の場合は、精米段階で不適切な米と混ざらないように「精米責任者」と「精米確認者」を置く必要があります。当該農家が生産から乾燥・調製、とう精まで一貫して行う場合には、栽培責任者が精米責任者を兼任します。
精米を委託する場合は、委託先の米穀販売業者やとう精業者が精米責任者となるのが一般的です。精米確認者としては、販売業者団体、生産者団体、第三者の認証団体が想定されます。

kazoka303030 - stock.adobe.com
「特別栽培米」認証手続きの流れ
「特別栽培米」認証手続きには、ポイントと流れがあります。
看板の設置
栽培責任者は、まず該当するほ場に、特別栽培農産物の栽培を行っていることを示す看板を設置します。
栽培計画書の提出
栽培開始後は栽培管理記録を作成し、確認責任者への提出が必要です。確認責任者がほ場を訪れた際には、ほ場の確認や聞き取り調査に協力しましょう。
認証申請
収穫後、都道府県の定められた機関に認証申請を行います。
出荷終了後の報告
認証が下りたら該当する米に適正な表示をし、認証マークを付けて出荷します。出荷終了後には、出荷記録と認証マーク貼付実績報告書などを都道府県の機関に提出しましょう。
記録の確認
確認責任者は、栽培責任者から受け取った栽培計画や栽培管理記録、出荷記録などを確認します。また、栽培開始後、1度はほ場に赴いて栽培管理が適切に行われているかを直接確認しましょう。さらに、提出された栽培管理記録や出荷記録の確認も行います。
万一、栽培計画、栽培管理記録、出荷記録などに不備があれば、改善指導も行いましょう。
特別栽培米の生産に補助金が出る自治体も
地域におけるブランド米の生産拡大や品質向上は、地域全体の利益や活性化につながります。そのため、市町村レベルで独自の補助金を交付している例もあります。
島根県川本町
島根県川本町では、特別栽培米「石見高原ハーブ米きぬむすめ」の買い取り価格を支援しています。(補助金交付の対象は、平成30年度産米から令和3年産米となっています)
出典:川本町「川本町特別栽培米生産拡大事業補助金交付要綱」
茨城県龍ケ崎市
茨城県龍ケ崎市では、市内小中学校の給食用として、龍ヶ崎産の特別栽培米を出荷した場合に補助金を交付しています。
出典:
龍ケ崎市「ふるさと龍ケ崎ブランド農産物認証制度」のページ内「特別栽培米コシヒカリ」
龍ケ崎市「龍ケ崎市学校給食用特別栽培米補助金交付要綱」
長野県木島平村
長野県木島平村では、市内で特別栽培米の生産を行う農家が、定められた条件を満たす場合に補助金を交付しています。
出典:
木島平村ホームぺージ「特産品>農産物>米」
木島平村「特別栽培米品質向上対策事業補助金交付要綱」

木島平村では、特別栽培米に取り組む生産者によって「木島平米ブランド研究会」が組織されている。その中でも、高品質でより高品質な米だけを厳選したものが「村長の太鼓判」として販売されている
出典:株式会社PR TIMES (合同会社シュタイン ニュースリリース 2021年5月18日)
こうした補助金が管轄の市町村にあれば、活用しましょう。
【Q&A】 特別栽培米の生産・表示に関するよくある疑問<
最後に、特別栽培米の生産と表示について、よくある疑問にお答えします。
認証を受けるに当たって、ほ場に求められる条件はある?
回答:特別栽培米を生産するためのほ場には、面積や立地などの条件はありません。
求められる条件として、以下の3点が重要です。
1)管理しやすいように、ほかのほ場と明瞭に区別されており、点在せずに一まとまりの区画であること
2)栽培責任者が栽培管理や指導をいつでもでき、確認責任者が現地での確認・調査などをいつでも行える場所にあること
3)ほかのほ場による農薬などの影響を受けにくい場所にあること

masy/PIXTA(ピクスタ)
特別栽培米の基準を満たす米同士をブレンドしたときの表示ルールは?
回答:ブレンドする米がまったく同じ栽培方法・栽培責任者・確認責任者で、品種のみ異なる場合であればブレンドが可能です。
ただし、特別栽培米の場合、細かい表示条件があります。ブレンドする米の農薬や化学肥料の使用状況などがそれぞれ異なる場合には、すべての米について表示することは困難です。また、米の栽培責任者が複数いる場合は、生産管理上の責任が不明確になります。
こうしたことから、基本的にブレンド米については特別栽培米の表示が抹消されます。
農家自身が精米まで行う場合の責任者の考え方は?
回答:先述のように、特別栽培米を栽培する農家が乾燥・調製、とう精まで一貫して行う場合には、栽培責任者が精米責任者も務めます。
このとき、農家はとう精登録が必要になるほか、栽培責任者としての報告に加えて、精米責任者としてとう精受払台帳・認証マーク貼付実績報告書などの提出も必要になります。

長兵衛 / PIXTA(ピクスタ)
玄米のまま販売するとき、精米確認者の取り扱いはどうなる?
回答:特別栽培米の表示には、精米を行う場合、精米確認者の氏名または名称、住所および連絡先を表示する必要があります。ただし、玄米として販売する場合、栽培における確認責任者による確認後、販売までに実質的な変更がないと判断すれば、精米確認者に関する表示は不要です。
また、精米を行わなくても、販売前に玄米に対して色彩選別、石抜き、小分けなどを行い、実質的な変更が生じる場合は要注意です。
精米責任者が作業を記録したり、精米確認者が確認したりする必要があります。この場合は精米したときと同様に、販売する玄米には精米確認者に関する表示が必要です。

color / PIXTA(ピクスタ)
特別栽培米は、本来は食の安全性を保証するものではありません。農薬や化学肥料を効率的に利用することで、使用回数や量を適切にし、本来あるべき土壌の性質を回復させたり、自然環境への負荷を低減したりするものです。
それは持続可能な農業の実現につながります。また、消費者にとっては安心・安全といったイメージアップになります。多くのメリットを得られる特別栽培米に、地域の農家や管轄の都道府県・市町村と協力しながら取り組んでみてはいかがでしょうか。
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大曾根三緒
ビジネス、ペット、美術関連など多分野の雑誌で編集者として携わる。 全国の農業協同組合の月刊誌で企画から取材執筆、校正まで携わり、農業経営にかかわるあらゆる記事を扱かった経験から、農業分野に詳しい。2019年からWebライターとして活動。経済、農業、教育分野からDIY、子育て情報など、さまざまなジャンルの記事を毎月10本以上執筆中。編集者として対象読者の異なるジャンルの記事を扱った経験を活かし、硬軟取り混ぜさまざまなタイプの記事を書き分けるのが得意。