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儲かる大豆農家になるには?平均年収と“所得向上”の具体策

儲かる大豆農家になるには?平均年収と“所得向上”の具体策
出典 : s.sakai / PIXTA(ピクスタ)

大豆はもともと安定した需要のある作物ですが、さらに近年は肉に代わる「大豆ミート」として注目されていることもあり、信頼性の高い国産大豆の需要は高まる一方です。単収は安定しにくいものの、国が大豆の増産を推進しており、助成やサポートも充実しています。

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大豆は、需要の高さにもかかわらず価格や収量の変化が激しく、大豆農家の収入は必ずしも安定していません。この記事では、大豆農家について、最新のデータをもとに経営の実態を解説するとともに、単収を上げて「儲かる大豆農家」になるための具体的な対策を紹介します。

大豆農家の平均的な収入はいくら? データで見る所得目安

収穫期を迎えた大豆

kinpouge/PIXTA(ピクスタ)

大豆栽培の年間所得は一概にはいえませんが、2022年度の所得の目安としては「10a当たり50,000円」とされています。

下のグラフは、農林水産省が公開している資料「経営所得安定対策等の概要」の中で紹介されている、「水田における大豆の所得」10a当たりのイメージの数値です。

水田における大豆の10a当たり収支イメージ

出典:農林水産省「経営所得安定対策」のページ所収のパンフレット「令和4年度 経営所得安定対策等の概要」20ページ「(参考)令和4年度の水田における麦、大豆、非主食用米等の所得(10a当たりのイメージ)」よりminorasu編集部作成

「水田における」という条件を付けているのは、水田活用をした場合には比較的高額の交付金が支給されるためで、ここでいう「大豆の所得」には交付金も含まれています。

この資料は、畑作と水田活用の両方で大豆を栽培している農家をモデルとしており、10a当たりの所得は、大豆の販売収入のみで24,000円、畑作・水田活用の交付金の合計で74,000円、諸経費は47,000円となっています。

このモデルケースでは、交付金は大豆の収入の倍以上を占めており、大豆作の所得だけでは10a当たり-23,000円と大幅な赤字になってしまいます。

これは、モデルがおかしいわけではありません。現に、2020年産大豆の栽培による収入のみに着目してみると、所得が経費を下回り赤字となっています。

農林水産省のデータをもとに、2020年産大豆における具体的な所得を試算したところ、すべての栽培規模階層を含む大豆作所得のみの全国平均は、10a当たり-38,204円です。

もちろん、これは計算上の収入であって、実際は規模や環境によって経費が変わります。大豆の品種や等級、販路によって販売価格も異なり、取引価格も年によって変動するので、あくまでも参考程度に捉えておきましょう。

大豆作の10a当たり所得試算例

出典:下記資料よりminorasu編集部作成
農林水産省
「作物統計 作況調査」内「豆類(乾燥子実)及びそば(乾燥子実)の収穫量 ア大豆」(令和3年産・令和2年産)
「農業経営統計調査 農産物生産費統計 大豆生産費(個別経営)」(令和3年産・令和2年産)
公益財団法人日本特産農産物協会「令和3年産大豆収穫後入札取引結果 総括表」「令和2年産大豆収穫後入札取引結果 総括表」

なお、上記の所得を算出した具体的な計算方法を、2020年産を例にとって説明します。

2020年産大豆の10a当たり平均収量は154kg、60kg当たり取引価格は11,295円となっています。つまり、1kg当たりの取引価格は188.25円となり、これに154kgをかけることで、10a当たりの収入が約28,991円であるとわかります。

次に費用を見ると、10a当たりの全算入生産費が67,195円とあるので、これを上記の10a当たり収入から引くと、-38,204円が所得となります。

このように、実際のデータをもとに計算しても、モデルケースと同様に赤字となることがわかります。もちろん、大豆作だけで十分な所得のある農家もありますが、すべての栽培規模で平均するとマイナスになってしまうというのが、大豆農家の現実です。

大豆農家の問題点は「助成金頼み」な一面にある?

モデルケースや試算の結果からもわかる通り、大豆栽培のみでは十分な収益を上げるのは難しく、所得を安定させるには国の助成金に頼らざるを得ない一面があります。

大豆農家の中でも高い収量を得られているのは、主に大規模農家です。規模が大きいほど作業効率化による効果も大きく、より費用を抑えられるため、それだけでも所得のアップにつながります。

とはいえ、そうした大規模農家であっても、助成金に頼らなければ安定した収入は得られません。その原因としては、大豆の収量は天候に左右されやすいことや、価格も世界的な相場の影響を受けて変動しやすいことなどが挙げられます。

大豆の収穫量と平均落札価格の推移

出典:以下資料よりminorasu編集部作成
公益財団法人日本特産農産物協会「令和2年産収穫後入札取引結果総括表」「過去年次の入札取引結果 1.収穫後大豆入札取引(令和元年産~平成12年産)」の各年の収穫後入札取引結果総括表
農林水産省「作物統計 作況調査」

これらの問題は、農家の努力だけでは解決できません。そこで、国や自治体は大豆生産を推進し、低い国内自給率を上げるために、さまざまな経営所得安定対策を実施しています。主な経営所得安定対策には、次の3つがあります。

1. 畑作物の直接支払交付金(ゲタ対策)
諸外国産大豆との生産条件のマイナスを補正するための交付金で、生産量と品質に応じて単価を設定する「数量払」と、作付面積に応じて10a当たり20,000円が先払いされる「面積払」が交付されます。認定農業者、集落営農、認定新規就農者が交付対象です。

2. 米・畑作物の収入減少影響緩和交付金(ナラシ対策)
農家と国が1:3の割合で拠出する積立金をもとにした交付金で、大豆を含む指定された作物の当年産収入額の合計が標準的収入額に満たなかった場合、差額の9割を補てんします。認定農業者、集落営農、認定新規就農者が交付対象です。

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3. 水田活用の直接支払交付金
水田を活用して、大豆など対象の戦略作物を生産する農家を支援する交付金です。大豆の交付単価は10a当たり35,000円で、規模が拡大するほど助成金も増えます。

※上記は、2022年9月時点の農林水産省「経営所得安定対策」のページ掲載の情報に基づいています。経営所得安定対策の交付要件や交付金算定などは、変更されることがあります。実際の申請に当たっては、必ず、農林水産省「経営所得安定対策」のページや、地方自治体の農政部署の情報を確認してください。

このほか、国が都道府県に配分する資金の中で、都道府県や地域農業再生協議会が独自に行っている助成もあります。地域によって助成内容が異なるので、管轄の都道府県に問い合わせてみましょう。

このような助成の充実は、裏を返せば、それだけ大豆本体の収入が不安定であることを意味します。前出のモデルケースでも大豆生産による収入は交付金の1/3程度であり、実際には、大豆による収入は全体の20%程度で、残り80%が各助成金ということもあるのが実態です。

機械化によるコスト削減が進んだ大豆栽培、高収益のカギは単収にあり

次はコスト面をみてみましょう。

大豆の10a当たり生産費の長期推移をみると、1990年から2010年頃まで、労働費の減少に伴って生産費が減っており、機械化によるコスト削減が進んだことがわかります。

しかし、2010年代以降は、労働費は下げ止まり、農機具費、肥料・農薬費など物財費の負担が増え、生産費の合計はやや上がっています。

大豆の10a当たり全算入生産費 長期推移

出典:農林水産省「農業経営統計調査 農産物生産費統計 大豆生産費(個別経営)」(長期累年・令和3年産)よりminorasu編集部作成

他方、直近15年の1戸当たりの作付面積と10a当たり収量の推移をみると、2020年代の後半から1戸当たりの作付面積が伸びていますが、10a当たり収量は上がっていません。

大豆の1戸当たり作付実面積と10a当たり収量の推移

出典:農林水産省「作物統計 作況調査」(長期累年・令和3年産)よりminorasu編集部作成

機械化による労働費の削減が一巡し、物財費が高騰する中で、大豆作でより高収益をめざすには、大規模化と同時に「単収の向上」が必要だといえるでしょう。

▼国産大豆を取り巻く状況を知りたい方は、こちらの記事をご覧ください。

めざせ単収アップ! “儲かる”大豆農家になるための具体策

大豆栽培の単収を向上させ、規模拡大を実現するための具体策について解説します。

「大豆300A技術」で湿害回避&省力化を実現

大豆300A技術とは、大豆の収量減において最大の原因となる湿害を回避し、品質を向上させ、さらに耕起・播種に関わる作業も大幅に省力化できる栽培技術のことです。単収10a当たり300kg、品質Aクラスをめざす技術として、「大豆300A技術」と名付けられました。

出典:農林水産省「大豆のホームページ」内「大豆300A技術」

水田転作畑の大豆 排水溝が切ってある

田舎の写真屋 / PIXTA(ピクスタ)

大豆は湿害に弱く、特に水田での栽培においては額縁明きょ・暗きょの設置など、排水対策の徹底が重要です。

しかし、排水対策を行っても、播種期が梅雨と重なるため播種が遅れたり、播種しても発芽不良となったりすることが多く、単収低下の主な要因になっています。

そのほかにも天候や環境などによる品質の低下を防ぎ、大豆の収量を上げるために、各地でさまざまな技術が開発されています。

各地の取り組みの例を挙げると、北陸地域で多く使われる「耕うん同時畝立て播種栽培技術」や、関東地域において麦との二毛作で多く導入される「不耕起狭畦密植栽培技術」、北海道地域で田植え作業との競合を避ける密植遅播きの「田植え後播種栽培技術」などがあります。

それぞれの地域に適した多様な耕うん播種技術が確立され、それに適した農機の開発も進んでいます。

大規模化と同時に単収の向上をめざすためには、地域で取り組んでいる技術について調べ、積極的に導入することも有効です。

▼「耕うん同時畝立て播種」「不耕起播種」「散播」「一発耕起播種」など、各種播種技術に適した播種機を探している場合は、こちらをご覧ください。

▼不耕起狭畦密植栽培についてはこちらの記事をご覧ください。

中耕除草機の導入など、機械化を推進し大規模化を後押し

大豆の栽培においては、耕うんや播種の作業を機械化することで、大幅な効率化や収量・品質の向上が期待できるため、「大豆300A技術」も耕うん・播種に関する技術が中心となっています。

また、収穫・調整作業についても、コンバインの改良により効率や精度が飛躍的に向上しました。

大規模化することで、これ以外の施肥や防除などの作業についても機械化を進め、作業効率を向上できれば収量アップの実現につながります。

大豆作の直接労働時間 作業別内訳

出典:「農業経営統計調査 農産物生産費統計 大豆生産費(個別経営)」(令和2年産)よりminorasu編集部作成

特に、大豆栽培において重要とされる中耕除草は、直接労働時間のほぼ1/3を占めるほど多大な労力・時間を要しており、中耕除草作業の省力化が、さらなる生産性の向上につながるといえます。

中耕培土作業を効率的に行うための栽培技術や農機も多く開発されています。規模拡大にあわせて、それらの技術や農機の導入も計画的に検討してみましょう。

▼大豆の中耕培土のポイントについて知りたい方や、ほ場に適した中耕除草機を探している方、最新の中耕除草機情報を知りたい場合は、こちらをご覧ください。

労働時間の短さを生かした「複合経営」に取り組む

前述した通り、2020年産大豆の10a当たりの労働時間は約6時間と、比較的少ないことがわかります。これは、1経営体当たりの平均作付面積が4ha以上で、大規模化による機械化・省力化が進んでいるがゆえの数字であり、小規模ほ場での労働負担は軽くありません。

また、先の項目でも触れた通り、一般的に多くの作物で作業負担が大きいとされる耕起や播種、収穫の作業が、大豆栽培では機械化により大幅に軽減されています。

こうした特徴から、大豆栽培は水稲やほかの畑作物、野菜類などとの複合経営に向いています。

実際に、営農類型別経営統計で平成30年度まで提供されていた大豆作農家の作物収入の内訳をみると、大豆による収入は全国平均で2割程度です。

大豆作農家の作物収入内訳(2019年・全国平均)

金額構成比
作物収入 合計286.6万円100.00%
うち大豆56.9万円19.90%
うち稲作158.5万円55.30%
その他71.2万円24.80%
(作付け面積)
水田作作付延べ面積4.4 ha
うち大豆の作付面積2.0 ha

出典:農林水産省「平成30年度営農類型別経営統計 大豆作」よりminorasu編集部作成

複合経営の例としては、大豆に加えて「水稲+麦+そば」などのブロックローテーションが一般的です。さらに、長野県安曇野市の有限会社細田農産のように、農業用水を活用してアスパラガスなどを作付けている例もあります。

出典:農林水産省資料「農村振興|優良経営体事例データ|令和2年度調査」所収「米の直売を契機に法人化、規模拡大とアスパラガス栽培で経営安定を実現~(有)細田農産(長野県安曇野市)」

水稲と大豆の複合経営

ふるさと探訪倶楽部/PIXTA(ピクスタ)

大豆栽培は、大豆生産による所得こそ低いものの、国や自治体による助成や支援が手厚く、収入の不足分を十分に補う制度が整っています。

そのため、経営が安定するまで、大規模化や複合経営などさまざまな試行錯誤を重ねることが可能で、経営の自由度が非常に高い作物といえます。価格は不安定であるものの、今後も高い需要が続くことが見込まれるため、積極的に作付けを検討しましょう。

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大曾根三緒

大曾根三緒

ビジネス、ペット、美術関連など多分野の雑誌で編集者として携わる。 全国の農業協同組合の月刊誌で企画から取材執筆、校正まで携わり、農業経営にかかわるあらゆる記事を扱かった経験から、農業分野に詳しい。2019年からWebライターとして活動。経済、農業、教育分野からDIY、子育て情報など、さまざまなジャンルの記事を毎月10本以上執筆中。編集者として対象読者の異なるジャンルの記事を扱った経験を活かし、硬軟取り混ぜさまざまなタイプの記事を書き分けるのが得意。

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