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粉剤・粒剤・水和剤などの散布方法は? 水田防除の基礎知識

粉剤・粒剤・水和剤などの散布方法は? 水田防除の基礎知識
出典 : トモヤ、ポパイ・SA555ND / PIXTA(ピクスタ)

水稲栽培で品質・収量を安定的に確保するには、水稲の生育を妨げる雑草や病害虫の適切な防除が重要です。防除で使う農薬には、粉剤や粒剤、液剤などの剤型があります。今回は、水田での効果的・効率的な防除のために、剤型に適した散布方法をご紹介します。

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水稲栽培に使用する農薬には、畑作物とは異なり、湛水という環境を活用して効果を発揮する剤型があります。粉剤、粒剤、液剤、水和剤、フロアブルなどの剤型の違いを理解し、ほ場環境に適した農薬・散布方法を選択しましょう。

▼本記事では、水田で使用する農薬の剤型や散布方法を紹介します。病害虫の防除暦、除草剤の選び方・使い方、畦畔の除草については以下の記事をご覧ください。

【水田防除】 農薬の主な種類

健やかに生育する水稲

Blue flash / PIXTA(ピクスタ)

農薬には、有効成分が効果を発揮しやすくするために、さまざまな剤型が開発されています。その中でも、水稲に使用する農薬は、水田の特徴を活かす剤型に製剤されています。

農薬の防除効果を最大限に活かしながら、周囲へのドリフトや周辺水系への成分流出を防ぐには、剤型の特徴を踏まえて適切に散布する必要があります。

水田に使う農薬の剤型を一部紹介します。

<粉剤・DL粉剤>
農薬原体を吸着させたクレーなどの鉱物質を粒径45μm以下の微粉にしたものです。粉剤の中でも平均粒径が大きく、凝集剤を添加したものを「DL粉剤」といいます。DLは「DRIFT LESS」の略で、ドリフト(飛散)が少ないことを表します。

<粒剤>
クレーやタルクなどの鉱物質に、農薬原体を練り込んだり吸着させたりして300~1,700μmの粒状にしたものです。さらに粒を大きくした錠剤やペレット状になったものもあります。

<ジャンボ剤>
粒剤の1種です。タブレット状の錠剤や、粒剤・粉末などを水溶性フィルムで包んだパック剤があります。

<粉粒剤>
粒剤や粉剤と同様に農薬原体を鉱物質で増量した剤の内、微粉、粗粉、微粒、細粒など、粒径の異なる粉や粒を組み合わせたものです。粒径の大きさにより「微粒剤」「微粒剤F」「細粒剤F」に分けられます。

<水和剤>
水に溶けにくい有効成分の微粒子に、クレーなどの鉱物質の増量剤や界面活性剤などを加え、水に馴染みやすくした粉末状の製剤です。

<フロアブル>
農薬原体に分散剤や界面活性剤を加えて水に分散させた液体状の製剤です。原液で使うタイプと希釈するタイプがあります。※登録上は水和剤に含まれます

<乳剤>
農薬原体を有機溶媒に溶かし、乳化剤を加えて安定させた液体状(油状)の製剤です。

粉剤・DL粉剤の散布方法

動力散布機による農薬散布

トモヤ/ PIXTA(ピクスタ)

粉剤・DL粉剤は、殺虫剤や殺菌剤に多く、水稲の病害虫防除に使用されます。粒の細かい粉剤は、有効成分が直接病害や害虫に付着して高い効果を発揮します。

水稲栽培での農薬散布は、背負式動力散布機に多口噴頭や散布ホースを取り付けて、畦から散布するのが一般的です。散布ホースを使う場合は、散布者ともう一人がホースの反対側を持ち、ホースに水田の上を這わせるようにしながら移動します。

粉剤は効果が高いものの、粉立ちが激しく、周囲へのドリフトや散布する作業者への負担が大きいことが難点です。現在は、粉立ちの少ないDL粉剤が主流となっています。

それでも、ほかの剤型に比べて飛散しやすいため、周囲への影響が懸念されます。風の強さや向きには十分に注意し、散布日には周囲の農家や住民にあらかじめ伝えるなど、被害を最小限に抑える対策が必要です。

粒剤の散布方法

粒剤には、殺虫剤や殺菌剤、除草剤があり、水稲栽培の「育苗箱処理」と「本田処理」に使われます。病害虫防除の場合、粒剤の有効成分が田面水に溶け出し、その有効成分を稲体が吸収することで効果を発揮します。

粒剤は粉立ちがないため、ドリフトの軽減に対して有効とされています。

本田処理の粒剤には、10a当たりの散布量が3~4kgの「3キロ粒剤」や1kgの「1キロ粒剤」もあります。特に1キロ粒剤は拡散範囲が広く、1ケース当たりの重量が軽くなって運搬しやすい点でも優れています。

なお、現在は「500グラム粒剤」や「250グラム粒剤」も登場しています。

以下、粒剤の主な散布方法を、「育苗箱処理」と「本田処理」に分けて解説します。

育苗箱処理

育苗箱粒剤の施用

育苗箱粒剤の施用
写真提供:HP埼玉の農作物病害虫写真集

育苗箱用の粒剤は浸透移行性と残効性に優れ、移植後も長期にわたって病害虫を防除できます。育苗箱での防除処理は、省力的かつ効果が安定することから普及が進んでいます。

育苗箱処理は播種と同時か、田植え数日前または田植え当日に行います。箱ごとに、基準量の農薬が株元にムラなく落ちるよう処理します。

田植え前に育苗ハウスで処理する場合は、農薬がハウスの土壌にこぼれて浸透しないよう、ビニールシートを敷くなどの対策が必要です。

田植えと同時に処理する場合は、専用の田植同時散布機を使います。除草剤の効果ムラを防ぐため、田植え前に代かきで田面を均平にします。また、薬害のリスクを減らすため、浅植えは避けます。そして田植え後は、7日以上湛水状態を保ちます。

なお、田植え同時処理ができる農薬は限られています。使用時期は「移植時」、使用方法は「田植同時散布機で施用」と記載があるか確認してください。

播種同時処理は、以前は水稲の根張りが悪くなるなどの薬害が懸念され、使用できる農薬は限られていました。現在では製剤を工夫し、播種同時処理に登録のある粒剤が増えています。

播種同時処理は、田植え時期の処理と比べて省力的で均一に散布しやすいというメリットがあります。

本田処理

minorasu(ミノラス)の画像

ポパイ / PIXTA(ピクスタ)

本田に粒剤を散布する方法は、主に次の3つがあります。なお、ジャンボ剤については別の項で解説します。

動力散布機での散布

粒剤の一般的な散布方法は、粉剤と同様に動力散布機を背負い、散布ホースに田面を這わせるようにして移動しながら散布する方法です。短時間で作業ができますが、動力散布機を背負いながら徒歩で移動する必要があり、作業負荷は大きくなります。

畦畔噴頭で畦畔から散布する方法もあります。散布の場所と量を細かく調整できますが、作業負荷はやはり大きくなります。また、粒剤や散布機により散布距離が変わるため、事前に飛距離を確認してください。

散布ホースや畦畔噴頭では届かない大規模な水田では、田植機や乗用管理機を活用した散布がおすすめです。

田植同時散布機での散布

近年は、田植機に散布機を装着して、田植えと同時に農薬散布(田植同時処理)を行えるようになりました。

田植同時処理では、主に除草剤を散布します。除草剤は、田植機で苗を移植した直後に散布されます。

田植同時処理は、田植えと防除作業を一度に行えるため、特に大規模水田にでおいてはかなりの省力化につながります。

散布機で施用できる適切な粒剤を用いるなど、散布機や農薬の使用方法を守ることが大切です。また、除草剤の場合は、時間が経ってから雑草が発生する場合があるため、残効の長い農薬を選択することも重要です。

乗用管理機での散布

乗用管理機では、水田内で条間を走行しながら粒剤を均一に散布できます。管理機の中には、作業速度と連動して高精度散布が可能な機種があります。

乗用管理機による散布の利点は、動力散布機での散布と比べて省力的で、また、少人数での作業が可能な点です。

ただし、散布ホースが届く広さの水田であれば、動力散布機を使ったほうが短い時間で済むため、水田の規模に応じて散布方法を選ぶことがポイントです。

ジャンボ剤の散布方法

ジャンボ剤とは、水田除草剤の投げ込み剤の総称です。

畦から湛水した水田に投げ込むと、袋が水に溶け、中の粒剤や錠剤が水面を移動して、数日かけて水田全面に拡散します。その後、有効成分が沈殿することで、土壌表面に処理層を作ります。

ジャンボ剤は、水田に投げ入れるだけで効果を発揮するため、防除の時間や労力を大幅に軽減できます。また、ドリフトの心配が少ないことも大きなメリットです。

ジャンボ剤の効果を十分に発揮させるために、次のポイントに留意しましょう。

  • 農薬が水面を拡散しやすくするため、ゴミや藻などの水面浮遊物が少ない状態にする
  • 田面が露出している部分は農薬が届かないので、代かきを丁寧に行い土壌を均平にする
  • 上記と同じ理由から、田面を露出させないよう、散布後7日間は湛水状態にする。特に散布時は深水にする
  • 水田から水が漏れると農薬が流出するため、事前に畦のひび割れや壊崩を確認する

水和剤・フロアブル剤・乳剤などの散布方法

乗用管理機による水稲への農薬散布

hamahiro / PIXTA(ピクスタ)

液体を散布するタイプの農薬には、水で希釈するものと、原液をそのまま散布するものがあります。

以下では、希釈する場合と原液で使用する場合に分けて散布方法を解説します。

水で希釈する農薬の場合

水で希釈するタイプの農薬は、主に殺虫剤や殺菌剤が該当します。少量の原液で大量の散布液ができるので経済的です。

散布の際は、登録状況やラベルをよく確認し、規定通りの倍率に希釈して散布液を作ります。散布液の作り置きはせず、余らないように使い切ります。

また、展着剤の添加が必要な製剤や、かく拌方法や混用についての注意事項は必ず守りましょう。

散布には、背負式動力噴霧機や電動式ポータブルスプレーヤ、乗用管理機などを使用します。ほ場の広さや周囲の環境に適した散布機を選びましょう。

散布機やほ場環境により、ドリフトのリスクが高まります。ドリフトを抑える必要がある場合は、噴霧液の水滴を大きくできる「霧無しノズル」などを活用するとよいでしょう。

原液を散布する農薬の場合

フロアブルタイプの除草剤には、原液を散布するものがあります。この場合、使用する前にボトルをよく振って混和し、湛水状態の水田に滴下します。

一般的に畦から手で振り入れたり、水入れの際に水口から流して拡散させますが、ラジコンボートを使って滴下散布する方法もあります。また、フロアブル剤によっては、薬剤滴下装置を搭載した田植機で田植同時散布ができます。

原液での散布は、作業負荷が比較的小さいことが利点です。

ヘリ・ドローンでの農薬散布方法

近年は、粉剤・粒剤・フロアブル剤など農薬の種類を問わず、ヘリコプターやドローンによる空中散布も行われています。そこで最後に、無人ヘリやドローンによる空中散布の方法や注意点についてまとめます。

無人ヘリ散布

ラジコンヘリによる農薬散布

田舎の写真屋 / PIXTA(ピクスタ)

機体総重量150kg以内のヘリコプターをリモコンで操縦して散布します。1haをわずか6分ほどで散布できるため、作業効率に優れています。

ローターの風圧を使って農薬を吹き付けるため、水稲の根元まで農薬が届き、高い効果が得られます。

ただし、エンジン音が大きく騒音となることや、電線などの障害物や散布不可地域に入らないように注意する必要があり、使用環境は限られます。

作業に当たっては、オペレーターのほか、農薬を補充したり、ほ場の端に立って合図を送るための人員を含め、最低4人は必要です。また、航空法やガイドラインは遵守しましょう。

導入コストが高いので、共同で購入して利用するなどの選択肢もあります。

無人ヘリやドローンでの散布に使用できる農薬は決められています。農林水産省のサイトで必ず事前に確認しましょう。

農林水産省「ドローンで使用可能な農薬」
※ドローンに適した農薬の検索方法を確認できます

農林水産省「農業用ドローンの普及計画」におけるドローンで使用可能な農薬の適用拡大に関する取組」
※新規登録されたドローンに適した農薬を確認できます

また、航空安全に関するルールは以下のサイトで確認できます。

農林水産省「無人航空機による農薬等の空中散布に関する情報」

ドローン散布

ドローンは無人ヘリよりも小型で、機体総重量は25kg以内です。基本的にプロポーショナルコントローラー(プロポ)を使って操縦しますが、GPSやAIを搭載して自動運転できるものもあります。

1haを15分ほどで散布でき、作業効率は無人ヘリの1/3程度です。ローターの風圧は無人ヘリに及ばないものの、散布試験では株の根元まで農薬が付着することが確認されています。

無人ヘリに比べると音は静かです。作業に必要な人員は3人ほどでよく、狭いほ場や住宅近隣、電線など障害物のあるほ場でも使えます。

価格も無人ヘリより安く、小規模な個人経営農家でも導入しやすい点もメリットです。

実際の作業に当たっては、無人ヘリ同様に航空法を順守し、農水省のガイドラインに沿って使用することが重要です。

ドローンによる水稲への農薬散布

SA555ND / PIXTA(ピクスタ)

水稲栽培での雑草・病害虫防除では、水田の特徴に適した剤型の農薬が使われます。省力的・効率的に防除するためには、それぞれの剤型の特徴を十分に理解し、適期に適切な方法で散布することが重要です。

また、ドリフトや周辺水域への影響を最小限に抑える工夫や、散布前の周囲への周知など、薬害を回避するための対策も不可欠です。

防除効果だけでなく、ほ場の状況や周囲の環境も考慮して農薬・散布方法を選び、水稲の品質・収量の向上をめざしましょう。

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大曾根三緒

大曾根三緒

ビジネス、ペット、美術関連など多分野の雑誌で編集者として携わる。 全国の農業協同組合の月刊誌で企画から取材執筆、校正まで携わり、農業経営にかかわるあらゆる記事を扱かった経験から、農業分野に詳しい。2019年からWebライターとして活動。経済、農業、教育分野からDIY、子育て情報など、さまざまなジャンルの記事を毎月10本以上執筆中。編集者として対象読者の異なるジャンルの記事を扱った経験を活かし、硬軟取り混ぜさまざまなタイプの記事を書き分けるのが得意。

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