稲刈りの手順は?準備から効率的なコンバインの使い方、収穫後作業まで
稲穂が黄金に色付く頃、水稲農家では稲刈りの準備を始める時期を迎えます。これから本格的に水稲栽培に参入する方はもちろん、稲刈りの方法を改善したいと考えているベテランの方も、シーズンを迎える前に稲刈りの手順を改めて確認しておきましょう。
- 公開日:
記事をお気に入り登録する
稲刈りは、開始時期や事前の準備、収穫後の管理次第で収量や品質・食味に大きく影響します。収量や品質が伸び悩んでいる場合は、稲刈りの方法を見直してみるとよいかもしれません。本記事では、稲刈りの基本的な手順のほか、コンバインの効率的な使い方について解説します。
ばりろく/ PIXTA(ピクスタ)
稲刈りの時期
稲刈りの適期を見極めることは、非常に重要です。順調に生育し良質な籾が充実していても、収穫の時期を誤ると品質や収量が大幅に低下することもあります。
早すぎる稲刈りと刈遅れ、それぞれのリスク
一般的に、収穫が早すぎると「乳白粒」や「未熟粒」、「青米」などの割合が増加し、品質・収量が低下します。また、籾に含まれる水分が多いため、早く乾燥させないと「発酵米」になりやすく、注意が必要です。
反対に、収穫が遅すぎると「胴割れ粒」や「茶米」、「穂発芽米」などの割合が増加し、同様に品質が低下します。
稲刈りの適期は、地域や気候、その年の天候、早晩生、品種によってさまざまで、ほ場ごとに生育状況も異なります。地域で発信される生育状況や技術情報を確認しながら、自身のほ場の生育具合を見て判断することが重要です。
▼「デジタルツールで刈取適期の見極めを行う1等米栽培農家の事例」についてはこちらをご覧ください
適期を見極める方法
トシ松 / PIXTA(ピクスタ)
自身で収穫期のおおよその目安をつける場合は、以下の3点を基準として考えます。
1. 出穂(しゅっすい)から35日以降
出穂からの日数が目安の1つとなります。出穂とは、葉鞘から穂の先の籾が一粒程度のぞいた状態のことを指し、この状態の株が水田全体の40〜50%に達した時期を「出穂期」といいます。出穂期の範囲内にある日を基準日として、収穫期を判断します。
2. 積算温度がほぼ1,000℃
基準とした出穂日から毎日の平均気温を足していった合計の気温を「積算気温」といいます。産地や品種によって800℃や1,200℃などと幅がありますが、おおよそ1,000℃に達すると収穫の適期といわれます。
ほとんどの産地では、都道府県やJAが主な生産品種ごとに基準となる積算気温を公示しているので、確認してください。
3. 水田全体の帯緑色籾割合が約15〜20%
帯緑色籾割合とは、1穂の中で青みが残っている籾の割合のことで、「青味籾率」と呼ぶ地域もあります。この割合も産地や品種の差が大きいため、産地情報の確認が重要です。
帯緑色籾割合の調べ方は、水田の数カ所からよく充実した穂を数本抜き取り、白い紙の上などに籾をこそぎ落として、全体のうち青みが残る籾の割合を目視で確認します。
のびー / PIXTA(ピクスタ)
出穂からの日数や積算気温など、数値上の予測をもとにおおよその収穫時期を予測し、実際にほ場の帯緑色籾割合を確認して、正確な収穫適期を決めるとよいでしょう。
刈取りのタイミングと収量・品質の関係
収穫時期の範囲内でも、遅く収穫するほど未熟米が減り、籾は肥大するため、籾摺り後の粗玄米重は増えます。しかし、収穫が遅すぎると、胴割米など、品質低下のリスクが高まります。
出典:和歌山県 農林水産部 農林水産総務課 研究推進室「農業試験場ニュース 134号」所収「「水稲奨励品種❛つや姫❜および❛にこまる❜の収穫適期~収穫が遅れると品質が低下~」よりminorasu編集部作成
出典:和歌山県 農林水産部 農林水産総務課 研究推進室「農業試験場ニュース 134号」所収「「水稲奨励品種❛つや姫❜および❛にこまる❜の収穫適期~収穫が遅れると品質が低下~」よりminorasu編集部作成
そして、各品種の適期に収穫した場合は、精玄米重、整粒率とも高くなります。
出典:和歌山県 農林水産部 農林水産総務課 研究推進室「農業試験場ニュース 134号」所収「「水稲奨励品種❛つや姫❜および❛にこまる❜の収穫適期~収穫が遅れると品質が低下~」よりminorasu編集部作成
出典:和歌山県 農林水産部 農林水産総務課 研究推進室「農業試験場ニュース 134号」所収「「水稲奨励品種❛つや姫❜および❛にこまる❜の収穫適期~収穫が遅れると品質が低下~」よりminorasu編集部作成
品質と収量の両方を追求しつつ、具体的な稲刈りの日を決めるようにしてください。
▼水稲の収穫適期については、以下の記事も参考にしてください。
稲刈りの手順は?
川村恵司/ PIXTA(ピクスタ)
稲刈りでは、準備段階から刈り取り後の籾の管理までの一貫した計画を立てて行うことが重要です。事前に一通りの手順を確認し、予定した収穫日から遡って準備を進めます。
ここでは、比較的ほ場の規模が大きく、コンバインを使用して稲刈りをする場合の手順について解説します。
事前準備
収穫前の落水
開運招福招き猫 / PIXTA(ピクスタ)
稲刈りの予定が決まったら、準備として「落水」「機械の整備」「収穫量の計画」を行います。
・落水
落水とは、水田の水を抜くことです。事前に水を抜いて水稲や土を乾かすことで、コンバインの走行を安定させ作業しやすくします。
落水をするタイミングは、稲刈りの5〜10日ほど前を目安として、土壌の排水性に合わせて調整します。ただし、早期に落水しすぎると水分不足で品質低下を助長するため、出穂後30日頃を目処に行うとよいでしょう。
▼落水の時期については下記の記事をご覧ください。
・機械の整備
早めにコンバインや乾燥機などの機械を整備しましょう。倉庫から出して油を差し、すべてのカッター類の刃を点検します。刃こぼれなどで切れ味が落ちている場合は、作業に支障が生じるため、刈り取り前に交換しておきます。
・収穫量の計画
事前に1日の全体の収穫予定のほか、1日当たりの収穫量を決めておくことも重要です。どんなにコンバインの性能がよく、多く刈り取れるとしても、1日の収穫量は乾燥まで終わらせられる範囲に収めておきましょう。
収穫後はその日のうちに乾燥させないと、籾が蒸れて著しく品質が低下します。適期に収穫しても、その後の管理不備で品質が低下しては元も子もありません。
自前の乾燥機を使う場合も、ライスセンターなど共同の施設を利用する場合も、1日分の容量を確認しておくことが不可欠です。また、ライスセンターは事前予約が必要な場合が多く、容量も決まっているので、利用する場合は早めに申し込みましょう。
当日の作業
ライダー写真家はじめ / PIXTA(ピクスタ)
収穫当日は、少しでも早く作業を始めたいと思うものですが、コンバインを使う場合は、日が高くなって朝露が乾いてから開始することが大切です。
朝露で濡れていると水稲が重くなり、内部の選別部を詰まらせるなど、コンバインに負担がかかる恐れがあります。選別の精度も下がってしまい、健全籾がわらと一緒に排出されやすくなるため、ロスの増加につながります。
ロスを少しでも減らすためには、晴れた日の10~11時頃から、水稲が乾いている状態で刈り取ります。なお、コンバインの使い方のコツについては後述します。
刈り取りが終わったら、速やかに乾燥させます。自前の乾燥機を使って機械乾燥する場合は、乾燥後の水分を14.5〜15%に調整しましょう。乾燥には一晩かかります。
乾燥器がない場合は、ライスセンターなどへその日のうちに持ち込みます。
▼籾乾燥機についてはこちらの記事をご覧ください。
稲刈り後の作業
自前の乾燥機で乾燥させた場合は、稲刈りの翌日に籾摺りを行います。籾を乾燥機から籾摺機に移し、籾殻を取り除いて玄米にする作業です。
玄米にしたあとは選別機にかけ、良質の玄米だけをより分けます。選別された玄米を袋詰めし、出荷準備完了です。
なお、ライスセンターに籾を預けると、ほとんどの場合は乾燥と籾摺り、選別、袋詰めまで済ませた状態で回収します。回収せずに、そのまま出荷までできる場合もあるので、事前に施設に確認するとよいでしょう。
東北の山親父 / PIXTA(ピクスタ)
コンバインによる稲刈りのコツ
コンバインは刈り取りから脱穀・風選までを1台で行え、バインダーやハーベスタなどを使って作業する場合と比べ、飛躍的に作業を効率化できます。小回りが利き、狭いほ場や複雑な形状のほ場で用いられるバインダーに対し、コンバインは大規模なほ場での作業に適しています。
ただ、コンバインは収穫と脱穀を別々に行うよりも脱穀ロスが多くなるため、収量を上げるには少々コツが必要です。ここでは、脱穀ロスを減らすために押さえておきたいコンバインの使い方のポイントを解説します。
脱穀ロスを抑えるコンバインの使い方
Binimin / PIXTA(ピクスタ)
コンバインには、主に水稲や麦の収穫に特化した「自脱型」と、大豆や雑穀、菜種など幅広い作物に使える「普通型(汎用型)」の2種類があります。よりロスがなく効率的に稲刈りを行うには、自脱型コンバインが向いています。
脱穀ロスを抑えるには、前述のように水稲が乾いた状態で稲刈りを行う必要があります。
どうしても朝早く行わなければならない場合には、コンバインに「濡れモード」があれば必ず選択し、走行スピードを落として、刈り取る速さに選別作業が追いつくように気を付けながら進めます。
刈り取りのスピードが速く脱穀が遅れている場合は、一度止まって脱穀の作業が追いついてから刈り取りを再開します。特にコンバインの操作に慣れないうちは、ゆっくり走行することが基本です。
また、作業中は常に爪の位置を確認して刈り残しを防ぐことや、藁の詰まり具合にも注意を払い、こまめに取り除いて作業性を上げることも大切です。
ゆっくり外周から始める
トリトン / PIXTA(ピクスタ)
コンバインは大型で操作が難しく、特に畦を越える田んぼへの侵入や退出にはコツが必要です。
10cm以下の低い畦を越えるときには、直角に侵入すると安定して越えられます。それ以上の高い畦を越える場合は、「あゆみ板」を使いましょう。あゆみ板の長さは、畦の高さの4倍以上にします。
ほ場内では、基本的に運転席のある右側を畦畔寄りにして、外周から左回りにゆっくり進めると効率的です。ただし、刈り残しや水稲の倒伏状況によっては、右回りのほうが刈りやすい場合もあります。
なお、水稲が倒伏している場合は、倒伏している向きに合わせ、コンバインの立ち上げ機能によって引き起こしながら刈り取ります。
コンバインがターンできるスペースが周囲にできるまで外周を2~3周刈ったら、真ん中の部分を刈っていきます。
この際、条を横切る「横刈り」をすると、刈り幅よりも広く水稲を刈ってしまい、刈り取る株の高さが一定にならないためロスが増えてしまいます。株の高さをそろえるためには、田植えと同じ列に沿って条刈りをおこなってください。
これらのことを考慮しながら、刈り取りのコースは事前に決めておきます。途中で溜まった籾を排出する場所も決めておき、あらかじめトラックを待機させておきましょう。
大規模なほ場では、はじめに真ん中を刈ってから右側と左側に分けて刈る「中割り」をすると、効率的に進められます。
コンバインの注意点
sammy_55 / PIXTA(ピクスタ)
コンバインは、内部で鋭い刃が高速回転をしていて非常に危険です。カッター部分が詰まったときなどに、エンジンをかけたままのぞき込んだり、手を入れたりして巻き込まれる事故も少なくありません。
収穫作業が遅れているときに詰まると焦ってしまいがちですが、刃に触れるときには必ずエンジンを止めてください。また、非常停止がすぐにできるよう、常に意識しておきましょう。
また、走行中に人を轢いてしまう事故も発生しています。コンバインを操作する際は、周囲にも気を配りましょう。特に、畦越えやターンの際には注意して操作します。
コンバインの進化
ライダー写真家はじめ / PIXTA(ピクスタ)
最新のコンバインには、スマート技術を取り入れたさまざまな機能が付加されたものもあります。
例えば、各種センサーを搭載し、負荷に応じて車速を変えたり、脱穀・選別作業を制御したりしながら、ロスの少ない効率的な操作が自動で行えるものもあります。また、脱穀した籾の水分やたんぱく質、収量をセンサーで読み取り、情報化して品質管理できる機能も開発されています。
熟練の技術が必要な走行操作に関しても、衛星測位システム(GNNS)を活用した自動走行のコンバインが実用化されており、走行に慣れない人でも簡単な操作で高精度な作業が実現できます。
こうした機能を活用することで、大規模なほ場でも稲刈り作業にかかる負担の大幅な軽減が可能です。
▼コンバインの選び方については以下の記事をご覧ください。
稲刈りは、1年の水稲栽培の仕上げともいえる重要な作業です。
適切な収穫作業で高い収量や品質を確保するには、収穫までの日程や当日の手順、収穫コース、機器の整備などの準備を、余裕をもって進めることが大切です。コンバインの便利な機能も活用し、稲刈りを効率的に進めましょう。
記事をお気に入り登録する
minorasuをご覧いただきありがとうございます。
簡単なアンケートにご協力ください。(全1問)
あなたの農業に対しての関わり方を教えてください。
ご回答ありがとうございました。
お客様のご回答をminorasuのサービス向上のためにご利用させていただきます。
大曾根三緒
ビジネス、ペット、美術関連など多分野の雑誌で編集者として携わる。 全国の農業協同組合の月刊誌で企画から取材執筆、校正まで携わり、農業経営にかかわるあらゆる記事を扱かった経験から、農業分野に詳しい。2019年からWebライターとして活動。経済、農業、教育分野からDIY、子育て情報など、さまざまなジャンルの記事を毎月10本以上執筆中。編集者として対象読者の異なるジャンルの記事を扱った経験を活かし、硬軟取り混ぜさまざまなタイプの記事を書き分けるのが得意。