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「農業経営統計調査」とは? 調査でわかる農家の実態と、データの活用方法

「農業経営統計調査」とは? 調査でわかる農家の実態と、データの活用方法
出典 : Sozyer / PIXTA(ピクスタ)

農業経営統計調査は毎年更新され、さまざまな農家の最新の経営実態がよくわかる貴重な資料です。しかし、あまり現場で活用されていないのが現状です。農業経営統計調査の内容を把握し、農家にとって有用なデータを日々の農業経営に活用しましょう。

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農林水産省が実施している農業経営統計調査は、サイトなどで一般にも公開されています。しかし、「政策のために作られた統計を、自分の農業現場でどう活用できるのかわからない」という人も多いのではないでしょうか。そこで、統計内容やその活かし方についてわかりやすく解説します。

戦略的な農業経営のために使える「農業経営統計調査」とは?

まずは、農業経営統計調査とはどのようなものか、その調査の概要と調査方法、調査対象や調査内容について確認しましょう。

農家の経営実態がデータでわかる、農林水産省の調査

農林水産省

kpw / PIXTA(ピクスタ)

農業経営統計調査は農林水産省が行う調査の1つです。農家の経営と農畜産物の生産費について、それらの実態を調べます。その調査結果は、農業行政などを立案する際の基礎資料とされます。

その歴史は古く、1913年に「農家経済調査」として行われたのが始まりです。1994年には「米生産費統計調査」、「米以外の農畜産物および繭の生産費調査」と統合され、「農業経営統計調査」となりました。

農業経営統計調査の詳しい調査内容は後述しますが、基本的には調査対象の農家(農業経営者世帯)に「現金出納帳」「作業日誌」「経営台帳」の3点について詳しいアンケートを実施することで、農業現場で働く農家の実態を明らかにする調査です。

そこから得られた結果は、農業政策を行う際や食品の行政価格を算定する際の基礎資料として分析・検証されます。

農業経営統計調査の調査体系の中には、「営農類型別経営統計」「農産物生産費統計」「農業物価統計調査」「生産農業所得統計」など、多様な統計が含まれます。

いずれも調査結果は行政が利用するだけでなく、誰でも利用できるようにサイトなどで公開されているので、ぜひ一度チェックしてみてください。

農林水産省「農業経営統計調査」

※minorasuにも、農業経営統計調査を参照した記事があります。例えば、「メガファーム化によって生産性がどの程度上がるのか」という検証のために活用したり、「田んぼの年間作業の中でどのようにコスト削減できるか」を考える際に参照したりしています。

調査期間・調査方法

農業経営統計調査は基本的に毎年1月1日~12月31日の1年間について対象の農業者の記録を取ります。同じ系統のほかの調査もほとんどが同じ時期に行います。

ただし、農産物生産費統計の場合、調査対象品目によって調査時期も変動することがあります。例えば「4月~翌年3月(さとうきび)、9月~翌年8月31日(小麦、二条大麦などの麦類やなたね)」などです。

調査は農林水産省が主体となり地方農政局等、統計・情報センター、報告者という実施系統を経て行われます。

調査方法は2つあり、1つは、農林水産省職員が口頭で質問し、調査対象者が口頭で回答したものを聞き取って回答紙に記入する「他計申告式」で、もう1つは「自計申告方式」です。

これは調査対象者の同意を得てから、職員が調査用紙を対象者へ配布し、本人に記入・郵送してもらう、という方法です。

調査の対象と主な調査内容

調査を受ける対象は「農業経営体」とされていますが、すべての農家が対象とされるわけではありません。

対象は農業経営統計調査規則の第3条2項で定義されていて、要約すると「経営耕地面積が30a以上であること、または、農作物の作付面積などの規模が外形基準以上であることのどちらかに該当する農業者で、農産物の販売を目的とする経営体」ということになります。

調査する内容についても、農業経営統計調査規則第6条で定義されています。

具体的には、農業経営体従事者の性別と年齢、農業や農業生産関連事業に関わる労働時間、経営耕地面積、資産と負債、農産物の種類別生産量や処分の内訳、収入と支出、農産物生産のために費やした資材の使用量と価額などについて、より細かい項目に分かれています。

具体的な活用方法は? 農業経営統計調査の一覧と、その結果からわかること

統計資料の活用

years /PIXTA(ピクスタ)

上記のような調査から、どのようなことがわかり、何に活用できるのでしょうか。農業経営統計調査の一覧に沿って、各調査の概要や活用方法について解説します。

農家の収支や労働時間が営農類型別にわかる「営農類型別経営統計」

営農類型別経営統計は、農業経営体の収支状況を調査することで経営の実態を明らかにするものです。そして、その結果を農業行政の基礎資料とすることを目的とします。

営農類型別経営統計では個別経営体・組織経営体それぞれを対象とした調査に分けられ、その統計は個人経営体と法人経営体、その2つを合わせた全農業経営体の3つに区分されます。

調査からは、「水田作経営・畑作経営・露地野菜作経営・施設野菜作経営・果樹作経営・露地花き作経営・施設花き作経営」などの畑作が明確化されます。加えて、酪農・畜産といった営農類型別に、または経営形態別に、収支や経営概況がわかります。また、個人経営/法人経営/全農業経営体それぞれ別に統計が作成される点も特徴です。

営農類型別経営統計

この統計からは、「どの営農類型の農業所得が高いか」「どの営農類型で、労働所得と労働時間とのバランスがよいか」などがわかり、所得効率のよい経営を考える際の重要な資料になります。これから農業を始めようとする方や、栽培する作目の変更を考える方にとって有用でしょう。

※minorasuでも、営農類型別の農業所得を比較する際などに用いています。

農家の経営状況が、より具体的な品目別にわかる「品目別経営統計」

品目別経営統計は、以前は野菜・果樹・花きなど、品目ごとに経営実態をまとめ、生産・経営対策のための各種施策に役立てることを目的に作成されていました。しかし、品目変更などを経て現在では廃止されています。

そして、1995年に再構築された農業経営統計調査においては、従来、畜産物繭生産費調査の結果として作成されていたものから独立させて、「野菜・果樹品目別統計」(野菜16品目、果樹17品目)として作成することになりました。

やがて、地域ごとにきめ細かく農業経営を把握することが重要とされ、2004年に調査体系の整備が行われた際、「品目別統計」(野菜21品目、果樹17品目、花き6品目、水田2品目、畑作8品目)となり、調査品目は大きく拡充されました。

ところが、わずか3年後、統計調査合理化のため2007年作成の統計をもって廃止されました。現在では一部の品目のみ、営農類型別経営統計の部門収支として調査されています。また、品目別経営統計は現在でも公開されています。

品目別経営統計

従って、最新の情報は得られませんが、過去の統計と承知の上で利用するなら、経営収支や労働時間を詳細な品目別に確認できる資料です。作付け品種を選定するときや露地栽培・施設栽培を選択する際の参考に役立ちます。

※minorasuでは、特定の品目の経営収支を示したり、施設栽培と露地栽培の収支比較をする際に用いています。

米・小麦栽培における生産コストの内訳が確認できる「農産物生産費統計」

農産物生産費統計は「米・小麦・二条大麦・六条大麦・はだか麦・そば・大豆・原料用かんしょ・原料用ばれいしょ・なたね・てんさい及びさとうきび」の各品目について、生産費の実態をまとめています。

農産物生産費統計の対象「麦類・水稲・大豆」

takashi355 / PIXTA(ピクスタ)  takagix / PIXTA(ピクスタ)  PHOTO NAOKI / PIXTA(ピクスタ

調査目的は、「経営所得安定対策、生産対策、経営改善対策などの農業行政における資料とすること」です。

営農類型別経営統計と同様に、個人経営/法人経営に分けてそれぞれの統計を作成しています。個人経営については前述のすべての品目について作成されますが、法人経営については米・小麦・大豆の統計に限られます。

もともとは、「米生産費統計」「麦類生産費統計」「そば大豆、原料用かんしょ、原料用ばれいしょ、なたね、てんさい及びさとうきびの生産費統計」の3つの独立した統計でした。

対象となっているのはそれぞれ重要な作物栽培であり、農業政策や時代の変遷に沿って、その統計の在り方も改定され続けてきました。そしてそれらが2017年、農業経営統計調査に統合されたのです。

農産物生産費統計

生産にかかる費用や労働時間の詳しい内訳が把握できるため、特に水稲や麦類、大豆、そばなど、この統計に該当する品目を栽培する農家や、新規に栽培しようとする農家は営農計画を立てる際に役立つでしょう。

※minorasuでも、水稲にかかる生産費割合を示すなどの用途で用いています。

畜産業にかかる具体的な生産コストを確認できる「畜産物生産費統計」

畜産物生産費統計は、乳牛・子牛・育成牛・肥育牛などや肥育豚の生産費について実態を把握し、畜産行政や畜産経営改善のための資料とすることを目的としています。

1951年に牛乳生産費調査をしたのが実質的な始まりで、1954年には法整備され、本格的な調査が始まりました。その後、時代の変遷に応じて改正を重ね、2009年の改正を経て現在に至ります。

畜産物生産費統計

畜産農家の経営実態がわかるため、新たに畜産業に参入しようとする方が畜産経営の計画を立てるのに役立つでしょう。

組織的な農業経営の実態がわかる「農業組織経営体経営調査」

組織経営体の1つ、農業法人

kelly marken – adobe.stock.com

「農業組織経営体」とは、「農家以外の、農業事業体及び農業サービス事業体」のことを指しています。

つまり農業組織経営体経営調査は、農業組織経営体における経営収支や農産物生産費の実態を調査してまとめるものです。調査結果を農業組織経営体育成など農業施策の資料として役立てることを、目的としています。

農業組織経営体の経営収支や生産費についての実質的な調査は、1990年から「農業生産組織生産費調査」として行われていました。その後、次第に農業を担う経営体として組織経営体が注目されはじめ、社会的に法人化の推進が重要課題となります。

国はそのための資料として、各経営体に経営情報の提供を強く求めるようになり、1996年には「農業組織経営体経営調査」としてより充実した経営統計を開始しました。

その後、「食料・農業・農村基本計画」を受けた農業経営統計調査の改編により、2003年の調査を最後に廃止されました。ただ調査結果は、2021年現在も公開されています。

2003年までの調査結果にはなりますが、組織経営体における経営実態を、農業部門とそれ以外の事業収入や損益について調査した貴重な資料です。

組織経営体による米・麦類・大豆の生産費や収益性がわかりやすくまとめられています。このため、他業種から農業への新規参入をめざす法人にとっては、非常に有用な資料となるでしょう。

農業組織経営体経営調査

中山間地域の農林業について経営実態を知る「農林家経営動向調査」

中山間地 狭いが豊かな水田

柳井研一郎/PIXTA(ピクスタ)

農林家経営動向調査は、中山間地域の農家や林家の経営実態と、関連事業への就業などによる所得状況について調査するものです。中山間地域対策推進に当たる上での基礎資料として、調査結果を役立てることが目的です。

かつて、不利な生産条件を持つ中山間地域などの農業・林業を守るため、支援施策が不可欠でした。その施策検討に当たって、中山間地の実態を把握することが求められていたことから、調査が開始されました。

しかし、2000年度に「中山間地域等直接支払制度」が創設されたことにより、調査目的が達成されたとして2001年の調査を最後に廃止されました。調査結果は、2021年現在も公開されています。

不利な条件下で農林業を営む中山間地の農林家の経営実態を明らかにし、また全国の中山間地の農林家経営動向を、全国・都府県・全国農業地域別に編成表示している貴重な資料です。当時の国内中山間地における実態を知るために有用です。

今後、中山間地には耕作放棄地の増加が予想されます。そのため、それら農地の有効活用や農地の集約を検討する際にも大いに役立つでしょう。

農林家経営動向調査

農業経営統計調査は行政文書であるため専門用語が多く、一見すると難しい印象があります。しかし見方を覚えれば、農業の実態を浮き彫りにする「生きたデータ」が、わかりやすくグラフや表にされた重要資料として、さまざまな用途で活用可能です。

ぜひ農林水産省のサイトを訪れ、ご自身と関係のある統計を見てください。今後の経営についての大きなヒントが得られる調査が数多く見つかることでしょう。

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大曾根三緒

大曾根三緒

ビジネス、ペット、美術関連など多分野の雑誌で編集者として携わる。 全国の農業協同組合の月刊誌で企画から取材執筆、校正まで携わり、農業経営にかかわるあらゆる記事を扱かった経験から、農業分野に詳しい。2019年からWebライターとして活動。経済、農業、教育分野からDIY、子育て情報など、さまざまなジャンルの記事を毎月10本以上執筆中。編集者として対象読者の異なるジャンルの記事を扱った経験を活かし、硬軟取り混ぜさまざまなタイプの記事を書き分けるのが得意。

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