ブランド米とは? なぜ人気? ブームの背景と、競争に打ち勝つ“これから”の戦略
消費者の米離れが問題となる一方で、近年はブランド米が人気を集めています。毎年、日本各地で新たなブランド米が開発・販売され、競争は激しくなる一方です。この記事では、加熱するブランド米ブームの背景と競争を勝ち抜くコツについて、詳しく説明しています。
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米農家にとって、安定的な収入確保や販路拡大は重要な課題です。ブランド米の開発は、その効果的な対策の1つといえるでしょう。これから新たなブランド米を開発し、市場で成果を上げるためにはどのようなポイントに注意すればよいのでしょうか。本記事では、その疑問に答えていきます。
米の消費が落ち込む今、注目を集める「ブランド米」とは?
まずは、ブランド米の定義やブームの現状についてまとめます。
銘柄米との違いは? ブランド米の定義
まりも / PIXTA(ピクスタ)
ブランド米とは、ブランド化された米を表す言葉であり、明確な基準や規定があるわけではありません。米の産地にはそれぞれ、農林水産省によって指定された産地品種銘柄、いわゆる銘柄米があり、それらの単一銘柄米をブランド化したものを一般的にブランド米と呼びます。
銘柄米の中でも食味が優れていたり、特別栽培などほかと差別化できる特長があったりして、付加価値のあるものがブランド米となり得ます。ブランド化はマーケティング戦略の1つであるため、通常は生産する側がブランド米と名乗ります。
たけちゃん / PIXTA(ピクスタ)
令和2(2020)年産米の醸造用・もち米を除く品種別作付け割合のベスト5には、「コシヒカリ(33.7%)」「ひとめぼれ(9.1%)」「ヒノヒカリ(8.3%)」「あきたこまち(6.8%)」「ななつぼし(3.4%)」と、関東などの大消費地でも人気の銘柄が並びます。
出典:公益社団法人 米穀安定供給確保支援機構「令和2年産 水稲の品種別作付動向について」
この5銘柄は、日本穀物検定協会が発表した2020年の「食味ランキング」の一覧をみると、いずれも多数の産地・地区でA’~特Aの高評価を得ています。このことから、「おいしいお米」であることは、ブランド米として比較的取り組みやすい条件であることがわかります。
出典:一般社団法人日本穀物検定協会「令和3年産米の食味ランキング試験『ランク別表』」
もちろん、食味ランキングに上がらなくてもブランド化は可能です。特別栽培や合鴨農法など特色ある栽培方法を売りにしてもよいし、里山の自然の美しさをアピールしたり、地域で栽培されるほかの農産物や産業と組み合わせてブランド化したりするのもよい方法でしょう。
むしろ、食味だけに頼ったブランド化はランキングから外れた時に苦戦を強いられることになるので、ブランド化に当たっては、地域独自のセールスポイントを確立することが重要です。
なぜ人気? 農家に“ブランド米ブーム”が到来している背景
日本各地でブランド米が続々と誕生し、ブームと呼ばれる状況になった背景には、社会的・経済的な状況の変化があります。今後、ブームの動向を予測してブランド化の戦略を立てるためにも、まずは背景を的確につかんでおきましょう。
コロナ前から続く、「米消費量・取引価格」の減少傾向
消費者の米離れによる米余りというのは近年に限った課題ではありません。
農林水産省がまとめた米の消費量の推移をみると、1人1年当たりの消費量は1962年の118.3kgをピークに一貫して減少しており、1990年には70.0kgまでに急降下しています。その後も緩やかに減少を続け、2020年には50.7kgとピーク時の半分を割っています。
※2020年は第1報の概算値
出典:農林水産省「食料需給表」よりminorasu編集部作成
消費量の減少に伴って、米の販売価格も、作況による高騰・下落はあるものの長期的に低下傾向で推移しています。
例えば、1990年には作況103(やや良)で玄米60kg当たり21,600円でしたが、2016年には同じ作況103で14,302円まで減少しています。
出典:農林水産省 「米をめぐる関係資料」所収の「最近の米をめぐる状況について(令和4年7月)」
さらに、2019年12月以降は新型コロナウイルス感染拡大の影響により外食需要も低下し、米余りの状況に拍車をかけています。国やJA、自治体などが米の消費量を上げるためにさまざまな対策をしているものの効果はほとんどなく、多くの農家が厳しい状況に追い込まれています。
▼米の価格動向についてはこちらの記事をご覧ください。
ブランド米は「農家の所得向上」を叶える期待の選択肢
農家にとって厳しい状況の中、2004年の食糧法改正により、米の価格を農家側が自由に決められるようになりました。付加価値のある米を生産すれば、努力次第で高く販売できるようになったのです。
このため、特に高い価格で米を売らないと採算が取れない小規模の産地や、これまでに人気の特産銘柄を持たなかった産地などが、所得向上を目的にブランド米の生産に力を入れるようになりました。
また、消費動向以外にも、2018年以降、米の生産調整(減反)が廃止されたことも大きく影響しています。これによって農家が自由な経営判断で作付けできるようになり、ブランド開発競争が大きく促進されました。
そこには、今後米の自由化が進むことから、日本の農家が海外産米との競争に負けない経営力を身につけられるようにとの国の思惑もあります。
▼減反政策についてはこちらの記事もご覧ください。
ブームの裏で、産地間の競争が激化
ブランド米のブームによって、全国各地で良食味の新ブランドが続々と開発・生産されています。令和4年産米の銘柄数は、水稲うるちもみ及び水稲うるち玄米だけで921もあります。前年から新たに31銘柄が設定されています。
出典::農林水産省 「農産物検査を行う産地品種銘柄の取扱い」
まさに群雄割拠ともいえる状況の中、これから競争力のあるブランド米を新たに研究開発して生産し、地域の活性化や農家の所得向上などを実現するのは簡単ではありません。
ほかの産地との差別化を図り、自分たちのブランド米のファンを獲得するためには、新たな視点による独自の工夫や戦略が不可欠です。
今後ブランド米で勝ち残るには? 生産者に求められる4つの“差別化”戦略
ほかのブランド米との差別化を図るためには、どのような戦略が有効でしょうか。具体的な4つの例を挙げて解説します。
1. 地域ぐるみで米のブランド化に取り組む
IYO / PIXTA(ピクスタ)
ブランド米作りの基本は「地域ぐるみ」です。農家が単独で行うよりも、地域ぐるみでその土地や気候に合った品種や栽培方法を選定しながら取り組む方が効率的です。
米は基本的に一期作であり、昨今の天候不順や自然災害に見舞われた場合、その年の収入がゼロ、あるいはマイナスになるような甚大な被害を受ける可能性があります。そのような場合にも、地域ぐるみであれば互いに助け合ったり補い合ったりして、生産量を確保できます。
また、地域のほかの産業を巻き込むことで、加工品や関連商品などを生産したり、共通のパッケージで商品の幅を広げたりと、より多角的なブランド戦略が可能になります。地域全体による取り組みが難しくても、周囲に呼びかけ、何人かの生産者グループを作るのもよいでしょう。
ただ、地域ぐるみで行う場合、販売するブランド米の品質にばらつきが出ないように、栽培マニュアルを作成したり、頻繁に情報交換したりして、できる限り均質な米を生産するような工夫が必要です。
▼地域ぐるみのブランド化についてはこちらの記事もご覧ください。
2. 健康への意識の高まりへフォーカスする
昨今では世界的に健康への意識が高まっていることから、健康志向に沿った付加価値をつけることで差別化を図るのもよい選択肢でしょう。
特別栽培や有機JASといった栽培方法や、ASIAGAP、JGAPの認証を得れば、それだけで健康や環境保全といったプラスのイメージを消費者にアピールできます。
そのほか、美容や健康に効果があるといわれる赤米や黒米、発芽玄米など、白米以外の米を選んだり、さまざまな病気や症状の予防・改善が期待できる成分や機能を持つ米などをブランド米としたりするのもよいでしょう。
3. 用途を絞った“特化米”としてマーケティングを行う
白熊 /PIXTA(ピクスタ)
差別化を図る工夫の1つとして、あえて用途を絞って特化米とする方法もあります。
例えば、飲食店向けに「カレーに合う」ということを売りにするためサラッとしてべたつかない品種を選んだり、冷めてもおいしい品種を選んで「おにぎり用」「お弁当用」として売り出したりするのもよいでしょう。
参考までに、2017年、2018年に一般社団法人おにぎり協会が主催した、おにぎりに合う米を選ぶ「おにぎり食味会」では、冷めてもおいしい「おにぎり用」「お弁当用」の米として「つや姫」「銀河のしずく」「ゆめぴりか」「にこまる」などの銘柄が入賞しています。
▼結果の詳細は、、「一般社団法人おにぎり協会」の以下のぺージをご覧ください。
「一般社団法人おにぎり協会、第2回「おにぎり食味会」を開催。2018年、おにぎりに合うお米を発表。」
「2017年、おにぎりに合うお米は「つや姫」など3銘柄」
一般社団法人おにぎり協会「おにぎり食味会」
出典:株式会社PR TIMES(一般社団法人おにぎり協会 ニュースリリース 2017年1月5日)
用途を絞ると、「なんにでも合う」「誰にでもおすすめ」とするよりも需要が減る印象があるかもしれません。その一方で、飽和状態にある市場に打って出る場合は、多くの類似品に埋もれてしまうおそれがあります。
突出した特徴を持たせて、特定の需要者の目に留まるほうが安定的な販路の確保につながる可能性があるのです。
4. 高級志向からあえて外れてみる
sasaki106 / PIXTA(ピクスタ)
ブランド米は、高級路線に限定したものではありません。あえて「安くておいしい」「気軽に買って毎日食べる」といったコンセプトのブランド米にしてもよいでしょう。
株式会社 日本政策金融公庫の消費者動向調査では、米を購入する際の判断基準は「価格」を重視すると答えた人の割合が最も多いとされています。特に若い世代ほど、味へのこだわりよりも価格を重視する傾向があります。
出典:株式会社 日本政策金融公庫「消費者動向調査(令和2年1月調査)」
低価格帯の「安くておいしい米」という方向性のブランドを確立すれば、特に米離れが進む若い世代への訴求力が高まる可能性があります。
また、安くて品質がよく、安定した収量が確保できるという特徴のブランド米であれば、業務用としても活用でき、今後、海外への輸出をする場合にも、大きな競争力を得ることになります。
販路を広げるためにも、海外進出を視野に入れたブランド化戦略は、今後、重要なポイントになるかもしれません。
sasaki106 / PIXTA(ピクスタ)
ブランド米の確立は、水稲農家にとって収益を上げる有効な戦略です。しかし、ブームを迎えてからすでに時が経ち、市場も成熟してきています。多くの競合品の中で消費者に選ばれるためには、工夫をして差別化を図らなければなりません。既存のブランド米の枠にとらわれない、柔軟な発想が求められます。
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大曾根三緒
ビジネス、ペット、美術関連など多分野の雑誌で編集者として携わる。 全国の農業協同組合の月刊誌で企画から取材執筆、校正まで携わり、農業経営にかかわるあらゆる記事を扱かった経験から、農業分野に詳しい。2019年からWebライターとして活動。経済、農業、教育分野からDIY、子育て情報など、さまざまなジャンルの記事を毎月10本以上執筆中。編集者として対象読者の異なるジャンルの記事を扱った経験を活かし、硬軟取り混ぜさまざまなタイプの記事を書き分けるのが得意。